2(鼻の穴)
*
「ロック? テクノ? なんだい、こりゃ」
「耳が痛いよう……」目が廻るー。
「うるさいだけだナ」
「フォークは違うんだってば。本当の音楽」
「そうかもな。けどこれは規則以前の問題だ。表現じゃない、暴力だ」
「コハルちゃん!?」
おっと。「ごめん。確かにミサの云う通りフォークはずっと……素朴? 素直?」
「だろ?」
うんにゃ。「相対的な問題」
「絶対的だろ!?」
「類似の分類は……カントリー? ケルティック? 変な名前ばっかだなァ」
「名前は関係ないだろ!?」
「公認ってモザイクかコラージュだよね?」
「公式ナ」
「モザイクとコラージュの違いって?」
「モザイクは素材を繋いだ物。コラージュは資材を再構成した物」
むぅ。「よく分からん」
まぁ。「よく分からンな」
「合成作品は?」
「分類、増えた!」
「やることには関係ないダロ?」
「むぅ」確かに。「そうだな」
*
「さて、ミサさん、マリさん。これがアコギです。楽器です」
「こんなデカイのを良くもまぁ」
「学習のためなら、とても理解がいいンよ」
「おやまぁ」
「あらまぁ」
「特にこれはミサさんご推薦のフォーク用だそうで。形状は伝統的で原始的。電気不要で、原理は単純、鳴らすの大変」
「難しいの!?」
「お手軽良けりゃライブラリで充分ダロ?」
「弦が六本……理にかなってる、のかな? 本物? 模造品? それとも……復元?」
「さぁ」別に違い無いじゃん?「他にも色々あったらしいンよ。小さいのとか四本とか」
「昔の人は指が四本だったの?」
「五本だよ」
「ちっとも理にかなってない!」
「十本指。片手に五本。足も使えば二〇本」
「六本じゃないのか」
「親指、ひと差し指、ふた差し指、中指、薬指、小指……」
「親に人差し、中指、薬、小指で添え指だろ」
「ふた差し指か添え指が怪しいな」
「親指を基準とするか、親指を除外するか」
「でも中指の位置が変じゃね?」
「真ん中に無いねー」
「偶数カ奇数カ」
「奇数って数学っぽくない?」
「あー、何か分かる何か分かる」
「偶数の収まりの良さよ」
「あー、そんな感じそんな感じ」
「結局、指の呼び方はどうなの?」
「中指の位置が違うのはおかしいと思う」
「もしかして、……切ってた?」
「如何にもありそうな考察きた!」
「ダナ。身体の改造ってかなり原始的な文化で、生まれた子供の身体の一部を切除や変形させたりするってのは珍しいことでなかったンだ。でもまぁ手口も道具も原始的。土人文化だ」
「うへー」怖いなぁ。「うへー」痛いなぁ。
「どっちにしても十二進数じゃないのは不自然だと思う」
「十本指って、十進法だったってこと?」
「時間、指で数えられないじゃん!」
「それくらい暗算しろよ……」
「なぁ。一週間って七日だよな? ……もしかして、指、もっとあったんじゃないか?」
「すべては無から始まった」
「なーにー?」
「ゼロがある。一から六にゼロを足して七」
おおお。「成程」おおお。「指は六本だな」
「腕も足も、二本は変らないよね?」
「二は素数だし、さもありなん? 目も二つ、耳も二つ、眉も二つで……鼻ひとつ?」
「鼻の穴は二つダロ」アホか。「でも、口が二つだったらどうなンだろな」ご飯も二倍?
「出口が二つになるだけだろ」
爆笑。
「縦に? 横に? どっちに並ぶの?」
大爆笑。
*
「実技に入る前にひとつ。芸術ってのはだいたい千年前に完成してる」
ほーん。「それから千年、何してたの?」
「ツギハギ。有り体に云えばモノマネだ」
ほーん。「それって楽しいのかなぁ」
「知らん。で、前近代。ゴタゴタが起きた」
ほーん。「なるべくしてなった的な?」
「そんな所だろうね。転後統治の中に組み込んで再編されて、適切な管理下になった」
「そりゃ良かった」
「そう良かった。だから音楽やることない」
「えっ」なんで?
「管理下にあるんだよ?」
「好き勝手していいなんて、そんな便利な都合がある訳ないダロ?」
「そっか。で、音楽やりたいんだけど?」
「ミサ、アタシの話、聞いてた?」
「あははは」
「じゃ、ちょっと見てろ。指で弦を弾くと──こんな感じ。で、右手で押さえると、」
「おおお」
「指を移動させると音色が変わる」
ほうほう。「音階ってヤツだな」
そうそう。「音階ってヤツ。で、弦をまとめて押さえると、ほら、な? いい感じダロ?」
「おおお」
「で、次にこうして……こうして」
「え、なに? どんな原理?」
「音を重ねる、つまり和算」
「和音だ!」
「理にかなった楽器なんだね」
おう。「マリ、良く出来ました。じゃ、次。右手を軽く添えて弦を弾くと、」
「なんだその音!」
「倍音っやつ。数学なンだよ」
「音楽でしょ?」
「音楽が数学なンだが?」
「解説どうぞ?」
「あははは」
*
「誰かに聞いてもらいたいって思っちゃったら指導が入るかな?」
「さぁナ」どうだろナ。
「ミッちゃん、簡単だよ」
「何が?」
「やってみれば分かるよ?」
「ああ」納得。「簡単だ」
「ちょい待ち。マリ、それ、手遅れ」
「あははは」ばれたー。
「では気を取り直して」こほん。「ご存知のように……ご存知でない方もいるようですが、」
「あたしのことかっ」
「ミサさん、お黙り。ここで誰とは追求しません」よござんすね?「現在、大抵の物は中央体が適切に管理、維持、保全に努め、適宜、要請に応えているわけです。転前も中央体の前身にあたる機構はあったンだ。作品ってヤツはどれもこれも一切合切、登録、管理されてた。転移の際に一部が失われたと云われてるけれども、まぁ、どうだろうね」
「大きな嘘は、分からない? のかな?」
さぁて?「ともかく、権利の不正を監視するのが目的だったんだけど、転後に、そもそも権利って何さ? となったってな按配」
「その権利が自由活動ってことよね?」
「……自由音楽かぁ」
「つまり、煎じ詰めるに妄想」
「大転移の、七〇年前は存在していたのにね」あははは。「信じられる?」
「どうかなぁ」
「七〇年後の自分は?」
「生きてるかぁ?」
「死んでないかもナ。だからって軀のあちこちを器官置換しても脳味噌ヨイヨイだからナ」
「つまり七〇年前も同じ、だね」
「成程」想像出来ん。
そう。「想像出来ない、出来やしない」
「あははは」
「さてさて。人数分の楽器、揃いました」
「予想外だったなー」
「云い出しっぺはアンタだろーが!」
「いやいや」だからって。「こうもトントン進むとは」
「まぁいい。マリ、いいンだね?」
「いけないの?」
「いや知らん。ミサは?」
「勿論、いいに決まってる」
「で、アタシの提案は? どう思う?」
「いいんでない?」
「いいと思うよ?」
「ホントに真面目に考えたンだろうな?」
「真面目も不真面目も意味ないだろ」
「大有りだぞ?」
「真面目に不真面目しよう?」
「……いいンか、それで」
「あははは」いいよいいよ、とってもいいよ。
「よし、じゃあ確認だ。保証番号書き換え前に、舞台に立つ。目標は人格の日」
「間に合わなかったら?」
「そん時ゃ黙って棒立ち四分三十三秒」
「なんでこれだけ非管理扱いなの?」
「こンなン誰が管理スル?」
「あははは」