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異世界召喚させました

「4番ゲート準備できました」


 円状に整然と並ぶ幾百のゲート。その一つから点検作業を終えた若い男性が重力を感じさせない動きで出てきた。

 視線の先には渋い顔をした白髪の司令がいる。


 司令は今日も不機嫌そうな顔してるなー。あれでも全盛期より丸くなったって先輩は言ってたか。恐いねー。


「4番ゲートのアクティベートを許可する。42班は精神固定化装置。43班及び44班は最適化プログラム。45班は召喚先へゲートを繋げろ。46班は緊急時に備えBシャフトで待機。最後に監視官には黒井、おめぇに行ってもらう。いいな?」


 横に立つ司令が目だけを此方に向けて言った。返答は勿論Yesだ。ていうか拒否権なんて俺には与えられてない。


「了解す。今回はオーバーズの転生ですか? やたら慎重な召喚っぽいですけど」


「馬鹿者! この時期に転生者など召喚させるわけなかろうが! 勇者級の召喚、それもおめぇの故郷、地球からの召喚じゃ。」


 司令の口癖"馬鹿者"が飛び出した。ひぃーマジで恐い。一瞬で背筋がピンってなるわ。


「地球ですか……。俺はまだ経験ないですね。日本人だと楽そうだなー」


「未経験なのは当たり前じゃ。おめぇが召喚されてから初めての地球人の召喚じゃからな。あん時は酷かった。日本人召喚などロクな事にはならん」


「そんなこと言って司令も日本人じゃないですか。ま、ここにいるってことは大変な事が起こったんでしょうが」


「フン、おめぇに比べれば大したことでも無いわい」


「司令。アクティベート完了しました」


 不意にスピーカーから女性職員の声が流れた。どうやら司令と無駄話している間にゲートのアクティベートが終わったようだ。


 司令は前に向き直り、帽子の位置を整える。


「これより第9867回、異世界召喚を開始する。召喚元は地球、召喚先は魔法世界アルディガード。勇者級の召喚じゃ、総員心してかかれ」


 司令が声を張り上げて言うと第2部隊全員に緊張の色が見えた。


「開門!」

 司令の号令でゲートが大きな音を立てて動き出し、徐々に地球との通路が形成されていく。通路の完全形成と共に空間圧縮され、ゼロ距離で地球と繋がる。


「ゲート開門します…… 開門先の状況は……うっ」


 さっきの女性職員の声が詰まった。その原因はモニターに映っている光景だ。

 高いビルに囲まれた交差点で何台もの車が玉突き事故を起こしている。その中の一台大きめのトラックが歩道に横倒しになっていた。

 トラックと地面の間からは赤黒い物が流れ出ている。

 確かに見るに耐えない光景だな。ゲロりたくもなるわ。

 事故は起きて間も無い様子でまだ救急車などは着いていないようだ。


「Bシャフトをゲートに接続しろ。大型バキュームでは魂が混濁しかねん」


 司令はモニターから目を逸らさず的確な指示を飛ばす。それに合わせてBシャフトが大きな音を立ててゲート下方にドッキングされていく。

 しばらく慌ただしく指示や報告が飛び交いたが、やがてモニターに宇宙服のような格好をした集団が映し出された。掃除機に小銃を繋いだような機械を背負っている。46班が直接、魂の回収にいっているのだ。

 彼らはトラックを僅か数人で持ち上げると下敷きになっていた3人の男女に背負っている機械を向けた。


「3人中2人が規定値を大きく上回る容量です。オーバーズと思われます。司令どうしますか?」


 46班から厄介な事実が伝えられ管制室に一瞬の無音が訪れる。司令の方を向くと目を瞑り考え込んでいたが、すぐに目を開き


「……構わん。続けろ」


 召喚続行を指示した。この言葉に少し騒ついたが回収作業は順調に進められていく。


「司令、いくら勇者級といってもオーバーズを一気に二人は厳し過ぎます。どちらか見捨てるべきでは?」


 俺は司令に部下として進言したが司令は何も言わなかった。


「了解しました。第7部隊に応援を要請してみます」


「ああ、頼んだ」


 司令はそう返事をすると椅子に腰をかけ俯いた。


 回収作業は無事成功したらしく46班がゲートを通って帰還してきたようだ。

 俺は第7部隊に応援を要請するために管制室を後にした。

 

◇◇◇


 今日はミカとシュンヤと一緒に遊びに出かけていた。

 ミカが流行りのパンケーキ専門店に行きたいと言いだしたからだ。


「でね、その生地がもうフッワフワらしくてね。その上トッピングの生クリームが……」


「おいミカ、後ろ向きながら歩くなよ。轢かれても知らないぞ。」


 シュンヤが尤もな注意をする。


「大丈夫だよ、歩道広いし。実は私後ろに目ついてるんだよねー」


 そうミカは言って後ろ向きにスキップを始めた。

 やれやれ、普段は普通の子なのにパンケーキでテンションが上がっているらしい。ミカらしいといえばミカらしいけど……


 僕がそう思ったその時、目の前の交差点で大質量がぶつかり合う大きな音が聞こえた。凄まじい音で耳が潰れそうになる轟音だ。


「きゃーーー!! ビックリしたー。ここまでガラスが飛んできてるよ。危なっ」


「ッッ!! ……ああービックリしたー」


 どうやら車が正面衝突したらしい。

 前にいたミカとシュンヤはガラスが足元まで飛んできたらしく運が悪ければ怪我しているところだった。

 僕?僕は音だけで立ち竦んで動けなかったよ。幸いにも怪我はしていない。


「これ、通報した方がいいのか?」


 シュンヤが僕に問いかける。


「うん、一応しといた方がいいんじゃないかな」


「じゃ一番説明が上手いシュンヤがやった方がいいね」


「わかった」


 シュンヤは既に持っていた携帯で110に連絡すると状況説明をしだした。


 僕とミカは先に行くわけにもいかず事故現場を見ていた。


 その時僕の耳に微かなブレーキ音が聞こえた。方向は後ろ。グレーの車が事故に気づいて横道から右折したところで急停止したようだ。

 ここで僕はふと疑問に思った。この場所って危ないんじゃないか?と


 嫌なな予想は得てして的中するものでグレーの車の後ろから大きめのトラックがかなりのスピードで飛び出してきた。

 耳障りなブレーキ音を鳴らし、グレーの車を避けて歩道へ乗り上げる感じで右折する。が、努力虚しくグレーの車にぶつかってしまった。


 片輪がボンネットに乗り上がる形で。


 しかも無理に右折したせいで貨物が横滑りしたのだろうか車体が斜めに傾いていく。

 ゆっくりと、しかし確実に俺たち3人の上にトラックは覆いかぶさってきた。


 そこから先は覚えていない。ただミカとシュンヤを守らなければと思った。




 次に目を覚ますと、そこは繁華街だった。


 道ゆく人はローブや甲冑を身にまとい、剣や杖を持っている。道沿いにならぶ店では見たことのない料理を手から火出して調理していた。


「え?」


 茫然自失としていたがそこまで把握して、やっと声が出た。


 ふと足元を見るとミカとシュンヤが倒れている。


 明らかに日本ではない喧騒に臭い。足元も踏み慣れたコンクリートやアスファルトではなく石畳だ。


 これは後に確信するのだが、どうやら異世界召喚されたらしいと、この瞬間悟ったのだった。



初投稿です。

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