プロローグ
暗闇の中で目が覚める。今、何時だ?
うーん。昨日はちょっと飲み過ぎたかな? うーん……途中から記憶が無い。
体を起こそうとしたら何かに頭が当たった。何だ? 目を凝らしてみる。よく見えない。
暗闇に目が慣れてくると、頭のすぐ上に何か、板のような物があるのが見えた。板? 何で?
手を動かしてみると、体の下には藁? のような物が敷き詰められている。
側面は……まるで土みたいな感触。……まさか。
ここ、土の中なのか? 俺、生き埋めにされている!?
慌てて上にある板を動かそうとしたら、すぐに動いた。意外に軽い……少しずれてできた隙間から外が見える。よかった、別に埋められていた訳ではなかった。
体を起こして「外」を見てみる。
「小屋?」
そこはさほど広くない、小屋のような建物の中だった。
板張りの壁には窓が2つあるだけで他には何も無い。1つだけ開いている窓(ガラスは入っていない)からは外の光が差し込んでいて、小屋の中は結構明るい。
下は床が無く、地面のままになっている。俺はその地面に掘られた穴の中にいた。穴の周りには藁が散乱している。
「どこなんだ? ここは」
見覚えの無い場所だし、そもそも何で穴の中で寝ていたのか意味がわからん。
それに、今の声……。
「俺の声なのか?」
何か、幼女みたいな声が聞こえるんだが。
自分の手を見る。小さな手。子供の手だ。何だこれ? 体は?
見下ろすと、そこにあるのは簡素で薄汚れたワンピースを身に着けた、ガリガリに痩せた子供の体。
「マジかよ……」
これは夢なのか?
穴の中から出て、地面の上に立つ。
この体は身長100cmぐらいだろうか。あまり大きくない。5~6歳といったところか。
もう一度手を見て、自分のものとは思えないその小さな手で体をあちこちさわってみる……女の子だな。俺、女の子になっている……ありえないだろ。
小屋の中を見回してみると……目に入るのは穴を覆っていた長さ1.5mぐらいの板と散らばった藁。(たぶん)木製のコップと皿、それにスプーン。
あとは土を捏ねて出来た何かの塊のような物。他には何も無い。
「事態を把握しなければ」
幼女の声だと奇妙に聞こえるな。
小屋の外へ出て辺りを見渡す。
外の景色は……「田舎の農村」みたいな感じ。畑っぽい所と平屋の家がいくつか見える。なぜこんな所にいるんだ? 俺。
村の中を歩いてみる。靴は無い。裸足だ。足の裏から土の感触が伝わってくる……それほど歩き難くはないな。
とりあえず目に入った近くの家にいくと、そこは廃屋同然だった。人、いるのかな? 家の外から声を掛けてみる。
「誰かいませんか?」
……返事が無い。家の周囲を回ってみる。
人が住んでいるような感じがしない。家の正面に戻って、閉まっていた扉を開いて中に入ってみる……中には何も無かった。空っぽだ。当然人もいない。
村の中の全ての家を見て回ったが他の家も同様に空っぽで、どこにも人がいない。この村にいるのは俺だけだ。
ここは「廃村」だった。
「マジかよ」
これは夢だと思いたい。