第4話 忙しさと暇つぶし2
ジーパンにTシャツという見てくれは街を歩く若者と言っても大差ないだろう。
別に、俺は中学生くらいの感じにも50歳ぐらいの人という感じにはとても見えない。
至って普通の街をぶらつく若者だ。
ただ、1つだけ違うところといえば今から仕事場へ向かっているということだ。
決まった所で仕事なんて滅多にない。
たまに2日、3日連続で頼まれることもあるが、そこまで。
次の依頼があるとしたらは3ヶ月ぐらいだろう。
それに仕事がない時だってある。そんな時は、ゲームセンターに行って1日中遊び呆けている。
俺が受ける仕事には色々種類あって・・・
「こんにちは。何でも屋の方ですよね?」
考え事をしながら、何かをすると時間が早く過ぎた感覚になると言うが、なるほどこんな感じか。
本来なら後10分は歩く気でいたがその10分は過ぎてしまったようだ。
家を一望すると、とても大きな一軒家で、6つは部屋はあるだろう。
「こんにちは。香さんでよろしいですか?」
「はい、私が香です。よろしくお願いします。」
「まあ、とりあえず中に入らせていただいても。」
「どうぞ、どうぞお入りください。」
社交辞令の匂いがする気がするがまあ気にするな。
社交辞令ほど、素晴らしい魔法はないしな。なんてったって初対面の人でもとりあえずの話が出来るからな。
ネットの依頼には、相談と書き込まれてあったが
どんな相談なのだろうか。
部屋の中は広く、ソファーの向かいにテレビが置いてありその間に大きなガラスの天板の机が置かれていた。
ソファーの後ろは、木の椅子と机が置いてあり、多分そこは食事などに使うのだろう。
その机の後ろにはキッチンがあり、それなりに広く、とても使いやすそうだ。
「椅子に座って待っててください。お茶を入れてきますので。」
俺はその中の木の椅子に誘導され、従って座った。
彼女は気を使ってお茶を入れてきてくれるようで、とてもいい人そうだ。
彼女はお茶の入ったコップを持ってきて、
「緑茶で良かったですか?」
答えた方が良く見えるから、
「ありがとうございます。大丈夫ですよ。」
と、軽く会釈をして俺は一口お茶を飲んだ。
すると、彼女はこちらを見つめ、
「本題に入りましょうか?」
と一言。
少しにこっと笑った目は惹かれるものがあり、今まさに見とれている最中だ。
見蕩れて固まっている俺を訝しげに見て彼女は、
「あのぅ、大丈夫ですか?」
「はっ!あ……だ、だいじょぶです。」
情けない返事をし終わったら、彼女はやれやれという感じで顔を振り、
「とにかく、今は仕事中です!」
なんて、怒られて目は覚めた。
あなたは、俺の秘書ですか?私、秘書は雇いませんよ?
このままでは信用はガタ落ちなので、あと怒られたくないから真剣な眼差しで彼女を見つめると、
「はぁ〜。やっとですか?」
呆れ顔で言ってきて、少し癇に障るが、どう見ても俺が悪いので俺は縮こまった。
「もう、早くしましょう。私の依頼は相談です。私の相談に対して、意見を言ったり、聞いてくれるだけで十分です。」
「は、はぁ。」
とてもわかりやすい内容で理解も早かったが、少し戸惑ってしまう。
じゃ、じゃあどうぞ………
この言葉が引き金となり彼女は早速、話をし始めたのだが、俺は地獄を味わうことになった。
これから先はずっと、彼女の話が続いていった。
最初の方は今の政治情勢について話しあったり、芸能人などの話もしたりした。
そして後半はずっと彼女の世間話や彼女の最近身に起きた事を永遠と一方的に話し続けられ、さっきの話し合いの方が可愛らしく感じてきた。
相談されるというか、話し相手にされただけっていう方が正しい気がする。
だから後半では、話し合いではなくただ言葉の羅列を聞いているのに近い状態だった。
今では、彼女が何を話していたかなんて言えっこない。
応酬を高く付けようと思ったが、やめておいた。
流石に可愛そうだからな。
しかし、彼女は俺の顔を見て、「ちょっと追加しておきます……ごめんなさいね。」と笑顔を見せていて、応酬を見ると、俺が請求した金よりそれなりに追加されていた。
なるほど、これが残業ってやつか。
因みに、4時間程度話をされたが内容的には6時間程度の話の濃さだった。
朝にする話じゃないだろあれ、絶対。
起きたあとでもないのに顔は引き攣っていて、今すぐにでも家に帰りたかった。
しかしそうとはいかず、俺にはあと2つ仕事があった。
せめて、この依頼最初じゃなくて最後にしてもらいたかった。ガチで。
若者の顔からすっかり仕事が終わったサラリーマンのようになってしまった俺はそそくさと、次の仕事場所へ向かった。