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異世界で『魔法幼女』になりました  作者: 藤咲ユージ
第3章 旅する幼女
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責任

 マーヴィンの町は壁がそれほど高くない。4~5mぐらい。

 壁の上には衛士らしき人の姿が、たくさんいるな……全員がこちらを見ている。凄い見られている。足長を見ているのか?

 門に近付く。


「止まれ! この町に何の用か!」


 やはり止められた。


「こんにちは。この町のハンターギルドに用があるのです。入っていいですか?」

「いい訳ないだろう! その黒いのは何だ!」

「私の従魔です」


 片方は。


「従魔の印がついていない方だ!」


 よく見ているなー。


「えーと、その件でハンターギルドに相談したいのですが」


 中に入れてくれないと困るんですよ。


「そこで待っていろ! ギルドに連絡する」

「お願いします」


 門前払いじゃなくて良かった。




 待っていると赤ん坊がぐずりだした。今度は何かな? 単にぐずっているだけか? おむつではないな。

 5号機から下りて門の前で赤ん坊をあやしてやる。衛士達が変な目で見ているけど気にしない。

 すぐにハンターギルドの人が来た。


「はじめまして、私はこの町のハンターギルドマスターのエマ・コリンズです」


 大人っぽい女性だな。


「私はシオリスの町から来たセシリアといいます」

「ようこそ、セシリア様。どのようなご用件でしょう?」

「このゴーレムに関する事なのですが、ここで話していいですか?」


 足長を示す。


「セシリア様が『黒のゴーレム』を従魔にした事は存じていますが、そちらは?」

「えっ? 何で知ってるの?」

「シオリスのハンターギルドから連絡があったので」

「……そうですか」


 そりゃそうか。連絡があるのは当然だな。


「この『足長』とは森の中で遭遇して……」

「足長?」

「足が長いので足長」

「……そうですか」

「それで、ついて来るのでこちらのギルドで相談したい、と思いまして」

「……」


 黙り込んじゃった! 何か言って!


「つまり、その『足長』と従魔契約をしたいという事でしょうか?」


 したい訳じゃないけど、そうせざるを得ないだろうな。足長が同意するかどうかはわからないが。


「えぇ、まぁ」

「わかりました。スクロールをご用意致します。どうぞこちらへ」

「町に入っていいの?」

「よくはないのですが、ここまで来られてはもうどうしようもありません」


 話が早くて助かるわ。ギルマスが門の人に何か話して俺達は中に入れてもらえた。




 マーヴィンの町はシオリスの町とほとんど同じ印象を受ける。

 3階建ての木の家が立ち並んでいて、ただ道幅が少し狭く、逆に人はこちらの方が多くいるみたいで少し窮屈な感じがするな。


 門の所で魔法袋から2号機を取り出して最後尾を歩かせる。

 視界を分割して2号機から全体を見る。俺が先頭だからこうして後ろからゴーレム達を見ておかないと。

 ハンターギルドは門からそれほど遠くない所にあった。



 

 中の雰囲気はシオリスのハンターギルドとはだいぶ違う。お洒落なカフェみたい。ギルド業務の受付カウンターに違和感を覚えるほど。コーヒー注文したくなるわ。


 ロビーの中に実際にカフェスペースみたいな所がある。ハンター達が結構いるな。

 若いやつ、ベテランっぽいやつもいて、ゴーレム達と一緒に入ってきたからか凄い見られてるわ。


「あ、どーも」


 つい愛想を振り撒いてしまった。


 奥の部屋に通される。たぶんギルマスの部屋。

 お茶を出してくれた職員が速攻で部屋から出て行く。そんなに怖がらなくてもいいのに。無理か。


赤ん坊を抱っこひもから出してソファの上に寝かせて、子供を5号機から降ろしてソファに座らせる。

 昨日より少し元気になっているかな? 狼を触っている。そのまま相手してやってくれ、狼。


 ギルマスの部屋もお洒落なデザイン。空港のVIPラウンジみたい。広いなー。


「こちらが『テイム』のスクロールになります。価格は金貨600枚です」

「えっ?」


 ギルマスが示したスクロールを見てちょっと安いな、と思ってしまった。もちろん6000万は全く安くない。


「シオリスで黒のゴーレムに使ったスクロールは金貨750枚でしたが」

「スクロールは性能によって価格が違うのですが、シオリスの件を考慮すればこのスクロールで十分だと思われます。相手が同意すればいいのですから」

「そういうものですか」


 それはいいとして、それより今のニュアンス……。


「えっと、私が払うの?」

「はい」

「全額?」

「はい」


 はい、じゃねーよ。ギルマスは普通の顔してるけど、それは普通の話じゃないだろ?


「シオリスではギルドが負担してくれたんですが」

「それは『黒のゴーレム』が既に町に侵入していたからでしょう? 経緯は把握しています。今回はセシリア様がこの町へお連れになったのですから、セシリア様に責任を取っていただかないと」


 ぐぬぬ。それは、そうだが。


「えっと、お金無いんですが」

「……」


 えっと、どうしよう? じゃあ従魔契約は無しで、という訳には……ダメか。


「どうしたらいいんでしょう?」

「仕方ありません。貸付という形に致します」


 また借金か。でもお礼を言わないとダメなんだろうな……。


「ありがとうございます。助かります」


 借金してお礼を言うとか。

 でも、簡単に6000万も貸しているけど、返済できると思っているのか? 別に踏み倒す気は無いが、幼女の返済能力をどう見積もっているんだ? 治療魔法使いとしての稼ぎに期待しているのだろうか。


「利息はどれぐらいになりますか?」

「利息? いえ、利息は取りません」

「担保は?」

「不要です」


 何という事でしょう! ここは神の領域か!


「大変ありがとうございます」

「いえ」


 とはいえ、6000万の加算とか。どうやって返済すればいいのか。

 そろそろジュディを相手に本格的な条件闘争を始めるべきか。


「では、始めます」

「はい」


 大人しく待っていた足長の前に立ち、スクロールについて説明する。


「この魔法のスクロールで従魔契約を結ぶ事ができるんだけど、もし従魔になってもいいと思っているなら同意して欲しい。もちろん拒否する事もできる」


 スクロールを広げて足長に見せる。

 足長は長い2本の前脚(もしくは腕)を折り曲げながらスクロールを受け取ると、少し見た後、


スパッ!


 真っ二つに切り捨てた。えっ? ……えっ!?


「はぁああああああ!?」


 切った! 足長が切った!! 今、どうやって切ったんだ!?

 いやどうやってとか、どうでもいい!!


「なぜ切った!?」


 拒否というのは分かるよ? それは仕方ない。断るのは自由だ。でもなぜ切る!?

 嫌ならそのまま返してくれればいいじゃん! 何で切るのよ? 6000万もするのに!!!


「あああああああああああああ」


 床に落ちたスクロールを見る。見事に真っ二つ! これ、もう駄目なのかな?


「あの、これ直して使えますか?」

「無理ですね」

「やっぱり!」


 最悪だ。どうしてくれるのよ、これ!


「何で切ったのぉおお!」


 ヤバい、泣きそうだ。今までどんなことがあっても泣かないと決めていたけど、泣きそう!


「何でぎっだのぉおお!」


 あああ、俺が泣いている! もう無理! これは無理だわ。うえぇええええ……。


「セシリア様」

「な゛に゛」

「もう1本あるのですが」

「な゛に゛が」

「スクロールです」


 はぁ? 何言ってんだこいつ。


「もう1本あるので、もう一度お試しになられてはいかがでしょう?」


 何でやねん!


「えぐっ、今、断られだでじょう?」

「この1本はより高性能な物です。その分高価なのですが」

「ひっく、おいくら?」

「白金貨1枚です」

「正気か」


 一瞬で涙が止まったわ。1億! 頭おかしい。


「安価な物で十分だと思ったのですが、どうやら金貨600枚ではご不満のご様子。この白金貨1枚のスクロールなら問題無いかと」


 どこからかスクロールを取り出すギルマス。


「ご不満って、誰が?」

「『足長』と呼称されている黒いゴーレムが、です」

「正気か」


 何だよ、金額に不満って。意味がわからないわ。


「さきほどシオリスで使用されたスクロールが金貨750枚という話を聞かれていたのですから、それより安い金額が気に入らなかったのではないでしょうか?」

「全く意味がわからないわ」


 そんな訳無いだろ? 単に高いスクロールを売りたいだけじゃないのか?


「いずれにせよ、従魔契約無しという訳にはいかないのですが」


 責任取れや、と言わんばかりのギルマス。

 できるまでやれというのか? もうこれ以上の借金なんて無理だろう? 今だってもう限界突破と言ってもいいくらいなのに!

 仮に成功したって1億の借金追加とか!


 ギルマスが俺にぐいぐいとスクロールを押し付けてくる。急に態度が違ってきた! わかったよやるよ!

 これが大人の責任というものか。幼女だけど心は大人! 責任取ってやるわ!


 もう一度足長の前に立つ。そして同じようにスクロールを見せる。


「ぐすっ。もう一度試させてもらってもいいかな? もちろん嫌なら嫌でいいんだけど、その際はスクロールをそのまま返してもらいたいんだけど。間違っても切ったり、燃やしたり、魔法無効とか使ったりしないで欲しい。絶対に! これ、フリじゃないから! マジでお願いします!」


 誠心誠意、お願いする。


「セシリア様。僭越ながら、お願いの方向性に若干の疑義が」

「お黙りなさい!」


 さぁ、どうする? 無傷で返してくれるのか? 今度切られたら、俺はどうにかなってしまうかもしれないぞ!?


 緊張の一瞬。


 足長は受け取って少し見た後、そのまま返してくれた。


 えっ? えっと、どういう意味?


「えっと、ありがとう?」


 何だっけ? これ。嫌って事?


「セシリア様」

「何?」

「スクロールを使われないのですか?」

「えっと、使っていいのかな?」

「嫌なら拒否されるだけでは?」

「それはそうだろうけど」


 足長を見る。普通に青い目だ。


「えっと、使うよ?」


 返事は無い。いつもそうだが。

 スクロールに使用する意思を伝える。スクロールが僅かに光って文字が消えた。ステータスを確認。


従魔 黒のゴーレム

従魔 足長


「足長が従魔になっている」


 名前が『足長』でいいのか? 別にそういう名前を付けたつもりじゃないんだが。とりあえずそう呼んでいるだけなんだが。


「おめでとうございます。これで安心できますね」

「あ、あぁ」


 人はそうだろうけど。いいのか、本当に。自分でやっといて何だけど。


「やはり、金額が不満だったのですね」


 どや顔のギルマス。そういえば。いや、だけどそれ本当なのか? 本当にそんな理由なのか?

 金額が気に入らないという理由で6000万のスクロールを切ったのか、こいつは!?


 足長を見る。何の変化も見られない。こいつ、まさか。本当にそうなのか?

 ……どうしてくれよう、こいつ。何だか沸々と怒りが湧いてきたが、


「ゴーレムに関してはこれでいいとして」


 ギルマスが何か言い出した。いや、よくねーよ。こいつのせいで6000万も余分な借金ができたんだぞ?


「こちらの子供達はセシリア様のご家族ですか?」


 なぜそう思った? 全く似ていないだろう? 視力は大丈夫なのか?


「あぁ、この子達についても相談に乗っていただきたいのです」

「といいますと?」


 子供達を見つけた時の状況を説明する。


「それで、この町でこの子達の親に関する情報や身寄りについて調べてもらえたらいいのかな、と思いまして」

「そうですか……子供達がこの町の出身であれば、わかる可能性はあるのですが」


 思案顔のギルマス。


「別の町や村だと難しいのですか?」

「ええ」


 ギルマスによるとこの領地(というかこの国)では基本的に人の管理はそれぞれの町、村でしているので、子供達が住んでいた町や村の名前と、親(もしくは親戚など)の名前がわからないと、普通は『どうしようもない』ものらしい。と、いう事は……親の名前も、住んでいた所もわからない『セシリア』の身元を知る術は無い、のか? ……いや、今はこの子達の話だ。


「まずは、その女性の確認をさせていただきたいです」

「場所を変えてもらってもいいですか?」


 子供には見せたくない。


「わかりました。こちらへ」


 ギルマスが部屋を出て案内してくれる。その間、子供達はギルドの女性職員が見てくれる事になった。

 ゴーレム達はついて来る。別に部屋で待っていてくれてもいいのだけど。




 遺体安置所らしき所で女性の遺体を魔法袋から出して、女性の持っていた鞄と一緒に職員に引き渡す。

 女性職員達が調べ始めた。


「セシリア様にはもう少し詳しくお話をお伺いしたいのですが」

「何でしょう?」

「女性がこの町の出身ではなかった場合、調査できなくはないのですが、どこまで範囲を広げますか? 調査範囲によって費用が異なります。ご予算はどれぐらいでしょう?」


 ……そうか、調査もタダではないよな。


「周辺の村を含めるとどれぐらいの金額になりますか?」


「このギルドで調査可能な最大範囲だと、金貨10枚になります。村もたくさんありますので」

「……それも貸してもらう事はできますか?」

「可能です。ただ、調査してもたぶん身元がわからないか、もしくは身寄りが無い、という結果になる可能性が高いと思われます」

「それは……」

「この女性に身寄りがあるのなら、自分に万一の事があった場合に備えて自分達の身元がわかる物、あるいは連絡先等を記した物を持っている筈です。ですが、そういった物は無かったのでしょう?」

「そうだけど」


 女性の持っていた鞄の中身についても改めて調べてもらったが、やはり手掛かりになるような物は無いらしい。


「調査結果が出るまでどれくらいかかりますか?」

「3日もあれば」

「名前がわからない状況で、どうやって調べるのですが?」

「外見の特徴だけでも調べる事は出来ます」


 とりあえず、任せるしかないな。


「わかりました。お願いします。結果が出るまでこの町に滞在します」

「了解しました。次にお聞きしたい事ですが、女性の身元がわからなくて、子供達の引き取り手が無かった場合についてどうお考えになられているのでしょうか?」

「えっ?」

「もちろん調査の結果を待ってからの判断になるでしょうが、もしかして、子供達の引き取り手が無かった場合、セシリア様が子供達を引き取るというお考えなのでしょうか?」

「えっ?」


 何の話?

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