プラス村再び?
前にプラス村を訪れてから3か月ぐらいたっているけど、門番のじーさん達は幼女の事を覚えていてくれたようだ。不審者扱いされなくて済むぜ。
「どうも、またお会いできて嬉しいです」
「お、おう……いや、えーと、こんにちは?」「おい、お貴族様にその言葉遣いはまずいぞ!?」「お貴族様相手の言葉遣いなんて知らねぇぞ!?」「村長呼んだ方がいいんじゃないか?」「持ち場を離れるのは……」
何やら揉めだした。この二人、前回よりも良い装備を身に付けているように見えるけど、気のせいかな?
ところで一体いつから……幼女が貴族だと錯覚していた? 空を飛んできたから?
「私は貴族じゃないんで、お気遣いは無用ですよ」
「そ、そうなのか? 後ろにいるのは従者の人なんじゃ……いえ、そうなんですか?」「お貴族様じゃない? えっと、お、恐れ入ります?」
じーさん達はこんらんしている! 誰が従者だよ? リディアの事か? 違うし。それに俺が前回どういう格好で来たのか覚えていないのか? ボロいワンピースを着て裸足で歩いていたのに。そんな貴族いねーよ。
「今日は遊びに来たんですが、中に入ってもいいですか?」
「え? そ、それは……」「今はちょっと……」
二人は渋い顔で言い淀む。どうかしたのか? あやしい。
「村の中は今ちょっと危ないんだけど……」「セシリア様なら平気じゃないか?」「それもそうか。あー、でもお連れの方は……」
何か言いたげな顔でこちらを、正確にはリディア達のいる方を見ている。
「村で何が起きているんです?」
「実は今、村ではファングボアを討伐する為の厳戒態勢を敷いているんだ」
「厳戒態勢?」
「ここ数年、収穫の時期になると山から下りてきたファングボアに作物を食い荒らされていたんだが、今年は村長がお貴族様払い下げの強力な魔法具を手に入れて、その魔法具で2日前には大きいのを2体も倒したんだ!」
「ほほぅ……」
「一緒にいた小さいのは何体か逃がしてしまったが、そいつらはまた来る筈だから迎え撃つ態勢を取っている」
なるほど、事情はわかった。聞く限りでは特に危険だとは思わないけど、じーさん達からすれば「魔法使い」の幼女はともかく他の面子の安全が気に掛かるのだろう。うーむ、遊びに来るタイミングではなかったか。でもその魔法具とやらを見てみたいわ。
「連れの安全は私がいるから大丈夫ですよ? それに討伐のお手伝いをしてもいいですし」
別に、俺がファングボアを倒してしまっても構わんのだろう? 遠慮はいりませんよ?
「そうか、それなら……」「入ってもらおうか」「そうだな」
じーさん達は頷き合うと門を開けて中へ入れてくれた。
「村長達は村の一番奥の畑にいる。わかり辛いかもしれないが、行けば向こうが気付くだろう」
「わかり辛い?」
「行けばわかる」
どっちやねん。気になるが、とりあえず皆で歩く。
「だれもいないね?」「そうね」
後ろを歩いているシルヴィアとリディアの声がやけに大きく聞こえる。
村の中は上空から見た時もそうだったが、人の姿が全く無い。収穫を終えて空っぽの畑だけでなく、まだ作物残渣がある畑にも通りの道にも家屋の傍にも、どこにも誰もいない。静か過ぎて怖いくらいだ。皆襲撃に備えて家の中に籠っているのかな?
見覚えのあるリナの家の前に来た。声を掛けてみるが返事が無い。家の前の畑にもいない。どこかへ避難しているのか?
プラス村は南北方向は500mぐらいであまり大きくはないので、徒歩5分程度で村の一番奥まで到達した。
そこには平らに均された一辺が100mぐらいの大きな農地があって、その奥には村を囲う壁、じゃなくて「柵」が設置されている。その柵の一部が壊れて外が見えてしまっているが、あれはファングボアに壊されたのか? あそこから侵入してくるんじゃね?
そして農地の真ん中には「緑色の何か」が山のように積まれているのだが、あれは何?
「おお、セシリア様! ようこそいらっしゃいました!」
「え?」
唐突に声を掛けてきたのは白いシャツに茶色のズボンという、いたって普通な格好をしている40代の男。プラス村の村長だ。顔は覚えていたけど、名前はど忘れしてしまった。どうしよう? 「村長」でいいか。というかこの村長、今どこにいたんだ?
「こんにちは、村長。お久しぶりです。今日は遊びに来たんですけど、お邪魔でしたか?」
「いえいえ、とんでもない! セシリア様ならいつでも歓迎致します。ショーン達から話をお聞きになりましたか?」
「ショーン?」
「門番のショーンとブラッドです」
「ああ……ええ」
あのじーさん達ショーンとブラッドっていうのか。格好良い名前だなー。ついでに村長の名前も教えてくれないだろうか?
「討伐のお手伝いをしてもいいのですが」
「おお! それは心強いです。ですが、今回は我々だけで倒せると思っています。あれをご覧になってください!」
村長が後方を指差す。あれ? どれよ?
村長が示した先には十数本の木に囲まれた家が1軒あるのだが、それが何……? いや、その家の横に何かあるな? よく見るとそこには黒、こげ茶、緑色のシートのような物に覆われた全長5~6mぐらいの大きな台車があった。これは迷彩なのか? 後ろの木々に紛れて見難くなっている。
そして車輪が横に7個も付いているその台車の上には縦の長さが4m、横の長さが2mぐらいの深緑色の「箱」が横向きに載せられていた。
その「箱」の側面には2×6で計12個の丸い蓋のような物が並んでいる。この形状、見た事あるんですけど。これネットで見た「多連装ロケットシステム」にそっくりなんだが。いや、でもまさか、そんな筈は……。
「村長、あれは?」
「お貴族様と取引のある商会から購入した魔法具『ハープーン』です」
ハープーンって! ここ、剣と魔法の異世界なのに、まさかのミサイル兵器!? どうなっているんだよ?
「な、何だか凄く強そうな感じがしますね?」
「わかりますか? さすがですセシリア様。ええ、凄く強いですよ。こいつは村の年間予算3年分の値段がしましたが、セシリア様に触発されたので思い切って購入しました」
ぐいっと胸を張る村長。3年分……思い切り良過ぎだろ村長……待て、今何て言った? 触発?
「私、何かしましたか?」
「勿論、ファングボアを倒した事です」
意味がわからん。もう少し詳しく!
「この村ではファングボアに畑を荒らされても追い払うのが精一杯でしたが、前回セシリア様が魔法で見事倒されたのを見て、我々もいつまでもやられっぱなしではいられないと思いまして」
それはハンターギルドに討伐を依頼すればいいだけでは? 自分達で倒したいって事? それで大金払ってミサイル兵器を買ったというのか!?
「ところでセシリア様、そちらの方は?」
唖然としている俺に普通の声で問い掛けてくる村長。おい、まだ重要な話は終わってないぞ? もっと説明を!
「えっと、今シオリスの町で一緒に住んでいるリディアと、その娘のシルヴィア、クレア。仲間のエクレールとアルジェンティーナです」
「おお、そうでしたか。プラス村へようこそ。私は村長のジャレッドです」
「こんにちは」「こんにちはー」
そうそう、ジャレッドだったな。何となく覚え難い名前だわー。シルヴィアもちゃんと挨拶ができて偉いぞ……いや、そんな事よりも!
「村長、あれはミサイルなの? どうやって飛ばしている?」
まさか、火薬があるのか? この世界。
「みさいる? みさいるとは何でしょう? どうやって、というのは魔法具なので魔法の力によってですが」
何言ってんだこいつ、みたいな顔されたわ。ですよねー! 魔法に決まっているわ。何言ってるんだ俺。
しかし、魔法だとしても「爆発」するのであれば十分過ぎる程危険な……待てよ? もしかして。
「あの緑の山は?」
何かが積まれているような、高さ2m以上はある謎の山。あの山に「箱」が向けられているように見える。
「村で収穫したトウモロコシです。あれでファングボアをおびき寄せて、このハープーンで倒すのです! 既に2体倒していますし、今回も上手くいくと思います」
やはり……でも、それだと距離が近過ぎないか? あのトウモロコシの山まで50mぐらいしかないぞ。ミサイルが爆発したらこの場所も危険なんじゃ……既に使用しているのなら、安全な距離はわかっている筈。きっと大丈夫……なのか?
「操作は村長一人で? 他の村人達の姿が見えないのはどこかへ避難しているからですか?」
「私一人ではないですよ? ほら、そこにもいます」
村長が辺りを手振りで示す。え? 周囲を見渡してもそこにあるのは長閑な農村の風景のみ。誰もいないじゃん……。
「こんにちは、セシリア様」
「うぉっ!?」
すぐ近くから男の声が聞こえた! えっ、どこにいるの? もう一度辺りを見回してもわからない! 何これ怖い!?
「ここですよ、セシリア様」
ほんの2~3m先、道と畑の境目の辺りから声が聞こえてくる。よく見るとそこには全身に薄茶色や緑色、灰色の布のような物をたくさんくっつけて「ギリースーツ」みたいな恰好をした人間がいた! そいつがうごうごと蠢きながらこちらを見ているぅ!
「ひぃっ!?」
リディアが悲鳴を上げている。俺も叫びそうになったわ。こんなに近くにいるのに全く気が付かなかった!
こいつ、うつ伏せになった姿勢のまま笑顔で手を振っているのだが、白い歯だけがいやに目につく。顔にも何か茶色っぽいのを塗りたくっているし……ちょっと気合入り過ぎぃ!
「そ、村長。これは……」
「ファングボアに気付かれないように隠れていますが、ここには15人で待ち構えています」
「そんなに!?」
嘘でしょ? マジで!? え、じゃあ何で村長は一人だけ普通の格好なの?
「こんにちはー、セシリア様」「ここにもいるぞー」「久しぶりだなー!」「元気だったかー?」
すると畑の中や道の上、家の傍等あちこちから挨拶と共にうごうごと蠢く不気味な塊の姿が次々と! うへぇ……誰だよ、長閑な農村の風景とか言ったのは? 俺だよ! 全く長閑ではなかった。ここは戦場か? 村人達にとってはそうかもしれない……はっ!? こうしてはいられない!
「トーチカ!」
ぽこん。
いつもより四角い家っぽい形のトーチカを「ハープーン」から少し離れた所に作成する。村人達が気合を入れて隠れているのに、俺達が普通の格好で突っ立っていては台無しだ! 俺達も早く隠れないと!
「リディア。あの魔法具は危険かもしれないからこの中に入って」
「はい!」
シルヴィアの手を引いてすぐに中に入っていく。これで安全は確保できるな。銃眼は開いているから中は明るいし、外の様子もわかるから大丈夫だろう。
(リーダー、戦いの準備ですか? 戦いですか?)
ずっと大人しかったアルジェンティーナからわくわくしているような気持が伝わってきた。生憎だがしばらくは様子見だぞ?
(アルジェンティーナも中に入って)
(……はい)
しおしおと元気が無くなっていくアル。へにょんと耳も尻尾も垂れてしまっているが、仕方ないんやー。
あの「ハープーン」とやらの性能を見せてもらわないと、危なくて近寄れないから!
同じく大人しかったエクレールはというと……トーチカの上に登って「うつ伏せ」の姿勢になっている。いつの間に……それ、もしかして村人の真似? それで隠れているつもりなのか? 見えているぞ!
(気にしない)
……まぁいいか。じっとしていればたぶん気付かれないだろう。
俺はどうしようかな? すぐに手助けできるような態勢を取っていた方がいいか。
「クリエイトゴーレム!」
もこもこ。
密閉型コックピット付きゴーレムを作成して乗り込む。土ゴーレムは作成した場所の土と同じ色になるから、これでうつ伏せになれば何となく地面に紛れるんじゃないだろうか? 無理か。地面に穴を掘って、中に入っていよう……。
とりあえず俺達も迎撃態勢を整えたけど、これ、いつまで待っていればいいのかな? あまり長いようだったら俺だけ残ってリディア達は帰った方がいいかも? こんな事をしに来た訳じゃないし……。
村長の姿もいつの間にか見えなくなっている。どうしようかな? と思いつつ、穴からゴーレムの頭だけ出して柵の壊れている部分を眺めていると、その柵の一部が動いた。ん? 何だあれ?
「柵の一部」のようなそれはよく見たら人だった。こげ茶と黒のギリースーツを着て柵に擬態していたのか。本気過ぎる。
その柵の一部に見える村人が赤い手旗を小さく振っている。それ何の合図?
「総員、戦闘態勢!」
村長の小さな声が聞こえる。一体どこから……いた。台車の上の運転席? の窓から顔を出している。そこにいたのか村長。村長だけ普通の格好だった理由がわかった。その中にいれば外から見えないからだな。
「村長、もしかして」
「ええ、ファングボアが来ました。お静かに願います」
「了解です」
ギリースーツを纏った村人達も微動だにしない。だが静かな緊張感に満ちている。
しばらくすると壊れた柵の間からぬっ、とファングボアが姿を現した。
辺りを警戒するような仕草を見せつつも、迷う事も無くトウモロコシの山に向かって行く。全長3mほどの大きさで全部で3体。む? うち2体は見慣れた焦げ茶色のファングボアだが、1体だけ色の違うやつがいる。灰色?
3体のファングボアはトウモロコシの山に取り付くと早速ばりばりと貪るように食べ始めた。
「ハープーン発射装置」の方を見ると、箱、いや「コンテナ」が小さく動いている。「修正」はごくわずかだったらしく、すぐに動きは止まった。そして……
「ハープーン発射始め! サルボー!」
シュバッ!
村長の掛け声と共にコンテナの側面の蓋が3つ開いて、そこから「ハープーン」が撃ち出された!
ドゴン!!
一瞬で50mの距離を飛翔した「ハープーン」は見事2体のファングボアに命中! トウモロコシの山ごと、凄まじい勢いでファングボアがふっ飛ばされていく! ……ふっ飛ばされて? 爆発しないな? 不発か?
「やったぞ!」「また倒した!」「まだ1体残っているぞ!」「あの灰色のやつ、避けたんじゃないか?」「まさか?」
うごうごと蠢く村人達の声を聞く限りでは攻撃失敗ではない……? 確かに倒してはいるけれど!
転がっている2体のファングボアに深々と刺さっている「ハープーン」の後端に4枚の小さな翼が付いているのが見えた。形は本物と同じなのかもしれないが、あれではミサイルじゃなくて「銛」じゃねーか。まるで捕鯨砲のよう……。
はっ!? 「ハープーン」って、英語で「銛」という意味だけど、そうなのか? そのままの意味!? ……本当に、どうなっているのか。
ハープーンも気になるが、残った1体のファングボア。あれも気になる。というかあれ、ファングボアなのか? 「灰色」というのは、確か……。
「グルルルル、グォオオオオ!」
その「灰色」は仲間がやられた事に憤っているのか、雄叫びを上げながら低く構えた姿勢でハープーン発射装置を睨み付けている。
「もう一度だ! ハープーン発射! サルボー!!」
再び村長の掛け声が! コンテナ側面の蓋が2つ開いて「ハープーン」が撃ち出された!
シュバッ!
横に並んで高速で飛翔する2本の「ハープーン」が同時に「灰色」へと襲い掛かる!
その「ハープーン」を見た「灰色」は、横っ飛びで躱そうとしている!? 何その俊敏な動き!
ガキィン!!
「何だと!?」
弾いた!?
生き物に当たって生じたとは思えないような硬質な音が辺りに響くと、「灰色」の背中辺りに当たった筈の「ハープーン」はくるくると横に回転しながらあさっての方向へ飛んで行ってしまった! 危ねーな、あれ。
その「灰色」は……ダメージを負ったようには見えない。しっかりと両足で立っているぞ!? あんな凄まじい勢いの攻撃を弾くとは、どんだけ硬いんだよ? あるいは直前のあの動きで当たった角度が浅くなったのかもしれないが。
それはともかく、思い出したぞ! あれはファングボアなどではない、もっと危険な存在だ。そう、あいつは……。
「アーマードボア!」
あれ、獣じゃなくて魔物なんだけど。しかも強いやつ。




