マーヴィンの町へ
「町に向かう」といってもとっくに道は分からなくなっている。まぁ仕方ないね。
狼と黒のゴーレムに街道に出たいと言ってみるが、両者とも周囲を見回して考え込んでいるように見える。
適当に動き過ぎたか。
しばらくすると狼が歩き始める。ちょっと自信無さげ。
まぁ、仕方ないよね。
今回はかなり時間がかかるんじゃないかと思っていたら、半日もしないうちに街道に出た。
凄いな、狼! 謎センサーでもあるのか?
「ありがとう! 狼!」
街道にはそこそこ人がいる。
ただ「人がいる」という事は、従魔の印が無い足長を見られるという事なんだが、どうしようかな?
……どうしようもないか。せめてゴーレムの数を減らすか。
自分が乗っている5号機を残して後は魔法袋にしまう。
先頭に狼、2番目が黒のゴーレム、3番目は足長で、最後尾に幼女の乗る5号機。
多少控えめな感じになった気がする。
これで後はマーヴィンの町に行くだけだな、と思っていたが、少し進むとまた狼が森の中に入っていく!
いかーん、これ以上は寄り道したくないんですけど!
前のゴーレム2体も追随してしまう。
5号機を加速させて狼に追い付く。
「狩りはしばらくお休みにしたいんだけど」
声をかけるが、一旦止まったものの、またすぐに歩き始める狼。何なの?
少し歩いた所で狼とゴーレム達が止まっていた。こんな森の浅い所に獣が?
狼が見つめる先には……子供?
小さな子供が地面に座り込んでいる。そのすぐ傍で人が倒れていた。
「大丈夫?」
倒れている人と子供に声をかけるが反応が無い。倒れている人は女性のようだ。
近付いてよく見る。意識が無いみたい。
「ヒール!」
光らない。
「ヒール!」
MPが減らない。
女性は亡くなっていた。
子供が何かを抱えていて、その「何か」から小さな音が聞こえる。
「ひゅっ……ひゅっ」
それは布に包まれた小さな赤ん坊だった。
「えっ」
コレって泣き声なのか? こんな小さくて弱々しい声が?
「ヒール!」
ぽやん。
赤ん坊が光る。少し泣き声が大きくなった。
座り込んでいる子供にもかける。
「ヒール!」
ぽやん。
とりあえずこれでいいだろう。
「この人はあなたのお母さん?」
話しかけるが返事をしない。虚ろな感じだ。
「ヒール!」
ぽやん。
もう一度ヒールをかけて話しかけるが反応しない。困ったな。
赤ん坊の泣き声が段々大きくなってきた。
お腹空いているのか? それともおむつが濡れているのかな?
2人に洗浄の魔法をかける。
しゅわしゅわしゅわ。
しゅわしゅわしゅわ。
綺麗になった筈だが泣き止まない。
という事はお腹が空いているのだな。ミルクか。
もちろん幼女に授乳など不可能だが、幸いヤギンの乳がある。
これを温めた後、ぬるくして与えればいいだろう。
女性は後で埋葬するとして、ひとまず魔法袋に入れておこう。
遺体に洗浄の魔法をかけて綺麗にする。
「この人を魔法袋に入れるよ」
青い髪の子供に声をかけてから収納する。子供は反応しなかった。
次に竈を作ってヤギンの乳を温める。
……どうやって飲ませる? 哺乳瓶なんてないぞ?
スプーンで少しずつ飲ませるか。上手くやれるだろうか?
子供からそっと赤ん坊を取り上げる。子供は抵抗しない。
赤ん坊の髪の色も青い。兄弟かな?
「ティル・ア・フィールド!」
ふわっ。
土を柔らかくしてファングボアの毛皮を敷き、その上に子供を座らせる。
ミルクが温まったので少し冷ました後、スプーンで飲ませてみる。
あっ!?
こぼれた。上手く飲み込んでくれない!
難しい! もう一度!
何とか少しずつ飲ませる。気を使うな、これ。
子供にも何か食べさせないと。パンをほぐしてミルクをかけて食べてもらうか。
カップ一杯分のミルクを飲ませるのに凄い時間がかかった。
抱っこして背中を軽く叩いてげっぷを出させる。
けぷっ。
上手くいった。
赤ん坊を毛皮の上に寝かせて、今度は子供用の食事を作る。
ミルクかけパンを用意したが食べようとしない。
スプーンで少しずつ掬って口元に持っていく。
少し強引に口の中に入れると食べ始めた。
飲み込んだ事を確認して追加する。何とか全部食べてくれた。
ふぅ……えーと、この後どうしよう?
母親らしき女性の所持品を調べてみる。
簡素な鞄の中に日用品や着替えの服、布が入っている。この布は赤ん坊のおむつ用かな?
水の入った皮袋、葉っぱ? あ、これ用足しした後にお尻を拭くやつだ。
もしかしておむつの中に入れて使うのか? 身元が分かりそうな物は無い。
お金も食べ物も無い。どうやってここまで来たんだ?
ここから少し歩くだけで街道に出られるのだから遭難という事はない筈だが、亡くなった理由は何だろう?
特に目立った外傷は無かった。
子供は「セシリア」より更に小さくて痩せている。
何歳ぐらいだろう? 小さくて上手く話せないんだろうか?
「お話できる? 名前を言えるかな?」
子供をそっと抱きしめて話しかけてみる。
目線を合わせてもはっきりしない。無理か。少し休ませる必要があるな。
少し早いけど、今日はここで野営しよう。
狼やゴーレム達はずっと大人しい。場の空気を読めるのか。
狼は今日は干し肉と水で我慢してもらおう。量は多めにするから、それで勘弁してくれ。
明日の為に赤ん坊を運ぶ抱っこひもを用意しよう。
何かに使うかも、と思って買っておいた布を加工してそれらしき物を作ってみる。
うーむ、どうなんだろう? 強度的にやや不安があるが、試しに使ってみよう。
赤ん坊を入れて抱っこしてみる。
うーむ……たぶん大丈夫だろう。1日もてばいい。
寝る所だが地面に開けた穴の中だと子供は落ち着けないかもしれない。
トーチカにするか。銃眼を大きくして明り窓にしよう。
「トーチカ!」
ぽこん。
トーチカの中に入って、床の半分を魔法で柔らかくする。
毛皮を敷いてここで皆で寝ればいいだろう。
まず赤ん坊を中に入れて、次に子供を中にゆっくり引っ張っていってまた毛皮の上に座らせる。
さて、この子達だが、マーヴィンの町へ連れて行ってその後どうすればいいんだ?
門の所で誰かに聞けばいいのか? 行ってみないと分からないな。
たぶん町はすぐ近くの筈なんだが、街道にいる人に聞いておけばよかった。
何か忘れている気がする。何だっけ? ……あぁ、自分の食事か。
まぁいいか。何か食欲が無いわ。明日にしよう。
狼が中に入ってきたので子供と一緒に寝てもらう。
この子、ぼんやりしてるけど一晩寝たら少しは元気になってくれるかな?
明日に備えて早めに寝よう。
……寝られませんでした。
赤ん坊が寝てくれない。
一度寝たと思って俺も寝たら、赤ん坊の泣き声で目が覚めてしまった。
泣く理由はおむつが濡れたとかお腹空いたとか、単にぐずっているだけとか。
何度も泣くのでゆっくり寝る事ができない。
ミルクって1日何回飲ませればよかったんだっけ?
俺も少しは寝ておかないといけないんだけど、赤ん坊の泣き声ですぐ起きてしまう。これはキツい。
ぐずって泣いた時は寝ている子供が起きないよう、トーチカの外であやす。
ゆっくりと揺らしながら小さな声で歌を歌う。
「らんらんらららんらんらん、らんらんらららん……」
軽くて小さい。この子は生後何ヶ月なのか?
こんな小さな赤ん坊と子供を連れて、どこへ行くつもりだったのか。
ゴーレム達は眠らない。
外で5号機の横に並んで待機状態だ。何で横一列になってるの?
格納庫内で整備を待っている機体みたいだな。
赤ん坊がふにゃふにゃと寝始めたらトーチカの中に戻る。
自分がどれだけ寝たのかよく分からないまま、朝を迎えてしまった。
子供が赤ん坊の泣き声で起きなくてよかったけど、俺はあんまりよろしくないわ……
朝、食事の用意をする。
今朝は野菜スープにしよう。野菜とリザードの肉を細かく刻んで煮込めば食べ易い筈だ。
狼にはベーコンもつけよう。
子供にスープを食べさせてみると、ゆっくりと、でも全部食べてくれた。
赤ん坊にもミルクを飲ませて、さぁ、出発だ!
あ、また自分が食べるのを忘れた。
パンとミルクで手早く済ませる。
今度こそ出発だ!
赤ん坊を抱っこひもで包んで子供を5号機に乗せる。そして狼にも乗ってもらう。
子供の前で狼に横向きに寝そべってもらって、一緒にもふもふするのだ!
「子供に触らせてくれる?」
狼に聞く。
しっぽはゆったり動いている。よさそう。
「一緒にもふもふしよう。そーれ、もふもふ!」
子供の手をとって狼の背中を一緒に撫でる。もふもふ。
子供の顔を見てみる。少し表情が動いたみたいだ。
「もふもふ、もふもふ!」
表情が柔らかくなった気がする。
さすがだ! もふもふには癒しがあるよ!
土ゴーレムをゆっくり歩かせる。すぐに街道に出た。
ちょうど通りがかった行商の人にマーヴィンの町の方向と距離を教えてもらう。
普通に歩く速度で昼までにはマーヴィンに着くらしい。
急がなくてもいい。ゆっくり行こう。
……日差しが強くなってきた。この子にも帽子がいるな。
俺のはサイズが合わない。布を巻き付けて帽子の代わりにするか。
何度も休憩を取りながら歩き、昼頃にマーヴィンの町に着いた。




