勤労幼女
目が覚めた。石板を解除して、穴から顔を出して朝日を浴びる。あーたーらしーいあーさが……。
俺が起きているのに、まだグースカ寝ている狼。
安眠し過ぎじゃね? 野性の狼がそんなんでいいのか。
朝食の支度をしていると狼が穴から出てくる。
ふぁー、とあくびをした後、じっと俺を見る。
「お母さんごはんまだー」そんな声が聞こえてきそう。
狼と自分に洗浄魔法をかける。
しゅわしゅわしゅわ。しゅわしゅわしゅわ。
朝食を終えてギルドへ向かう。さぁ、勤労の始まりだ!
ハンターギルドのロビーは閑散としていた。
「おーす、セシリア」「よく来たな、セシリア」「飴ちゃん食うか?」
いらねぇ。飴があるのか、後で買いに行こう。
「昨日と態度が全然違うんだけど」
金髪たれ目の美人受付嬢に聞く。ぽってりした唇がセクシー!
「そうねぇ。治療魔法使いの機嫌を損ねるような人はいないわねぇ。治療してもらえなかったり、後回しにされたら困るのは自分だからぁ」
朝から幼女にセクシーボイスを聞かせてくれる受付嬢。
「ジュディは? 今日から仕事だって聞いてたんだけど」
ロビーには見当たらない。朝からじゃなかったのか?
「サブマスは朝から用事があるって言ってたわぁ。あなたが来たら昼過ぎから仕事の説明をするって伝えるように言われたの」
サブマス!?
「あいつ、サブマスターだったの!? 何で受付にいたの?」
「今、受付の人間が2人産休に入っていて手が足りない時があるの。そういう時はサブマスが手伝ってくれるの」
「産休多いな」
3人産休、さんさんきゅう。
「じゃあ、昼過ぎにくるわ」
ギルドを出ようとすると、薄汚れたハンターらしき男が急いだ様子で入ってきた。
「おいっ! 治療魔法使いはどこにいる?」
金髪受付嬢に迫る男。
「そこにいるわよぉ」
俺を指差す受付嬢。
「はぁ? 急いでいるんだよ! つまんねぇ冗談はやめろ! どこにいるんだよ? 早く言え!」
凄む男。ガラ悪いな。
「……そこにいるって、言ってるでしょう?」
声のトーンが低くなる受付嬢。キレるの早過ぎじゃね?
「お、おぅ……本当なのか? 子供じゃないか!」
「……ほんとうよぉ」
この受付嬢も何かヤバいわ。お近づきになりたくないタイプ。
「怪我しているのか?」
元気そうに見えるけど。
「俺じゃない! 俺の従魔がソードのダンジョンで大怪我をしたんだ!」
従魔? それに、ダンジョンだと!?
「それでソードの治療魔法使いに診てもらいたかったんだけど、怪我人が大勢出たから従魔は後回しだって言われて、シオリスのギルドに新しい魔法使いが来たって聞いたから、こっちへ連れてきたんだ!」
「そいつはどこに?」
「外にいる! 早く診てくれ!」
「わかった」
外に出る。「そいつ」はギルドの建物の裏手にいた。
「これは何?」
「トカゲねぇ」
受付嬢も一緒に来ていた。
外には大きな馬車? 運搬用らしき車が停められていて、そこから降ろされていたのは緑色の塊だった。
「トカゲ? この緑色が? 隣にいるのはトカゲに見えなくもないけど」
緑色の塊の傍には赤いトカゲモドキがいた。緑色の塊の様子を窺うような仕草をしている。
「こいつらは姉妹で、緑は血の色なんだよ。何とか助けてやってくれ!」
ほとんど緑じゃねーか。
「足や尻尾はどこにいった? 顔がどこなのかすらわからないぞ?」
ボッコボコだ。どっちが前だよ? よくこの状態で生きているな。
「足や尻尾は食われちまったよ!」
うーむ。これ、ヒールで治るかな? 足りない気がする。
部位欠損の場合はもっと強力な……ハイヒール? いや、「エクスヒール」だな。十倍ぐらいMPを込めたやつ。
隣の赤いトカゲの足や尻尾を見る。同じものを再生するイメージ……いける。
「エクスヒール!」
しょわ・しょわ・しょわ。
細かい光の粒が従魔の体を覆うように少しづつ増えていく。
全体を覆い尽くすと、ぎゅん! ぎゅん! ぎゅん! と足や尻尾が生えてきた! 成功だ!
胴体のボコボコしていた部分も再生されて、頭と顔がわかるようになった。
MP 66/80
10ポイント消費した。エクスヒールは凄いな。
「おおお、うぉおおお! 治った! 治ったのか!」
「たぶん」
「あんた凄いな! こんな魔法は見た事ねーよ! ありがとう! 魔法使い様!」
俺も見た事無かったわ。
「料金は……」
「あぁ、もちろん払うよ! いくらなんだ?」
「ヒールの場合は銀貨2枚らしいけど、エクスヒールの場合は……」
「はぁあああ? 安過ぎるだろ! 何でだ!?」
俺に聞かれてもなー。
「知らないし」
ギルドに聞けや。
「ちょっとあなたぁ。こっちに来なさぁい」
受付嬢が男の胸倉を掴んで遠くへ引っ張っていく。俺にダンピングがばれておかんむりなのか?
何か話している受付嬢。もう帰っていいかな?
「もう帰っていいわよぅ。はい、これ」
銀貨を1枚くれた。欠損した部位を再生して治療代が(暫定レートで)1万円は明らかにおかしいが、まぁ、いい。魔法が簡単過ぎて、むしろ後ろめたささえ感じるわ。
「ギルドの外でエクスヒールを使っちゃだめよぅ? わかったぁ?」
「了解です」
とりあえず従っておく。先輩? の指示には従うものだからな。
受付嬢と別れて町中へ出かける。昨日はあまり町を見物できなかったから、昼まで見て回ろう。
昨日の屋台へ行く。
「おはよう。ちょっといいかな?」
「らっしゃい! おう、昨日の子か。今日は何にする?」
「お任せで2つ」
「まいど!」
クレープを食べつつ、情報を仕入れる。
「この町には初めて来たんだけど、何か、気をつけないといけない事ってあるかな? 近付いちゃマズい所とか」
「そうだな、南はあまり治安が良くないから、ちびっこは近付かない方がいいな。北も内壁の向こうは『貴族街』といって領主様のお城やお貴族様のお屋敷がある所だから、そっちも近付かない方がいいだろう。後は特に無いな」
「わかった。ありがとう」
「おう」
中央で遊べ、という事だな。
中央の通りや市場を見て歩く。食材が豊富にあるな。
大勢の人で賑わっている売り場でレタスによく似た野菜を見つけたので手に取ってみる。
「これ、少し試食してもいいですか?」
「いいよ」
葉を少しちぎって試食するとキャベツの味がした。
隣に並べられているキャベツによく似た野菜を手に取って、同じように試食したらレタスの味がする……何でやねん。
両方買う。値段はどちらも銅貨1枚。安い……かな?
一通り野菜を買い込んだ後、中央通り沿いの食事処に入る。
そこそこ客が入っている店内は天井に謎の照明がついていて明るい。ギルドもそうだったけど、どういう仕組みなんだろう?
メニューがわからないので注文を取りに来た店員(男)に隣の席の客が食べていたハンバーグっぽい料理を指差して二人分注文する。代金は先払いで半銀貨。たぶん5千円ぐらい?
出てきた品はじゅうじゅう音をたてていて食欲をそそるぜ。肉にナイフを入れるとじゅわっと肉汁が溢れてくる。では、いただきます。ぱくり……ハンバーグそのものだな。美味い。キノコ(らしき物)のスープも味わい深い。
パンも1つついている。普通に白い。黒パンじゃないのか。
狼も一緒に食事をする事ができた。ちゃんと椅子の上に乗ってがふがふ食べる狼。
俺は料理はそこそこできるし知識もそれなりにあるんだが、このレベルの品が普通に出てくるのなら、この世界で料理の知識で無双します! なんていうのはできないかも。
昼食を食べ終わってギルドに行くと、ロビーでジュディが待っていた。隣に凶悪な顔付きの男が立っている。誰だ?
「早速だけど仕事の話をするわ。あなたには『ドラゴン討伐』に同行してもらいたいのよ」
「ドラゴン討伐!?」
何でやねん!? ギルドで治療の仕事をするんじゃなかったのか?
「出発は1時間後の予定よ。すぐに準備をして欲しいわ」
いきなり過ぎるだろ……幼女には過剰な仕事じゃね?




