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異世界で『魔法幼女』になりました  作者: 藤咲ユージ
第1章 土の中の幼女
12/122

対ドラゴン戦!

 輸送車が止まった。


「ここで迎撃する。総員降車!」


 どこからか声が聞こえた。ジュディに抱えられて車を降りる。

 いつの間にか森は途切れていて、『礫砂漠』みたいな風景になっていた。

 

 ここでドラゴンと決戦か。


 


 わらわらと降りてくるハンター達。おい、『世紀末覇者』みたいな凄いオーラを漂わせているやつがいるぞ。歴戦の猛者ってやつか。そして、もちろん世紀末雑魚もいるぞ。こいつ今日も上半身裸なんだが、まさかドラゴン戦に裸でくるとは。頭おかしい。


「なぁ、ジュディ」

「何かしら」

「弟さんが上半身裸なんだが、いいのか?」

「いいのよ。ジュガンは『身体強化』が得意だから」

「何それ?」

「魔力で体を強くするのよ」

「もう少し詳しく」

「魔力を全身に纏わせてこう、『ぎゅっ』として『ぐわっ』として『ずぎゃん』と固める感じよ」


 これはだめなやつだわ。天才肌か!


 そんな話をしているとイケメンが近付いてきた。


「やあ、セシリア。僕は今回の討伐戦の指揮をとるトーマスだ。よろしく。出発時には挨拶できなかったからね」

「こちらこそよろしく。俺はどこら辺にいればいいんだ?」

「なるべく後方に、と言いたいところだけど、ドラゴン相手に後方なんて存在しないからジュディとヘレンに任せて臨機応変に、というところだね」


 雑だな。


「作戦はあるのか?」

「最初は魔法で叩いて、後は流れで前衛達でお願いします。だよ」


 雑だな。指揮なんて必要無いんじゃないの?


「そろそろ来るわ、準備して」


 速いな、もうかよ。皆普通の顔をしているように見えるんだけど、怖くないのか?




 近接のやつらが散らばっていく。魔法使いはどこだ?

 すぐ近くにいた。赤い髪でローブを纏った女。手に杖を持っている。


「じゃあ私からいくよ!」


 杖を掲げる女。何かが接近してくる!

 飛行機のようにも見えたそれは、すぐに飛行機ではありえない咆哮を上げながら俺達の近くまで来ると、長大な翼を広げてホバリングを始めた。デカい!

 

 黒々とした鱗に覆われた体。長い首に短い四肢。まさに『ドラゴン』そのものという形。リアルで見ると恐怖しかない。こんな巨大な塊が宙に浮くのか。本当に生き物なのか? ただ見ているだけで凄まじい圧迫感! 体の芯から震えてくる。これが、ドラゴン!


「グルゥアアアア!!!」

「ファイアーボール!」


 はっ? 『ファイアーボール』? 何でだよ? そんなのが通用するのか?


ゴオォオオオオオオ!!


 はぁっ!?

 巨大な火球がドラゴンを飲み込んでいく!

 デカい! ドラゴンよりはるかにデカい! 何じゃそらぁああああ!?


ドッカアアアアアアン!!!


 凄まじい音が世界を襲う! 大気が震え、大地が揺れる!!


「グゥボワアアアア!!」

「ぐはぁあ!?」


 衝撃波に吹き飛ばされた! 大地を転がる俺! ゴロゴロゴロゴロ、ローリング! この回転はヤバい!!


HP 8/40


 ふぅおおおおおお!?


「ヒール!」


HP 40/40


 しょっぱなからこれか! 8割も持っていかれた! この戦場はヤバすぎる!!


「ちょっとぉ、治療魔法使いの子が飛ばされたわよ? ちゃんとみてないとダメじゃない」


 赤毛の火魔法使いが何か言ってやがる。お前のせいだろうが!


「悪かったわ。衝撃波であんなに簡単に飛ばされるとは思わなかったのよ」


 ジュディが近寄ってくる。何でこいつら平然と立っていられるの? ドラゴンはどうなった? まさか一発で終わり?


「ギャオオオオオ!」


 全くの無傷!? ノーダメージなのか!? あんな凄まじい火球をくらったのに!! ヤバい! こんな危険な戦場で剥き出しではいられない! すぐに何とかしないと!

 そうだ、アレだ! 俺にはアレがある!


「トーチカ!」


ぽこん。


 すぐに現れるトーチカ。すぐに中に入る。銃眼から外を見る。


「もう一発ファイアーボール!」


ドゴォオオオオオ!!


 巨大な火球がドラゴンにぶち当たる! 大気が震撼し、世界の色が変わる! 本当に何だこれ!?


 ジュディと大きな盾を持ったヘレンがトーチカに入ってきた。狼も入ってくる。お前どこにいたの? 狼の毛並みは艶々だ。俺は砂まみれなのに!


「ごめんね、セシリア」

「そんな事はいい。それよりあれは何だ?」

「あれって何かしら」

「ファイアーボールだよ! 何あの威力! 本当にファイアーボールなのか?」


フレアとかじゃないの?


「ええ、そうね。彼女はファイアーボールが大好きで、いつも全力で火球に魔力を込めているの。火球を愛しているんだって」

「全力で魔力を込めたらあんなものになるのか? もはや別物だろ。名前変えろよ」


 『煉獄の業火』とかどうだろう。


「私に言われても。彼女の愛次第じゃないかしら?」

「迷惑な愛だな」

「敵にとってはね」


 味方にとってもだよ! 8割も削りやがって。


 今度は青い髪の魔法使いが杖を振った。


「サンダー!」


ガシャァアアアアン!!


 強烈な閃光が世界を塗り替える! 目がぁあああああ!


HP 30/40


 光っただけでこれか! 


「ヒール!」


 オゾン臭が漂い、大気が帯電し続けている。ここは地獄か。ドラゴンは? 無傷!? どうなっているの!?


「サンダー!」

「サンダー!」


ガシャァアアアアン!!

ガシャァアアアアン!!


 うるせーー!! 耳がぁああああ!


HP 30/40


「ヒール!」


 魔法が飛びまくる! さらに魔法が飛ぶ!


「ファイアーボール!」

「サンダー!」

「サンダー!」

「サンダー!」


ドッカアアアアアアアアアアアンン!!!


世界の様相変わりまくり! ドラゴンは依然、健在だ!


「ジュディ!」

「何かしら」

「どうなっているんだ? まるで効いていないんじゃないのか?」

「効いているわよ?」

「とてもそうは見えないんだけど」


翼を大きく膨らますように広げながら、魔法使い達を威嚇しているドラゴン!


「十分効いているわ。あと少しよ」


本当か?


「その後は?」

「ドラゴンはMPが残り少なくなると地上に降りてくるの。そうなったら近接達の出番よ」


 あんな化け物に接近戦を挑むなんて頭どうかしてるわ。脳筋か!


「あのドラゴンはあまり動いていないでしょう? 本当ならもっと激しく飛び回って、簡単には魔法が当たらないのだけど、今回は良く当たっているわ。だからもうすぐよ」


 でも、その後長い第二ラウンドがあるんじゃね?


「魔法防御が無くなれば何とかなるわ。たとえドラゴンの鱗といえども貫けない訳じゃない。全員で囲って叩き続ければ倒せるわ」


それで何人死ぬんだ?


「その時はあなたの出番でもあるわ。近接達はぶっ飛ばされまくるでしょうから、治してあげてね」


脳筋め。




「グルルルル、グルゥオアアアアアア!!!」


 ドラゴンが大きく口を開いてブレスを放った!


シュゴオオオオオオオ! ズシャアアアアアア!!!


 大地が引き裂かれ、大爆発が起きる!!


ドガアアアアアアアアアン!!


 衝撃波が大地を覆い尽くす! 大気が揺れる!

 近接達は生きているのか? 余波だけで死ねるぞ!?


「ファイアーボール!」

「サンダー!」

「サンダー!」

「サンダー!」

「ファイアーボール!」


ドッシャアアアアアン!!


 ついにドラゴンが地上に落ちた! 近接達がわらわらと群がっていく!


「かかれ! 蹂躙しろ!」

「「「うぉおりゃああああ!」」」


 トーマスの号令の下、一斉に襲い掛かるハンター達!

 武器を振りかざし、ドラゴンに叩きつける!


「グルゥオオオオオオオオオオオオオ!」


 体をうねらせ、前脚の爪を叩きつけ、巨大な尻尾を振り回すドラゴン!


「ぐはぁあ!」

「げふぅう!」

「ごっはあ!」


ぶっ飛ばされ、叩きつけられるハンター達! 蹂躙されまくり! おい大丈夫なのか!?


「ちょっと行ってくるわね」


 そう言ってトーチカから出て行くジュディ。何その『ちょっと買い物に行ってくるわね』みたいなノリ。しかもあいつ、ギルドの受付嬢の制服から着替えてないじゃん。


「ジュディもヘレンも着換えなくていいの? 防具とかは?」


 ヘレンも盾こそ持ってはいるが、格好は受付嬢のままだし。


「この制服は防御力が高いのよぅ」

「マジで?」

「本当よぅ」


 そんな風には見えないけど、異世界ならありなのか。



 

 過酷な戦場で飛びまくるハンター達。見ろ! 人がゴミのようだ!

 あいつら死んでいるんじゃないの? ヒールの出番はあるのか?


 ジュディが何か抱えて戻ってきた。


ドサッ。


「治してあげてね」


 そう言ってまたどこかへ行くジュディ。


「こ、これは……」


 ジュディが落としていったのは人、だよな? 『雑巾絞っておきました』みたいに捩れているんだけど。人は捩れない筈だけど。

 腕も足も捩れている。こいつもう絶対死んでいるだろう? 体が震えてくる。初めての『人の死』に動揺する俺。


「まだ生きているわよぅ」


 ヘレンが何か言っている。


「どうしろと……エクスヒールか? エクス『ちょっと待ってぇ』何だよ?」


 邪魔するなよ。


ぐいっ。ぼきゅぼきゅ、べきべき。


 ヘレンが雑な手つきで何かしている。人の体であれば、こんな音はしてはいけないのでは? 何やってるの?


 ぐにぐにっ。ぐにっ。


 人の体になりつつある……マジか。


ごきゅごきゅ。ぐはっ! 


 血を吐く『男』。これが奇跡か? こんな雑な作業で!


「これでいいわぁ。ヒールをかけてぇ」

「……いいのか?」


 『普通の重傷者』の形にはなったが、これ、ヒールで足りるのか?


「MPは節約しないとぉ。ヒールで十分よぉ」


 本当かヘレン。知らないぞヘレン。お前が責任取れよ?


「ヒール!」


ぽやん。


 男の体がぼんやり光る。治った。どうなっているんだよ?


「はっ!? 俺は一体何を!?」

 

 男が目を覚ます。お前はボロ雑巾になっていたんだよ。『ボロ雑巾のように』じゃなくてな。


「ドラゴンにぶっ飛ばされたんだよ」

「お前が治してくれたのか。ありがとう」


 戦場に復帰していく男。本当に、どうかしてるわ。


「あいつ手ぶらで戻って行ったぞ?」

「どこかで武器を拾うんじゃなぁい?」


 適当だな、ヘレン。


 次々と重傷者を運んでくるジュディ。次々と治す俺。

 きりがないわ。MPだって無限にある訳じゃないんだぞ?


ドサッ。


 今度の男は首が曲がってはいけない方向に曲がっていた。これはさすがにダメだろう。お気の毒に。


ぐいっ。


 ヘレンが首をまっすぐに直す。遺体を綺麗にしてやっているのか? いいとこあるじゃないか。


「まだ生きているわぁ。ヒールでいいわよぅ」


 ありえないだろ。この世界の人間は死なないのか?


「早く治さないと死んじゃうわよぅ? ヒールをかけてぇ」


 そんな『練乳かけてぇ』みたいな。


「……ヒール!」


「はっ!? 俺は一体何を!?」


 ありえないだろ。この世界は間違っている。


 さっさと戦場に復帰していく男。


「なぁ、ヘレン」

「なぁにぃ?」

「なぜあいつらはあんなに頑丈なんだ? あれがこの世界では当たり前なのか?」

「彼らはみんな、身体強化を使っているのよぅ」

「身体強化って、何なんだよ?」

「魔力で体を強化するのよぅ」


 強化できてないじゃん。首折れてたじゃん。


「魔力で命を繋いでいるのよぅ」

「それは、誰にでもできる事なのか?」


 俺にもできるかな?


「できる人が、ハンターになるのよぅ」




ドカッ!


「ぐはっ!」


 またぶっ飛ばされてる。暴れまくるドラゴン。元気一杯だわ。

 特に尻尾が厄介だ。うねりまくりで振り回しまくり。何人もぶっ飛ばされている。それでも果敢に戦い続けるハンター達。

 

「グルゥウオアラァアアア!」

「がはっ!」

「ごはっっ!」


 横に回転するような動きでハンター達をふき飛ばすドラゴン。少しはあいつの動きを止めないと、ヤバいんじゃないか?

 

 こっちもMPが残り少なくなってるし、そろそろ終わって欲しいんだけど。もう慣れたのか、単に麻痺しただけかもしれないけど、ドラゴンに対して抱いた恐れの感情もだいぶ薄らいでいる。俺も攻撃してやろうかと思えるくらいだ。


 ……今、ドラゴンの近くにハンター達はいない。やるか?


「アースランス!」


ドガッ!


「ギュォッ?」


 ドラゴンの足の裏に土槍が突き刺さる! やったか?


ズボッ!


 すぐに抜ける。ダメだ、長さが足りない!


「ギュオッ!」


 ドラゴンが俺を見る! この距離で分かるのか!? こっち見んな! もっと長さを!

 1mを3本ではなく、1本を3mに!


「アースランス!!!」


ドガッッ!!!


「グゥオオオオオオオオオッ!!」


 やった! 前脚に突き刺さる長い土槍がやつを釘付けに!


「ギャオゥオオオオオ! ギュアアアア!」


 もがきながら足を土槍から引き抜こうとするドラゴン! そうはさせんよ!!


「「「アースランス!!!」」」


 10本の土槍をドラゴンの下側、前脚から胸、下腹から尻尾にかけて突き立てる!

 逃がしはしない!


「ギャアアアアアア!!!」


 絶叫を上げるドラゴン! 動きが止まった!


「今だ! 叩き込め! 蹂躙しろ!!」


 トーマスが絶叫する! 野郎共が飛びかかる!


「オラァアア!」

「死にさらせぇえええ!」

「堕ちろぉおおお!」


 チンピラか!

 近接達が剣を振り下ろし、槍で穿ち、斧を叩きつける! フルボッコだ!

 鱗が飛び散り、体表が抉られる! ドラゴンの体が血に塗れていく!


「ギャアアアアア! ガァアアアアア!」


 土槍に串刺しにされた状態でなおも暴れ続けるドラゴン!

 逃げようとしているが土槍から抜け出す事ができない!


 ハンター達の総攻撃を受けて悲鳴を上げ続けるドラゴンの動きは、やがて小さくなり、ビクビクと痙攣し始める。


「とどめだ! 必殺!! シャイニングスラッシュ!!!」

「ガァアアアアアアアアア!!」


 『槍使い』が長大な槍をドラゴンの目に突き入れた!

 下側から斜め上へと、深く突き刺さった槍の先端が頭の上にまで飛び出している! 凄いな槍使い! 


 だが槍使いよ、『スラッシュ』って切り裂くという意味じゃなかったか?

 今のは突きだろう? しかも輝いてないし。どこが『シャイニング』?


 もっと英語を勉強しろよ。勢いで名前をつけているんじゃないか?




 ドラゴンは倒された!!!

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