善意の形
モツのスープが美味い。
入っている野菜が見慣れない物ばかりだが、この野菜がいい味を出しているのだろうか?
「村長」
「はい」
まるでCEOに付き従う秘書のように傍に控えている村長。
「この野菜は美味しいですね。この村で作っているのですか?」
「いいえ、これらの野菜は近くのナディナ村で作っている物で、この村のチーズやバターと交換しているのです」
「なるほど」
次はその村へ野菜を買いに行こう。
という訳でナディナ村への行き方を教えてもらう。
「またのお越しを心よりお待ちいたしております」
最後まで丁寧な態度の村長と見送りに来てくれた村人達に別れを告げて、ナディナ村へ向かう。
ナディナ村への道は下り坂が多い。少しづつ標高が下がっている。
それに連れてまばらな林の景色から深い森の様相へと変化している。
道は一本で迷いようがないのだが、中々前に進まない。
それは狼がちょくちょく森の中に突っ込んでいくからだ。
この森にはトカゲに似た姿の大きな獣がいる。
丸まってタイヤのような形になって突っ込んでくる生き物は獣とは言えないか。
魔物と獣の違いが今一つ分からない。こいつは魔物かもしれないな。
俺達を見るとすぐに丸くなって襲ってくる。
高さ1.5mぐらいある大きなタイヤみたいなものが回転しながら突っ込んでくる姿はなかなか迫力があるが、我が土魔法の敵ではない!
「アースウォール!」
ドカッ!
「ギャピッ!?」
土壁に激突して動きが止まった!
続いて、
「アースランス!」
ドスッ!
「ギャンッ!」
土槍に貫かれて絶命するトカゲモドキ。楽勝である。
土壁も高さ2mまで、自由に高さを変えられるようになっている。
狼が食べたそうな顔で見ているが、これ、食べられるのかな?
とりあえず血抜きはしておく。
解体は……どうしようかな?
ナディナ村へ持っていって、食べられるか聞いてからにしよう。
魔法袋に収納する。
こんな感じで何度も森の中に入って、その度にトカゲモドキを見つける狼。
毎回同じパターンで仕留める。土ゴーレムを使うまでも無い。
そして黒のゴーレムは全く何もしない。
雑魚など相手にしない、という事だろうか?
雑魚呼ばわりしたトカゲモドキだが、魔法が無ければ幼女は逃げるしかない。
いや、逃げる事すらできないかも。
頼りになるぞ! 土魔法!
1時間程度で着く筈がナディナ村へ到着した時はもう夕方近くになっていた。
ここも門には誰もいない。人が少ないのかな? 勝手に中に入る。
ここは普通の農村みたい。プラス村に似ている。
農作業をしている人に声をかける。
「こんにちは、お仕事中すみません。この村の村長さんにお会いしたいのですが」
「こんにちは、魔法使い様。案内します」
ここでも魔法使いと呼ばれた。何でだ?
村長の家まで案内してもらった。
「こんにちは、村長。私はセシリアといいます。ここで野菜を買う事はできますか?」
「はじめまして、セシリア様。私は村長のアラン・ナディナです。わざわざこの村まで野菜を買いに来られたのですか?」
「ええ、フォルタナ村でこちらの野菜を食べて美味しかったので」
「おお、そうでしたか。どうぞお好きなだけお持ちください」
村長が村を回って野菜をたくさん集めてくれた。
「これは食べられますか?」
トカゲモドキを出して見せる。
「これはリザードですね。狩るのが大変な獣ですが、美味しいですよ」
そのままの名前だった。名前付けてるの誰なんだろうな?
「これと野菜を交換する事はできますか?」
「できますが、その、この野菜の量とは釣り合わないのですが」
村長が集めてくれた野菜は山のように大盛りだ。
「あと1、2頭必要ですか?」
「逆です、セシリア様。野菜の方が足りません」
そうなのか?
「では解体の仕方と食べ方を私に教えてください。それで取引を成立させましょう」
「よろしいのですか?」
「ええ」
という訳で解体を見学させてもらう。ふむ、特に難しくはないな。
一緒に見ていた黒のゴーレムが何か言いたそうな雰囲気。どうかしたのか?
そういえば、ファングボアの解体をする気があるのか聞いていなかったな。
今聞くか。
「もしかして、解体をやってみたい?」
黒のゴーレムは反応しない。
「解体する気があるならファングボアをここに出してくれる?」
解体所の空きスペースを示す。
スッ。
左手からファングボアを取り出す黒ゴーレム。やる気らしい。
「このスペースを使わせてもらっていいですか? 使用料は払います」
「ええ、いいですよ」
おもむろに解体を始める黒のゴーレム。指を刃物状にしてサクサク切り裂いていく。
凄い切れ味! 作業が早い! 皮を剥がす作業も丁寧だ。
幼女もお手伝いをしてやろう。水魔法で内臓を洗ってやる。
しゅわしゅわしゅわ。
あっという間に解体作業は終了した。初めてなのに凄いな!
「使用料はこのファングボアの内臓の一部でいいですか?」
「はい」
「私達だけでは食べきれないので一緒に食べませんか? 肉も提供しましょう」
「よろしいのですか?」
「ええ」
狼なら内臓を全部食べてしまうかもしれないけど。
まぁ、肉をたくさん焼いてやればいいだろう。
勝手に提供すると言ってしまったが、このファングボアは黒のゴーレムの物だ。
またファングボアを狩ってそれで返せばいいかな?
「ちゃんと返すけど、しばらく待ってくれないか?」
返事は無いけど、たぶんいいよね?
「この村は何人ぐらい人がいるのですか?」
「私を含めて49人です」
フォルタナ村より更に少ない。村ってこんな少人数だったっけ?
再びの肉祭り。だが人数が少ないような?
49人と言っていたが40人ぐらいしかいない。
「村長、人数が少ないようですが、食べない人もいるのですか?」
「ええ、病気や怪我などで動けない者やその看病をしている家族は来られないので、あとで料理を持っていきます」
「病気?」
「ええ」
久しぶりに治癒魔法の出番だな。
「私は治療魔法を使えるのですが、見てみましょうか?」
「おお! それは本当ですか! ぜひお願いしたいのですが、その、代金をお支払いできるか」
「銀貨2枚ですよ」
「それは……安過ぎませんか?」
やはり。
とはいえ相場が分からない。
「ポーションだといくらになるのでしょう?」
「品質にもよるのですが、大体金貨3~5枚です」
どうしよう? 想像以上に差が大きかった。
安過ぎると他の治療魔法使いやポーションを売っている人に迷惑が掛かる。
ギルドの場合はハンターへの便宜を図る、という理由があったけど、ここでは……
「私は相場を知らなかったので。金貨3枚だと支払いは難しいですか?」
「ええ、私どもには高価なのです」
うーむ。
「分割払いではどうでしょう? 5年とか7年で」
「よろしいのですか? そうしていただけると大変助かりますが……」
「よろしいですとも」
別に問題は無い。キッチリ払ってくれれば。
ポーションの相場の値段で治療をするのだから、これは慈善ではない。
善意を振り撒いているのとは違う。
「では、案内してください」
「お願いします。こちらです」
村長の案内で病人や怪我人のいる家を回る。ヒールをかけるだけの簡単なお仕事だ。
ぽやん。
サクサクと治していく。
支払いについては村長に一括で管理してもらう。何も難しい事はない。
これで心置きなく皆で肉祭りだ!
「ところで村長」
「何でしょう?」
「なぜ私を見ただけで魔法使いと分かるのでしょう?」
魔法使いのようなローブは着ていないし、杖も持っていないのに。
「セシリア様の着ている服に魔法使いの印が入っているのですが」
「印?」
「ええ」
村長が服の一部を指差して教えてくれた。
何かの模様と文字のようなデザインがある所。
「これ、魔法使いを意味する物だったんですか?」
「ええ。ご存じなかったのですか?」
「知りませんでした」
マジか。
他の職員の服と細部が違うとは思っていたけど、意味があるとは思わなかった。
単なるデザイン違いだとばかり……
説明しろよ、ジュディ!
リザードの味は鶏肉に近い。これで唐揚げを作ったら美味しいんじゃないかな?
今度試してみよう。
ここでは肉を蒸した後、細かく刻んで野菜と一緒に食べるという料理だった。
美味しいな。
皆と食事をしている時、ちょっとマズいかもしれない事に気が付いた。
フォルタナ村ではここの野菜とチーズ、バターを交換していると言っていた。
だがフォルタナ村で結構な面積の土地を耕して新たに畑を作った訳だが、そうすると今後ここの野菜を必要としなくなるんじゃないのか?
だとすると、この村はチーズやバターを手に入れ難くなるのでは?
今すぐの事ではないかもしれないが、これはマズいかもしれない。
村長にこっそり聞いてみる。
「という訳なんですが」
「そうですか……」
村長の顔が曇る。ヤバーい、迷惑をかけてしまっている!
何とかしなくては!
「えーと、ご迷惑をかけてしまったようなので、お詫びに何かしようと思います。何かして欲しい事はありますか?」
「いえ、セシリア様が気にされるような事ではありません」
するよ! 超気にするわ!
「土魔法で何かしましょうか? 何かあったら遠慮なく言ってください!」
「……それでは、この村でも畑を作りたいのでお願いしてもよろしいでしょうか?」
「喜んで!」
任せてください!
野菜の生産量を増やして町まで売りに行く事で何とかなるらしい。良かった。
土魔法で新しい畑を作って、ついでに井戸も掘った。
お礼を言われたけど、これ、俺が悪いよね。
もうちょっと、よく考える必要があるなぁ。




