第3話 忙しさと暇つぶし
星の見えない都会でも、星に匹敵するほどの綺麗な夜景がある。
ビルの所々に見える光の一つ一つは星のように輝いて見える。
ただ、星とは違く、その光を生み出すには1人の人の"時間"が費やされている。
夜の0時を超えたあたりの光景を横目に俺はというと……
ベランダで夜風にあたっている訳でありまして。
まあ、寝付けなかったというのもあるけど、どちらかというと落ち着けなかった。っていうのが正直なところだった。
明日は朝早くから仕事があるっていうのにいいのだろうか。
椅子に座り、小さなコップに入れた酒をちびちび呑みながら頬杖をつきながら俺は考えた。
明日はどうしようか。仕事を終えた後は何をしようか。とりあえず左藤が寝る為のベッドを買いに行かなければならない。
俺は別にいいのだが、彼女に気を使わせたままでは良くないだろう。
それに…………
いや、今それを考えても意味は無い気がする。
聞かなければいけない時が来るはずだ。
けど…なんだか………ねむくな……き………た………
◇
◆
◇
「お……」
ん?なにか聞こえる。この声は、
「お………て」
「起きて、起きて!」
ひらいたり閉じたりする瞼を無理矢理開け、起きるとそこには左藤が俺を揺らしながら起こそうとしている姿が見えた。
よく眠りにつけたのか体が比較的軽い俺は、体を起こしながら彼女を見ると、とても焦った顔をしていて、
「どうしたんだよそんなに焦って。」
そう言うと彼女は呆れた顔をしてそれでいて焦った顔をしていて、
「あーもう、真吾君朝早いんでしょ!大丈夫なの?」
俺は、部屋に飾ってある時計を見ると6時半ぐらいを指していて、
「大丈夫だよ。仕事はもう少しあとだよ。」
彼女はそれでも焦っていて、
「ご飯は?ご飯はどうするの?」
このまま、寝ぼけていてもあまり俺の言うことに耳を貸してくれなさそうだ。
俺は、椅子から立ち上がって頬を叩いて、目を擬似的だが目を覚ました。
そして、見開いた目を彼女に向け、
「大丈夫だ!仕事は7時半から家を出れば間に合うから!」
少し大きな声で言うと左藤は、どっと疲れたように力が抜かれていくのが分かるくらいで、左藤は椅子に座り込んだ。
「そう。それなら良かったわ。」
そんな彼女の言葉からは脱力感が伝わってきたが安心している感じでもあった。
「まあ、ありがとよ。もしかしたらずっと眠ってたかもしれねぇしな。」
そう言うと、左藤は顔を赤らめていた。
どうせまた、あのツンデレテンプレワード言い出すんだろ?なんて予想をしながら彼女の様子を伺うと、黙ったままの状態から口を開いて言った。
「そ、そんな丁寧じゃなくていいわよ。」
そんな事を言う左藤はとても可愛らしかった。
まさかここでもそのロリロリっぷりが出されるとは。
なんか、子供が頑張って背伸びして大人の気遣いをやってみた、って感じだった。
頭を軽く、叩いて「気遣いありがとね」と、一声かけてあげたいがそんなことを言った日には、何をされるか分かったもんじゃない。
まあ、左藤の事についてはまだ分からない事だらけだ。
とりあえず、今は仕事までの準備をしよう。
準備といっても、最初は飯を食うのだけど。
「今から朝食作るけど、なにかリクエストあるか?」
「な、ないわよ。」
なぜ、言葉に詰まったかは置いといて、特にリクエストもないのならパンでいいだろう。
とりあえず石鹸を使い、手を洗った。
料理をするなら基本中の基本だ。
パンは焼いて、サラダを作ろうと野菜室からキュウリとキャベツとレタス、ミニトマトは、ザルの上に乗せ台所に置き水をチョロチョロと流しておいた。
その間に冷蔵庫を開け、卵を2個取り出した。
昨日は卵はなかったのだが、ここが何でも屋のいい所でもあるのだが、客に応酬を求める時に卵を50個という、少し、いやかなりおかしい応酬を求めることが出来る。
ふらいぱんを電磁調理器にのせ、すこしだけ油をかけ火を付けた。
取り出した卵は慣れた手つきで、十分に温まったフライパンの上で割った。
ジュゥワアァと、食欲をそそる音を立て焼いていく。
中火で一分ほど焼いたら白身が白くなってきたから、水を入れ、弱火にして蓋をした。
フライパンの中でこもっている音は今にも蓋を飛び出してきそうだ。
水をかけておいた野菜を無作為に取り、水でササッとそれでもしっかり洗い、必要な分だけ切り、あとは野菜室に閉まっておいた。
あらかじめ用意しておいた二つの皿に適当に野菜を盛り付けサラダは完成。
見た目はよく見るお手軽サラダって感じだ。
サラダが完成した頃には、フライパンで作ろうとした目玉焼きはいい感じの半熟だ。
今まで、料理を沢山やってきたから感覚で分かる。
さらに、焼きあがったパンを皿にのせ、パンの上に目玉焼きをのっけて、完成。
軽い朝食程度ならこのくらいの量でいいだろう。
左藤は、テーブルの方の椅子に座っていたので、一気に持っていくことはできなかった。
調味料が入った籠と箸も持っていき、
「お待ちどうさま。じゃあ、食べるか。」
「うん、いただきまーす。」
「いただきます。」
俺は左藤の向かい側に座っていたので、ご飯を食べることに夢中になっている彼女に自然と目が行く。
慌てて食べているようにも見えるが、それでも食べ方はとても綺麗だった。
親のしつけがいいんだろうなぁと、思いながら自分も食べ進めていく。
サラダは、箸で掴むたんびに水が飛び散り、みずみずしさが伝わってくる。
サラダにはドレッシングも何もかけていないが、とても美味しい。素材の味がいいのだろう。
目玉焼きをのっけたパンは、醤油をかけてかぶりついた。
そのパンはサクサク音を立てて、鼻に抜ける醤油が、最高に良い。
「ご馳走様でした」
「はい、ご馳走様でした」
10分かかるか、かからないかぐらいで朝食は食べ終わり、食器や調味料は台所に置いといて、次に仕事の準備をした。
上はロゴが書かれたTシャツ、下はジーパンという軽装に着替え服装はOK。
あとはスマホを見直し、今日の仕事内容を確認する。
いつも仕事にはパソコンを使っているが確認する時には起動が楽なスマホにしている。
時間はあと、二十分程度だが一応もう家を出よう。
楽な足取りで玄関に向かい、靴を履いた。
左藤もひょこひょこ付いてきて、多分俺を見送るためだろう。
「じゃあ、行ってくる。一応、俺の鍵渡しとくから。あと俺ちょっと遅くなりそう。8時くらいには帰れると思うから。」
「なるほど、今日は適当に過ごしているわ。それじゃあいってらっしゃい。」
「いってきまーす。」
そっけない返事をして、俺は家を出た。