決戦!伝説との戦い
「起立。気を付け、礼。」
愛未の掛け声に合わして、ありがとーございました。と教室中に響き渡った。
「んじゃあ華咲、石垣、明日の九時に<始まりの地>でな。」
堅人が愛未と千幸に声を掛けた。それに対して二人は堅人に返した。
「じゃあね。堅人君。」
「明日の九時にね。明日は絶対裏ボス倒そうね。」
「おう。」
堅人は短く返事をした。千幸は、その短い二文字に堅人の絶対クリアするという思いが込められていることを感じていた。
家に帰って、堅人は<ドラゴン・ハント>にログインした。
「すみません。これの強化をお願いします。」
ケントが<暗黒鬼>と<オリハルコン>を出してそう言うと武器屋のNPCが、
「はいよ。五段階強化で良いのか?」
「はい。それでお願いします。」
伝説の伍器の強化になると滅多に手に入らない金属<オリハルコン>が必要となる。といっても鉱遺跡のボス、<グランドメタルドラゴン>の最大アタックボーナスなので、一人で行けば一週間で七ゲットすることができる。もちろん他のパーティーが攻略しなかったらの話になるが。
武器強化が終わり、ケントは<フリー・ウィング>にある自分の部屋に戻ってアイテム整理をしていた。
ケントのアイテムボックスにはあまりアイテムは入って無かったが、明日が裏ボスに挑戦となると念入りになるのも頷ける話である。
アイテム整理が終わり、ケントはログアウトした。
翌日になり、時計の針が九時を指していた。
ケント逹は<始まりの門>の前にいた。ボスは普通、遺跡や洞窟の最深部に生息している。しかし裏ボスとなると少し違った。裏ボスは<ドラゴン・ハント>という世界の最深部。地球で表すとマントルが位置する場所である。移動手段は門を使って行くことができる。勿論、仮想世界なので裏ボスエリアが熱いということはない。
門を潜りケント逹は裏ボスエリアに移動した。
「薄暗い所だな。」
マックスがそう呟いた。
「まあ、地下ですからね。」
ケントはそう応え、
「じゃあ、扉を開けるよ。皆、絶対勝って帰ろうな。」
と続けた後、扉を開けた。
扉を開けたケント逹の前には黒き大きな翼を広げた、<邪神龍ダークフルドラゴン>の姿があった。<ダークフルドラゴン>のレベルは80を記していた。これは本来攻略するのに、レベル80以上のプレイヤー20人は必要となる強さである。
しかし攻略に参加しているのは、レベル40のマックス、レベル48のミエ、レベル50の千幸、レベル54のレナ、レベル56の恭哉、レベル84のK、レベル62のケントだ。普通に考えると攻略は不可能だった。しかし皆の目は、顔は、諦めてなかった。最強のKが参加してるからという心強さ、そして最固のケントが守ってくれると安心感が彼らの心を支えているのだった。
「『ライト・レンズ』」
ミエがそう口にした。『ライト・レンズ』とは暗視スキルで、効果はパーティー全員に適応される。
「サンキューな。ミエ。」
ケントが短く礼をした。それを見てミエが微笑んだ。
「<グラビティドロップ>」
Kの声が響いた。と同時にKが放った必殺技が<ダークフルドラゴン>の角に命中する。
「やっぱりか。」
<ダークフルドラゴン>の反応を見てKはそう呟き、
「こいつの弱点は角だ。隙があれば狙ってくれ。」
と皆に届く声量で言った。
それから四十分くらいたって、<ダークフルドラゴン>のHPが残り三割くらいになった時だった。
「おい。全方位攻撃が来るぞ。皆構えろ。」
Kがそう叫ぶとケントが、
「いや、防御態勢は必要ないです。それより余裕がある人は俺の回復を準備して。」
と言い<ダークフルドラゴン>の攻撃にタイミングを合わして、
「<パーフェクトシールド>」
と叫んだ。
<パーフェクトシールド>とは盾持ちの必殺技で自分の全HPの三分の一削ることで相手の攻撃を無効にできる。その効果範囲はパーティーメンバー全員である。
「おお、スゴいな。」
Kが感心したように頷く。
「ちょっとまってて。」
レナはそう言ってケントに回復結晶を使ってくれた。
「サンキュー、レナ。」
ケントは短く礼を言った。
それから二十分が経過し、<ダークフルドラゴン>のHPも残りわずかになっていた。
「ケントさん最後決めちゃってください。」
恭哉がそう言い、皆も次々に頷く。付け加えてミエが、
「ケント君が守ってくれたお陰で、皆消滅しなくてすんだんだしね。」
と微笑んだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
そう言ってケントは武器を構えた。
――真の防御は最強の攻撃への基点となる。
――真の仲間思いは信頼に変わる。
――そして真のプレイヤーは無限の可能性を秘める。
「<フィニッシュブロウ>」
ケント渾身の一撃が<ダークフルドラゴン>の残りHPを0にした。
<ゲームクリア>と視界に表示された。しかし、<ダークフルドラゴン>は消滅しなかった。不思議に思いながらもケント達は武器を構える。すると<ダークフルドラゴン>が、
「我を倒すとはな...。まずは、おめでとう戦士達よ。しかしこれでゲームが終わった訳ではない。これは私からのプレゼントだ。」
と言い、ケントの視界にプレゼントマークが表れた。それをタッチすると<ダークフルドラゴン>の姿が消え、<ダークミニドラゴン>と記されたモンスターが出現した。ミニと言っても全長四メートルぐらいはある。
「っ!」
再びケント達は武器を構える。すると<ダークミニドラゴン>が、
「これからは我が貴様らの翼となろう。アイテム覧を見てみるがよい。」
と言うので、ケントは自分のアイテム覧を表示した。すると、一番下に<ダークミニドラゴン>というアイテム名があった。
「これからは好きなときに呼び出すといい。」
<ダークミニドラゴン>はそう言って姿を消した。
「ケント、対戦しようや。真の強者をかけて。」
そう言ったKの目は真剣だった。ケントに断る理由もない。
「良いですよ。もちろん本気でいきますけど。」
「望むところだ。」
Kはそう返事をして対戦を募集した。そしてケントはそれの参加ボタンを押した。
3、2、1、スタート!
しかし二人とも動かない。時間無制限なのに動かない二人を見て恭哉達は不思議そうな顔をしていた。
十秒くらい経ち、先に動いたのはKだった。
ケント目掛けて降り下ろされたKの剣は盾に弾かれる直前で振り上げる形でケントの態勢を崩した。
続けて振られるKの剣をケントはバックステップでギリギリ躱した。が、その後放たれた<スカーレットライン>は躱しきれない。ケントは咄嗟に盾を前に出した。
盾と剣が直撃するタイミングでケントは盾を前に突き出した。
「っ!」
Kは焦ったような表情を浮かべる。HPが減ったのはKだけだったからだ。しかしその時のKは冷静だった。
盾を突き出したケントの右に跳び、ケントの横から一撃を喰らわした。ケントは慌て後ろに下がり、<フィニッシュブロウ>を発動する。KのHPはカウンターを喰らった為残り四割まで減っていた。レベルはケントの方が低いとはいえ強力な<フィニッシュブロウ>なら倒せるとケントは確信していた。もし、HPが一でも残ればケントの負けが決定する。KのHPは徐徐に減っていき、0になった。
「よしっ。」
ケントは小さくガッツポーズをした。
「Kさんはもう<始まりの地>」にいるだろうし、<帰還結晶>で戻ろーぜ。」
ケントが提案し、ケント達は<始まりの地>に移動した。
「強くなったなケント。」
Kに誉められてケントは、ありがとうございます。と返した。
するとKが、
「良かったらワシも<フリー・ウィング>に入れてくれんか?」
と言った。それに対して千幸は、
「良いですけど<サラマンダー>はどうするんですか?」
と返した。
「レベルあげを手伝う代わりに<サラマンダー>のギルドを使わしてもらってただけで入ってた訳じゃないんだよ。」
Kはそう言って<フリー・ウィング>の登録手続きを終わらせた。
「じゃあ、洞窟でも攻略しましょうか。」
恭哉がそう提案した。
「それいいな。」
「賛成ー。」
「レベルが高いところにしようぜ。」
「うん。行こう。」
皆同意して、近場の洞窟に向かった。最強ギルド<フリー・ウィング>の戦いは終わらない。