ギルドの朝
朝日を浴びながら町の中を歩く。ギルドへ向かって歩いていく。
今日から本格的にハンターギルドで働く。
真っ当な職場だ。「ドラゴンの戦場」などという、狂った仕事場ではない。
働く幼女として、今日から頑張るぞ。
「おはようセシリア。待っていたわ」
「おはようジュディ。『働く環境』というのはできているのか?」
「ええ。あなたの為に徹夜したの」
ほぅ、気合が入っているじゃないか。一体どんな環境を用意してくれたんだ?
「俺の持ち場はどこなんだ?」
「そこよ」
そう言ってロビーの片隅を指差すジュディ。
その先にあるのは小さな机と椅子が2つ。長椅子が1つ。それだけ。
ほぅ。見間違いかな。これを準備するのに徹夜したのか?
幼女の俺でさえ、5分で準備できるわ。
残りの時間は何してたんだ? 逆立ちか? 腕立て伏せか?
「ジュディはこれを準備する為に徹夜したのか?」
バカじゃねーの、という気持ちを込めてみる。
「そんな訳ないでしょう? 何を言っているの?」
バカじゃねーの、という目で俺を見るジュディ。
「準備に時間がかかった物を見せてあげるわ」
そう言って俺を小脇に抱えて奥の小部屋へ連れて行く。ぎゅうぎゅう。
おいやめろ。朝から俺のHPを削るな!
防諜結界のある部屋に連れてこられた俺。
「何を見せてくれるんだ?」
「これよ」
ジュディが見せてくれたのは……制服? これはギルド職員の制服じゃないか!
しかも子供サイズ!
「どういう事だ? 俺のサイズは無かったんじゃないのか?」
「無かったから大人用の予備の制服を仕立て直したの。大変だったのよ? 今朝に間に合うように準備するのは」
「ジュディ……」
何という事でしょう! ヤバい。泣きそうだ。
ジュディがこんなにいいやつだったなんて!
「制服を欲しがっていたでしょう? あなたが喜んでくれるなら私も嬉しいわ」
「あぁ! もちろんさ! 喜んで頂かせて貰うよ!」
「あら、それはだめよ」
「えっ?」
「昨日説明したでしょう? パートには支給されないって。『頂かせて貰う』ではなく、買い取ってもらわないと」
「えっ?」
こいつ何言ってるの?
「買い取り?」
「そうよ」
俺の感動を返してくれないか?
さすがだ、全くブレない。安定のブラック。
働かせる上に金を払わせるとは。
「……いいだろう。買おうじゃないか」
どうせ服を仕立てるつもりだったんだ。ギルドの制服を普段着にしてやるわ!
「いくらだ?」
「金貨300枚よ」
「はぁ?」
こいつ何言ってるんだ?
「自分が何を言っているのか分かっているのか? 俺には分からないぜ。さぁ目を覚ますんだ。もう朝だぞ?」
「説明するわね」
無視するなよ。あ、説明はしてください。
「ハンターギルド職員用の制服は凄く高性能なのよ。防刃、防爆、対打撃、対魔法防御。更に対呪性まで備えた優れ物なの。同程度の性能の鎧よりもずっと軽くて、夏は涼しく冬暖かい、まさに理想の制服なの」
TV通販の司会者のように立て板に水の如き勢いで商品説明を始めたジュディ。
凄く……胡散臭いです。
「これほどの高性能を誇る制服は簡単には手に入らないわ。でも、今ならあなたにだけ、特別な価格で提供する事ができるの。あなたにだけ、なのよ」
騙されない。俺は絶対に騙されない。
「本来なら金貨500枚のところを子供用サイズという事で、特別に金貨300枚でのご提供とさせていただくわ。本当に、あなただけのビッグチャンス!」
お前地球から来たんだろ。正直に言えよ。
そして金貨300枚だと? それって3000万ぐらいだろ?
ありえないわ。本当にバカじゃねぇの?
「もうあなたのサイズにしてしまったから、他の誰にも着る事ができない、あなただけの物になるの。本当よ? 絶対に買い取ってもらうわ」
お前は鬼か。
「欲しがっていたでしょう? 買うって言ったでしょう?」
「そんな金は無いんだが」
「大丈夫よ。ドラゴンを売って入ってくる分配金があるわ。それで支払えばいいのよ」
「それで足りるのか?」
「足りないわ。でも大丈夫。足りない分は働いて返してくれればいいの」
少しも大丈夫じゃないんだが。お前は何だ。悪魔か。
「俺の取り分はいくらぐらいなんだ?」
「そうね、金貨150枚くらいね」
少しも大丈夫じゃないだろう?
幼女に1500万もの借金を負わす気か? 本当にありえないわ。
「この制服を手に入れれば、あなた、自分にかけるヒールの回数を減らせるわよ」
ぐぬぬ。
「分か……った」
「嬉しそうね」
どうした? 急に視力が低下したのか? 見えていないんだろう?
この悪魔め。
幼女は新しい装備を手に入れた!
悲しくなんかない。




