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月夜の女神、真昼の彼女  作者: 紀崎 廉
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「「「申っし訳ありませんでしたぁーーっ!!」」」




 私の周りを取り囲んだ3人の女子高生が、侘びの言葉を一斉に叫ぶ。

 この子達は、いつぞや私をひん剥いて体育倉庫に閉じ込めた輩ではありませんか。

 自らの行動を悔い改めることは、称賛に値しますよ。


 しかーーし、ここは教員たちの心のオアシスこと、職員室である。

 悪目立ちしまくりっす。

 ああ、先生方の視線が痛い。


 女子高生諸君、今後は時と場合と場所を考慮した上で、人に謝罪することをお勧めしたい!

 いや、マジで、切実に。





「先生、こいつ等が迷惑掛けちゃってごめんね。

 ほら、亞佐(あさ)比流(ひる)世留(よる)、君代先生に侘び入れなっ。」



「申し訳ありませんでした、先生。」


「本当にごめんね、先生~。

 私たち、悪気があった訳じゃないんですよ。

 先生に許してもらえないと、私たち沙里佐様にボコられちゃうんですぅ。」


「そーそー、しょーゆーことだから。

 私たちの懺悔で、許してケロ。

 …クソアマビッチ先生(ここだけ小声)。」



 おいおいうぉい、最後のヤツ、絶対反省してないよね。

 まぁ、心の広い私は、生徒の悪事の一つや二つ許してあげるよ。


「まあまあ、3人とも顔を上げて。

 私は、そんな気にしてないから大丈夫よ。

 ところで、園田さんとこちらの3人の関係は?」




「「「沙里佐様は、私たちの主人でありマスっ!!!」」」




 ♪・♪・♪・♪・♪




「沙里佐はさ、今でこそ普通の女子高生やってるけど、中学時代はこの界隈で結構有名な不良少女だったんだよ。」


「ちょっと、何余計なこと言ってるのよ、稜汰!」


「沙里佐様は、第一中学(イッチュー)の総番だったんです。」


「愛らしい容姿とは裏腹に、返り血を浴びようとも残虐に相手をいたぶることから、“血塗りの薔薇”と呼ばれていたんですよぉ。」


「いやぁ、“血塗りの薔薇”なんて可愛いもんじゃないっしょ。

 喧嘩終盤の沙里佐様は、完全にイっちゃってる(ジャンキー)の眼をして「世留、あんた死にたくなければ、今すぐ口を閉ざしなさい。」




 三人娘の中でも口が悪い子は、どうやら世留ちゃんという名前のようですね。

 それにしても、沙里佐嬢、急変しすぎできょわいんですけど。

 世留ちゃんを睨みつけるお顔には、美少女の面影が見当たらないんですが。


「えーっと、要するに鬼市君と園田さんたちは、中学校からの同級生なのかしら?」


 暫し傍観していた私は、エビ焼売を頬張りながら質問を投げ掛ける。

 今日は澄み渡った青空だから、屋上で一人静かに昼食を取る予定だったんだけど、いつの間にか鬼市くんや沙里佐嬢たちに取り囲まれて、大人数でのランチタイム。

 いやん、私ったら、生徒にモテモテ!?




「稜汰と私は、同じ中学の出身じゃないんですよ。」


 にっこり微笑む沙里佐嬢は、深窓の令嬢如く穏やかでお上品です。

 うん、変わり身、早いね。



「鬼市さんと沙里佐様はそれぞれ、同じ校区内の敵対する中学校のボスだったんですよ。」


「両校の不良同士が衝突するのは日常茶飯事で、一般の生徒までも巻き込まれるほど確執は深かったんですけどねぇ。

 鬼市さんと沙里佐様が話し合いの末、和解したをきっかけに今では良好な関係を結んでいるんですよぉ。」


「マジ、ッパネェ功績を築いた沙里佐様と鬼市さんは、平和の象徴として後輩たちからも崇められているんだゼッ。」


 へぇーー、そんなことが。

 この二人、只の荒くれ者じゃあないのね、流石私の可愛い生徒たち。


「ねぇ、因みに鬼市君には、園田さんみたいにカッコイイ通称なかったの?」


「ブフッ、あ、ありました「おい、余計なこと言うんじゃねぇ!」


 鬼市君がニヤける園田さんの言葉を遮るのと同時に、三人娘が声を揃えて教えてくれた。




「「「ズバリ、“漆黒の天然王子”ですっ!!!」」」




 ああ、なんてゆーか、聞いてゴメン。

 残念クオリティー臭プンプンだけど、ドジッ子属性でジャニ顔の鬼市君には、似合ってると思っちゃったヨ…

 鬼市君、何か、ちょっぴりあんたに同情するYO…





 ♪・♪・♪・♪・♪





「先生方、特に男性教諭の皆さんは、直ぐに校門前に向かって下さいっ!!」


 息を切らせて飛び込んできた教師の言葉に、下校時刻の職員室は一気に緊張感に包まれた。

 私も、両隣の河北先生と如月さんとともに、急いで席から立ち上がる。

 そして、校門前に辿り着くと、目の前に広がる光景に唖然とした。




 ブゥゥゥン、ブブゥゥッ、ブンブブブンブブ、ブゥゥゥウウン




 鳴り響く二輪車の爆音、時代遅れの白の特攻服に身を包んだ不良たち。

 ざっと数えて、三十人弱といったところだろうか。


 私は極道の娘なので、これしきの事に動じたりはしないのだが、他の先生方は青ざめて完全ブルッちゃっていますね。

 静寂な空気を一変したのは、不良たちのリーダー格と思われるグラサン男だった。




「おうおう、先生方もお揃いでご苦労なことだな。

 俺は、阿保(あぼ)高校二年の藤堂椿(とうどうつばき)だ。

 いいか、俺たちの要求はただ一つ、それさえ聞いてもらえれば誰にも危害は加えねぇ。」


「ひっ、それで、要求とは、なななんでしょうか?」


 完全に腰の引けた教頭が、辛うじて言葉を紡ぐ。

 グラサン男は、教頭とは対照的に余裕の笑みを浮かべ、次の言葉を述べた。




「鬼市稜汰を、俺たちの前に差し出せ!!」




 ことの経過を見守っていた教員と生徒たちが、一斉にざわつき始める。

 そんな中、パンパンと大きく手を叩いて、皆の注目を一身に集めたのは、私が最も苦手とする同僚の蛙田だった。


「そんな簡単な条件で良いのなら、願ったり叶ったりだよ。

 我が校きっての問題児と引き換えに、善良な生徒たちの身の安全が保障されるなら、喜んで鬼市を差し出しますよ。ホォーッホォッホォ。」


 太鼓っ腹を突き出して高笑いを続ける蛙田の姿に、私の血管は確実に切れた。

 ブチブチィッっと、何本かまとめて気持ち良い音を立て、思いっきりキレた。




「ちょょょぉぉぉおおおおおおっと、待てやぁあああ、こんのやろぉぉぉぉおおおおおおっ!!!!!!

 今、あんた、何て言った?え?あ?おお?

 私の聞き間違いじゃなかったら、他の生徒の安全のために鬼市君を喜んで差し出すと、そうおっしゃいましたよねぇ、蛙田先生。」


 一度、私は大きく息を吸い込むと、騒音レベルの大声を張り上げた。


「ふぅぅーーーざぁああーーーけぇえーーーんんーーーじゃぁあーーーねぇええええええーーーーーーーーっ!!!!!!

 何、鬼市君と他の生徒を差別してくれちゃってんの?

 私にとってはね、鬼市君も大切なかけがえのない生徒に違いないんだよっ!!!

 善良な生徒?

 はんっ、笑わせてくれるね。

 生徒の善し悪しを自分の杓子定規で決めつけて、悪い生徒は排除してしまおうなんて考え、私は気に入らねぇ、認められねぇんだよっ!!!」


 ここまで言い切って、私は不良集団の方に向き直る。




「おい、あんたたち、鬼市君に用があるってんなら、私を倒していくことだな。

 まあ、私の大切な生徒には指一本触れさせてやる気は無いけど。

 …女だからって舐めてたら、痛い目みるよ。

 さぁ、ビビってないで掛かってきなさい。」


 私の挑発的なウィンクを合図に、一斉に不良たちがこちらに走って来る。






 ああ、そうだ。

 今、思い出したんだけど、私にも通称があったんだよな。

 何の捻りもなく可愛げもない“暴走活火山”って呼び名、私は今でも気に入ってないんだけど。


 ま、何にしても、今日は盛大な噴火活動が予想されます、ね。



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