魔法使い2人 2
ドラゴン討伐戦に参加したハンター達に分配金が既に支払われているという衝撃の事実! 聞いてないんですけど? 俺の分は!?
あの壮絶なドラゴン戦はまだ記憶に新しいところだが、実際の時間としてはあれから2か月、いや、3か月近く経過している。
ドラゴンを解体して売って現金化するまで2か月くらいかかると言っていたから、もう支払いが始まっていてもおかしくはないが、俺には支払いどころか何の連絡も無いっておかしくね?
「それって、いつの話? (震え声)」
「ん? お金を貰った事? 今朝だよ」
そうか、それならこれから連絡がくるのかも。落ち着くんだ俺。心穏やかに待とうではないか。どれぐらい貰えるんだったっけ? えーと、確か旧制服代の半額分だったから金貨150枚……あれ? そんなものか? 今となっては少ない額に思えてくるな。あの後、億単位で稼いでいるし。うーむ、1500万が大した額ではないかのように思えてしまう日がこようとは。
「ミラはいくら貰えたの?」
「じゃーん! 何と、金貨1500枚だよ!」
胸を張って得意げなミラ。幼女並みに平べったい胸だな……それはともかく、1億5000万! 高額だな。でもこの子はたぶんドラゴン討伐において最も貢献度が高いうちの1人だろうから、納得の金額ではあるが。
俺の場合は、うーん……最後にドラゴンに土槍をぶち込んだ件はあまり評価されなかったようだが、怪我人を治しまくったのは大きな貢献の筈だ。一応命懸けだったんだし、金貨150枚に多少上乗せしてくれてもよさそうな気がする。ぜひとも高く評価してもらいたい!
「なので、セシリアに負けないように今回は金貨150……違った、300! ううん、375枚! 寄付します!」
「おぉー。パチパチ」
どうよ? みたいな顔をしていたから拍手してあげたけど、中途半端な数字だな? 4分の1って事? それにさっきからミラが謎の対抗心を見せている件について、そろそろ説明して欲しいわ。
そんな思いを込めてちらり、とヴィヴィの方を見ると、
「私も1500枚よ」
ヴィヴィも受け取った額を教えてくれた。いや、聞きたかった事はそれじゃないんだが、残念ながら思いは伝わらなかった模様。というか、やはりヴィヴィも参加していたのか。
「セシリアは東の施設にも寄付をするの?」
唐突だな、ヴィヴィ。東? あぁ、
「もう1か所あったね。じゃあそうしようかな」
施設は2つあるんだったな。そちらにも肉を寄付しよう。
「気前がいいのね」
「そう? 狩りの獲物だからお金はかかってないんだけど」
「あの大きさなら売れば金貨50枚ぐらいにはなるでしょう?」
「え? そんなに?」
金貨50枚!? 蟹より高いじゃねーか! マジで? 肉がたくさん取れるから? それにしても……
「……もしかして、知らなかったの?」
「いやぁ……」
知りませんでした。
そういえばファングボアは今まで一度も売った事が無かった。いつも食べてばかりだったし、美味しいからなー……いやいや、そうじゃない! 実は高価買取だったという、今になって知る驚愕の事実! ファングボアなんて昨日だけで6体も狩ってるし……全部で金貨300枚!? ちょっとした資産ではないか。
「セシリアはこの施設の出身でもないのに高額の寄付をするのはなぜ? と思ったけど、そもそも高額という意識が無かったのね?」
ヴィヴィにジト目で見られてしまった。美少女のジト目はご褒美……そんな良いものではないな、うん。呆れられているだけだし。
「セシリアが金貨50枚分寄付するなら、私はその3倍は出さないとね!」
「計算合ってないんだけど」
ミラの謎の対抗心の理由はわかったけど、3倍じゃなくて7.5倍じゃねーか。
「半分の半分なの!」
「そうなんだ」
別にいくらでも構わないんだけど。気前がいいのはミラだよね。
……ふと、思ったんだけど、ファングボア1体が金貨50枚なら3体で150枚だよな? 割と命懸けだったドラゴン討伐の分配金と、楽に倒せるファングボア3体分の金額が同じって何だかおかしい気がするんだけど。
この世界は、間違っているっっ! ……そうでもないか。開拓なんてリスクゼロだけど数十億稼げるらしいし。リスクと報酬は比例する、なんて決まりは無いよな。うむ、別に間違ってはいない。
……30体で金貨1500枚か。もう「ファングボアスレイヤー」でもいいかもしれない……
「ところで、さっきの開拓の話だけど、全部で何人でやっているのー?」
何で話を戻すんだよ、ミラ? 今重要な事考えているんですけど。
「えっと、私と愉快な仲間達で、だよ?」
「愉快? そうじゃなくて、セシリアって開拓の経験あるの? 手伝ってあげようか? 私達、多少経験あるよ!」
売り込みかよ。間に合ってます。
「貴族の人がサポートしてくれているから……」
「誰?」
誰って、ヴィヴィよ、名前言ってもわからないんじゃ?
「クローディアっていう……」
「何ですって!!」
「うぉっ!?」
いきなり立ち上がって迫ってくるヴィヴィ。何だよぅ!?
「クローディア様って、中級貴族の? 本当に?」
「お、おぅ」
どうしたんだ、こいつ? 急に目がギラギラして頬が紅潮している。別人みたいになっているぞ? 豹変ぶりがちょっと怖いんですけど。
「知っているの? ヴィヴィ」
「えぇ、魔法学院で1年だけ在籍期間が重なっていたの」
何だと!?
「魔法学院!? ヴィヴィって貴族だったの?」
「違うわ」
違うのか? 魔法学院って貴族が通う所じゃなかったか?
「ヴィヴィは貴族の子なんだよ!」
「ミラはこう言っているけど?」
「違うわ。親が貴族というだけよ」
「同じじゃん」「同じじゃん」
「違うわ」
どう違うんだよ? ミラも同じじゃんって言ってるぞ?
「『貴族の子』と『親が貴族』は意味が違うって、前に説明したでしょう?」
「聞いてないんですけど」
「前」って何だよ? 今日が初対面だろうが。違った、前に会っていたんだったな。
でも実質初対面のようなものだろ。どっちにしろそんな話は聞いてねーよ。
「ミラに言っているのよ」
「そうですか」「そうだっけ?」
ミラは首を傾げている。お前はちゃんと聞いとけよ。
「貴族の家に生まれて魔法学院を卒業するまでは『貴族の子』であって貴族ではないわ。つまり身分は平民よ。そして魔法学院に入学できなかった子や卒業できなかった子は『親が貴族』なだけの平民なのよ」
なるほどわからん。
「一緒じゃないのー?」
ですよね?
「法律上はどちらも同じ平民だけど、実際は前者は貴族に準じた扱いをされるの。『貴族ではない』からといって迂闊な接し方をすると面倒な事になるから気を付けないといけないの。重要な事だから覚えておいてって言ったでしょう?」
「貴族の子と会う機会なんてあるかなー? 気にしないといけないの?」
「どこで会うかなんてわからないわ。でも知っておいた方がいいのよ」
ヴィヴィは魔法学院を卒業できなかった子らしいが(退学?)、その「接し方」とやらをヴィヴィに教えてもらおうかな? 俺も『貴族の子』に会った事あるけど、接し方なんて知らなかったし。
「話が逸れたわ。それで、クローディア様に会ったのね? どうして?」
「どうしてって、えーと、領主から再開発事業の仕事を命じられて、クローディアとアシュリーがサポート役というか……」
「サポート……? アシュリー様も? そう、クローディア様は領主様から直々に仕事を命じられるほどに……さすが、クローディア様だわ」
目をキラキラさせているヴィヴィ。こういうの、前にも見た事あるわー。
「クローディアと知り合いなの?」
「知り合いというほどではないわ。クローディア様は身分は中級貴族なんだけど、上級貴族に肩を並べる程の魔力と優れた魔法の使い手であり、学力も指導力も秀でていて皆の尊敬を集めていたの。そしてそのお姿は美しさと愛らしさに満ち溢れたまるで女神のような……」
聞いたわー。そういうの、前にも聞いたわー。またか……こいつもクローディア様大好きっ娘か。この「クローディア様の素晴らしさ」話、いつまで続くんだろうな……。
「……つまり私にとっては憧れの存在といったところかしら。ところでセシリア」
「はい?」
おっと、終わったのか。聞き流していたけど、気付かれたかな?
「『クローディア様』よ。『様』を付けなさい。呼び捨てなんて不敬よ?」
「あ、はい」
急に「目の中のハイライトが消えている」みたいな顔になってるヴィヴィ。怖っ、マジ怖いわ。まさか、ヴィヴィはヤンデレ系? 貴族の子よりも、むしろこいつにこそ気を付けないといけないんじゃないの?
「その再開発事業はクローディア様が指揮されているの?」
「どちらかというとアシュリー……様の方だけど、クローディア……様は監督役? みたいな」
「そう……さっきの地図もう一度見せてもらってもいい?」
「あ、はい。どうぞ」
秒の速さで地図を出す俺。いくらでも見てください!
「ここがクローディア様の……」
まるで恋人からの手紙、みたいに地図をかき抱くヴィヴィ。そんな雑な地図でよければ差し上げますよ?
「まだそこにいるんじゃないかな? しばらく泊まり込むって言っていたから」
「何ですって! 直接現地にいらっしゃっているの!?」
「そうだけど」
「そう……ちょっと行ってくるわ」
「行くって、まさか開拓地へ? 今から?」
もう昼近い時間なのに?
「ちょっと近くを通り掛かったから、みたいな感じよ」
「近くないでしょ……」
ここから263㎞先だぞ? 正気か。ジャスコだって110㎞なのに! ジャスコって言ってもわからないか。
ヴィヴィはスタスタと歩いて外へ出ていってしまった。マジで?
「いいの? ミラ。止めなくて」
「大丈夫! 私も興味があるから後で見に行こうと思っていたし!」
「何も無いのに」
ただの更地やで? 何も無さ過ぎてがっかりするに違いないのに!
「どうやって行く気なんだろう? まさか、歩いて?」
「ヴィヴィは空を飛べるよ! ほら、魔石獣を使えるから!」
「そうなんだ」
魔法学院を卒業できなくても学んだ事はできるという訳か。それなら大丈夫……?
「ミラも空を飛べるの?」
「私? 私は火魔法しか使えないよ! だから『魔力強化』で走っていくの!」
その走り、時速何㎞なんだよ? それに263kmも走る気なのか? こいつもだいぶおかしいのかも……。
そんなガールズトーク? をしていたらアルジェンティーナがロビーに戻ってきた。内臓はもう食べた?
(食べました! おいしかったです!)
それはよかった。ところでアル、背中にシルヴィアを乗せたまま食べたのか?
(そうです!)
そうです、じゃねーよ。シルヴィアがお前の上でぐでっ、としているじゃないか。グロいの見たからじゃないの?
「しーちゃん大丈夫?」
「おなかすいた」
「マジで?」
アルジェンティーナの食事風景を見てそう思ったの? 内臓をがふがふ食べていた筈なんだけど。シルヴィアのメンタルはどうなっているのか。
昼も近い事だし一旦家に帰るか。
「リズ。私達は帰るね」
「わたしもりあちゃんみたいになるの」
唐突だな、リズ。どの部分を指して言っているのかな? 花柄のワンピースを手に持っているからきっと裁縫スキルの事だろう。
「えーと、裁縫の事かな? きっとなれるよ」
「うん!」
あぁ、純真な幼女に癒されますわ。布は寄付できなかったが、代わりに俺が作ったワンピースを「見本」として施設のスタッフに渡しておこう。将来リズの参考になるかもしれない。
ついでにミラにファングボアを1体渡して俺の代わりに「東」の施設へ持っていってもらおう。
「この後行くからいいけど、せっしーが渡した方がよくない?」
「私は用事ができたから」
何か忘れている気がしていたんだが、リズが持っている(エクレールの)ワンピースを見て角カバーの件を思い出した。あれをエクレールが自力で外せるように工房に相談に行かなければ。あぁ忙しいわー、という訳で後は頼んだ、ミラ!
そうだ、公園の方は……まだ遊んでいるな。子供達が引き上げた後、遊具はどうしよう? 他の子も遊びたいかもしれないし、残しておく? でも許可がいるかな?
家に帰る途中で胸元がぶるぶるっ、と震えた。うぉっ!? あぁ、通話の魔道具か。これ、結構振動が強いんだよな。バイブ機能は調節できないのかな?
(もしもし、こちらセシリア隊員です。どうぞー)
(たいいんって何かしら? 今時間いい?)
(いいですよー)
(ドラゴンの売却が完了して金額が確定したわ。あなたの取り分は金貨1050枚よ。現金で受け取るか口座振り込みかどちらか選んでね)
(え?)
金貨1050枚? 何その中途半端な額。って、1050枚!? 150枚じゃなかったか? 1億超えてるぞ!?
(金額おかしくない?)
(不満なの? これ以上は上げられないのだけど)
いやいやいや、そうじゃねーよ。どうして7倍になってんだよっていう……。
(前に聞いた額と違うような)
(あなたの貢献度を見直したのよ。不満がなければ受け取ってね)
(了解です!)
増える分には構わないか。やりました! 600パーセントアップ! 大幅アップを勝ち取りましたよ! 何の交渉もしてないけど! これで、冬のオフも心穏やかに過ごせます……まだ冬には早いし、俺はプロ野球選手じゃないからきっと冬も働くんだろうな。
現金で受け取る必要はないので口座に振り込んでもらう。ついでにエクレールの角カバーを作ってくれた工房の場所も教えてもらった。(ギルドのすぐ傍だった)
家に帰って皆で昼食を取った後、リビングのソファーでゴロ寝しかけていたエクレールに角カバーの件を話して工房へ連れていこうとしたのだが、
(斬ればいい)
何を? 「取り外し」の話だぞ?
(取り外せるようにしていい?)
できるの? できるのならやってもいいけど。
エクレールが頭の上の2つの角カバーを両手で引っ張ると、
スパッ。
簡単に外れた。おい!? 今、何やったの!?
(斬った)
斬ってどうする!?
エクレールの手から角カバーを取り上げて確認してみると、カバーの側面が上から下まですっぱりと斬られていた。あぁぁぁ、1億もしたのにぃぃ!
(これで取り外しができる)
そりゃそうだろうけど、つけられないじゃん! どうするんだよ!?
(こうする)
エクレールは角カバー(だったもの)を俺から取り戻すと側面のスリットになった所から頭上のド鋭い日本刀のような角に被せている。それで?
(固定完了)
何だと? エクレールの頭の上に手を伸ばしてカバー(だったもの)を引っ張ってみる。う、動かない……マジで? どうなっているの、これ?
(魔力で固定)
そんな事ができるのか! 便利だなー、魔力……何で今までこれをやらなかったの?
(斬る許可がなかった)
その発想は無かったわ。




