第2話 日常の終わりと非日常の始まり2
彼女と一旦別れてから少し足速で、家に向かった。
空き部屋が2つもあるとはいえ、ちょっとは荷物が置いてあるし、1ヶ月に2回は掃除するとしても明日掃除しようとしてたので、ホコリがかぶっていると思うし。
家に帰ったら、もうとっくに陽は沈んでいて、家のベランダからは昼間とは全く違う風景を作り出している。
彼女には……というか彼女と言うのはやめよう。
せっかく自己紹介をしてくれて、名前を教えてくれたんだ、左藤って呼ぼう。
自室兼寝室の端にある掃除機を手に取り掃除を始めた。
俺が住んでるこの部屋はそれなりに広くて、まあ、安い。
玄関からリビングまでは一直線の廊下があって、玄関から見て最初に右側にはトイレだけがあり、次に左側に風呂と洗面所がある。
トイレと、洗面所が離れているのは面倒くさいがまぁそれもあって家賃が安いのだろう。
風呂がある部屋の先には1つ部屋があり、空き部屋でこの部屋はかなり狭いベッドと、テレビを置いてもう物はおけない状態になる。
そこからはもう、リビングに入り、リビングの右側にキッチンがある。
冷蔵庫と食器棚が置いてありどちらも中身はすっからかんで、奥にはウォークインになっている棚があるが、基本使わない。
左側には部屋が2つあり1つは、自室でもう1つは空き部屋になっている。
一応全ての部屋を掃除して、普通の人なら綺麗と言う程度で終わらせた。
見た感じ左藤は、お掃除マイスターって感じでもなさそうだし。
1回夕飯を作ろうかと思ったが、せっかく左藤が来るんだ、外食にしよう。
ピンポーン
そんなことを考えていると、インターホンがなった。
「おっ、来たか。」
のんびり歩いて玄関に進み、これから一緒に住む左藤にどういう挨拶をしようか考えながらドアを開けると――――――――
「ただいまー」
「おかえり」
つい、ただいまと言われ咄嗟におかえりと言ってしまった。
ただいまと言ったのはもちろん左藤だ。
恥ずかしい顔がバレないように澄まし顔で演じる自分に対して、左藤は頬を赤らめていて、恥ずかしい感じ?になっている。
とりあえず、たくさんの荷物を持っている左藤が見ていて辛いので両肩に持っている荷物を、片方だけ持って中に入れた。
とりあえず、左藤には俺が決めた部屋に入ってもらい、荷物を開いたりした。
因みに、家には布団はなく、俺が使っているベッドしかないので、左藤にはベッドで寝てもらって俺は椅子で寝ることにした。
「えぇーいいよー。私が椅子で寝るよー。」
「いいよいいよ。今日だけはベッドで寝ろ。明日からはどうにか2つ目の寝床を考えるから。」
「うぅ」
なんだか済まなそうな顔をして、渋々納得していたが、このまま納得していない顔を見せられるのも嫌なので、話を変えて、
「今日は外で飯食うか。俺が奢ってやる。」
無愛想にそう言うと、左藤は、さっきので気を遣わなくて良いと思ったのか、
「そうさせていただくわ。」
なんて言った。
さっきまでの申し訳なさそうな顔は何だったんだと感じさせるが、いちいち文句を言うのもあれなので、
「じゃあ行くか。」
といい、席を立った。
◇
◆
◇
自分の中ではかなり都会の方に住んでいると思うので、店なんかはマンションを出てすぐのファミレスで、ご飯を食べることにした。
他にも店の候補はあったのだが、左藤が何を食べるか分からないので、とりあえずだ。
店に入ると子供連れの家族がいる中で、俺たちは周りから見たら間違いなくカップルと思われるだろう、と思った矢先
「私たちカップルみたいだね」
なんて言いだした。しかも、自分で言ったのに顔は赤い。
しかし、家族連れの客がいる中でも、3割程度はカップルだったり女同士、男同士でご飯を食べる客もいるので俺はいつも通りだった。
とりあえず選んだ席に腰掛け、その向かいに左藤が座る形となった。
「とりあえず、頼むか。」
「何にしようか迷うなー。何たってあんたの奢りなんだから。」
少し楽しそうにメニューを見て選んでいる左藤を見ると――――――
とても子供っぽい。
まあそれもそのはず、彼女は148cmという低身長の持ち主なのだから。
今思うと、カップルというよりかは親子なんじゃないかと思ってしまい、
「カップルというよりかは親子だなぁ」
なんて益体のないことを呟くとそれに反応して、
「私が子供かな?」
と言ったのだが、彼女の目は笑っていなかった。
たぶん、これは鬼がジョークを言うとこんな感じなんだろうなぁ、と感じさせる表情で俺はつい顔を背けてしまう。
「それより注文は決まった?もう頼むわよ。」
「あ、あぁ。決まったよ」
「すみませ〜ん」
いや、ボタンで呼べよ。と突っ込みを入れてしまいそうだったが、直前で踏みとどまった。
それでも、店員は来たので
「ご注文は何に致しますか?」
「私はナポリタンとクルトンサラダで。」
「じゃあ俺はマルゲリータと、ハンバーグと、パンを1つで。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
と、1連の注文を終わらせて店員が厨房に行こうとするところを見つつ、
「本当は何で俺の家が分かったんだ?匂いなんて犬でもあるまいし何か他にも手掛かりがあったんだろう?」
と、気になっていたことを質問した。彼女は、
「そうねぇー……魔具を使ったんだけど、どの魔具を使ったか分かる?」
「人探しの魔具だろ?そうだなぁー。人探しの塊とかか?」
「よく分かったわねぇ。」
彼女は関心したようにいうがこれは結構有名だぞ。
「こういう類の魔具はあらかた覚えているんでね。けど、俺の存在なんて知ってたんか?」
「人探しの塊は、探したい本人じゃなくても、大雑把な人探しでも使えるのよ。」
「そういやそうだったな。なんだっけ、大雑把に探す時は近くにいる奴から表示されんだよな。よくそれで、俺を見つけれたな。俺を、当てるの難しかったんじゃないのか?」
「いや、そうでもないわよ。人間とか、異種人とか、そういう感じだったら探すのは大変だけど……あなたとか、私みたいな混合種はまず珍しいのよ。」
よく考えればそうだ。けど、
「親がどちらも異種人で、産まれた子供が混合種っていうのは珍しすぎだろ?もしそうじゃないなら―――――――――――」
「お待たせしました。」
言おうとした時に、店員が来てしまった。
タイミング悪いなぁ。
「わあー。美味しそう!」
左藤は頼んだナポリタンとサラダを前にとても嬉しそうだ。
駄目だ…やはり子供にしか見えない。身長のせいでどう見ても子供だ。
店員は左藤が頼んだ料理を運んだ後、すぐに俺の頼んだ料理を持ってきた。
「な、なんか量多いね。そんなに食えるの?」
「当たり前だ。いつもこんくらいだよ、男舐めんな。」
「まぁ、確かに男はそのくらい食べるかー。見た目も見た目だしねぇ。」
いや、どういう事だよ。身長が少しでかいからって、たくさん食べるとは繋がらないだろ。
「じゃあ、とりあえず食べるか。」
『いただきまーす。』
「あっ」
二人とも声を合わせて言ったので、少し恥ずかしい。
彼女の顔を見ると、顔が赤らめていて、恥ずかしがっている。
なんというか、可愛らしい。
恥ずかしがって、縮こまっている彼女を見るとなんか、守りたくなる。
そういや、俺は左藤って呼ぼうと思っていたけど、本人はどう思っているんだろう。
「なあ、俺さぁーお前のことなんて呼べばいいの?」
「へ?あ…いや……左藤でもいいし、べ、別に愛実って呼んでもいいんだからね!」
たぶん、突然の質問だから答えが少し面白い。というか、かわいらしい。
「何だその、ツンデレキャラのテンプルワード。」
「い、いやそんなんじゃないし……」
「まあ、ツンデレキャラっていうよりかは頭の抜けてるドジっ子キャラだな。」
「もー、そんなんじゃないよー」
頬を膨らませ、そっぽを向いたが、リスみたいでかわいい。
「まあ、左藤って呼ぶわ。」
「じゃ、じゃあ私はアルマデルって呼ぶの?」
ちょっと半笑いで左藤は言うもんだから、なんだか悔しい。
「俺は一応ハーフだけどどっちかと言うかと人間寄りだろ?だから真吾でいいよ。横文字で呼ばれると恥ずかしいし。」
「分かった。そうする。」
一応、ご飯を食べているので、自然と無口になる瞬間があるがなんだかんだ言って話は続く。
「左藤さぁ、俺と一緒に住むのはいいんだけど、仕事はどうするんだ?もしかして無職か?」
彼女は呆れた顔をして、
「あのねぇ私だって何個か仕事場所は探してあるの。まあ、明日すぐは無理でも今週中には仕事を探すわよ。」
因みに今日は火曜日なのでそれなりに時間がある。
もし、無職のまま住むなら俺は、断固として家に入れさせない。
「どんな所で働きたいんだ?できるくらいのことなら手伝ってやるよ。」
「本当に!ありがとう。じゃあじゃあ私はあなたと一緒に働いていいかしら?」
突然の、同業者発言が出たが今日の同居発言に比べればなんてことは無い。しかし、
「本当に俺と一緒でいいんだな?色々な仕事を任されるぞ?力仕事とか――――――」
「大丈夫!それに二人でやった方が早い依頼もあるでしょう?」
「ま、まあ、確かに。」
彼女にしてはまともな事を言うもんだから、言葉が詰まってしまった。
「じゃあ分かったよ。ホームページに同業者のことも記載しておくから。でも、四日後ぐらいから働くことになるがいいよな?」
「いいわよ。その間に色々自分の事とかやっておくから。」
自分の事?だってそういうのを全部終わらせてから来たんじゃないのか?
そして、好奇心に駆られた俺はその事について聞きたくなったがすんでのところで止まった。
ここで質問するのは野暮だ。それに、相手の事情なんて俺には聞く権利なんてないし、相手も言いたくないだろう。
まあ、とりあえずは今ここにある美味しいご飯を食べよう。
今までの考え事は全てぶっ飛んだ俺はナイフとフォークを持った。
◇
◆
◇
それからは世間話などの益体のない話を続けながらご飯を食べた。
会計はもちろん俺なので彼女には待ってもらった。
しかし、あの店員会計の時俺たちを見るなり、
「次回からお使いに出来る、カップルクーポン券でございます。またお越しくださいませ。」
なんて言ったもんだから、左藤は顔をめっちゃ赤くするけど何も言わないからもっとそれっぽくなってしまったし。
あの店員は営業スマイルをしていて、というかあれは営業スマイルじゃなくて心からの笑顔だった。
「は、はぁ」
断ってもいいのだが、あの店員の笑顔を見せられたら断りようにも断れない。
クーポン券を受け取ってあっけに取られた顔をして二人並んで出てきたら左藤が、
「何で、あそこで断らないの!」
と言い出したがなんだか嬉しそうだった。
たぶんよっぽど男を異性と感じてなくて、大人になった今、意識し始めたのだろうか。
それとも、俺に行為を寄せているのだろうか?
まあ、それはありえないだろう。こんなに無神経で、あまり人のことも考えないでいるし。
けど、これから一緒に住む相手だ。多少は女ということを意識した方がいいのだろう。
女というよりかは子供だけど。
しかし、そうなると俺はただのロリコンではないか。
一生ロリコンという肩書きを背負って生きるのは嫌だ。
しかし、さっきの彼女を見ると身長の低さをコンプレックスにしているように見えた。
無闇に身長が低いとか、小学生とか言ったらどんな目にあうだろうか。
そんな事を考えて、家路を左藤と歩いていると――――――――
んなっ!何をするんだこの小娘は!
突然俺の腕に飛びついてきて、腕を組み始めた。
彼女は自慢げにこちらを見て、
「恋人っぽいかな?」
と言ってきた。
これは……やばい
自分の理性が今にも失われそうなので、早歩きで家に向かう。
幸い、家は歩いて2分もかからないのですぐに家に着いた。
「ほら、一旦どけ。」
彼女はムスッとして腕を話した。
俺は家の鍵を出すためにポケットに手を突っ込み鍵を出した。
これからこんな奴と一緒に住むのか。先が思いやられる。
けど、そんな中でも彼女のことを知りたがっている自分もいて。
なんとも言えないもやもやを心の中にしまった。
とりあえず、今日はもう寝よう。少し早いかもしれないが明日の仕事が朝早くだからな。
ガチャッ
俺はドアを開け中に入り、それに続くようにして左藤も入り、声を合わせて、
『ただいまー!』