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異世界で『魔法幼女』になりました  作者: 藤咲ユージ
第1章 土の中の幼女
13/122

どうしたらこの娘に愛を

土槍で串刺しになり、でろんと首を垂れているドラゴンに近付いてみる。

本当にデカい! ジェット旅客機並みの大きさだ! 改めてその巨体に慄く。


こんな巨大な魔物が空を飛び、地上で暴れまくるとはさすが異世界。

さすいせ!

死してなお異様な迫力を撒き散らすドラゴンの姿に足が竦む。



イケメンことトーマスがやって来た。


「やあ、セシリア。お疲れさん! 大活躍だったね。特に土槍は非常に良かったよ! あれで随分楽になった。助かったよ」


「そうか。お役に立てたのなら何よりだ」


「またドラゴンの戦場で共に戦おう!」


それは当分遠慮したいわ。

イケメンは去っていった。



「よー、セシリア、お疲れ! お前も1枚いっとく?」


世紀末雑魚ことジュガンがドラゴンの鱗を剥がそうとしながら俺に声をかけてくる。

そういえばこいつ、1度も治療を受けに来なかったな。

魔力防御が得意というのは伊達じゃないようだ。


「剥がすんじゃないわよ」


ドガッ!


姉ちゃんにぶっ飛ばされてゴロゴロ転がっていくジュガン。

本当に雑魚い。


「剥がしちゃいけないのか?」


「ドラゴンの素材は全てギルド預かりになって、売却された後、評価に応じて分配されるのよ。そういうルールなの。勝手に持っていってはダメなのよ」


「……あいつはそのルールを知らないのか?」


「もちろん知っているわ。でも忘れるのよ」


それは「知らない」と同義だろ? ちゃんと教育してやれよ。


「この後どうするんだ?」


「遠くに待機させていた輸送車を呼び戻しているから、到着次第、町へ帰還するわ」



周囲を見渡す。

ブレスによって引き裂かれ、抉られた大地。

魔法が炸裂し、大気がかき乱されて荒れ狂った空間。

焼け焦げた臭いと、まだ帯電しているかのごとくピリついた空気が残っている。


ドラゴンと人間達の血に塗れた戦場で、戦い終わった男達は「落ち穂拾い」をしていた。

何だあれ?


「ジュディ」


「何かしら」


「あいつら何をしているんだ?」


男達が「落ち穂拾い」の絵の中の農婦のように、地面の上で何かを探している。

さっきぶっ飛ばされた弟も同じポーズで地面の上をまさぐっていた。


「あれはドラゴンの鱗の欠片を探しているのよ」


「欠片? そんな細かい物まで集めるのか。厳密なんだな」


「そうではなくて、飛び散った欠片は見つけた人の物になるから探して拾っているの。ただの小遣い稼ぎね」


「意外とセコいな」


「何だとぅ!」


「聞こえていたのか、ジュガン」


弟がいきり立ってこちらへやって来た。


「お前は欠片の価値を知らないんだろう! 知っていたらそんな事は言えない筈だからな!」


「知っているのか、ジュガン」


「知っているさ! 欠片5つで金貨1枚だぜ!」


エンゼルマークかよ。あれは5枚で銀だったか?


周囲を見渡す。

あっ!

世紀末覇者まで探しているぞ! 意外と丁寧な手つきだ。

何かを拾い上げて嬉しそうな顔!

そういえば、


「ジュディ」


「何かしら」


「銀貨が何枚あれば金貨1枚になるんだ?」


「10枚よ」


という事は金貨1枚は10万円くらいかな?

欠片1つが2万か、結構高いな。俺も探そうかな?


ちょろっと探してみたが見つからなかった。

ジュガンは結構見つけたみたいだ。そういうところ、本当に雑魚っぽい!

悔しくなんかない。


輸送車が戻ってきたのでさっさと撤収する。


ドラゴンはジュディが輸送車から持ってきた魔法袋に収納された。

あんなデカいドラゴンが入るとは! 魔法袋の限界を知りたい。


「ジュディ」


「何かしら」


「その魔法袋はギルドの備品なのか?」


「そうよ」


「どれくらい入って、いくらぐらいで買えるんだ?」


「同じ大きさのドラゴンがあと2つは入るわね。値段は白金貨50枚よ」


「白金貨1枚は金貨では何枚?」


「1000枚よ」


50億!


「魔法袋は希少な物なのか?」


「そうでもないわ。お金さえ出せば誰でも買えるわ」


「最も安い物はいくらで買える? 容量はどれくらい?」


「この輸送車の容積と同じくらいで金貨100枚ね」


輸送車の中は細長い形だが六畳の部屋ぐらいの容積がある。


「それより小さい物は無いのか?」


「あまり小さい物は作れないらしいわ」


「そうか」


俺の使っている魔法袋はどれくらいの容量なんだろうな。


「容量を知るにはどうすればいい?」


「たくさん詰め込んで、入らなくなるまで試せばいいのよ」


大雑把だな。



「なぁジュディ」


「何かしら」


「俺はドラゴン討伐の際にそれなりに貢献したと言えるのではないだろうか」


「そうね」


「ドラゴンにダメージを与えたよな」


「……そうかもね」


「にもかかわらず、レベルが1つしか上がらなかったのはなぜなんだろうな?」



Lv 5


HP 50/50

MP 4/100



納得いかねぇ。


「1つしか上がらなかったの?」


「ああ」


「そう」


悲しいものを見るような目はやめろ。


「理由として考えられるのは、あのドラゴンは手負いだったという点ね」


「手負い?」


「そう。ソードの町から受けた攻撃で弱っていたのよ。あまり大きく飛び回らなかったでしょう? ブレスも少なかったし」


あれで少ないのか。吐きまくっていたような気がするんだが。

多い少ないの基準を知りたいわ。


「完全な状態を100とした場合、あのドラゴンはどれぐらいだったんだ?」


「おそらく、20から30といったところね」


「マジか」


そんなにか。完全な状態を知りたくないわ。


「後、あなたの土槍は動きを止めたという点では大きいけれど、ダメージを与えたという点ではそれほどでもなかった筈よ」


そうなのか。串刺しにしてやったんだが。

あいつ絶叫してたじゃん。


まぁあの後、近接達が結構長い時間攻撃を続けていたから、俺の与えたダメージはそれほどのものではなかったのかもしれない。

タフだな、ドラゴン。たふどら。


「それは分かった。次は『スキルポイント』について教えて欲しい。獣や魔物を1体倒すと1ポイントであっているのか? 強さは関係ないの?」


今回のドラゴン戦でも1だった。


「『スキルポイント』は『ギフト』の事よ。神様からの贈り物」


「ギフト?」


「ギフトは神様に愛された者だけが貰う事ができる特別な力。『ユニークスキル』とも言うわ。『神の愛』そのものでもあるの」


「それは、本当の話なのか?」


「ええ、本当の話よ。与えられたポイントをスキルに振り分けて、スキルレベルを上げる事ができる。まさに奇跡のような力ね」


「他の人にはスキルポイントは無いのか?」


「無いわ。それは神様に愛されている者だけに与えられるものなのよ」


神の愛? 神に愛されているというのか?

本当に?

本当に愛しているのなら、どうしてあんな廃村でこんな小さな娘をひとりぼっちにさせたんだ、神!


この娘のスキルポイントは5だった。魔法レベルは全て1。この娘はポイントを使っていなかったんじゃないのか?

あるいはスキルポイントの意味を知らなかった。


ステータスを見ていなかったのか?

そもそも、ステータスを見る事ができたのか?


神は愛がある事を伝えたのか? この娘に。

本当に「愛」があるのなら、どうしたらこの娘にその愛を伝えられるんだ?


「スキルポイントは『神様が見ている』事の表れだ、と言われているわ。その者の行いによってポイントを与えるの」


「何だと!」


「どうしたの?」


「……何でもない」


神が見ているのか。

……そうなのか。


「ギルドの事なら俺に聞いてもいいんだぜ? これでも俺はベテランだからな!」


唐突に口を挟んでくるジュガン。


お前、姉ちゃんの話をちゃんと聞いてなかっただろ。

ギルドの話なんてしてねぇよ。「ギ」しか合ってないじゃん。

お前は欠片の数を数えていればいいんだよ。


「ジュディに聞くからいいわ」


「そうか?」


また欠片の数を数え始めるジュガン。

どんだけ拾ってるんだよ、コイツ。いっぱいあるな。

嬉しそうな顔しやがって。


「落ち穂拾い」は貧しい農婦達が懸命に生きようとしている姿を描いたものなのに。

それに比べてこいつら、濡れ手に粟すぎぃ!

羨ましくなんかない。ないったらない。


「どうしてスキルポイントの事を知っているの?」


「俺は物知りだからさ」


「そう」




俺達はシオリスの町に帰還した。

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