予期せぬ暴力は当然ながら避けにくい
自分の脳内での妄想をつらつらと書きました。
なにぶん文章力がなく、拙いものではありますが自分にできるかぎり精進していく予定です
一言で言うなら、僕はリンチを受けていた。
リンチの理由は些細なものだった気もするが、よく覚えていない。まぁ、理由が知れたところで僕がリンチから解放される訳でもないし、追求しないでおこう。
結論から言うと僕は不良達に絡まれ、路地裏に連れ込まれた後、不良の一人の放ったパンチ一発でダウンしてしゃがみこみ、そこから囲まれて数人がかりでの全方位攻撃をされるハメになり、今に至った訳である。
我ながら自分の弱さに嫌になるが、六人が相手ではどの道この状況になるのは明白だ。今僕に必要なのはこの事態の打開ではなく、如何にしてこの暴力の連打から身を守るかだった。
ひたすら殴られ、蹴られ続ける身体的苦痛と、蔑まれる精神的苦痛で涙を流しながら、ダンゴムシのように身体を丸め、ひたすら時を待った。連中が暴力行為に飽き、僕を解放してくれる瞬間まで待つ、それがこの状況の唯一無二の対処法だ。
連中も僕を殺す気はないだろうし、ほどよく痛めつけたら解放してくれるだろう、僕はそう思っていた。
しかし今回は終わらないし止まらない。飽きるどころか次第にエスカレートしていく暴力、僕は息も絶え絶えで、もはや悲鳴すら満足に出ない。
散々蹴られ、ボロ雑巾のようになりながらコンクリートの地面をのたうち回る。あらゆるところが打撲によって腫れ上がり、痛かった。
「たすけーー」
“助けて”と、精一杯絞り出した声は、自分でも驚くほど小さく掠れていた。当然ながら、その声が誰かに届く事はない。
くそが、こいつらに、僕の、屈辱を、苦痛を、味あわせてやりたい。罵声を浴びせ、蔑まれる屈辱を、腹を蹴られ、顔を殴られる、苦痛を、オマエラにーー。
「やれやれ、その辺にしておけよクソガキ共」
路地裏に、不良のものではない声が響いたのはその時だ。
カツン、とヒールがコンクリートを叩く音が響く。僕は殴られてボコボコに腫れた顔を上げ、声の主を見た。
「物事には限度がある、越えたら戻れない一線がある。君達はそれを踏み越えようとしている。それも無自覚にだ」
美人だ。そうとしか言いようがない。長身で手足がすらりと長いモデル体型で、映画やドラマに出てくる女優になんら劣らない美貌を持っている黒髪長髪の年若い女性。服装は何故か白衣だが、その強烈なまでの美貌が白衣という場違いな服装をファッションの領域へと昇格させていた。
「まぁ、早い話が君達をこらしめる。拒否権はないんだがよろしいかな?」
白衣の女性は宣言めいた言葉と共にニヤリと笑った。明らかな挑発に、エベレストの頂上並みに沸点の低い不良達は当然キレる。俺への暴力はピタリと止まった。止まったというよりは、ターゲットを変更したのだ。
「や…………やめろ!やるなら僕をやれ!」
僕の叫びは虚しく響くだけだった。
1対6、女性と男性の身体能力、体格の差というハンデキャップ、勝てる訳がない。
これから起きる暴力、そして予測される最悪の事態に僕は思わず目を閉じ、顔を背ける。
そして……こんな路地裏に助けなど来るはずもなく、暴力が開始された。
僕に出来るのは、この暴力が早く終わること、女性が無事であることを神様に祈ることくらいだ。
「がっ」
路地裏にやたらと野太い悲鳴が走った。目を閉じていても男のものだということがわかる。僕は恐る恐る目を見開き、目の前の参上に絶句した。目の前に倒れているのは六人の不良達、そして何事も無かったように立っている一人の女性。
暴力は一瞬で終わった。
一言で言うなら瞬殺だ、僕は肝心のシーンを目を閉じていて見逃すという失態を犯してしまったが、結論だけは言える。
暴力を受けたのは不良達六人で、暴力を振るったのは白衣の女性らしい。
「一瞬で片付けてしまった……
もう少し加減すべきだったかな。私は接待プレイがどうにも苦手なんだ、かといって雑魚に必殺技を放つような鬼畜でもないんだがね」
白衣の女性がため息をつきながらこちらに近づいてくる、息を乱すことすらしていない。
……僕が目を閉じている間に何が起きたんだ?不良達がその場から吹き飛ばされたことはなんとなくわかったが、この細身の女性が一瞬で不良達を倒したのか?
「え?私の技を見てなかったのかい?
自分で言うのもなんだがカッコ良かったぞ!ブルース・リーに匹敵するくらいだ!」
白衣の女性は自画自賛をした後、心底残念そうな表情をした。
「……何をしたんですか?」
「白百合百烈拳だ、1秒間に100発の拳を撃ち込んだ、ちなみに白百合は私の名だ」
「……はぁ」
「嘘だよ!痛い人を見るような目で私を見るな!私も自己紹介したんだから君だって自己紹介しろよ!」
なんなんだこの人。というかサラッと自己紹介したぞ。白百合というのは偽名なのか本名なのかわかりかねるが、こちらも一応自己紹介しておこう。
「僕の名前は霧……」
「言わなくて良いぞ!君の名前は霧島アキラ17才高校二年生だ、これは知ってたからな
。
それとものすごくケンカが弱い、これはさっき知った」
「ぐ……なんなんですかあなた」
「なんなんですか?
それは難しい質問だな、自分が何者かを見つける事が哲学者にとっては生涯の課題だと思うんだがね、私は哲学者じゃないがね」
「僕が聞きたいのはそう言うことじゃなく……」
「わかってるわかってる、私の職業とか性別とか年齢とかブラのサイズとかのプロフィールを知りたいのだろう?
是非とも教えてあげたいのだが今はここから離れるのが優先だ、救急車とパトカーが来るからね」
地面でのびている不良達を指差し、白百合さんは面倒くさそうに呟いた。
どうやらここに来る前に手配をしておいたのだろう、遠くからけたたましいサイレンの音が近づいてくる。
「さて、立てるい?」
白百合さんが僕に手を差し伸べる。
六人を一瞬で戦闘不能にした人の手とは思えないほど柔らかく、いつまでも触っていたくなるような感触の手の持ち主は、僕を見てニコリと微笑んだ。
僕は立ち上がろうとするが、膝に力が入らずにバランスを崩した。
「あれ……?
体に力が……」
「大丈夫かい?眠たいなら眠っても構わないよ、おぶっていくから」
リンチから無事生還できた安堵がどっと押し寄せた結果、どうやら意識を失いそうになっているらしい。
まぁいいか、驚異はとりあえず去った訳だし、すごく眠い。一休みしよう。白百合さんが何者なのかとか、何故パトカーから逃げる必要があるのかとか、何故僕のことを知っているのかとか、聞きたいことが山ほどあったが、僕は休息を優先して意識の手綱を手放した。白百合さんが、僕に、何か、を、語りかけているのだが、聞き取れ、ない。
真っ白い闇が、僕の意識を塗りつぶしていった。