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ギルド(その1)

 天井から降りて部屋を出た後、俺は3人組と向かいの部屋を取り、1人寂しく一夜をを過ごした。


 翌日、夜の間は特に異変は無かったようで、今日も朝から晴天。絶好の監視日和だ。


 3人組はどうやらシュンヤが前日に『この世界には冒険者ギルドがあるらしい』という情報を手に入れていたため、まずは冒険者として登録しに行こう、という事になっている。

 今はその道中、後ろからストーカーもとい監視をしているところだ。


 ここ王都セントラグスはライオット王国の首都にあたる。

 現在ライオット王国は隣接するベルセン帝国やポロック法国、アルメン連邦との関係は良好とは言えないもの戦争状態にはなく、比較的平和な国である。


 そんな王都セントラグスは多種多様な人種ヒューマン亜人種デミヒューマンが住む都市であり、毎日がお祭りのように活気あふれる場所だ。

 メインストリートには所狭しと軒を連ねる店々と多くの行き交う人々。客寄せの声や値切り交渉の声、時には冒険者の身なりをした荒くれ者の怒号などが飛び交い、喧騒の限りを尽くしている。


 3人組は東京育ちで群衆には慣れているものの、活気がありすぎてむしろ暑苦しい雰囲気に圧倒されているようだ。

 珍しい人種や品物ばかりで目移りし、何度も人にぶつかりながらもメインストリートを街の中心部に向かって歩いて行く。


 メインストリートを抜け、市場の喧騒が

遠退くと、道行く人は物騒な装備をしている筋骨隆々とした野郎に比率が偏ってくる。彼らの目的地は外壁からも容易に見える巨大な施設ーー冒険者ギルドだ。


 王都セントラグスひいてはライオット王国の冒険者を一手に引き受けるこの施設は王城にも負けない規模であり、有事の際は堅牢な砦として機能する重要施設だ。


 無駄な装飾は無いがその大きさ故に荘厳さを感じさせる入口を抜けると、冒険者、ギルド職員、商人や鑑定士が合わせて数百人が忙しくしている。


 正面にずらっと並ぶカウンターには早朝だというのに長蛇の列ができている。つり下げられた看板には『クエストカウンター』の文字。冒険者がクエストを受領したりクエスト達成を報告するカウンターだ。

 それとは別に3人組のお目当ての冒険者登録カウンターは入ってすぐ左側。幸いなことにクエストカウンターと対照的に誰一人として並んでいない。


 カウンターは合計3つあるが1つは空席だ。

 左のカウンターは眼鏡をかけたクールビューティーなハーフエルフ。耳の先がツンととんがっていて翡翠色の髪の毛が美しさに拍車をかけている。

 右のカウンターは白髪で無精髭を生やしたドワーフのオッサン。ドワーフにしてはかなり大柄でドッシリしている。それとオッサンの方からは酒の匂いが漂ってくる事を付け加えて置こう。


 3人組は"せっかくだから俺はハーフエルフの姉ちゃんを選ぶぜ"とばかりに自然と左のカウンターに進んだ。

 俺は残ったオッサンのカウンターに進み冒険者登録をする。


 何故俺が冒険者登録をするかというと、単純に食い扶持を稼ぐ為だ。

 いくらかの金銭は持っているが、任務完了まで年単位で時間のかかる監視官の仕事。本部から仕送りを要求する訳には行かず、監視任務中は必要経費は基本自分で稼ぐ事になる。

 監視しながら稼ぐとなると大変そうに聞こえるが……実際大変。しかしそれが出来るからこそ監視官に選ばれたのだ。

 監視官は例外なくその程度の強さを持っている。


「オッサン、冒険者登録を頼みたい」


「……あぁ?なんだい兄ちゃん。冒険者登録かい。……ウップ。この紙に必要事項を書きな。……出来たら持って来い。……ゲプ」


 明らかに酒のんでるなこのオッサン。足元に一升瓶置いてあるし。こんなのがギルド職員でいいのかねぇ?


 俺はハーフエルフの丁寧な説明を横目に紙に記入していった。


名前:クロウィー リューク

種族:人種ヒューマン

年齢:20歳

戦歴:なし

賞罰:なし


 名前は黒井龍をもじってこの世界の名前っぽくした物だ。

 文字は異世界語で書かなければならなかったがパッシブスキル【自動翻訳=オート・トランスレイション】で不都合な事はない。 3人組の方も異世界召喚の際に施した『最適化プログラム』のおかげで言語に関して困ることはないはずだ。

 空欄を全て埋め、3人組より一足先に冒険者登録用紙を提出する。


「オッサン、書き終わったぞ」


「…うい。ご苦労さん。……ウプッ。後でランク認定試験があるんで、そのまま横で待っとけ……二人でパーティーを組むんなら……ヒック……パーティーランク試験もあるからな……」


 そう言うとオッサンは覚束ない足取りでカウンターに出された冒険者登録用紙2枚を持って奥の方へと去っていった。


 …………2枚?…パーティーを組む!?……俺はソロのつもりなんだが?


 俺はオッサンを呼び止めるためにカウンターに詰め寄ると右足にふと違和感を感じた。


「……いたい」


 下を見ると白い物体が頭を抑えてこちらを見上げていた。

 昨夜窓の外にいた女の子だ。銀髪に白のワンピース、無骨なヘッドホンは相変わらずだ。


「っ!?ーーなんでお前がここにいるんだ!?」


 気配もなく側に居たので柄にもなく大声で叫んでしまった。幸い周囲の人が眉を顰めてチラリと見た程度で興味なさそうに過ぎ去って行く。


「……冒険者になりたい……から?」


 白い幼女は律儀にも俺の質問に答えた。疑問形ではあるがな。


「質問を変えよう。君は何者だ?」


「……私は……あなたたちの言葉で『テンセイシャ』……クロウィーとパーティーを組みたい」


「転生者……」


 これは厄介な事になった。この世界にもう一人異世界召喚者がいたとは。


 俺の管轄はあくまでユウキ、シュンヤ、リカの3人だ。白幼女の監視については任務外。必要以上に干渉してはいけないのだ。


 監視官は本来この世界に存在してはいけない言ってみれば異物だ。

 異物がこの世界の人物に影響を与えると運命が捻じ曲がってしまう。大抵の運命の改変は何処かで帳尻が合わせられ問題は無くなるのだが、過度な干渉はこの世界の運命を大きく変えてしまう。


 その最もたる例が異世界召喚者だ。

 異世界召喚者は強い運命を持ち世界の運命を変える存在だ。

 その性質を利用して世界の危機なんて時によく召喚されるって訳だ。


 俺の所属する異世界召喚管理局では世界の運命を解析し、足りない運命を持つ者をその世界へ放り込むことによって世界のバランス、又は世界同士のバランスを取っている。

 

 今回、魔法世界アルディガードに足りない運命を持つ者は俺の監視対象3人のはずだった。

 しかし自称転生者が出て来た事で話は変わる。


 転生者とは異世界召喚者の一種で0歳、つまり生まれた時から異世界人生がスタートする者を言う。

 『最適化プログラム』が開発される以前、約5年前までは異世界召喚のスタンダードだった。

 しかし『最適化プログラム』が開発されてからは3人組のように転移者が主流になっている。召喚先の世界に馴染むための時間がいらず即効性があるからってのが主な理由だ。


 この白幼女は見た目的に地球で言う小学生くらいはある。転生者としても矛盾はない。

 問題なのは「この白幼女の〈物語ストーリー〉に俺の存在があるかどうか」だ。もし俺が〈物語ストーリー〉の〈登場人物キャラクター〉だった場合俺はむしろこの子に干渉しなければならない。

 〈登場人物キャラクター〉とは運命がその道を辿る上でその場で乱数的に決まる存在。どんな技術でも予測不可能で異世界召喚管理局は随分と手を焼かされている。

 監視官が〈登場人物キャラクター〉として選ばれる事も多々あり、その事を〈巻き込み(インボルブ)〉という。そしてその場合〈演技アクト〉して運命を正しい方向へと導くのが一般的だ。


 監視官は皆一様に強い運命を持っているので異世界召喚者の運命を塗りつぶさないように己の存在を薄くする若しくは異世界召喚者の運命と同調させる事が必要になってくるのだ。


 俺が取るべき行動は様々に考えられるが、俺はこの白幼女の運命に同調する事に決めた。

 ここまで干渉してしまっては己の存在を薄くすることはできなさそうだからな。


 監視官として任務を果たしながら、白幼女の面倒を見る。

 なかなか骨が折れそうだぜ。


「俺の名前はクロウィーという。白幼女……お前の名前はなんて言うんだ」


 白幼女がパーティーを組みたいという事ならそれに同調するしかない俺は自己紹介をする。


「……なまえ…名前……ない」


 白幼女は無表情ながらもどこかションボリとした様子でそう告げた。


「クロウィ……クロが名前付けて」


 どうやらあだ名が決まったようだ。そして名付けして貰いたいらしい。

 こういうのはあまり得意じゃあないんだが……


「白幼女……ってのは流石にマズイか。んーとじゃあ『シロ』ってのはどうだ?俺のクロと丁度いい感じだし」


「……シロ……うん。……シロがいい」


「よっし。じゃあパーティー組むってことでいいんだな?」


「……うん」


「これからよろしく、シロ」


 そう言いながら俺は手を差し出す。


「……よろしく……クロ」


 シロはちょこんと手を握って少しはにかんだ。


 その後オッサンがシロの冒険者登録用紙に名前が書いていないのに気づき戻って来たのは余談だろうか。

 よくあのまま出したなシロよ。


◇◇◇


 そうこうしている内に3人組の登録も終わり、試験会場に5人まとめて連れて行かれることになった。


 試験会場は施設内にある巨大な闘技場。

 普段は一般解放され、冒険者達が練習に励んでいる。

 武道大会などギルド主催のイベントなんかもここでやるようだ。酔ったオッサンが誇らしげに言ってた。


 今は新たな冒険者がどんなものかと見物するために、暇な冒険者が結構多くの数集まっている。

 まずは3人組の方から試験を始めるらしい。あの3人剣も握ったこともないだろうに大丈夫かねぇ。試験があるとか知らなかったそうだし若干不憫ではある。


 ギルド貸し出しの刃の潰された剣と最低限の防具を装備していざ試験開始だ。

 1番手はシュンヤが行くらしい。剣の持ち方がさまになっている様子から剣道経験者と思われる。俺が個人的に思ってるだけだけど異世界召喚者って割と剣道経験者多いよね。

 試験官はハーフエルフの姉ちゃん。同じく刃の潰された剣を持って対峙している。

 【看破=アンラベル・アイ】を使ってみたところその力量は中の上といったところか。意外とやるね。


 シュンヤはミカとユウキの声援に笑顔で応え、ハーフエルフの姉ちゃんに向き直る。


オッサンの「始めっ!……ウップ」という合図とともにシュンヤは剣道仕込みの奇声を発しながら大上段から剣を振り下ろした。なかなかに鋭い踏み込みと力強い振りだ。

 野次馬の冒険者からどよめきの声が聞こえる。


 異世界召喚者はその身に加護という名の運命力に応じた身体能力補正が行われるから強くて当然っていえば当然なんだけどな。


 一撃二撃三撃とシュンヤは攻撃を入れていくがハーフエルフの姉ちゃんも余裕で受け流していく。

 しかしシュンヤの方に少し違和感があるな詰めが甘いというか気を遣っているというか……。


 その後も激しい剣戟が続いたがつば競合いの後、両者が距離をとった途端、突如オッサンが間に割って入った。


「セルリア。儂に代われ。……こん小僧本気を出しておらん。ちょっくら儂が相手しちゃろう」


「いや、しかし!」


「何、心配するな酔いは覚めておるわ……ウップ」


 そう言いながら一升瓶を片手にシュンヤと対峙する。

 オッサン……酔い覚めてる訳ねぇだろ。しかしシュンヤが手を抜いていると気付くって事はそれなりの実力者らしい。

 【看破=アンラベル・アイ】で覗いときますかね。

 俺はスキルを発動させオッサンのステータスを見る。


------------------------------------------------

名前:ドファイス・グラント

種族:ソルジャー・ドワーフ

職業:ギルドマスター

レベル:163

力強さ:168

耐久:143

敏捷:114

魔法攻撃力:89

-スキル-

【破壊槌の衝撃=デストロイ・ハンマーストライク】

【身体強化=フィジカルブースト】

etc…

------------------------------------------------


 このオッサン、ギルド長だったのかよ!?

 レベルも高く恐ろしく強いオッサンだ。

 一般的な冒険者のステータスがそれぞれ50前後と思ってくれればその強さが分かるのではないだろうか。


 オッサン、いやドファイスギルド長は一升瓶を肩に担ぐと「ほれほれ、本気でこんかい」と挑発する。

 シュンヤは挑発に応え、さっきと段違いの一撃を繰り出すが一升瓶で防がれてしまう。

 どうやらあの一升瓶かなりの硬度を持つらしくシュンヤの攻撃を物ともしていない。


 ドファイスギルド長はシュンヤの攻撃をノラリクラリと避けながら、壁際まで追い込まれて……いや、誘導している。


 シュンヤが壁際に追い詰めたドファイスギルド長気合い一閃、本気の面を入れようとする。刃は潰されていると言っても、あれを喰らえばタダでは済まない。

 ドファイスギルド長がどう返すのか気になる所だ。


 そうして注意して見ていると、剣が振り下ろされた瞬間、ドファイスギルド長が消えた。

 いや振り下ろされると同時に屈んだのだ。


 シュンヤの放った剣は壁をガリガリと削ってドファイスギルド長に迫る。

 しかし剣先がドファイスギルド長の頭部ギリギリまで降ろされた時には壁にめり込んで完全に動かなくなってしまった。


 ドファイスギルド長は「いかに力が強かろうと、技が未熟ならば赤子を倒すのとなんら変わらんのぉ」というセリフと共に不敵に笑った。


 焦るのはシュンヤの方である。獲物を失い胴体をガラ空きにしたこの状況。後ろに下がりで距離を取るしか対処法はない。

 しかしドファイスギルド長はそれを許さなかった。それまで防御にしか使わなかった一升瓶をおもむろに担ぎ上げると、全身を使い横に一回転。しゃがんだ状態から足のバネと遠心力を使い、胴に強力な一撃をお見舞いした。


 シュンヤは貸してもらった装備に鈍い音を響かせながら、息が詰まっているのか悲鳴も出せずに反対側の壁まで吹き飛んでいく。


 どさっ、という着地音と共にシュンヤが俺の方へ飛んできた。

 幸い意識は保っている様だが息も絶え絶えといった様子だ。


 容赦ねぇなあのギルド長。異世界召喚者じゃなきゃ死んでる可能性もあるぞ……


 こうしてシュンヤの試験はドファイスギルド長の乱入によって採点された。

 技はまだ未熟だがポテンシャルを買ってC-ランクになるそうだ。

 ランクとは冒険者ギルドの階級制度で、最上位がSSでS+、S、S-、A+、A、A-、B+、……という風にランク分けされており最低位がF-だ。

 初期試験だけでランク分けされる場合はCランクまでなのでなかなかの高評価だ。


 シュンヤに続くミカ、ユウキだが、ミカは剣技はからっきしだったものの魔法適性が評価されD+、ユウキは可もなく不可もなくということでDランクであった。

 もちろんDランクでも素人冒険者の強さとしては破格だ。


 さて、次はついに俺たちの出番だ。試験官は引き続きドファイスギルド長らしい。

 さぁ、目立たないように行きましょうかね。


 俺はそう思って試験に望んだ……はずなのになぁ……




やっとヒロインが仲間(?)になりました。

次回、早くも黒井とシロの共闘です。


訂正:シロの年齢を『目測で12、3才』から『見た目的に小学生』に変更。(2015/3/6)

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