表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

4(卒業)

   *


「マリ。コハル。これ、どう思う?」

「どっかで聴いたような感じはする、かな」

「だな。新しい表現なんてない。ソースもライブラリも関係ない。出尽くしたんだ」

「分かった、認める」

 お。「ミサが素直だ」

「うるせー」

「で、表現なんて幻想だって?」

「でも、自分の手でやってみたいじゃん?」

「そっかー」

「そうなんだー」

「張り合いないな!」

 だってさぁ。「初めてだし?」

 そうだね。「初めてだからね」

「だからだよぅ、もっとさぁ、なんかさぁ、ないのかよぅ」

「はーい、ちょっとここでお知らせありマース。今更だけど、アタシ、ダブりなンだよね」

「ホントに今更だ!」

「だから相談所でなく訓練所かもしれない」

卒業(フィニッシュ)してないなら未成年だろ」

「……やめる?」

「さぁて、どうかな。大差ないと思うよ」

「いいのか?」

「イケナイノカ?」

「あんたは……何か凄いな」

「そりゃ、ふたりよりひとつ、お姉さんだからナ。反面教師にするンだぜ?」

「あははは」コハルちゃん、おかしー。

「でもさ、いよいよとなったら、最悪……最悪じゃん?」

「何かミサが寝言、云ってるゼ? 安心しろ、何も知らない無垢な聴衆も同罪になる」

 げー。「最悪過ぎて言葉も出ない」

「主犯は少し痛い目に遭うかも知れない、な? ミサ?」

「三人まとめて主犯だろ!?」

「アタシとマリは、せいぜい従犯か幇助で済むと思うナー」

「それもちょっと……あははは」

「おう、マリ。大丈夫だ。最悪の最悪は、この主犯だけ壇上に蹴り出すゼ?」

「なんだとぅ!?」

「うっさい。さぁ、マリ。どうする?」

「ちょっと怖いけど、いいよ。楽しいよ?」

「あーあ。やっぱ頭に来たかー」

「コハルちゃん、酷い」あははは。

「マリに期待したアタシが莫迦だった」

「分かった。もういい。腹ァ括るぜ!」

「ミサ、アンタみたいなの、何て云うか分かった」

「うん?」

「自由人」


   *


「あなたにはまだ早かったようね」

 一年前の人格の日、その前日に云われた。「もう一度、十三歳をして貰います」

 欠格事由の説明はなかった。

 ──大人になれないの?

「長期的視野に立って物事を見られることは、市民としての資質だと思わないのかしら?」

 コハルは承諾した。コハルは報告者(スティンカー)になった。そして今日。あの日を再現するように〝母〟と面談した。ねぇ、二度目の十三歳はどうだった? うまくやれた? 今度こそ児童期間を終えられる? 教えて、母さん。

「もう一度、十三歳を希望する?」

 コハルは落胆した。

「人類の目標はね、大人になることじゃないのよ」〝母〟は云った。「あなたたちは、安全で、健全で、幸福になるために生まれてきた存在。子供時代に目一杯楽しい思い出を作って、残りの人生を豊かに満たすのよ」

 ──それから?

「時計が止まって迎えの時間が始まる。幸せの集大成よ。ひとつはたくさんに。たくさんはひとつに。あなたもひとつに。たくさんのなかのひとつになる」

 ──ふたりは、どうなるの?

「あなたと同じ。更生と調整の予定よ。分解の可能性もあるわね」

 ──そうなんだ。

「お返事、訊きたいのだけれども?」

 ──少し、考えていい?

「もちろんよ。多いに悩んで頂戴」

 ──それが市民の資質?

「質問が多いわよ、おチビさん。ゆっくり眠って。今日のことは忘れて。目覚めたら新品同様の気分になるわ」

「分かった」コハルは云った。「分かったよ、母さん」

 満足そうな空電をコハルは肌に感じる。間違った答えを出さなかったことに満足する。そしてコハルは眠りにつく。胸の奥で鼓動は緩やかになり、引き伸ばされる。やがて止まり、静寂になる。そっと肉体が分解される。溶解される。個体は不適切と判断され、識別番号は欠番となる。それはやさしい母の嘘。疑うことを少女はしない。

 やがてスープ状の体組織は再構成され、少女は別の何かになる。


 ─了─

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ