開拓地で貴族と遊ぶ?
土魔法で作った遊具の耐久力についてちょっと聞きに来ただけの筈が、何だか変な雰囲気に。
クローディアもアシュリーも(そしてミラも)態度が、何と言うか、畏まっているような? 違うか。適切な言葉が思いつかないんだけど、とにかく居心地が悪い!
「もしかして、2人はミラを知っているの? ミラは魔法学院で学んだ事があるそうだけど」
「ええ、知っていますわ」
「えっ……」
クローディアの返事を聞いて更に顔色が悪くなるミラ。そろそろヤバいレベル。
「何か、学院時代にトラブルでも?」
両者の間に何か遺恨でもあったのだろうか。
「いいえ? 何もありませんわ。面識もないですし……なぜそのような事をお聞きになられるのでしょう?」
それはお前達の態度がちょっと冷たい感じになっているからなんだけど……貴族が平民の前でとる態度としては普通なのか? でも知ってはいるんだよな。
「ミラの事を知っているって……」
「魔法学院には毎年多くの平民の子が入学しますが、そのうち二年生に進級できるものはごく一部です。なので進級できた子の事は知っていますわ」
つまり、ミラは進級できたから知られていたのか。有名だったのかな? 別におかしな話ではなかった。
ではミラの態度は単に平民が貴族の前で委縮している、というだけ?
クローディアもアシュリーも普通にお茶を飲んでいる。うーむ、気のせい……か?
俺もお茶を飲もう。ぐびり。今日のお茶も美味しいな。
「ミラもお茶を飲んだら? 美味しいよ?」
「は、はい」
顔色の悪さは変わらないが、意外なほど優雅な所作でお茶を飲むミラ。ミラには後で2人のいない所で話を聞くとして、まずは無難な話から……。
「えーと、2人は今日は何をしていたんですか?」
「本日は湖周辺の整備をして、取水口と水門の設置を完了しました」
きびきびと答えるアシュリー。昨日湖の手前まで作った水路の先にもう水門を設置したらしい。仕事が早いな。
「するとさっきは湖からここまで来てくれたんですか? 仕事中に時間を取らせてしまってすみません」
ここから湖まで10㎞近くあるのにわざわざお出迎えとは……魔石獣に乗ればすぐの距離か。
「今日の作業は全て終了しましたから、時間を気にされる必要はありませんわ」
にっこりと微笑むクローディア。本当に終わったのだろうか? 何となくまた気を遣われているような気がする……さっさと本題に入った方がいいかな。
「では、質問していいですか?」
「えぇ、何なりとお尋ねになってくださいませ」
土魔法で作った遊具の耐久性がわからないという話をすると2人とも微妙な表情になった。
「耐久性は作成した物の大きさや構造にもよりますが、基本的にはどれだけ魔力を込めたかによって決まるのですが……」
「今までは魔法で作った物は用が済み次第全て解除していたので、実際にどれぐらいもつのか確認した事がないんです」
「……その『遊具』を見せていただけますか? 直接調べます」
アシュリーが請け負ってくれたので早速ワイド滑り台を作る。
もこもこ。
「これが子供用の遊具ですの? どうやって遊ぶのでしょう?」
「えーと」
クローディアが興味津々といった顔でワイド滑り台を見ている。遊び方か。ミラに頼もうかなと思ったが、そのミラはというと……どこを見ているのかよくわからない目をしながら固まってしまっている……ダメだこりゃ。仕方ない、俺がやろう。
ワイド滑り台の階段を上って、上から滑り降りる。すいー。
「こんな感じです」
「まぁ! 興味深いですわ。わたくしもよろしいでしょうか?」
「え? ええ」
クローディアがいそいそと階段を上って、両足を揃えて滑り降りる。すいー。
「面白いですわ! もう一度滑ってもいいですか?」
「何度でもどうぞ」
にこにこ顔で階段を上るクローディア。気に入ったらしい。
「わたくしはこういったものを初めて見たのですが、これはセシリア様が考案されたのですか?」
「えーと」
真剣な顔のアシュリーに聞かれたけど、何て答えればいいんだ?
「アシュリーも遊んでみるといいですわ!」
「えっ? ……わかりました」
滑り降りてきたクローディアに腕を掴まれて真面目な顔で階段を上っていくアシュリー。そして2人揃って滑る。すいー。
「愉快ではなくて? アシュリー」
「ええ、そうですね。特に『魔力を全く使わない』というところが子供向けとして良いと思います」
滑り台を滑ってそんな感想か。技官だから? でもクローディアも技官だったような。
「わたくしが子供の時にもこんな遊具があればよかったですわ」
「貴族の子はどんな遊びをしているのですか?」
「魔力を流して操作する遊び道具を使うのが一般的ですが、遊びというよりは魔力操作の練習といった側面の方が強いです」
「なるほど……」
英才教育みたいなやつかな?
アシュリーがワイド滑り台を調べ始めたので他の遊具も作っていこう。ブランコとシーソー、回転型ジャングルジム。
「まぁ! 不思議なものばかりですわ!」
目を輝かせたクローディアに「遊び方」を聞かれてお手本を見せる俺。すぐに遊びだすクローディア。
特にブランコが気に入ったらしく結構な勢いで漕いでいる。
「うふふ、楽しいですわ!」
「それはよかった」
ふむ、動きを見る限りクローディアは身体能力が高そうだな。ならばより高度な遊び方を教えてもいいんじゃないか?
「クローディア。こういう遊び方もあるよ」
座板の上に立って、立ち乗りから勢いをつけて前方へジャンプ! 3mほど飛んで着地に成功。どや?
「ではわたくしも!」
豪快な立ち漕ぎで勢いをつけるクローディア。鎖がギシギシとイヤな音を立てている! ほとんど水平になるぐらいって、ちょっ、お前、やり過ぎじゃあ……。
「えいっ!」
縦ロールをふわりと靡かせながら宙を舞う。掛け声は可愛らしいが飛んでいる距離が尋常じゃない! 7~8mぐらい? めっちゃ飛んでる……初めての筈なのに!
「素敵ですわね、セシリア様!」
華麗に着地したクローディアがすごくイイ笑顔! 楽しんでいただけたようで何よりですわ……飛び比べをするつもりだったのだが、無理だな、これ。
「セシリア様。よろしいでしょうか? 調べ終わりました」
「あ、はい」
アシュリーに呼ばれてワイド滑り台に戻る。クローディアは……また立ち乗りしている。更に飛距離を伸ばす気か?
「こちらの遊具ですが、耐久力は最低でも3カ月、実際は半年程度はもつと思われます」
「結構長いですね」
「構造が単純ですし、あまり強度を必要としていないようなので」
「なるほど」
それなら3カ月毎に作り直せばいいか。魔力の注ぎ方なんてわからないし。
他の遊具も調べてもらったが、大体同じぐらいだった。
ついでに耐久力の調べ方も聞いてみた。対象に魔力を通して、その魔力の通り難さの手応え、反発力? みたいなものを感じ取るらしい。ミラとヴィヴィがリズの体にやっていたのと同じか? あれは魔力障害だったけど……どっちにしろ、俺にはわからないな。
まぁいい、これで用事は済んだ。
(エクレール隊員、応答せよ。エクレール? もう帰るよー)
(…………了解)
返事が来るまでに少し時間が掛かっている。どこまで遊びに行っているんだ?
「セシリア様。この遊具というものは他にもあるのですか?」
「うわっ!?」
すぐ近くにクローディアがいた。いつの間に……しゃがみ込んだ姿勢で頬をバラ色に染めつつキラキラとした目でこちらを見ている。これは、期待されている!? あるといえばあるけど、面白いかなー?
「登り棒」「雲梯」「ロープウェイ」を作成。土魔法ではロープは作れないので「レール」ウェイになるけど。
子供が遊ぶにはちょっと危険かもしれないが、クローディアは大人だから大丈夫だろう。
「あら? この2つは見覚えありますわ。子供の頃体力作りの為にやらされましたの」
この世界では登り棒と雲梯は遊具ではなくトレーニング器具として存在しているらしい。
「これはどうやって遊ぶのでしょう?」
ロープウェイ(という名のレールウェイ)の長さは20m。半分の10mに傾斜を付けて残り半分は水平にしたので一方通行になるが、それは仕方ない。
水平部分の端っこで止まっている滑車を高い位置まで引っ張っていって、おもむろにぶら下がる。するするするー。
滑らかに走る滑車と幼女。
「まぁ! なんて愉快な動きなんでしょう!」
ぶら下がっている幼女を見て両手を合わせて喜ぶクローディア。そして後ろを走って追い掛けてくる。子供か。
「是非わたくしも!」
「えぇ……どうぞ」
自分で滑車をスタート位置まで引っ張っていくと、説明するまでもなくぶら下がってするするするーと滑ってくる。「うはー!」みたいな、満面の笑みだ。
「これは画期的ですわ!」
「本当はロープを使いたいんだけど、土魔法では作れないので……」
「ロープならあります」
「うわっ!?」
すぐ後ろから声を掛けられた。振り返ると真後ろでアシュリーがしゃがみ込んでいる。距離が近い! 気配も無く俺の後ろに回り込むなよ。暗殺者か? びっくりするだろ!
するすると「収納」からロープを取り出すアシュリー。長い……そしてなぜロープを持っているのか。
作ったばかりのレールウェイだが一旦解除。アシュリーに手伝ってもらってロープを張った本来の「ロープウェイ」に作り直す。
レールウェイは短い命だったな……。
「こちらの方が両方から遊べていいですわ!」
新しいロープウェイにクローディアもご満悦。繰り返し何度も遊んでいる。一方でアシュリーは何か考え込んでいるご様子。
「セシリア様。これらの遊具ですが、販売の許可を頂けませんか? 勿論権利使用料は十分な額をご用意いたします」
販売?
「アシュリー。魔法で作る物に権利使用料なんて取れるの?」
「いえ、魔法ではなく木材やコンクリート等で工房に作らせて販売します。魔法は基本的には『魔法でしか作れない物』に使用するものですし、遊具は魔法でなくても作成可能でしょう」
そういえばそうだった。魔力を節約する為、だったな。なら商売としては成立する……のか?
「魔力を使用しないで遊べるこの遊具は子供向けとして需要が大きいと思われます。是非、ご一考ください」
これも一種の知識チートかな?
「子供の遊び方が増えるのはいい事ですね。具体的にはどういった感じに?」
「詳細は後日改めてお時間を頂いた上で決めたいと存じます」
「そうですか……アシュリーと直接連絡を取る方法はありますか? 今日こちらに連絡を取ろうとしたらずいぶん時間が掛かるみたいな話だったので」
「それでしたら……」
アシュリーが「収納」からネックレスのような物を取り出した。これは……通話の魔道具? 胸元から同じ魔道具を引っ張り出して青色の魔石の部分をくっつけた後何か操作をしている。
「この通話の魔道具でわたくしと直接会話できます。使用方法はご存じですか?」
「ええ、同じ物を持ってます」
「では……」「わたくしも設定いたしますわ!」
ロープウェイで遊んでいたクローディアがすっ飛んできて、アシュリーから魔道具を受け取ると同じような操作をしている。あれが設定なのか。
「お付けしますわ」「御髪に触れる許可をくださいませ」
「え? あ、はい」
すっと後ろに回り込んだアシュリーがそっと髪を持ち上げてクローディアが通話の魔道具を首に付けてくれた。ふと視線を感じた方を見ると、ミラが大きく目を見張ってこちらを見ている。ちゃうねん、自分でつけられるよ? こいつらが子供扱いしているだけだから! 子供だけど!
「わたくしも遊具を試してみたいです。よろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
アシュリーは話がついて満足したらしく、ブランコに近付いて座板に乗るとゆっくりと漕ぎ始めた。うっすらと笑みを浮かべている……アシュリーも遊びたかったんだな。
「楽しかったですわ、セシリア様。ありがとうございます!」「お気を付けてお帰りくださいませ。またのお越しをお待ちしております」
にこやかに手を振る美少女と美女に見送られて開拓地を後にする。結局ミラは開拓地にいる間ほとんど喋らなかった。Tu-95の機内に入った今も床に正座? みたいな恰好で俯いているし。
「ミラ? もう貴族はいないんだから楽にしたら?」
「……せっ、セシリア様は高位貴族の方ですか?」
何言ってんだこいつ。
「違うし。平民だよ?」
「で、でも……」
「『貴族』は魔法学院を卒業した人の事でしょう? 私は違うし」
「で、では高位貴族に縁のあるお方ですか?」
「なぜそう思ったの?」
「そ、それは……」
顔を下に向けたまま、ぼそぼそと喋るミラ。貴族達の態度、特にクローディアという「中級貴族」の幼女に対する接し方が平民相手ではあり得ないもの、だったらしい。
「2人の態度が丁寧だったのは、私が開拓事業の主体者で作業の間は私が上役だから、という事らしいよ? そう言ってた」
「えっと、じゃあセシリア様は貴族とは関係が無い?」
「そうだよ。後、普通にせっしーでいいから」
こいつにセシリア様と呼ばれるのは何だか落ち着かないわ。
「そうなんだー、よかったー。はぁ……」
くたり、と床に寝そべってぐねぐねと動くミラ。まるで軟体動物のよう。どんだけ固くなっていたんだよ。
しかし、「よかった」という割には表情が冴えない。
「まだ何か問題が?」
「まだっていうか、これからなんだよねー」
「何が?」
「何とかしないと、きっと私は破滅なんだよー」
おい、何か不穏な事を言い出したぞ。




