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異世界で『魔法幼女』になりました  作者: 藤咲ユージ
第6章 開拓する幼女
122/122

震える里山(前編)

お久しぶりです

 突き上げた小さな拳の先に広がる青い空。ぷかぷかと浮かぶ白い雲。

 爽やかな夏空の下、戦いが終わった村の中を熱く湿った風が吹き抜けていく。

 うっ、血の臭いが……地上は全く爽やかではない。まぁ、仕方ないね。

 

 村を襲った魔物『アーマードボア』は倒した。これでやっとリナと遊べるな。


 この異世界で最初に訪れたこの『プラス村』で知り合った幼女リナとまた会って遊ぶという約束をしてから早三ヶ月……仕方なかったんだ。何かと忙しかったんだよ。

 子供との約束を守れない父親の言い訳みたいだな。


 でも実際にシオリスの町でハンターギルドの職員 (パート)として雇われてすぐにドラゴン討伐に駆り出されたり、その後もダンジョン探索をしたりヒュドラとかヴァイパーとか大蟹とか、大物を含む魔物の討伐を一杯やってるし、よく働いているじゃないか。

 今日も遊びに来た筈なのに魔物の討伐やってるし……そう、だから仕方なかったのだ。


 ……もしかしたら、リナは約束自体覚えていないかもしれない。それどころか、顔も忘れ去られている可能性すらある! うーむ、再会の挨拶はどうしよう? 『久しぶり!』でいいのかな?




(いつたべますか? いまですか?)


 ん? 今の声はアルジェンティーナか。辺りを見回すと……いた。

 

 横倒しになったアーマードボアの上に乗っかった白銀の狼がふっさふさの尻尾をゆったりと振りながら辺りを睥睨している。まるで『この獲物は私が倒した!』みたいな雰囲気。でもアルジェンティーナはトーチカに退避していた筈だし、戦闘中は何もしていない。


(いまたべますか?)


 食べるって、アーマードボアを? ファングボアと似ているし、食べられる可能性は高いが、味はどうだろう……いや、そうじゃなくて。


(朝ごはん食べたばかりでしょー? まだ2時間もたってないのに、お腹一杯じゃないの? 入るのか?)

(はいります!)


 元気良く答えると同時にむくむくと大きくなっていくアルジェンティーナ。すぐにアーマードボアと同じぐらいの大きさになってしまった。

 それはもしかして、体を大きくして胃の空き容量を増やしたって事? そんなにまでして食べたいか。

 まぁ、俺もどんな味がするか興味はあるけど、この後遊ぶ時間が……ちょっと味見するぐらいならいいか? まずは血抜きを……はっ!? 待てよ?


 『パイルバンカー』によってやつの体内深くまで杭を撃ち込んでいるのだが、体の中はどうなっているのだろう? ぐっちゃぐちゃになってるんじゃね?

 肉とか内臓とか、まだ食べられる部位が残っているといいんだけど……とりあえず、血抜きはしておくか。


 杭で破壊したアーマードボアの頭部からはまだ血が流れている。ここからでいいか。

 まずは土魔法で地面に穴を空けて、水魔法で血を抜く。


だくだくだく。


 これでよし。次は解体作業、じゃなかった。その前に相談、いや交渉しないと。えっと、村長はどこだ?


「村長ー」

「はい」

「うぉっ!?」


 村長は斜め後ろにいた! なぜそんなところに?


「なんでしょう?」

「あ、えっと、アーマードボアの配分について協議したく」

「配分、ですか?」


 今回俺はプラス村、つまり村長の許可(もしくは依頼)が無いのに攻撃に参加したんだよな。

 戦闘前には「我々だけで倒せると思っています」って言ってたぐらいだし、村の主戦力『ハープーン』ではアーマードボアに有効なダメージを与えられなかったとはいえ、俺がどれだけ分け前を要求していいのか、配分について確認というか、交渉しないと。


「全てセシリア様のものでいいですよ」

「え? でも……」


 さっき、「我らの魔法具と皆の力」って言ってたような。


「私達だけでは到底倒せなかった魔物ですから、お気になさらず。本当にありがとうございました」


 穏やかな笑みを浮かべる村長。いいのか? 村長がいいと言うならいいんだろう。よし貰った!


「では遠慮なく」

「ええ」


 これで解体できる。……できるかな? あいつ、めっちゃ固いんだよな。


 横たわる骸に近付いてさっきの戦闘でチェーンソーゴーレムが付けた傷を確認してみる。うーむ。


 背中に付いていた線のような傷跡は、実際には傷ではなく毛が真っ直ぐになって傷のように見えていただけだった。切れてないのかよ。がっかり。

 この外皮が切れないと皮を剥ぐことができない。何とかしないと。じっくり時間を掛ければ切れるか? やってみよう。

 

 アーマードボアの足首に刃を押し当てて、チェーンソーゴーレム始動!


ギュイーーン。ギャリギャリギャリ! ギャリギャリッ!


 相変わらず生物の体から出ているとは思えない硬質な音が響く。こいつの体は何でできているんだ? タンパク質やカルシウムはこんな音しないんじゃないの? ここは異世界だから俺の知らない物質でできていてもおかしくはないが。


ギュイーーン……。


 ちょっと確認してみるか。音に変化がないから、あまり切れている気はしないけど。

 

 チェーンソーをどかして見てみると……全然切れてない。

 次はパイルバンカーで破壊された頭部付近で試す。……ここもダメだ。皮は切れない。うーん、どうしたものか。

 

(かんでいいですか?)


 ん? 噛む?

 横にいたアルジェンティーナがアーマードボアを見ている。チェーンソーでは歯が立たなかったこの固さに挑むというのか?

 体を大きくしたり幼女に変身したりするアルジェンティーナだ。その牙にも何か特別な力が宿っているのかもしれない。


(やれるのか?)

(はい!)


ガブゥ!


 横たわるアーマードボアに食らいつくアルジェンティーナ。鼻の上にぐぐっ、と深いシワが寄せられて盛り上がっている! 相当な力を込めているのか、もしかして、いけるのか!? ……と思ったら、すぐに噛むのをやめてしまった。あれ? もう終わり?


(かたいです)


 そうだね固いね。でも諦めるの早っ! 特別な力とかじゃなくて、ただ噛んだだけ?


 しおしおと小さく縮んで、元のサイズに戻ってしまった。気落ちした感情が伝わってくる……もしかして、小さくなったのはがっかりしたって気持ちを表しているの? ギャグマンガか!?


 まだ諦められないのか、うろうろとアーマードボアの周りをうろつくアルジェンティーナ。


(今日はもうやめておこう。こいつは俺達の手に負える相手じゃなーい。プロに任せようじゃないか)

(プロ? シュバルツですか?)


 何でだよ。シュバルツは別に解体のプロじゃないだろ。ハンターギルドに任せようって話だよ……そうか、シュバルツか!


 指をド鋭い刃物に変形させて、ヒュドラやドラゴンすら切り裂いていたシュバルツなら、この固いアーマードボアも解体できるんじゃないだろうか。頼んでみよう。

 あ、そうだ。ドラゴンといえば、エクレールは今何してるんだ? まだトーチカの上にいるのか?


 トーチカの方を見ると、そのトーチカの屋根から逆さまに垂れ下がるような姿勢でこちらを見ているエクレールと目が合った。何してるの?


(使う?)

 

 えっ? あぁ……剝き出しになったド鋭い2本の角が太陽の光を反射してギラリと光っている。逆さまになっているのは重力で角カバーを外す為だったのか。その角で切ってやるというアピール? 確かにドラゴンの角も切れ味抜群だよね!

 

 でも、『頭の上の平行に付いてる2本の長い角』という形状は解体作業には向いてないと思うんだ。


(ありがとうエクレール。その角はしまっておいてくれ)

(そう)


 なぜか気落ちしたような雰囲気。切りたかったのか?

 

 ずるずると、逆さまの姿勢のままゆっくりと屋根を上がっていくエクレール。何その不気味な動き。手も足も動いてないぞ? あ、背中と屋根の間で何かが蠢いているのが見える。あれは背中の翼か。飛ぶのではなく這うような動き。そんな使い方でいいのか?


 近くに汎用型ゴーレムを作成して、腕を伸ばしてエクレールの角にカバーを被せてやる。自分では付けられないからな。


 ではシュバルツを呼ぶか……ここからシオリスの町まで念話が届くかな? 直線距離で30㎞以上あるけど。試せばわかるか。


(シュバルツ聞こえる? こちらセシリア。聞こえたら返事して)


 ……へんじがない。届いてないっぽいな。通話の魔道具なら通じるだろうが、シュバルツは持ってないからな……そうだ! それなら持っている人に連絡すればいい。つまり、ジュディだ。ジュディに頼もう。


 胸元から通話の魔道具を取り出す。


(もしもしジュディさん。セシリアです。今お話しできますか? できたら返事してください)


……おや? へんじがない。忙しいのかな?


(……はぁっ、はぁっ、はぁっ……)


 えっ、何これ?


(ジュディ? もしもし、おーい!)

(……はぁっ、はぁっ、はぁっ!)


 まるで喘いでいるような、変な声! 何か、とんでもないものが聞こえている!?

 これ、ジュディなのか? まさか……例の、アレ? 

 幼女にナニを聞かせているのか!? これは、許されざる振る舞い。普通の返しでは済まされないですよ……よーし。


(こちら現場のセシリアでーす! スタジオのジュディさーん! 聞こえますかー?)


 どや? 存分に困惑するといい。俺も困惑してるから!


(はぁっ、はぁっ。……すたじおって何かしら?)


 「何かしら」じゃねーよ。そっちこそ何かしらじゃなくて、ナニしてんだよ?


(お取込み中だったらごめんね。かけ直そうか?)

(今終わったところだから構わないわ。どうしたの?)


 終わったところなんだ……ドキドキするね! じゃなくて、どうかしてるのはお前じゃね? とりあえず用件を話そう。


(今プラス村にいるんだけど、家にいるシュバルツをこっちに呼んでほしくて。ギルドに依頼してもいいかな?)


 ジュディがタダでやってくれるならいいけど、普通に雑用の仕事として依頼してもいい筈だ。


(なぜ別行動をしているの? それでは従魔の意味がないでしょう?)


 なぜか叱られる俺。そんな話はいいんですよ。


(お金払うよ?)

(そうではなくて……何かあったの?)


 理由を説明する。


(そう。アーマードボアはドラゴンが倒したの?)

(いや、私が倒した)


 そう説明したつもりなんだけど。


(そう……)


 その間は何だよ? 時間掛かるな。もう直接迎えに行った方が早い気がしてきた。


(強力な従魔ならともかく、あなたが直接というのは推奨できないと言いたいところだけど、もう倒してしまったのね)


 あぁ、『討伐はAランクハンターのみ推奨』ってやつか。倒したんだからもういいじゃん。


(それで、シュバルツの件は? シュバルツに解体してもらって肉を食べたいんだけど)

(売る気は無いの? アーマードボアは特殊な魔物だからもし売る気があるのならそのまま持ち込んで欲しいわ)


 素人が『適切な手段』以外で解体してしまうと、素材として一番価値が高い皮だけでなく中までダメージが及ぶ可能性があるという説明をしてくれた。

 

 確かにシュバルツは解体のプロではないし、既に体内の一部はダメージを受けているだろうけど、他の(ダメージを受けていない)肉まで食べられなくなっては意味が無い。やめとくか。


(わかった。そうしよう。ところで、通話の最初の部分は何だったの?)


 気になります。


(魔物の討伐をしていたの。もう終わっているから大丈夫よ)

(魔物の討伐!?)


 想像と全然違った! え?


(ジュディって、今どこにいるの?)

(ノーザンクトンよ。人手が足りなくて、ここのギルドから応援要請があったの)

(ノーザンクトン?)

(シオリスの町から南へ200㎞といったところよ)


 遠いな。てっきり町にいるとばかり思っていたが、ギルドのサブマスターがそんな遠くまで手伝いに行かなければならないほど人手不足が深刻なのか。大変だなー。


(私も手伝おうか?)

(あなたには領主から依頼された仕事があるでしょう?)

(あ、はい)


 明日も開拓の仕事はあるけど、休みの日に討伐をやってもいい……クローディアやアシュリーに知られるとマズいか? 休みを減らされる可能性があるな。

 でも討伐回数を増やさないとレベルが上がらないし……何かいいアイデアがある筈だ。考えてみよう。




 アーマードボアを魔法袋に入れる時にアルジェンティーナがちょっと邪魔というか、もふもふの体をこすりつけて『食べたい』アピールをしてきたけど諦めてもらおう。お昼にファングボアの肉でいいじゃん。


 さて、それじゃあリナの所へ行こうか。ん? あれは……?

 

 ゴミの塊がうごうごと蠢いている。まるでホラーの世界。

 

 ギリースーツを着た村人達が辺りを動き回っているから長閑な農村の風景に戻っていない。

 

 どうやら皆は戦闘時に散らばったトウモロコシを回収している模様。

 それはいいんだけど、なぜスーツを脱がないんだ? 暑くないのか? 俺はワンピース一枚でも汗を流しているのに。


 そして村人達は拾い集めたトウモロコシをまた山のように積み上げている。最初に積み上げていた場所だ。なぜそんな所に?


「村長ー! 村長ー!」

「はい」

「うぉっ!?」


 また斜め後ろにいた。なぜそこにいるんだ?


「村長、なぜまた同じ場所にトウモロコシを集めているの?」

「勿論ファングボアを呼び寄せる為です」

「え?」


 終わったんじゃなかったの?


「まだやるの?」

「はい、まだ来ると思われます」

「えー……」


 どうやら終わったと思っていたのは俺だけらしい。さっきの勝ち鬨はなんだったのか。

 

 渋い表情をした村長が村の外に広がる山を見ている。その山にはまだまだファングボアがいるらしい。それに……アーマードボアも1体だけとは限らない。まだいるかもしれないな。


 村は奴らがまたやってくるまで警戒態勢を続けるようだが、それじゃリナと遊べなくて困る。休みは今日までなんだ! 1日働いたらまた休みだけど。

 

 もしまたアーマードボアが現れたら村では対処できないだろう。被害を出さない為にも、俺がいる今日中、できれば昼前ぐらいまでには決着をつけたいところだ。


「村長。あの山で狩りをしたい気分になりました」

「え? それは……」


 ずっと待ってはいられない。ならばこちらから打って出よう。そう、山狩りだ!

 待ってろアーマードボア。今すぐ会いに行くぞ? ゴーレム達がな!

まだスランプ状態ですが、投稿は続けます。


前回までのステータス


セシリア

Lv 14


HP 140/140

MP 280/280


土魔法 Lv 7

水魔法 Lv 3

治癒魔法 Lv 4


セヴィウス語 Lv 2

料理 Lv 2

裁縫 Lv 2


スキルポイント 5


従魔 シュバルツ

従魔 ノワール

従魔 エクレール

従魔 アルジェンティーナ

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新嬉しいです。 また一話から読んで楽しんでいます。
[一言] 復帰、嬉しく思います! ゆっくりペースで良いので、のんびりと感覚を取り戻していきましょ。
[良い点] 更新お待ちしてました!
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