ムリーヤ
魔道具輸送の可能性を試す為に作ったC-2輸送機に乗って空を翔けるドラゴン形態のエクレール。
楽しんでいるかと思いきや、「曲がりにくい」というクレームが!
(何とかして)
何とかって、エクレールの大きな体が機体の上で乱流を生み出しているから方向舵の効きが悪くなっているんだよ? 小さな幼女形態になれば問題解決なんだけど。
……へんじがない。ただのドラゴンのようだ。じゃなくて、どうやらドラゴンの姿のままで乗っていたいらしい。
幼女形態の時も背中に翼はある。だけどちっちゃいから、翼で風に乗っている、という感じはしないのかも。
螺旋を描くような動きで高度を下げてきた輸送機が居住区(予定)にいる俺の頭の上を豪快にフライ・パスしていく。ぶぉんぶぉん風切り音を響かせながら飛ぶ姿は迫力たっぷり! って、ちょっと高度が低過ぎない? 催促するような動きやめーや。
エクレールを乗せて空を飛ぶC-2の姿は、前にどこかで見たような気が……あぁ、あれだ。「スペースシャトルを上に載せて飛ぶ輸送機」。あれに似ている。ネットで見たわー。
あの輸送機は確か、尾翼に垂直安定板を追加したんだった。C-2にも追加する? ……旧ソ連版スペースシャトルを載せて飛んだ輸送機「An-225 ムリーヤ」の方がいいかな。
尾翼がH字型の双尾翼なので「上に載せたもの」によって生じる乱流の影響を受け難くなっているし、戦闘機並みの機動が可能らしいから、きっとエクレールも気に入るだろう。
……「ムリーヤ」って名前を見ると「何が無理やねん?」って言いたくなるのは俺だけかな?
An-225は全長84m! もあってC-2以上に巨大だが、C-2が飛ぶんならAn-225も飛ぶだろう。たぶん。無理じゃないよ!
エクレール、一度機体から離れて? 新しいの作るのに重量軽減の魔石がいるからC-2を着陸させないと。
(私が着陸させる)
えー? 降ろし方わかるの? でも、やめといた方がいいと思うんだけど。
(大丈夫)
自信満々の答えが返ってくるけど、本当にわかっているのかな? まぁ、別に危険は無いからやってもいいけど。すぐにわかるだろう。
再び上空を通過して大きく旋回した後、居住区へアプローチするC-2。
主翼をゆっくりと持ち上げて減速しながら着陸モードに……
グイッ!
その主翼の前縁がエクレールの顔の下、顎の辺りに当たってのけぞるような姿勢になってしまう。位置的にそうなるわな。
顎を持ち上げられてしまったその姿は、そう、まるで「顎クイ」! イケメンだけに許されるモテしぐさ「顎クイ」ですよ、皆さん! そうなるんじゃないかと思っていたんだけど、実に見事な顎クイ! だからやめといた方がいいと言ったのに。
C-2に顎クイされた姿勢のままで着陸を完了させたエクレール。
どう? エクレール。ドキドキした?
(しない)
そうか、しないか。C-2輸送機は格好良いけど、イケメンじゃないからな。
エクレールが降りた後、C-2輸送機を解除してAn-225に作り直す。
もこもこもこもこもこもこもこもこもこもこもこもこもこもこもこもこ。
長-い。できるまでの時間も長いけど、全長も長い! その姿はもう飛行機というより何かの建物みたい。めっちゃ大きいわー。
C-2も見上げる程の大きさだったけど、An-225は更に大きい。機首の位置から見る機体の後部が凄ーく遠くに感じる。機体が大きく重くなる分ローターも直径8mと大きくしたのだが、そのローターでさえ小さく見える。この巨体が飛ぶのか。
これが離陸する時はさぞ大迫力な見物だろうな……離陸時はどれだけMPを消費するんだ? C-2の2倍、いやそれ以上?
あまりMPを使い過ぎるのもなぁ。エクレールはいくらでも遊んでくれていいけど、俺はまだ仕事中だし!
シュバルツやノワールから何度も魔力を譲ってもらうと「こ、この幼女、めっちゃ魔力がある!」なんて誤解されて、更に大量の仕事を受け持たされてしまうかもしれないので、そろそろ自重した方がいいかも。
エクレール、この機体の操縦を任せる。好きに飛ばしていいけど魔力はエクレールが受け持ってね。
(わかった)
いそいそとAn-225の上に乗ると、すぐに主翼を持ち上げて6基のローターを始動させるエクレール。あ、今度は機体の前の方に乗るんだな。そこなら主翼の前だから「顎クイ」されないね! 逆に主翼を下げた時に長い尻尾が挟まれちゃうかもしれないから気を付けろよ?
巨大なローターの回転によって強烈な風が生み出されて……あっ、マズい!
「アースウォール!」
俺は急いで土壁を作ってその陰に隠れる。危ねぇ、うっかりしていた。
ゴォオオオオオオオオオ!
土壁の横で吹きすさぶ風の音が怖過ぎる! 風の勢いが半端ないわ。今壁から出たらきっと数百メートルふっ飛ばされて「ゴロゴロローリング世界記録」を樹立してしまうだろう!
暴風の脅威に震えながらAn-225の離陸を見ていたのだが、さすがにC-2に比べて縦横2倍の大きさがあるから離陸も時間が掛かるかな? と思いきや、実際は大して変わらない速度で上昇していく。ローターの数が4から6へ増えたからか?
同じように土壁の陰で風を避けているクローディアも、また壁から顔を半分だけ出した「家政婦は見た!」スタイルで見ている。熱心だな。
巨大な輸送機の上に乗るエクレールの姿はまるで大きな犬の頭の上に乗ってじゃれついている小さな子猫のよう。ドラゴンなのに! 何だか微笑ましいねー。
ぐんぐん上昇していくAn-225。あまり遠くには行くなよー。
風の勢いが弱まったのでクローディア達のいる所へ近付いて話しかける。
「あの飛行型ゴーレムなら魔道具を一度に全部運べると思うんですけど、どうでしょう?」
こちらを見る2人の表情は対照的だ。
「素敵ですわね! わたくしも乗ってみたいですわ」
「大変申し訳ありません。この場では判断いたしかねます。お尋ねの件はおそらく領主様にご判断をして頂く事になるかと存じます」
華やかな笑顔でポジティブな反応を示すクローディアと、硬い表情で事務的な答えを返してくるアシュリー。この違いは何なのか。領主かー……許可出してくれるかな?
「ところでセシリア様、魔力は大丈夫ですか? まだ余力がおありでしたら、作業の続きをしていただけると……」
笑顔のまま、仕事して? と催促してくるクローディア。いつまでも遊んでんじゃねーよ、という事ですね。了解です。
開拓地の端、角の位置に移動。ここから真っすぐ10㎞先まで耕地魔法を重ね掛け。
2本の水路を耕さないようにスルー、10㎞先で折り返して戻ってくるイメージ。
できるかな? できないと困るのだけど。
「ティル・ア・フィールド!」
ふわっ……ふわっ……ふわっ。
穴や水路の時と違って割とゆっくりとした速度でボコボコの大地が平らに耕されていく。順調に見えたが2.5㎞先の水路に到達した所で魔法が途切れてしまった! スルーできないのか?
もう一度やってみるが、結果は同じ。マズいな。「スルー」というイメージが通じない。何となく、自分で魔法を切ってしまっているような感じがする。では「折り返し」は? 水路の手前でターンするイメージ。
ふわっ……ふわっ……ふわっ。
水路の手前に到達したタイミングで「曲げる」イメージをしてみたが、
ふわっ……。
ダメだ、魔法が途切れてしまった。こっちも「できない」というのが感じられた。
重ね掛けは直線、あるいは直線的な使い方しかできないのか? それだと困るんだけど。
考えろ、俺。せっかくの増幅効果だし、何とか使いこなさないとこの広大な土地を耕すのに大量のMPが必要になるぞ。何かいい考えがある筈。うーん……「直線的にのばす」のではなく、「広げる」というのは?
再び移動。今度は居住区を中心に見立てて、その外縁から同心円状に広げていくというイメージでできないかな?(円じゃなくて四角だけど)
まずはMP1で確認。頭の中でイメージイメージ!
「ティル・ア・フィールド!」
ふわっ。
居住区の外周が縁から幅6mぐらい? に渡って耕されている。(アシュリーに測ってもらうと6.15mだった)そして上空へ飛ばしたMK-Ⅲで全周が耕されているのが確認できた。この部分の面積は412.3×412.3-400×400だから、えーと、9990ぐらい? 約10000だから大体合ってる。次はこれを押し広げるイメージで!
ふわっ……ふわっ……ふわっ。
じわじわと広がっている。いいぞ、その調子!
ふわっ……ふわっ。
途中でゴーレム達が切り倒した木の枝打ちをしている場所に到達したが、問題無く通過した。
ふわっ……ふわっ。
開拓地の端から水路まで、5㎞×5㎞の広さの土地を全て耕した。やったぜ! 消費MPは13だった。
「素晴らしいですわ! セシリア様!」
「こ、これほどの魔力が……」
耕地魔法の広がりを一緒に見ていた2人だが、また反応が違う。
クローディアの「素晴らしいですわ、セシリア様」は略すると「すばせし」。
ふむ、悪くない。何となく何かと被っているような気がするけどきっと気のせい。流行るかもしれない。俺の中で。
一方アシュリーはというと、顔色が悪い! 土気色? なぜそんなに慄いているのか。「魔力」じゃなくて魔法なんだが、見ただけでは違いはわからないものなのか?
アシュリーがまた魔力計を取り出して地面にぶっ刺してる。そして数値を確認すると羊さん型魔石獣に乗り込んだ。
「他の場所も確認してきます」
「ええ、お願いね」
注いだ魔力に偏りがないか調べるらしい。2500ヘクタールもあるのに、大変だな。
さて、もう1面を耕したら今日はそれで終わりにしようかな。1日で全部終わらせるのはやり過ぎな感じがするし、2人の反応を見る限り半分でも十分だろう。
シュバルツ達の作業もまだ終わっていない……そろそろ終わるかな?
そのシュバルツが戻ってきた。作業終わった? そう、お疲れー。助かったわー、ありがとう……む? シュバルツのボディが薄っすらと埃に塗れている。綺麗にしなくては!
しゅわしゅわしゅわ。
洗浄魔法ですぐに黒光りするボディに、ってシュバルツ、どこ見ているんだ? 上?
シュバルツが見上げている空は……エクレールが飛んで行った方だな。俺には何も見えないけど、シュバルツにはエクレールの姿が見えるのか?
(肯定)
見えるらしい。シュバルツの目は何倍ズーム? 200倍ぐらいありそう!
(操縦希望)
操縦? それって「An-225」に乗って操縦したいという意味? ……いやちょっと待って? 今の、言葉というか、声が聞こえたぞ? 性別不明な、無機質な声が。シュバルツだよな?
(肯定)
あっさりした返事。おお、そうなのか。今までも意思の疎通は割とできていたけど、普通に会話できる方がいい。
(よろしくシュバルツ)
(同意)
……今までとあまり変わらないかも。あっさりしてるな。えっと、そうだ。操縦の話だったな。エクレールが操縦できるならたぶんシュバルツにもできるだろうけど、シュバルツも空を飛びたかったのか?
(肯定)
そうか。ならば作らねばなるまい。あー、でも重量軽減の魔石は2つしかないし、もう1つは……MK-Ⅲはまだ使うんだよね。どうしよう……ドローンのように使う時は魔石無しでもいいか。
MK-Ⅲを解除。魔石を確認してAn-225を作成。
もこもこもこもこもこもこもこもこも……。
再び現れる巨大な飛行型ゴーレム。でも機首に付いているゴーレムが小さ過ぎて、もうゴーレムという気がしないわ。
出来上がったAn-225にすぐさま乗っていくシュバルツ。動きが早い! 機首の上に乗ったシュバルツが豆粒のように小さく見える。
がばっ、と持ち上げられた主翼の動きを見て素早く土壁の内側に隠れる俺。そこへクローディアも飛び込んできた!
「ご一緒させてくださいませ」
「どうぞー」
再び辺りを襲う暴風。壁は幼女用の小さなサイズなので大人サイズのクローディアはしゃがみ込んでぴったりくっついてくる。体温を感じる程に距離が近い!
あ、そうか。An-225をもっと離れた所に作ればいいんだよな。なぜこんな簡単な事に気付かないのか……次からはそうしよう。
エクレールを追い掛けるように空の彼方へ消えていったシュバルツを見送った後、次の居住区予定地に向かって移動したのだが、その際に魔石獣に乗るクローディアにおいていかれそうになった。
「魔石無し」で機体の重さが軽減されなくなったから、離陸と加速時に性能の低下をはっきり感じてしまう。一旦速度が上がってしまえば「あり」の時とあまり変わらなくなるのだが。
むぅ……これは、新しい機体形状を考えるべき?
「第2面」でも同じように居住区を魔法で固めて周囲の土地を耕す。すぐに完了。
MP 169/280
これで終わるつもりだったのだが、日没まではまだ時間があるし、魔力もたっぷり残っている。もう1面やっとく? でもすぐに終わってしまうか。うーん。
やはり「やり過ぎ」ない為にも終わった方がいいかな?
迷っているとノワールがやって来た。おお、作業終わった? お疲れー。
ノワールも埃で汚れていたので勿論洗浄魔法で綺麗にする。しゅわしゅわしゅわ。
ありがとう、凄く助かった。後は休んでいいよ……どこ見てるんだ?
ビシッ!
長い前脚を空へ向けて突き上げるノワール。あぁ、エクレールとシュバルツが飛んで行った方だな……まさか。
(操縦希望)
お前もかーい。




