魔法使い2人
「あれ? ファングボアじゃーん! こんなに大きいのどうしたのー? もしかして、先生が狩ったの?」
突然現れた魔法使いっぽい子は施設長の知り合いなのか、親しげに話しかけながら近寄ってきた。
「私ではない。こちらのセシリアさんが寄付を……」
「あれ? ゴーレム? どうしてここに?」
「それは彼女の……」
「あ! セシリアじゃーん! 久しぶり! 何でここにいるのー?」
最後まで言わせてやれよ。施設長が苦笑してるぞ。というか、誰だ? こいつ。
「えっと、昨日森で仕留めたファングボアを……」
「え? 凄ーい! これセシリアが倒したのー? どうやって……あ、そうか! ちょー強いゴーレムがいたよね! この……あれ? 『黒のゴーレム』ってこんな形だったっけ?」
「それは私の作った土ゴーレム……」
「そっかー、これで倒したんだね! この武器はブロードソード? 変な形だね?」
最後まで言わせろよ……こいつは相手に最後まで喋らせたら負けとでも思っているのか? そしてこいつもチェーンソーの刃の部分に触ろうとしている……やめろー。
「危ないから触らないで……」
「それで、どうしてここにいるの?」
こいつは人の話を聞いているのだろうか?
「ここの子供達と知り合いになって、それで肉を寄付しようと思って……」
「どれくらい寄付してくれるの?」
どれくらい? どういう意味だ? 量の事かな。
「全部だけど」
「全部!? 凄いねー! これは私も負けてはいられないねー」
何の勝負だよ? それにさっきから普通に会話してるけど、そろそろ紹介というか、説明求ム。
施設長に聞こうとしたら、いない。あれ? どこいった?
「クレイグなら解体の道具を取りに行ったわ」
キョロキョロしていたらもう一人の魔法使いっぽい女の子が教えてくれた。あら、涼やかなお声。
何だか元気のいい赤い髪の女の子と違い、この青い髪の女の子はクールな雰囲気だ。
「最近見なかったけど、狩りをしているの?」
「これはついでというか……」
この子も普通に話しかけてくる。
ハンターの場合「俺は知らないけど向こうはこっちを知っている」というのはよくある事だが、こいつら明らかに「私達知り合いですよ」みたいな雰囲気出してる。さっき久しぶりって言ってたし。どこかで会ったっけ?
「私も狩りをしたいなー。ちゃんと素材が残るようなやつ!」
「ミラには難しいわね。もっと火加減が上手くならないと」
赤い髪の子はミラというらしいが、火加減? 火加減って何だよ? 料理か……
「あっ!?」
「どうしたの?」
思い出した! この子、ドラゴン討伐の時の火魔法使いだ! 巨大な火球の印象が強過ぎて、顔は忘れていたわー。
「えっと、えー……小さい火球は撃てないの?」
ドラゴンより大きな火球をぶっ放してたのに。
「勿論撃てるわよ?」
「じゃあ撃てばいいじゃん」
「小さいのじゃファングボアは倒せないのよ?」
「じゃあ中くらいの……あぁ、火加減ってそういう……」
「何よ」
「いえ」
ファングボアを狩るのに対ドラゴン戦の時みたいな大威力の火球を使ったら、まともに食べられるところなんて残らないかもしれない。しかし、このミラという女の子、倒すだけのちょうどいい「火加減」ができないのか? 何だかそこはかとなくポンコツくさい雰囲気が……。
「どっちにしろ森の中だと火魔法は使いづらいし! 下手すれば火事になっちゃうから! ヴィヴィの風魔法なら何とかなるけど!」
「雷撃も火災の危険はあるし、私にとってもファングボアは難しい相手よ」
青い髪の子はヴィヴィというのか。2人とも可愛いなー。ドラゴン討伐の時にこの子もいたのかな? 風魔法使いは3人いたけど……じっと顔を見てみる……どうだったかな? 顔はよく見ていなかった気がする。思い出せないわー。
「何?」
見つめていたら不審がられてしまった。えーと。
「風で斬ればいんじゃない? ウィンドカッター的な」
「風で斬る場合、射程距離が短いから一撃で倒せないとこっちが危険」
「そうなの?」
エクレールの「ウィンドカッター」なら㎞単位で威力が通るのに。人とドラゴンの魔法を比較してもしょうがないか。でも盾役がいればいいような?
そんな話をしていたら、くいくいっ、とリズにスカートの裾を引っ張られた。あ、そうか。ここに着いたら服を見せるという約束だった。
「もうちょっと待ってね?」
しばらくすると施設長が職員らしき人間を2人連れて戻ってきて解体を始めたので、待ち構えているアルジェンティーナに内臓をあげるようにお願いしておく。
「施設長、ロビーをお借りしてもいいですか?」
「いいとも」
リズと一緒にロビーに向かうと、なぜかミラとヴィヴィもついてくる。
「何か用?」
「リズに用があるの!」
おや?
2人はロビーのソファーにリズを座らせると両側から挟むように立った。
「リズ、最近はどう? 胸は痛くない?」
「いたくない」
リズはちょっと嫌そうな顔をしている。ミラとヴィヴィはリズの両肩に手を置いて何かしているような……?
「あれ? 引っ掛からないね?」
「そうね。流れがスムーズ……どうして?」
「何してるの?」
リズはくすぐったそうな感じで体を揺らしているが、遊んでいる訳じゃないよな?
「リズは魔力障害があって、時々状態が悪化するからこうやって魔力の流れを促しているんだけど、今日は全然引っ掛からないのよ」
「魔力障害って何?」
「知らないのー?」
ええ、知りませんとも。教えて?
ミラの説明によると「魔力障害」は体の中の魔力の流れが何らかの理由で阻害され滞った状態の事で、その結果、人によっては病気や体調不良、意識障害等様々な「状態異常」になるらしい。(ならない人もいる)
リズの場合は主に胸の痛みだったようだが、そんな状態でスクワットやってよかったのか?
「魔力障害自体は病気でも怪我でもないから魔法でもポーションでも治せなくて、こうやって外から魔力を流して手当てするぐらいしかできなかったんだけど、もしかして、治ってるんじゃない?」
「そうかもしれない。でも、なぜ?」
「あー、それはたぶん……」
「りあちゃんがぴかっ、てひかったの」
うん、そうだねー……リズにまで、最後まで言わせてもらえないとは!
「……セシリアが魔法を使ったのね」
「えー、でも治療魔法じゃ治らなかっ……あ、そうか! せっしーのは治癒魔……何でもない」
ほとんど全部言っちゃってるけど、まぁいい。「治癒魔法は何でも治す」から、その魔力障害とやらも、さっき公園で魔法をかけた時に治ったんだろう。それはいいとして、せっしーって何だよ?
「どうして治したの?」
ヴィヴィから意図不明の質問が。どうして、とは?
「そうだねー、魔力障害の事は知らなかったんじゃないのー?」
「あー、それね」
治すつもりで魔法を使った訳ではないので、「理由」を正直に話す。
「疲れたから使った!?」
「そんな理由で……」
そんな理由って何やねん。幼女にとっては重要なんだぞ!
「普通は魔力を温存するから、そんな事には使わない」
「だよねー」
2人は呆れ顔だが、この幼女は普通ではないのだよ。色々とな!
「理由はわかったけど、治療代は?」
「治療代? あぁ、こっちが勝手にやった事だからいらない」
「そっかー。よかったね、リズ! これからはもう痛くないよ!」
「……いたくならないの?」
「そうだよ! せっしーが治してくれたから!」
「ありがとう、りあちゃん!」
ぱぁっ! と明るい笑顔になるリズ。うむ、幼女の笑顔は良いものだ。
なお、せっしー呼びはスルーする模様。
「他にも病気や怪我の子がいたらついでに治すけど」
「今のところは大丈夫。でも気にかけてくれてありがとう!」
「……その治療をする場合も『勝手にやった』事にするの?」
「お金の事を言っているのならまぁ、それも『寄付』の一環として、かな?」
「そう」
ニコッ、と笑うヴィヴィ。おや? 笑顔だと随分印象が変わるな。可愛いというか、幼い感じになる。10代半ば、ぐらい?
2人の用は済んだ筈なので、約束通り花柄の布を使った自作の服を魔法袋から取り出してリズに見せる。
「わぁー」
手を伸ばして服を受け取ると、熱心に見つめ始める。もっと見せてあげよう。
「いい服だねー。親に作ってもらったの? それとも買ったの?」
まだロビーにいるミラがテーブルの上に乗せた他の服を検分し始めた。
「親はいないので自分で作った」
「へー、そうなんだ」
「りあちゃんがつくったの?」
びっくりした顔で見つめてくるリズ。
「そうだよー」
「すごい!」
キラキラとした尊敬の眼差しで見られてしまった。うっ、何だか後ろめたい気が……作った、といっても金で買った裁縫スキルの力だから、別に凄くないんだよな。
「リズは将来お針子さんになりたいんだよね!」
「え、そうなの?」
「そうなの!」
頑張れー! がんばるー、などと盛り上がっているミラとリズ。え、この子、まだ3~4歳ぐらいじゃないの? もう将来の事考えているんだ。そっちの方が凄くね? 俺が3歳の時、何考えていたかな? ……思い出せない。たぶん何も考えてないわ。
「随分上等な布ね。どこで手に入れたの?」
一方ヴィヴィは冷静な目で布の品質をチェックしている。何が気になるの?
「それは領主に貰った布なんだけど……」
「「領主!?」」
ミラとヴィヴィが驚愕している。りょしゅー? と言いながら首を傾げているリズが可愛い。
「領主って、あの領主様の事?」
「本当なの? なぜあなたが領主様から布を賜るの?」
「えっと、なぜかというと」
あ、マズい……か?
この布は娘のセレスティーナの病気を治した件で貰ったやつだけど、それを話すのは……俺が話すのはいいのか? 2人は治癒魔法の事を知っているんだし。
いや待て、領主達を契約魔法で縛っているのに、第三者に(治ったとはいえ)勝手に娘の病気の話をしていいとは思えない。やはりマズいわ。
何で領主に貰ったなんて言っちゃったの? もうちょっと考えろよ、俺! 何とか誤魔化さなければ。
「えっと、今、領主様の依頼で開拓の仕事をしていて、それで……」
「開拓? あぁ、せっしーは土魔法使えるからだね! どこでやってるの?」
「開拓? そういうのは普通、文官から言い渡されるだけでしょう?」
「えっと……」
ミラはともかく、ヴィヴィの質問に答えていくとよくない流れになる気がする。
前に貰った例の雑な地図を出して2人に見せる。
「場所はこの辺なんだけど」
「これ、距離はどれくらい?」
「263㎞」
「随分遠いねー、何でこんな所でやってるのー?」
「理由は色々あって……」
「もしかして、この布は報酬の前払い分?」
「えっと、まぁ、報酬として貰ったのは確かだねー」
よし、嘘は言ってないぞ。でもヴィヴィは信じてない顔だ!
「平民相手に報酬の前払い? しかもこんな高価な布を?」
「私に言われましても」
しらばっくれる俺。
「これ高いやつなんだー。確かにキラキラしてるね!」
そうだねー、ツヤツヤしてるよねー。もっと控えめなやつにしとけばよかった……領主から貰った布に控えめなやつなんて無かったわ。
「……ヴィヴィは何を気にしているのかな?」
「この布はたぶん最高品質の、それこそ領主様に献上されるような物。誰にでも与えられるような物ではない筈。まさかとは思うけど、セシリア、あなたは領主様に直接お会いしてこの布をいただいたの?」
おっと、正解にかなり近いですよ? 何この鋭い推理。どこの探偵さん? 頑張れ俺、全力でしらばっくれるのだ!
「最高品質? よくわからないけど何だか凄そうだね。この布まだたくさんあるんだよ? そうだ、この布も寄付しよう! この布で子供達の服を作るといいよ」
魔法袋から丸く巻かれている布を取り出す。
領主がくれた布は大量にあって一部はリディアにも渡したが、量が多過ぎて使い切れない。持て余しているぐらいなので寄付はちょうどいいと思ったのだが、
「あー、せっかくだけど、それはやめた方がいいかなー」
ミラに止められた。なぜに?
「気に入らなかった?」
「そんな事はないんだけど。これは私でもわかるくらい上等過ぎて、施設の子供達がこの布で作った服を着て町を歩いていたら、変に絡まれちゃう可能性が高いから」
「えー……そんなのあるの?」
「まぁ、やっかみみたいなのはあるだろうね」
むぅ、いい考えだと思ったのだが。
「領主様から賜った品を他人に分け与える場合は相手を選ばないと不敬とみなされる可能性もある」
ヴィヴィもダメ出しをしてくる。面倒臭い話だが、知らずにやっていたらそれこそ面倒を引き起こしていたかもしれないのか。
「2人とも教えてくれてありがとう」
まだ知らない事がたくさんあるわー。
「そういえば、2人は何しにここへ?」
「私はこの施設で育ったの! それで時々遊びに……じゃなくてお金を寄付したり、氷を作りに来てるの」
ミラはここの出身だったのか。しかし、お金はわかるが、氷?
「冷蔵庫に入れて冷やす為の氷だよ?」
疑問が顔に出たのか、説明してくれた。庫内の上に氷を置いて中を冷やすやつか。魔力で冷やす魔道具の冷蔵庫はお高いのでそういうのも使われているようだ。
「あぁ、そういう……ヴィヴィもこの施設の?」
「私は違う。ミラとパーティーを組んでいるだけ」
「なるほど」
ヴィヴィはどことなく気品があるというか、貴族みたいな上流階級っぽい雰囲気があるな。実際に「上流階級」を知っている訳ではないけど。
「今回はドラゴン討伐の分配金も入った事だし、セシリアに負けないようにどーんと寄付するよ!」
ミラが元気良く宣言している。待て、今何て言った?
「分配金?」
「そう! たっぷり貰ったから!」
「何だとぅ……」
何それ!? 俺は貰ってないぞ!?




