VS アーマードボア!
「村長、あれは『アーマードボア』だ! 強力な魔物だから危険だと思うんだけど……」
「魔物!? ファングボアではないのですか!?」
村長の狼狽したような声が聞こえる。
『アーマードボア』は色以外はファングボアに似ているが、『鎧』の名が示すようにその体は鋼のように強固な外皮に覆われていて、並みの武器では傷をつける事もできないらしい。
ギルドの資料に『討伐はAランクハンターのみ推奨。Bランク以下は遭遇したら全力で逃げろ』なんて書かれる程の危険な魔物。村人が立ち向かっていいような相手ではないぞ?
「ブルァァァァ、ブァアアアア!」
アーマードボアは攻撃されて怒っているのか、前脚でガシガシと地面を削って猛りまくっている。その視線は真っすぐに『ハープーン発射装置』へと向けられている。あれが攻撃の手段だとわかっているのか?
ギリースーツを纏った村人達が発射装置を守ろうと、大きな盾を構えて(盾にまで迷彩が施されている!)前へ出てくる。正気か? 暴走する車を生身で止めるようなものだろ、それは!
「ガァアアアア!」
アーマードボアが咆哮を上げ大地を蹴る! 速い!!
「アースウォール!」
砲弾のような勢いで突っ込んでくる灰色の塊と村人達の間に土壁を作成。そのまま壁にぶち当たってしまえ!
ドカッッ!
……何だと!?
アーマードボアは土壁の手前で前後の脚をスライドさせて体を横向きにすると、側面から土壁に激突して止まった! ドリフト!? 頭からぶつかって昏倒して欲しかったのに!
まぁいい、動きが止まった事に変わりはない。これで終わりだ!
「アースランス! ……何!?」
アーマードボアの首を狙って下から突き出された土槍を、飛び退って躱しやがった! こいつ、反応が良過ぎないか? いや、今のは完全に死角からの攻撃だったのだから、見て躱したのではない筈だ。……もしかして。
「アースランス!」
確認の為にもう一度攻撃すると、地面から土槍が突き出す前に横っ飛びで躱しているのが見えた。やはり……今の動き、魔法の発動がわかっているな? これは、『魔法感知』か!
この世界には魔法やスキルを使う魔物もいる。あいつが魔法の発動を感じ取れる魔法感知のスキル持ちなら、今みたいな回避の動きも十分に可能だろう。だとすると……ほんの一呼吸とはいえ、魔法の発動に時間が掛かる土魔法との相性はよろしくない。かなり厄介な相手になる。
「グゥアアアア?」
げっ!? こっちを見てる! 俺は地面に掘った穴の中からゴーレムの頭だけ出して見ていたのだが、あいつは魔法を使った人間の位置までわかるのか?
「セシリア様!?」
「あ、村長。私も攻撃に参加するよ!」
ハープーンは浅い角度だと弾かれるようだし、あいつにいい感じの角度で当たるのを待つより俺が魔法で倒した方がいいだろう。……倒せるといいな。
土壁で狭い範囲で囲って、その中で土槍を撃ちまくれば避け切れなくなって当たるんじゃないかな?
「アースウォール!」
アーマードボアの周囲10m四方を高さ10mの壁で囲って閉じ込めに成功。
よし、後は……何ぃ!?
ダダダンッ!
囲いの中で周囲をぐるりと見回したアーマードボアは土壁に向かって突進すると、そのまま壁面を駆け上って脱出してしまった! 垂直の壁なのに!?
「ブルァァァァ!」
高さ10mの壁の上からふわりと飛んで着地したやつは、まるで俺を嘲笑うかのような顔で鼻息を荒くしている! おのれ……今のも何かのスキルなのか?
アーマードボアは元々は『大山脈』や『大渓谷』といった魔物にとっても厳しい(らしい)領域が主な生息地で、その過酷な環境下で生き抜く為に進化した結果、外皮が鎧のように強固な物になったと言われている。今の垂直の壁を上る力もその進化の過程で得たものかもしれない。
では壁で囲うのではなく、穴に落として生き埋めにするか? ……壁を上れるならダメっぽい気もするけど、一応試してみよう。
全長3mのアーマードボアを落とすにはそれなりに大きな穴が必要なので穴を掘るのに時間が掛かる。足元に直接穴を掘っても感知されるので周囲に直径10m以上の穴を複数掘って、土槍を使って追い落としを掛けるが……なかなか落ちない。躱されまくり! ええい、ならばそこらじゅう穴だらけにして……。
「あの、セシリア様……」
「後で元に戻すから大丈夫!」
村長が心配そうな声を掛けてくる。もしかして、やりたい放題みたいに見えているのか? さすがに農地を穴だらけにしたままで帰ったりはしないよ? ちゃんと元に戻すから!
更に複数の穴を掘って、その穴で包囲して逃げ場を無くしてようやく追い詰めた。よし、落ちろ!
「アースランス!」
突き出された土槍を躱した先の狭い足場を崩すと、そのまま穴に落ちていくアーマードボア。ざまぁ! これで魔法を解除して穴を塞いでしまえば……。
ダダダッ!
穴を塞ぐよりも早く側面を駆け上がって、すぐさま脱出してくるアーマードボア。ですよねー。やっぱりダメか。
ならば、最初からトーチカのように上から覆ってしまうというのはどうだろう?
一旦全ての穴を解除して地面を元通りにして、半円球の形でアーマードボアの上に被せるイメージをしてみる。
「ドーム!」
逃げられた。やはり感知されてしまう。うーん。では他の、もっとアクティブに奴を取り押さえる方法……もうゴーレムしかないな。
「クリエイトゴーレム!」
もこもこもこもこ。
汎用型のゴーレムを10機、チェーンソーゴーレムを5機作成。これで直接取り押さえて、ぶった斬ってやるわ!
まずは汎用型で包囲する。10機のゴーレムでアーマードボアを取り囲んでじわじわと接近すると、やつは低い姿勢でぐるぐると唸っている。警戒しているな。
10mの距離まで近づくと、アーマードボアは包囲したゴーレムのうちの1機に狙いを定めて突進してきた! 上等だ、来いやコラー!
正面から取り押さえてやろうとゴーレムの長い腕を伸ばして待ち構えると、アーマードボアは横っ飛びしてその腕をかいくぐり、側面に回り込むと横からゴーレムを突き飛ばした!
ドカッ! ゴロゴロゴロ。
ボーリングのピンのように簡単に飛ばされるゴーレム。むぅ……。
包囲を突破したアーマードボアを追い掛けてもう一度全機で囲んで、今度は一斉に飛び掛かる!
ドカッ! ゲシッ! ゴロゴロゴロ。
10機のゴーレムで一斉に取り付けばすぐに抑えられると思ったのだが、アーマードボアはその牙でゴーレムを突き上げ脚で蹴っ飛ばし体当たりして弾く事で捕縛を逃れている。ゴーレム達が、奴の動きに翻弄されている!
ぬぅ……! ならば直接攻撃だ! チェーンソーゴーレム!
ガキン! ギャリギャリギャリ! バシッ!
チェーンソーで奴の背中を切りつけてやったが、まるで金属に当たっているような甲高い音を響かせた後、弾かれてしまった! チェーンソーでも切れないのか!?
だがよく見るとアーマードボアの背中には線状の傷が付いている。多少は切れるのか。
「ブルァァ? グォオオアア!」
傷付けられたのがわかったのか、激怒したらしいアーマードボアが斬りつけたチェーンソーゴーレムを突き飛ばすと、転がった先へ更に追い掛けて踏みつけている!
残り4機のチェーンソーゴーレムで一斉に斬りかかるが、ガキン! ガキン! と固い音を響かせるばかりで有効なダメージを与えているようには見えない。
「村長! いつでもハープーンで攻撃していいよ?」
「し、しかし、それではゴーレムに当たってしまうかもしれません」
狼狽える村長。何を言っているんだ?
「一向に構わないよ? ゴーレムごとやっちゃっていいから!」
「そ、そうなんですか?」
「ええ」
ゴーレムがやられてもどうという事はない。アーマードボアがゴーレムに気を取られている今がチャンスだ!
ハープーンが収められているコンテナが小刻みに動き始めた。照準を合わせているんだな。
その動きが止まる。アーマードボアは……ゴーレム達に囲まれて動きを止めている!
「ハープーン発射!」
シュバッ!
今度はどうだ!? ……ダメだ、躱された。かすりもしないとか、発射も感知できるのか? それとも、もう見切られているのか。でも避けるという事は当たりたくないという事だよな? 上手く当たればダメージを与えられるような気がするんだけど。
ドカッ! ドカッ!
振り降ろしたチェーンソーが躱されて側面に回り込まれ、横から突き飛ばされているチェーンソーゴーレム。汎用型はやつの脚を狙って低い姿勢でタックルを仕掛けているのだが、巧みなステップでゴーレムの腕を躱し、ダッシュで振り切っている。ラグビー選手かよ。
「ショットガン!」
バシュッ! バチバチバチ!
『散弾』なら広い範囲を攻撃できるので感知できても避け切れまい、と思って放ってみたら、魔法の発動を感知した奴はダッシュで避けようとしたが避け切れない! 当たった! ……当たったんだけど、弾かれているな。まるで効いていない……『散弾ではなぁ!』ってやつか。
ゴーレム達は追い駆けっこみたいな動きの中で何度も体当たりしているが、悉く負けている。パワーではなく、ウエイト差で負けているような気がするな。あ、またぶっ飛ばされた。むーん……。
チェーンソーも、アーマードボアをがっちり押さえつけて、しっかりと力を掛ければ斬れる可能性はあるが、それは奴の動きを止められない現状ではできないし、何かいい考えはないかな?
何となく辺りを見渡してみる。村長も手を出しかねているのか、静かだ。村人達もまた姿を消している。もう潜伏する必要無いと思うんだけど。ハープーン発射装置だけが存在感を放っている。
ハープーンか……あれみたいな、こう、ズドン! という重い攻撃を至近距離から当てればそれで倒せると思うんだけど……。
魔法で『銛』を撃ち出せるのなら、魔法で『杭』も射出できるんじゃないか? シュバルツが使っていた『パイルバンカー』みたいに!
「クリエイトゴーレム!」
もこもこ。
両腕が『杭』の射出装置になっている『パイルバンカーゴーレム』を作成。
杭の長さは4m。実際に使われるのは先端から2mまでで、射出装置である腕の長さも2mなので杭の半分は装置の後ろに出ている。そういう仕様だ。
そして杭の直径は12.7㎝。何となく5インチ砲に合わせてみたかったので。重さは……わからないけど、たぶんハープーンより重い筈。先端は平らな、いわゆる『平頭』の杭。
ハープーン発射装置は捕鯨砲みたいだな、で思い出したんだが、捕鯨の際に使われている銛は先が尖ってなくて平らな平頭銛が使われている。その方が摩擦が大きくなって弾かれずに刺さり易いらしい。ハープーンが弾かれたのも、もしかしたら先が尖っているからかもしれない。
パイルバンカーゴーレムは1機だけ作成した。アーマードボアは包囲するとその囲みを突破しようとするが、相手が1機だけならどうするかな?
他のゴーレム達を下がらせてパイルバンカーゴーレムだけを奴に向かわせる。
ゆっくりと接近させると、アーマードボアは低い姿勢で前脚を大地に叩きつけながらこちらを睨んでいる。やる気だな。
「ブルァァァァ、ガァアア!」
左腕を前に伸ばして、その先端を一際大きな咆哮を上げて突進してきたアーマードボアに向ける。こいつを食らいやがれ!!
ドシュッ!!
爆発的な勢いで射出された杭の射程距離はわずか2m。その必殺の2mを、奴は横っ飛びで躱した! 初見の攻撃を躱すのか!
大きく左へ飛んで避けたアーマードボアは横からゴーレムを突き飛ばそうと向かってくる。その動きは何度も見たぞ!
左腕を跳ね上げて、その下に右腕を差し入れる。そして、左側面から間近に迫っていた奴の顔に杭の先端を突き付ける!
「くたばれ!!」
ドシュッ!!
右腕から射出された杭はアーマードボアの口から体内に侵入し、その内部を破壊しながら突き進んでいく。
「グボァア!? アアアアアァァ……」
体長の3分の2まで深く穿孔した杭の動きが止まる。目や耳から血を流し全身を激しく痙攣させながら、なおも逃れようと両脚で大地を蹴って暴れるアーマードボア。タフだな、こいつ。だがもうお前は終わっているんだよ!
上げていた左腕を引き戻して、その先端を串刺し、いや杭刺し状態になっているアーマードボアの右側頭部に突き付ける。
「お前は強かったぞ? じゃあな」
ドシュッ!!
左腕の杭が頭部を破壊する。血と脳漿と、ピンク色のあれこれを撒き散らしたアーマードボアの体内から右腕の杭を引き抜くと、力を失った灰色の体はゆっくりと崩れ落ちた。
「はぁ、……」
やっとか。強いとはいえ、たった1体の魔物にこれほど手こずるとは。俺もまだまだだな。
「やった、やりましたね! セシリア様!!」
「え? ええ」
興奮した村長が倒れたアーマードボアの傍らに佇むパイルバンカーゴーレムに向かって走っていく。
「すげぇぞ、セシリア様!」
「さすがセシリア様だ!」
「あんな強いやつを倒すなんて!」
ギリースーツを纏った村人達も次々とパイルバンカーゴーレムの元へ駆け寄っていく。え、あの……。
「皆! 我らの魔法具と皆の力、そしてセシリア様の尽力によって村の脅威は打ち倒された! ここに勝ち鬨をあげようではないか! ウォー! ウォー!! ウォー!!!」
「「「「「ウォー! ウォー!! ウォー!!!」」」」」
拳を突き上げる村人達。盛り上がっているなぁ……はっ!? 出遅れてしまった! 俺も参加しないと!
パイルバンカーゴーレムを中心にして輪になっている村人達の後ろまでゴーレムで移動して、コックピットの外に出る。
「うぉー、うぉー、うぉー!」
空へ向けて、両手の拳を突き上げてみた。幼女の声だと様にならないね。




