ミラといっしょ 2
「許可を取ってくる」そう言ってどこかへ走っていったミラはすぐに戻ってきた。背中に人を乗せて。
……もしかして、「許可を出せる人」を直接連れてきたのか?
ワイド滑り台の前でミラの背中から降りたその人物は濃いグレーの制服っぽい服を着た女性……アシュリーが着ていた服に似ているな。まさか、貴族?
「じゃーん! これがせっしーが作った遊び道具だよ! 凄いでしょー? 遊び方はね、ここから登って……」
ミラがその女性に対してなぜか得意げに説明をし始めている。こっちにも説明してくれないだろうか? それは誰なんだよ?
「ミラ?」
声を掛けるとミラがその女性の手を引っ張りながらこっちへやってきた。
「この子がせっしーだよ!」
違う、先にその女性を紹介してくれ。
「こんにちは。セシリアです」
「……私はジルよ」
40歳前後かな? 何だか学校の先生みたいな雰囲気がある。そして……ミラを睨み付けているぞ!?
「ミラ? この子が『魔法使い』だというの? まだ子供じゃない!」
「本当だよー!」
「……あなたがこれらの物を作ったというの? 魔法で?」
ジルと名乗った女性は公園内を見回した後、疑わし気な目でこちらを見下ろしてくる。
「ええ、まぁ」
「小さな子供が魔法を使えるという話は聞いた事が無いのだけど、なぜ使えるの?」
「なぜと言われましても……単に使える、としか」
「ふぅん?」
本当かよ? みたいな顔してますわ。本来ならこういう反応の方が普通なんだろうな……ところで、ジルさんは何者なのかしら?
「えーと、あなたは貴族の方ですか?」
「いいえ? ……なぜ、そう思ったの?」
「あなたの着ている服が貴族の人の服に似ていたので」
でも近くで見たら細部の装飾も無いし、布の質も違う。全体的にシンプルで地味な感じ。デザインを真似しただけかな?
「では、あなたはどういった立場の方ですか?」
「私は建設局の局長補佐よ。今は局長が不在だから局長代理をしているわ」
局長代理!? 局長代理って、かなり「上」の人なんじゃね?
「そんな偉い人がなぜここへ? まさか、ミラに無理矢理連れてこられたのでは……」
「違うわ。この『一時避難所』は建設局の管轄なの」
彼女の話によるとミラとは前から知り合いで、役場の受付でミラが「よくわからない」話をして担当者を困らせている所にたまたま通りかかった局長代理が代わりに話を聞いてもやはりよくわからなかったので、直接見に来たのだという。
「その担当者が来ればよかったのでは?」
「普通はそうだけど、彼女が私の知らない魔法使いの話をしていたから、会ってみようと思って」
「そうですか」
そして今、その「魔法使い」をじろじろ見ている、と。
ついでに服について聞いてみたら、町役人の中でも地位の高い人は代官(領主から町の管理を任されている貴族)から制服を与えられるのだが、その服のデザインは城の文官や技官、つまり貴族の制服を簡略化したものだという話だった。
なるほど、確かに両者の服のデザインには「ガンダム」と「ジム」のような違いを感じる。勿論、貴族の方がガンダムだ。
そのジム、違った、ジルは公園内の遊具を一つ一つ見て回っている。俺も一緒について回る。
「えっと、勝手に遊具を設置してすみません」
「それは別に構わないわ」
とりあえず謝ってみたが、あっさりとした反応だな。許可はいらないらしい。ミラが言ってた通りだった。
子供達はジルから「お偉いさん」の雰囲気を感じ取ったのか、遊ぶのを止めて不安げな表情を浮かべている。使い方を見たいというジルの指示でまた動き始めるが、表情が硬い! 全然楽しそうじゃないわ。
「『遊具』の意味はわかったわ。『あれ』以外は特に問題は無いわね」
「『あれ』というと?」
「『あれ』よ」
そう言ってジルが指差したのは「ワイド滑り台」。
「他の遊具はたいして場所を取っていないから常設でも構わないけど、『あれ』は場所を取り過ぎているわね」
ですよねー。ワイド滑り台は幅だけで10mもあるからな……でも見たところ子供達に一番人気だし、何とか残したい。
ふーむ……占有面積を減らせばいいのか。滑り台の幅を半分に……5mではワイドな感じがしないな。7.5mにしよう。そして「滑り面だけ」にして、その下側を無くしてしまえば下の空間を半分ぐらいは有効活用できるのではないだろうか。滑り面の厚さは15㎝ぐらいでいいかな? 土魔法の強度ならいける筈だ。よし、試してみよう。
遊んでいる子供達にワイド滑り台から降りてもらい、一旦「解除」する。滑り台が消えてざわつく子供達。まぁ待て、すぐに作り直すから。
もこもこ。
滑り面と階段だけの滑り台ができた。必要な物だけで構成された無駄の無いその形は研ぎ澄まされた機能美のようなものを感じる。何だか格好良いぞ!
まずは強度の確認だ。土ゴーレムを10体作成して滑り台の上に登らせる……びくともしない。大丈夫そうだな。
次に土ゴーレム達を順番に滑らせていく。すいー、すいー。ゴーレムが滑り降りる姿はなかなか笑えるものがあるな。俺も一緒に滑りたいわ。うむ、良さそうだ。(たぶん)人よりずっと重いゴーレムが10体乗っても大丈夫なら問題無いだろう。
ゴーレム達が滑っているのを見て、数人の子供が近付いてゴーレムにさわったり、一緒に滑ったりしている。物怖じしない子達だな。
ついでに他の遊具も念の為強度確認をしておこう。ゴーレムをブランコに乗せたりジャングルジムに登らせていたら、それを見た子供達も一緒に遊びだした。表情も柔らかくなっている。うむ。
「作り直してみたんですけど、どうですか?」
ジルに確認を取る。改良前と比べるとワイド滑り台の占有面積は3分の1ぐらいになっているから悪くない筈だ。
「……本当に魔法が使えたのね」
そっちかい。いや、この新しい滑り台を評価してほしいんですけど。
「この遊具も常設にしていいですか?」
「大きさはこれで構わないけど、常設に関しては耐久力の確認が必要ね。どうなのかしら?」
耐久力? 今、目の前でデモンストレーションをしたのに?
「土ゴーレムが10体乗っても大丈夫な強度がありますよ?」
10体では足りなかったか? 100体乗せた方がよかったかな? 物置みたいに!
「強度ではなくて、耐久力よ。この遊具はどれぐらい持つの?」
「え? えっと……」
そっちかー……土魔法で作った物は用が済み次第解除していて長期間使用しているという物が無いから、どれぐらい持つのか知らないんだよな。
家の庭に作ったゴールも何回か場所を移動させたり、作り直したりしてるし、前にハンターギルドに渡した武器も遊具とは大きさが違うからたぶん参考にはならないだろう……ヤバい、答えられないわ。
「魔法で作った物は魔力を注げば長期間持つという事は知っているけど、『魔力を注がない』場合を知っておきたいの。子供が遊んでいる時に突然壊れたら危険だもの。期間を把握しておきたいわ」
「ええ、そうですね……」
「あなたが定期的に魔力を注いで管理に万全を期すというのであれば問題無いけど、そういう理解でいいのかしら?」
「えっと……」
俺の場合、魔力の注ぎ方がわからなくても新しく作り直せばいいだけなんだが、それでは答えにはならないよな。管理に万全を期すというのも、ずっと町にいるとは限らないし……。
「今日作ったこの『遊具』は何日ぐらい持つのかしら?」
「えっと、わかりません」
仕方ないので正直に答えた。
「わからない? なぜ?」
怪訝そうな顔のジル。
「まさか、秘密にしなければならないの?」
「いえ、単に知らないというだけなんです」
「……」
しょうがないんや……。
「どれぐらい持つのか、いつ壊れるのかわからないという物に常設の許可は出せないわ」
ジルの表情が険しくなっている。ですよねー……どうしよう?
「ミラはわかる?」
これまで黙っていたミラに聞いてみる。
「ごめーん。私、土魔法は全然ダメでさー。よくわからないのー」
ずっと静かだったのは自分にはわからない話だったから、らしい。
「自分の魔法で作った物の耐久力がわからないというのはおかしいのでは?」
「ええ、そうですね……」
ジルから当然の突っ込みが。マジどうしよう? 諦める?
ふと子供達の方を見てみると、こちらを気にしなくなったようで皆普通に遊んでいる。きゃーきゃー楽しそうだ……もうちょっと粘ろう。
「わかる人に聞いてみます」
アシュリーならわかるかもしれない。何でも聞いてくださいって言ってたし、たぶん教えてくれる……といいな。
胸元から通話の魔道具を取り出してまずはジュディに連絡する。
(もしもし、ジュディさん、応答願います。どーぞー)
しばらく待ったが返事が無い。おや?
(もしもしもしもし、地球の裏側のジュディさーーん! 聞こえますかー!?)
(……今、忙しいの。急用でなければ後にしてくれないかしら)
おおう……いつにない不機嫌な声。そんなに忙しいの? ボケにも突っ込んでくれないし。
(急用じゃないけど、アシュリーに連絡を取りたい。ジュディに頼めばいいの?)
(……ギルドから直接連絡する事はできないわ。一度城の文官に要望を伝えて、その文官から貴族に連絡が行くという手順になるの)
(それ、どれくらい時間かかるの?)
(通常だと半日ぐらいかしら)
連絡を取るというだけでそんなにかかるのか。お役所仕事ってやつ?
(アシュリーが今どこにいるか知ってる?)
(開拓地にいる筈よ)
泊まり込みしてるのか? なら直接行った方が早いわ。
(手続きする?)
(あー、別の方法にするわ。ありがとう)
(そう)
あっさりと切れた。忙しそうだねー。
「もうわかったのー?」
通話の魔道具から手を離したらすぐにミラが聞いてきた。まだですよー?
「ちょっと開拓地に行って聞いてくる」
「え? 今から?」
「そう、今から」
今日はいるとしても、明日以降はわからないからな。仕事中かもしれんが、とりあえず会いに行こう。
「私も一緒に行っていい? 開拓地見たいし、なんなら私が背中に乗せて運んであげるよー?」
「結構です」
それって時速130㎞(推定)で走るやつだろう? ミラの背中に乗せられてその速度で2時間も走られたら、幼女の体がどうにかなってしまいそう! ヒールが何回必要になるかわからないわ。
「時間が掛かるようなら、私は一旦戻らせてもらうわ。わかったら役場に来て」
「あっ、はい」
ジルはスタスタと歩いて公園から出ていった。ミラよ、送らなくていいのか?
「あの、どうなったんですか?」
ジルが帰るとすぐに子供が何人か駆け寄ってきて、そのうちの年嵩の子が心配そうな顔で聞いてきた。
「大丈夫だよ。そのまま遊んでいればいいから!」
「そうなの?」
「そうなの!」
自信たっぷりに言い切るミラ。「遊んでいればいい」は間違ってはいないが、まだ大丈夫じゃないんだけど。あえて指摘はしない。
「せっしーはどうやって行くつもりなの?」
「飛んでいく」
「えっ?」
V-22型飛行ゴーレムなら開拓地まで片道30分だが、幼女の魔力量ではその片道分ぐらいにしかならないし、それに今は魔力の回復の為に休んでいるという建前なのだから、どっちにしろ誰かに代わりに飛ばしてもらう必要がある。
……ふむ、最初から自分で飛ばさないという前提であれば、もっと高性能な機体を採用してもいいのではないだろうか? V-22より高速のプロペラ機……例えば「Tu-95」のような。
昔、「プロペラ機 世界最速」で検索したら一番上に出てきたのがTu-95だった。
「最速」が戦闘機ではなく爆撃機だというのは意外だったけど、でも恰好良い形をしていてTu-95のプラモデル買っちゃおうかな? って思ったんだよな。結局買わなかったけど。
だが今なら魔法で、しかも実物大で作る事ができる! 本物と同じ性能が出せるのなら、最高速度は時速925㎞。開拓地まで単純計算で……17分ぐらい?
幼女の魔力では無理でも、エクレール達なら問題無いだろう。ふふふ、これは楽しみだ!
さてと。全員で行く必要は無いが、誰に頼もうかな? シュバルツとノワールはいつも通り遊んでいるだろうし、エクレールに頼むか。まだ昼寝しているかな?
(エクレール隊員応答せよ。まだ寝てる?)
(起きている)
すぐに返事が来た。きっと暇を持て余しているのだろう。
(試作ゴーレムのテストと開拓地まで行くのを手伝ってほしい)
(わかった)
合わせてTu-95のイメージを送ってみたら、「興味津々」みたいな雰囲気が伝わってきた。エクレールも好きだねー、飛行型ゴーレム。
町中では狭くてテストできないので、エクレールとは東門の外で待ち合わせする。
「クリエイトゴーレム!」
もこもこ。
MK-Ⅲを作成して、いざ出発……。
「何これー!? 今までと形が違うね? 大きい! あっ!? 乗るところがあるよ!?」
MK-Ⅲを作成したらすぐにミラが周りをうろうろし始めて、コックピットに気付くと騒ぎ出した。
「これは飛行型ゴーレム」
「飛行? 空を飛ぶの? それって魔石獣だよね?」
「まぁ、似たような物かな」
「私も連れて行ってー!」
ミラがしがみついてきた。
「まぁ、いいけど」
「ありがとう!」
では出発ー。




