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believe

「私が今どれほど忙しいのか、分かってもらえないのかしら? ちゃんと説明した方がよかったのかしら? 説明しなかった私が悪いのかしら?」


ジュディさんがキレキレだ!



ギルドの建物の壁をぶち壊した俺。

それを知ってやってきたジュディが激おこ状態。


「黒いゴーレムに対応する為にあらゆる手段を取るべく奔走しているというのに、あなたは何をしているの? ゴーレムがギルドの建物を破壊したと聞かされた時、私がどんな思いをしたのか、全く想像もつかないのかしら?」


それ、報告したやつが悪いんじゃね? 

ちゃんと「幼女のゴーレム」が壊したって言えよ。

「黒いゴーレム」が壊した、とは全く意味が違うだろ?


ジュディは黒いゴーレムが破壊活動を始めたと思ったのかもしれないが、それは俺のせいじゃ……いや、まぁ、俺が悪いわ。


「聞いているの? セシリア?」


「はい、すみません」


忙しいジュディは仕事の邪魔をされて激おこ。俺はひたすら謝り続けた。


「本当にすみませんでした」


「……」


凄く怒っていたジュディがついに黙り込んでしまった!

これはヤバい!


「あの、もちろん弁償しますので……」


「当然ね」


破壊された壁に近付いて壊れ具合を見ているジュディ。


「修理代は給料から差し引くから」


「……はい」


自業自得だが、痛いわ。


「修理代はいくらぐらい?」


「そうね、たぶん金貨5枚ぐらいね」


「5枚!」


給料は金貨3枚なのに! まだ貰ってすらいないのに!


「給料は金貨3枚なのですがそれは」


「足りない分は借金につけておくわ。いいわね?」


「はい……」


借金が増えた。

いや、違うぞ? ダンジョンの仕事で金貨20枚貰える!


まだ大丈夫。まだ、俺はやれる!


「大人しくしていなさい。今度何かしたら罰金とるわよ?」


「はい……」


ジュディは仕事に戻っていった。


「はぁ」


思わずため息が出る。

幼女がため息とか、ダメ過ぎるわ。


ゴーレム達を見る。

まるでゴーレム達までしょんぼりしているかのよう。

お前達は悪くないぞ? 悪いのは俺だ。


黒いゴーレムまでしょんぼりしているみたいに見えるが、お前は全く悪くないからな。

気にするなよ?

狼が俺に体を擦り付けてくる。まるで俺を慰めるかのよう……


「気を使わせてすまない」



優雅に寝そべった狼にもたれながら、さっきジュディが言っていた「黒いゴーレムに対応する」という点について考えてみる。


魔法が効かない、魔法の武器も通じない。物理でもダメ。

そんなゴーレムへの「対応」とは? まさか、戦うという事ではないよな?

Aランクハンター100人でも足りないと言ったんだ、それはない筈だ。


黒いゴーレムを見る。

今は1号機にパントマイムをさせて、2号機と黒いゴーレムで何をしているか当てる、という設定で遊んでいる。

まぁ、答え合わせは不可能なんだけど。


何かを一生懸命に表現しているような1号機と、胸の前で長い腕を組んで、それを熱心に見ているような2号機。

たぶん黒いゴーレムも熱心に見ている筈。


ゴーレムを見ていると何かを忘れているような気がするんだけど、何だったかな?

うーん、ゴーレムゴーレム……


そうだ! 思い出した! 

もともと、ゴーレムを作ろうと思ったのは自分が乗って楽に移動する為だったわ。忘れていた!

大事な事なのに!


「対応」の件はジュディに余裕ができたら直接教えてもらえばいいだろう。

それより移動の為のゴーレムについて考えよう!

考えるだけなら、いや試作するだけなら十分大人しくしていると言えるだろう。


早速考える。

重要なのは背中の部分だ。俺が快適に、そして安全に移動する為の形状、構造を考えねば。


むーん、やはり座っている方が楽かな?

シート状の形……あれか、自転車の後ろに乗せるチャイルドシート。

頭の高さまでカバーしてるやつ。

あんな感じのをゴーレムの後ろに付ける構造でいこう。


ゴーレム自体は黒いゴーレムに似た形にしよう。ハイなごっぐさんで。


イメージイメージ! いくぞ!


「クリエイトゴーレム!」


もこもこ。


完成!

シートを背負ったハイなごっぐさんだ!

これは3号機だな。


形が何か今一な感じもするが、安全性の方が重要だからな。妥協しよう。

まあまあの出来だ。


……やはり、試乗は必要だな。

いきなり乗るのは危険かな? とりあえずゴーレムだけで走らせてみるか。

あまり距離はとれないが、30mぐらいは走らせる事ができるだろう。


ズシャッ! ズシャッ! ズシャッ!


土を蹴る音を立てて走るゴーレム。

結構上下の動きが大きい。あれでは酔ってしまう。

上半身を動かさないように、もう少し滑らかに……


ズシャッ! ズシャッ! ズシャッ!


いい感じだ。これなら乗ってもいいだろう。試乗する。


ズシャッ! ズシャッ! ズシャッ!


これはいい!

ここではあまり速度を出せないが、街道ならもっと速く走らせる事ができるだろう。

完璧だな。これで移動速度が相当速くなるぞ。


「ふはははははは!」


……風の抵抗が結構くるな。これを何とかしないと。


試乗を終えて3号機を他のゴーレムに合流させる。

片手を挙げて挨拶のポーズ。1号機と2号機にも同じ動きをさせる。

黒いゴーレムも手を挙げて挨拶をしてくれた。

いいぞ。実にいい感じだ!



ゴーレム達を眺めながら深い満足感に浸っていると、クリスが何か持ってきた。


「セシリア、ちょっといいかな?」


「何かな?」


「これをゴーレムとウルフに付けて欲しいんだけど」


「何それ?」


クリスが手に持っているのは、白銀色のカードに長い紐が付いて首からぶら下げるようになっている社員証みたいなやつ。


「これはテイマーが使役する獣や魔物につける物で、これで他の人に危険性がないという事が分かるのよ。これは義務づけられているからセシリアも使ってね」


「分かった。使うよ」


クリスは5枚持っていた。今3号機を作ったばかりなのに用意がいいな……


ゴーレムには首が無いので「たすき掛け」みたいな感じになった。

ダサい。何というダサさ。


「それでね、セシリア。これお金がいるのよ」


「なん……だと」


何となく、そうじゃないかと思っていました。


「どれくらい?」(震え声)


「全部で金貨5枚よ」


50万……


「価格の内訳は?」


「登録料が銀貨1枚で、ミスリル製の印が銀貨9枚よ」


「ミスリル!」


ファンタジーの定番だな! しかし、高いわ……


「払えないんだけど」


「借金につけておくわね」


また借金が増える……また。


「土ゴーレムはともかく、黒いゴーレムは私が使役している訳じゃないんだけど」


狼もそうだし。


「それは分かっているんだけど、一応付けておいて。サブマスの指示なの。お願いね?」


「……了解です」


そもそも黒いゴーレムに付けられるのかな?

黒いゴーレムは俺が他のゴーレムに付けているところを見ていたけど、どうかな?


黒いゴーレムの前に立って今から付けるよ、というしぐさをしてみる。

黒いゴーレムはゆっくりと左腕を伸ばしてくる。

こいつ左利きなのかな?


左腕から通してたすき掛けにする。何という格好悪さ! 

狼にも付ける。これでいいか?


「いいわね、サブマスに報告しておくわ」


そう言うとクリスはさっさと建物の中に入っていった。忙しそうだな。



俺達は夕方近くまで放置されていた。

そろそろギルドの中に入って治療の仕事に備えた方がいいかな? と思い始めた頃、ジュディが何か持ってきた。


「今度は何を買わせるつもりかしら」


「何の事かしら?」


「その手に持っている物は何?」


筒? バトン? みたいなやつ。たくさん持っているな。


「これは『スクロール』よ。魔法のスクロール」


「スクロール?」


またいかにもファンタジーなやつを……


「それってもしかして、誰でも使える1回限りの使い捨て、のやつ?」


「大体合っているわ」


「間違っているのはどの部分?」


「間違っているというか、必ず使えるという訳ではないの。使っても効果が現れない事もあるわ」


失敗する事があるのか。それはあまりファンタジーっぽくないような?


「それ何の魔法?」


「『テイム』を1回だけ使う事ができるスクロールよ」


「テイム?」


「そう。獣や魔物を使役する契約を結ぶ事ができる魔法。ただ使用する人と相手のレベルによっては効果が現れない場合があるの」


「相手のレベルが高いとテイムできない?」


「そう」


「それを黒いゴーレムに対して使うと?」


「そう」


「誰が?」


「あなたが」


あなたが、じゃねーよ!


「私、レベル5なんですけど。こんな低いレベルでいいのか?」


「あなたの場合、レベル差は関係ないかもしれないわ」


「なぜ?」


「あのゴーレムはたぶん、あなたに会いに来たのよ。あなたもそう考えているのでしょう?」


それは。


「あなたを襲わない、それどころか一緒に遊んでいるかのよう。あなたの魔法にも抵抗しなかった」


「魔法?」


「洗浄の魔法よ」


「あれは攻撃魔法じゃない」


「魔法よ。説明したでしょう? 黒の魔物にはあらゆる魔法が通じないと。なのにあなたの魔法は効果を発揮した。土の球もそうよ」


土の球? 土で作ったサッカーボールの事か?


「魔法で作った物ならば黒いゴーレムに触れた瞬間に壊れていた筈よ。でも実際は違った。あのゴーレムはあなたの魔法、もしくは『あなたそのもの』を受け入れる可能性がある」


「なぜ?」


「黒いゴーレムが『自らの意思』で魔法を無効にする、しないを変えているように見えるからよ。なら受け入れる可能性があるわ。あなたが使う魔法のスクロールの効果を、そして従魔にしたいという『あなたの意志』を」


「あいつは……人に使役されたくてここへ来た訳じゃないだろう?」


「あのゴーレムがそう言ったの?」


「おい」


「『テイム』を試せば分かるわ。相手に受け入れる気がなければ契約は成立しないから。もっとも、契約できてもレベル差が大きいと意思疎通が上手くいかなくて、使役できない事もあるけれど」


それって「テイム」と言えるの?


「『テイム』に成功すれば従魔は指示がない限り人を襲わないわ。つまり、あなたがあのゴーレムを従魔にすれば」


「皆が安心できると」


「そう」


人の理屈だ。だが、ここは人の領域だ。


他のゴーレムと一緒に立っている黒いゴーレムを見る。


「そのスクロールを使用する事が攻撃と受け取られる可能性はないの?」


「『テイム』は攻撃スキルではないから大丈夫よ」


「そうか」



俺はジュディからスクロールを1本渡され、使い方を教わった。

そして、黒いゴーレムの前に立つ。


「これが何か分かるか? これはテイムのスクロール。お前を従魔にしてしまうかもしれない魔法だ」


スクロールを広げて文字が書いてある面を見せる。

俺には読めない文字。魔法の力を表す文字。


「嫌なら拒否すればいい。あるいは、ここから出て行けば人と関わらずに済む」


「お前はどこにでも行けるだろう? 人に使役される生き方なんて選ぶ必要はないだろう?」


「ここから立ち去れ。立ち去らないと、お前にこの魔法を使わなければならない。それが人の理屈で、ここは人の領域だからだ」


お前なら、それらを踏みにじる事もできるだろうけど。


「言っている事が理解できるのなら、ここから立ち去れ!」


分かるだろう? お前には分かる筈だ。


黒いゴーレムは左手でスクロールを掴んで、まるで契約書を確認する人、みたいなしぐさで眺めた後、俺に返してきた。


立ち去ろうとしないゴーレム。いいのか? 使うぞ?


黒いゴーレムの目を見る。青い目。静かな目。


俺は魔法のスクロールに「使用する意思」を伝えた。

ただそれだけ。簡単だ。

スクロールが僅かに光り、文字が消えた。


「セシリア、ステータスを確認して」


ジュディの指示が聞こえる。


ステータス。



セシリア


Lv 5


HP 50/50

MP 91/100


土魔法 Lv 4

水魔法 Lv 2

治癒魔法 Lv 3


スキルポイント 3


従魔 黒のゴーレム



「従魔、という表示がある」


「名前は?」


「黒のゴーレム」


「え?」


「そう書いてある」


「……そう」


黒いゴーレムを見る。


「何か、ごめん」


……違うな。間違っている。それは今言う言葉じゃない。


「仲間になってくれてありがとう」


左手を差し出す。


黒いゴーレムがゆっくりと左腕を伸ばして、その長い指で、そっと俺の手に触れてきた。




「ところでこのスクロール、いくらなの?」


「金貨750枚よ」


「……絶対に払わない。絶対にだ!」


「何の事?」


「何の事、じゃねーよ!! 絶対に払わない!!!」


「これはこちらの必要経費よ。ギルドが負担するからあなたが払う必要はないわ」


「絶対に払わない」


「……払う必要はないと言っているのに、どうして信じないの?」


「信じているからぁ!」

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