1(突飛なこと)
変態:ラディカル律動ヴァイブレイション
「彩音やろう」ミサが突飛なことを云い出した。
「いいんじゃない?」コハルは軽くいなした。
「ちーがーう」ぷりぷりとし、「あたしが云ってるのは本物。音と光と魂を揺さぶる表現」
「ははは」ありえねー。「ははは」もう一度笑った。「ありえねー」
解放記録日の明けた窓の向う、空は初夏の眩しい日差し。
*
「週末にお出かけしたんだ」ぬふっ。「聞いて驚け、網の外だ」
「ふーん」
「コハルちゃん、もっと興味持って!」
「ないでしょ。調整区域なんて。一見さんお断りでなかった?」
「特に? 調整って念のため区域っしょ?」
「念のためは建前区域」
「確かに。手入れあった」
「遅かった! 何もかもが遅かった!」
「誘ったのはマリだけど?」
「優等生ちゃん、何してくれてんの!?」それで今日いないのか。いや、捕まっていたのならミサもいない筈。
「置いて来た」
吃驚する程お外道さん!「マリを生け贄に突飛な思いつきしちゃったかァ!?」
いやぁ。「はぐれたが正しい、と思う。でも、あの場にいたのなら、誰と一緒とか関係ないものが……あった!」
「一人で盛り上がってンじゃねェ!」
「あんたも行けば絶対分かる、絶対驚く! 魂、揺さぶられる!」
「……で、マリは今、何処におるとよ?」
「ここにおるよー」
「おう、マリ。オハヨ」
「コハルちゃん、おはよー。ミッちゃん、週末のお話?」
「マリも見たよな、電機動体」
「見た見たー」すっごい。「あははは」
すげぇなぁ、オイ。「どうだった?」
「かわいかったよ。こう、ちっちゃくて」
「〝市民を保護し、秩序を維持する〟」
「何それ?」
「標語」知らんのか。「メカトリアンのどっかに書かれてたダロ?」
「透明の楯に白い文字があったかな」
そうだっけ?「でもさぁ、あたしら未成年なんだよなぁ。市民じゃないんだよなぁ」
いやいや。「間一髪だったのは理解してるますよね?」シャレにならンよ?
「まぁ、訓練所見学と思えば」
「未成年は保護相談所ッ」
「どう違うのさ?」
「訓練所は市民用施設」
「じゃなくて。中身的なこと?」
「お行儀良くしてれば、特に。何も。ちょっとばかしお仕着せの休暇を過ごして、だいたいは直ぐ帰される。最短即日。保護者にも余程でなければ罰則ない。保護観察の携帯アクセサリ特典はその時々。けど、児童識別番号にはt印が入る。ただ、市民保障番号に切り替わる時には引き継がない、と云われてる」
「つまり大した問題じゃないってことだな」
「運が良かったと思わないンかい」
「あははは」
*
「ミサ、トーンって音楽でいいンだよな?」
「たぶん。フォークって云ってた気がする」
何だよ、たぶんって。「ミサは、ほんっとに適当だな。マリもそう思うだろ?」
「あははは」
「どっちにしても音楽ってのは勝手に出来ない。だよな、マリ?」
えっと、「幾つか団体があって、ちょっと待って……あ、出た。不正権利乱用監督組合と自由著作物管理機構に著作権利保全協会」
「面倒いな!」
「マリさんや、出張ってきたのは何方様?」
「全部?」
「マジかー」
あ、違った。「管轄は治安局で、公序良俗で……自由音楽が引っ掛かったんだと思う」
「自由って胡散臭いナ?」
「何もしないって意味だもんなぁ」
「自由罪ってあったよね」
「何したら捕まるんだ?」
「何もしないから捕まるンだが?」
「昼間っから目的もなくうろついてちゃ、そら捕まるわ」なははは。
「自由企図罪で捕まるか」うははは。
「無目的主義者だね」あははは。
*
「許可をとればいいんじゃないの?」
いや。「許可そのものが存在しない」
うん。「コハルちゃんの云う通り。独自の活動そのものがないの」
「なら勝手にしていいじゃね?」
「自由活動と判定されたらペケだっつーの」
「面倒いなぁ」
「面倒いよ?」
「あははは」
「そもそも勝手だった事がおかしかったンだ。公共福祉に健全育成。社会に自由は無用なの」
「ほーん?」
「……ミサ、アンタは歴史のテキスト、一ページも捲ってないな?」
「失礼な」
まぁいい。「確かウチに楽器的なものがあったと思う」古いけど。「音は出る筈」
「骨董品?」
「埃被ってたけど、大丈夫ダロ」
うぇっ。「汚いのかっ」
「贅沢云うなっ」
むぅ。「しゃーない。結局、来年度は十四になっちゃうからなー」
「未成年特権?」
「ちょっと嫌らしい嫌いはあるナ」
「何処が!? 何で!?」
「十三歳は特別でーすって、見方によっちゃ充分狡いダロ?」
「あたし、単純かなー」
「知らなかったンか!」
「別の云い方あるだろ!?」
「ご存知なかったンか!?」
「マリ! この意地悪なコハルちゃんに何か云ってやって!」
「あははは」