貴族(2人)
たぶん村の入り口があったと思われる辺りに立つ貴族らしき2人。
2人とも若くて美人さんだ……若過ぎないだろうか? 片方はまだ10代に見える。もう片方も20代前半ぐらい?
そして2人とも黒いローブを纏って大きな三角帽子を被っている。腰のベルトには短い杖のような物が……それ、何て魔女っ娘?
彼女たちは本物だからか? コスプレみたいな感じはしないが、実際は魔女っ娘と呼べるような歳ではないだろうけど(たぶん)、『魔法使い』すなわち貴族なんだろうな、という事はわかる。
クローディアと名乗った少女? は水色の髪で、しかも! 『縦ロール』という髪型だ! ついに来たか、縦ロール。
貴族のいる世界だけにどこかにいてもおかしくないとは思っていたが、水色というのは新しい気がする。縦ロールと言えば金髪、というのは俺の思い込みだろうか?
バネみたいに強烈に巻かれているけど、この世界にもヘアアイロンとかカーラーがあるのかな?
髪型が印象的なクローディアはいかにもお嬢様っぽいというか、今にも『ですわ』とか言い出しそうな雰囲気だが、それに比べると隣に立つアシュリーは実務的というか、仕事人という感じだ。茶色の髪を三つ編みにして頭に巻き付けている。
2人がローブの内側に着ている服は上は制服のようなカチッとしたデザインで下はロングスカート。色は違うけど(クローディアは白、アシュリーはグレー)形状が同じなので実際に制服なのかもしれない。
内側の服だけなら何もおかしなところはないが、やはり黒いローブというのは……そんな恰好で暑くないのか? まだ夏は終わっていないのに。
「どうかされましたか?」
微笑を浮かべながらクローディアが話しかけてきた。
「聞きたい事がたくさんあるのですが」
「何でも遠慮なく聞いてくださいませ」
いいのか? では遠慮なく。
「どうして2人しかいないのかという点と、その格好で暑くないのかな? という疑問があるのですが」
「えっと、まずは服装についてお答えします。この服装は貴族の正装なのですが、セシリア様と初めてお会いするので礼儀として着用致しました。暑さに関しては、冷却の魔法を使用していますので暑くはないです」
「なるほど」
よく見ると2人とも全く汗をかいていない。冷却の魔法か……前に領主が使っていたけど、自分を冷やす為にも使えるとは羨ましい。俺が着ている制服も吸汗速乾、みたいな感じでそれほど暑くはないけど、さすがに涼しいとはいえないからな。
「2人という点につきましては、本日の作業は主にセシリア様によって行われるので、単に他の人間は不要というだけですわ」
「そうですか」
自分が主体になって作業を行うというのは理解できるが、この2人は本当に指示を出すだけなのか?
何となく、もっとたくさん人がいるイメージを持っていたけど、俺以外は誰も作業をしないというのなら確かに大勢の人間がいる必要はないか。
クローディアとアシュリーに仲間の紹介をする。
ビアンカは普通に挨拶の言葉を交わして他は名前を教えるだけだが、2人の貴族はにこやかに応じている。
領主から『ドラゴン』や『黒のゴーレム』の事は聞かされている筈だし、特に何かを気にしている、というようには見えなかった。
作業開始前に説明をするという事で、いつの間にか用意されていたテーブルに案内される。さっきまで無かったような。魔法袋から出したのかな?
椅子が7脚用意されている。シュバルツやノワールにも座れというのだろうか? シュバルツはともかくノワールは無理だと思うのだが。
案内された椅子に座ろうとしたら椅子の高さがちょっと……大人用サイズとは気が利かないな、座りにくいじゃないかと思いきや、椅子の脚には梯子のような横棒が……これで登れというのか? こういうデザインかな? だがその横棒がついているのはこの1脚だけなので、たぶんこれを使って座れという事だろう。何という細やかな気配り! ありがたく利用して椅子の上に上る。
結局ビアンカ以外は座らなかったが(周辺をぷらぷら移動し始めた)特に気にした様子もなくお茶を入れ始めるアシュリー。
あれ? 帽子やローブは? クローディアも既に脱いでいる。いつの間に?
更地になって見通しが良くなっている廃村の前で唐突にお茶会が始まった。
「こちらはカーティス産のファーストフラッシュですわ。セシリア様のお口に合うとよいのですが」
甘いフルーツのような香りが辺りに漂う。カーティスというのは地名かな?
淹れ方から判断するとたぶん紅茶っぽい。色は黄色。
クローディアが一口飲んだので俺も飲んでみる。ゴクリ……ジュースみたいに甘くておいしい。よくわからないけど、たぶんお高いんでしょう? そんな感じ。
「凄くおいしいです」
「よかったですわ」
にっこりと笑うクローディア。そういえば、普通に『ですわ』って言ってるね。
それにアシュリーもそうだが所作が洗練されているというか、お茶を飲む仕草からして違う感じがする。これが貴族というものか。
更にマフィンのようなお菓子が出される。
クローディアがカトラリーを使って、先に一口食べて俺を見てにっこりと笑う。これ、もしかして……先に食べて見せるのは『毒は入っていませんよ』というアピール? ……考え過ぎかな。
もぐもぐ、これも凄くおいしい。
(エクレール、おいしいお菓子があるよ、食べない?)
(食べない)
興味がないのか? エクレールはまたMK-Ⅲの尾翼の上に寝転がっている。そこ、気に入ったの? 優雅なお茶の時間が過ぎるとようやく仕事の話になった。
「こちらをご覧になってください」
そう言ってアシュリーがどこからか取り出した(どこから出しているんだ?)白い紙をテーブルの上に広げる。
その紙には黒い線で大きく正方形が書かれていて、それが四分割されて田の字のように見える。
大きな正方形の上、少し離れた位置に楕円形があってそこから青い線が正方形の中まで引かれている。
その正方形の下に赤い線で小さな四角形が1つ、4つのブロックの中央にもそれぞれ黄色の線で同じような四角形が書かれていて線で結ばれている。
「これは何でしょう?」
「赤い線は村の跡地、現在いる所です。黒い線は拡張予定領域、黄色の線は居住地を表しています」
「へぇ……この楕円形は?」
「上空からご覧になられたと思いますが、ここから10㎞程離れた所にある湖です。ここから農業用水を引きます」
「へぇ……」
あの湖か……おいちょっと待て。
この廃村、あまり大きくはない。たぶん1㎞四方といったところだろう。
それに対して『拡張予定領域』とやらは縦横10倍以上。つまり、面積で言うと『100倍以上』にもなる……おかしくね? 拡張なんてレベルじゃねーぞ!? ほとんど新規じゃねーか! 更におかしいのは、
「ほとんど森なんですけど……」
98パーセントぐらい森だよ! どーすんだよ、これ?
「セシリア様には森を切り開く魔法があると領主様から聞いているのですが」
「そ……」
そんな魔法ねーよ! と言いかけて気が付いた。
「もしかして、これの事ですか?」
椅子から降りて魔法袋からチェーンソーゴーレムを取り出す。
「まぁ! 可愛らしいゴーレムですわね」
クローディアが華やいだ声を上げる。可愛い……か? この黒光りするゴーレムを見て可愛いなんて感想は少なくとも俺の中からは出てこないけど。
「どうやって木を切るのでしょうか?」
一方アシュリーからは冷静な声で質問が。では実際に見てもらおうか。
少し歩いて森の手前まで皆で移動、一番近くの木を試しに切ってみる。高さは5mぐらい。
すぱぁ……いつものように易々と木を切ってくれるチェーンソーゴーレム。
切られた木はメキメキと音を立てて枝を折りながら倒れていく。どーん!
「こんな感じなんですが」
「素晴らしいですわ!」
クローディアが両手を胸の前で合わせながら褒めてくれる。
薄っすらと白い頬を赤く染めながら俺を見つめるその顔は、まるで俺に一目惚れしてしまった乙女のよう……幼女に惚れる訳ないから気のせいだな!
「このようなゴーレムは初めて見たのですが、大変素晴らしいものだと思います。セシリア様、このゴーレムに触れる許可を頂けないでしょうか?」
「え? あぁ、どうぞ」
アシュリーは真面目な顔で何やら調べ始めたけど、触ってわかるものなのか?
「セシリア様はこのゴーレムを何体動かせるのですか?」
「えっと……クリエイトゴーレム!」
もこもこもこもこ。
『スキルポイント』を使って土魔法のレベルを6から7へ上げたのだが、同時に動かせるゴーレムの数がどれだけ増えたのか、という確認はしていなかった。
とりあえず30体のチェーンソーゴーレムをクリエイト。
ずらりと並んだゴーレム達。動くのは何体かな? さぁ動け、我がゴーレム達よ! 右向け右!
ズシャッ!
……全部動いた。一糸乱れぬ見事な動き! よし、ならば追加で30体。計60体を並べて、今度は左向け左!
ズシャッ!
……あれ? えっと、増えたのは2体。つまり、動いたのは計32体。今動かせるのはこれだけか……微妙。少ないとは言わないが、まぁ、32でも凄いっちゃあ凄いんだけど。
「一度に動かせるのは32体です」
「そ、そうですか」
微妙な微笑み? そんな表情をするアシュリー。彼女も微妙だと思ったのかな?
緑というより、もう「黒々」という言葉で表現したくなるほど鬱蒼とした森の木々を見る。
この「拡張予定領域」に何本の木があるのか全く分からないんだけど……数十万、あるいはそれ以上? こんなの短期間では無理だろう。気が遠くなりそうですわ!
長期計画ならいいけど、その辺どうなっているのか。
とりあえず32体のチェーンソーゴーレムを森の中に入れて木を切らせてみる。
木は直径1m以上あるが1本切るのに3秒もかからない。次の木を切る為の移動時間を含めても10秒で2本は切れるな。つまり……1分で10から12本。1時間で最大72×32=2034本か。
一斉に木を切ると木が倒れた時の音が重なってメキメキメキ! ドーンドーン! と、かなりうるさい! 一度に32本倒れるからな。地面も地震みたいに結構揺れる……一旦ゴーレム達を止める。
これ、切った木はシュバルツとノワールに収納してもらえばいいけど、切り株の方はどうしよう? ゴーレムで力づくで引っこ抜く……他に何かいい考えはないかな? と考えていると、既にシュバルツが倒れた木を収納し始めていた。さすが、仕事が速いぜ。
そしてノワールはというと、その鋭い脚の先端を切り株にぶっ刺して、ずぼっ、と根っこを全て引き抜いてそのまま収納している!
ゴーレムズが優秀過ぎる……この調子なら意外と早く終わるかも?
「このまま木を切り倒す作業を進めちゃっていいですか?」
「え? ……ええ、お願いします」
よし、作業を再開しよう。切って切って切りまくるのだ!
「少しよろしいでしょうか?」
森の中のゴーレム達の働きぶりを(ゴーレムの視覚を使って)いい気分で見ていると、アシュリーが話しかけてきた。
「何でしょう?」
「セシリア様のゴーレムはどの程度まで複雑な命令を受け付ける事が可能でしょうか? できれば同時にやっていただきたい事があるのですが」
命令?
「私が直接動かしているので大抵の事はできると思いますが、どんな作業でしょう?」
「直接? いえ、そうではなく……あの、もしかして。今、セシリア様がゴーレムを直接操作されているのですか?」
なぜか戸惑ったような表情で聞いてくるアシュリー。
「勿論そうですけど」
「もしかして、全てのゴーレムを、ですか?」
「ええ」
何言っているんだ? 当然だろうに。俺が動かさないで誰が動かすんだよ?
何もおかしな事は言ってない筈だが、アシュリーは信じられない! みたいな顔をしている。えっと、何かおかしいのか? クローディアも俺を見て『え?』みたいな顔してるし。
「セシリア様。ゴーレムは命令を与えて使役する物であって、直接操作するというのは、その、間違っている訳ではないのですが、多数のゴーレムを使役する場合それは魔力の無駄遣い、いえ、効率があまりよくないかと」
なっ……何だってー!




