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異世界で『魔法幼女』になりました  作者: 藤咲ユージ
第3章 旅する幼女
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可愛いドラゴン幼女は超ハイリスク!

知らない幼女だ。


普通は「知らない天井だ」という始まりなんだろうけど、天井は見慣れたトーチカのものである。


いや冗談考えている場合ではないぞ!?

この子は誰なんだ? いつからここにいる?


俺を見下ろしている幼女。いろいろとありえない姿をしている。


まず「裸」。真っ裸である。なんでだよ!?


そして頭から突き出ている長大な「角」。角だよな、これ。

黒光りする2本の角。剣のようにド鋭い形の角が凶悪な雰囲気を放っている。

白銀の髪に青い瞳。その瞳が俺を静かに見つめている。


「えーと、おはよう?」


ゆっくりと体を起こし、幼女? らしき生き物に挨拶をする。

幼女は答えない。黙って俺を見ている。


トーチカの中を見回す。

トーチカの中は明るい。もう朝になっているな。

シルヴィアもクレアも寝ている。

狼は……起きている。静かにこちらを見ている。


静かだ。特に異常は無い。この幼女らしき存在以外には。


では、この幼女は何か? というと。

まぁ、すぐに分かったけど。分かるのはおかしいんだけど。


これ、あの「ドラゴン」だよな。雰囲気がそっくり。


幼女の形をしているけど俺は騙されない。

というかこんな巨大な角を生やした裸の幼女とかありえないだろ? 人間の子供の筈がない。

むしろこれで人の子だと言われたらそっちの方が驚くわ。


ドラゴンって幼女になれるんだな。一応確認はしよう。


「えーと、あなたはドラゴンですか?」


パチパチ。


目の瞬きを2回。あぁ……やはり。


「ゴーレム達と戦ったドラゴン?」


パチパチ。


「喋る事はできないの?」


パチパチ。


できないのか。人の形をしているのに。可愛いらしい顔をしているのだが。


「ドラゴンは人の形になれるんだ。元のドラゴンの形に戻る事はできるの?」


パチパチ。


ふぅむ。


「どうやってここへ? 歩いて?」


パチパチパチ。


違うか。裸の幼女が街道を歩いていたら普通に通報案件だよな。


「じゃあ、空を飛んできたの?」


パチパチ。


ドラゴンの姿で飛んで来たのか、幼女の姿で飛んで来たのか気になるな。


「ドラゴンの姿で?」


パチパチパチ。


「その姿で?」


パチパチ。


幼女の姿で飛べるのか。幼女ドラゴンの背中を見てみる。


翼のようなものがある。天使の翼みたいなやつじゃなくてどちらかというと昆虫系? 有機的な感じ。

ドラゴンの時の翼を小さくした物なのか。何枚あるんだ、これ?

ドラゴンの時は4枚だった筈だが、折り畳まれていてよく分からない。


さて、目的を質さなければ。また仲間とか言われてもな。


「ここへ来た目的は? 遊びに来たの?」


パチパチ。


合ってた。うむ、それなら問題ないね……ないのか?

まぁいい。仲間云々という話になるとまたテイムのスクロールを買う事になって、また借金が増えてしまうからな。

一応確認はしておこう。


「えっと、仲間になりたい、という話ではないよね?」


パチパチ。


うむ……ん? どっちの意味だ? これ?

聞き方が悪かった。聞き直さないと。


「仲間になりたい、という意味?」


パチパチ。


そっちだった……マジか。


「ふあ、ふぁあ、ふあ」


あ! クレアが起きた。ミルクの時間だ。

「ドラゴン幼女」も重要な話だが、お腹を空かせた赤ん坊を待たせる訳にはいかない。


「えっと、じゃあ、ゆっくりしていってね?」


パチパチ。


とりあえず考えるのは後回しにしよう。ミルクと朝食の支度をしなければ。

そろそろシルヴィアも起きるだろうし。


「あなたも私達と一緒に食べる?」


パチパチ。


「人と同じ物でいいの?」


パチパチ。


大食いキャラじゃないといいのだけれど。



クレアにミルクを与えた後、抱っこして朝食の支度をする為にトーチカの外へ出ようとして、ふと気付く。

このドラゴン幼女、どうやって中に入った?


トーチカの中は比較的高さがあるが、出入り口は小さく作ってある。

出入り口自体は開けていたんだが、この幼女の角の長さだと出入り口を通れないんじゃないか?

思いっ切り前傾姿勢なら通れるかもしれないが。


身長は約1mで我々幼女達と大差ないのに、角も1mぐらいの長さがある。バランス悪過ぎだろう。

幼女の形になれるのなら角も小さくすればいいのに。


そしてトーチカの出入り口の高さはおよそ1.2m。

角が無ければ問題無く通る事ができるのだが。


先にトーチカの外に出てすぐに振り返る。ドラゴン幼女は俺の後に続いてまっすぐ外へ出てくる。


スパァ……


幼女の角はまるで豆腐のようにトーチカの壁を斬った!

おい、嘘だろ……


大して力を込めている様子もないのに、易々と斬っている。

トーチカの壁の厚さは1mぐらいある。

ヒュドラのブレスをくらっても無傷だった土ゴーレムと同等以上の固さがある筈なんだが。


出入り口の上を見ると全部で4つ、斬った跡がある。

つまり、入ってきた時と今出てきた時の2回分という訳だな。よく分かります。


ドラゴン幼女は平然とした顔で俺を見ている。

何だろう。さすがドラゴンというべきか。

でもちょっと、俺のプライドが傷つくんだが。



いつものように横並びのゴーレム達に朝の挨拶をする。


「おはよう、みんな」


返事は無いけど別にいい。挨拶の気持ちはたぶん伝わっているだろうから。


朝食の支度をする俺をじっと見ているドラゴン幼女。

外だと裸の姿が一層異様に見える。これ、どうにかしないといけないよな……


しばらくするとシルヴィアが起きてきた。


「おはよう、しーちゃん」

「おはよう」


そしてドラゴン幼女を見て固まるシルヴィア。

そうだよね、びっくりするよね。何て説明すればいいのかな。


「どうしてはだかなの?」


そっちか。ええと、


「朝食の後で服を作るんだよ」


説明になっていないが、しょうがないよね。


「ふぅん?」


シルヴィアは突っ込まない。よかった。


「おなまえは?」


名前……名前あるのかな?


「あなたに名前はあるの?」


パチパチパチ。


無いのか。


「名前は無いみたいだよ」

「ないの?」


不思議そうなシルヴィア。うーむ、そうだな。


ドラゴン幼女がいつまでいるつもりなのか分からないが、その間ずっと「ドラゴン幼女」なんて呼ぶ訳にはいかないな。

とりあえず、何か仮の名前をつけて呼ぼうか?

「サンダー」を放ったドラゴンだから「雷」にちなんだ名前がいいかな。

えーと、雷関係だと……


「『エクレール』という名前はどう? 『雷』とか『稲妻』という意味なんだけど」


ドラゴン幼女に聞いてみる。


パチパチ。


いいみたいだ。


「しーちゃん、この子はエクレールだよ。エクレールか、えーちゃんって呼んであげてね」

「えーちゃん?」

「そう」


安易だが仕方ない。すぐにはこの程度しか思いつかなかなかったんだ。

仮の名前だし、問題があるようなら改名すればいいだろう……



朝食だが、エクレールは何にすればいいんだろう?

人と同じでいいらしいが、お粥とか食べられるのかな?

一応肉類も用意しておこう。ベーコンの厚切りでいいかな。


朝粥はまたリザードの肉を入れた「鳥粥」に高菜っぽい野菜を加えた物。

それに焼いたベーコンとサラダ、果物をつける。


スプーンで掬ってお粥を食べるところを見せると、エクレールはすぐに真似をして食べ始めた。

うむ、問題無いな。上手に食べている。


「味はどう? それでいい?」


パチパチ。


味覚はある、という事か。

特別な物を用意しなくていいのは助かるが、問題は量だな。


「おかわりしていいよ。もっと食べる?」


パチパチ。


多めに作ったけど、はたして何杯食べるのだろうか?


……3杯でした。意外と少食? ベーコンも3人前で満足したっぽい。

これなら全然問題無いな。俺の3倍ぐらいなら十分許容範囲だ。


シルヴィアがエクレールの食べっぷりに影響されたのか、いつもより多めに食べたのもいい事だ。


これで食費で破綻、などという最悪のシナリオは回避された。

だが、依然として極大のリスクが2つもある。


1つは言うまでもなく、テイムのスクロールの「代金」の事だ。


ドラゴン幼女がついて来るのなら、(もちろんついて来るだろう)それは必然的にドラゴンをシオリスの町に入れる、少なくとも近付けるという事だ。

幼女の姿をしているからといって、黙って町に入るというのはやはりマズいか?


いきなり討伐という事にはならないと思うのだが、甘い考えだろうか?

討伐という話になった場合、どうする?

町に入る前にジュディを呼び出して相談するか。


仮に討伐ではなく、従魔契約の話になるのであれば、(当然従魔の契約をしろ、という話になるだろう)その費用を負担するのは当然俺、という事になる。


つい先日1億6千万の借金が上乗せされたばかりだというのに、更なる増額とか絶対に嫌ですわ。

何かいいアイデアを思いつかないと……


そしてもう1つはこの巨大な角である。

あまりにも鋭利なこの角、触れただけでスッパリ斬れそう。

このドラゴン幼女がうっかりお辞儀でもしようものなら、その前に立っている人は縦に真っ二つにされてしまうだろう! いや違った、縦に3分割!


角が剥き出しの状態で俺達の傍にいるというのは非常によろしくない。ひ弱な幼女ばかりなのに!

心が落ち着かないわ。

危な過ぎるからこれも早く何とかしないと。


角にカバーとか付けたいんだけど材質は何がいいんだろう?

そもそもカバーを付けさせてくれるだろうか?

ひとまず釘を刺しておかないと。


「エクレール、あなたのその角は私達にとって非常に危険なので、くれぐれも注意してね? 絶対に私達にその角が触れないように気をつけてね?」


パチパチ。


うむ、これでよし。

いいよな? たぶん。……やはり不安だが、現状ではどうしようもない。


カバーについてもシオリスに戻ってからジュディに相談しよう、そうしよう。




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