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月夜の女神、真昼の彼女  作者: 紀崎 廉
19/23

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「…あの、もう少し離れてくれるかしら、園田さん?」




 現在、狭い室内には、男女4名と人外?(使徒さん)1名が集っております。

 うら若き美少女・美少年を引き連れ自宅に戻ったところ、如月さんが玄関前で仁王立ちしていました。

 どうやら、私のことが心配で夜更けであるにも関わらず、寒空の下で待っていてくれたようです。

 流石、ジェントルマン王子ですね、君代、感激!


 ってなわけで、状況確認と現状を整理するために、全員を自室に招き入れテーブルを囲む。

 私の向かいには如月さん、如月さんの隣に鬼市君、使徒さんはテーブル脇の私の鞄の中で大人しくマスコットに成り済ましています。

 それで、問題なのが、私の横にぴったりとへばりついて離れない園田さん。

 ちっくしょーー、推定Gカップのたわわなバストが私の腕に当たってんだよ。


「先生、沙里佐が傍に居ると、やっぱり迷惑なの?」


 子ウサギのようにきゅるるんとしたお目めで、私を見上げる園田さん。

 そ、そんな、かわゆい顔したら、惚れてまうやろーーっ!!

 じゃなくて、はい、うん、落ち着きましょう。




「いえ、そんな、迷惑なんかじゃないわよ。

 寧ろ、私が勝手に園田さんを連れ去ったようなものだから…

 それに、園田さんは私のこと嫌いなはずでしょう?

 そんな、無理に媚を売らなくっても、ちゃんと面倒見てあげるから心配しないで!」


「違うもん!!

 私、無理なんてしてない!

 …先生のこと好きになっちゃったのっ!!!」


 はいーーーーーっ!!??

 え、え、えーーっと、うん?

 何が、どうして、そうなるんだ?


「ああっ!!

 もしかして、先生って如月さんのことかしら?」


 そうそう、如月さんも先生にだったよね。

 一瞬、自分のことかと思っちまったよ。

 自意識過剰でゴメす。


「違いますってば!!

 私が、好きになったのは、緑川君代先生、あなたです!!!

 父のこと思いっきり引っ叩いてくれた、先生の男気溢れる潔さに惚れてしまいましたっ!」


 な、に、ぬ、ね、ぬぅうおおおーーーーっっ!!

 え、私、禁断の扉(百合の世界)に誘われてるの??

 遂に、百合デビューしちゃうのん??




 ♪・♪・♪・♪・♪




 どうやら、園田さんの百合宣言は本気(マジ)みたいで、昨晩から片時も私の傍を離れませんでした。


「わぁぁあーーっ、先生ったら、自炊なさるんですか!?

 朝から、先生の手料理を戴けるなんて、沙里佐、感激ですぅ!!」


「いやー、そんな大したモノじゃないよ。」


 園田さんは極上の極みといった表情で召し上がっていますが、机上に並べられた朝食は至ってシンプルな物ですよ。

 白米の炊き立てご飯に、味噌汁と出汁巻き卵、大根おろしに自家製漬物。

 うーーん、やっぱり朝は和食に限るよね。


「ところで、園田さん。

 あなたのお父様は、いつも昨晩のように横暴でいらっしゃるの?」


「あーー、まあ、そうですね。

 普段から、父はあんな感じですね。

 あの人が、国民から絶大な支持を得ている総理大臣だなんて、笑っちゃいますよねー、フフッ。」


 園田さんの乾いた笑いに、私は咄嗟に彼女を抱きしめていた。


「わぁーーっ、役得だっ!

 先生の方から抱き付いてくれるなんて、沙里佐、嬉しいですぅ。

 でもね、そんな同情しなくて良いんですよ、先生。

 私自身は悲観していないですし、あと、まあ、ワザと父に素っ気無くしている接している、私の方にも責任があるんだしね。」


 ううう、なんて健気なの。

 昨日までの悪女っぷりが嘘のよう。

 そう、まるで聖女のようだわ。


「園田さん、強く生きるのよ。」


「はい、先生に振り向いてもらえるように、沙里佐、全力で頑張りマス!」


 うん?ちょっと意味合いが違うけど、まぁ、いっか。

 女は、度胸・根性・気合で、強く生きねばならんのですよ。






「如月さん、昨晩は急に鬼市君を押し付けてしまって、申し訳ありません。

 何かご迷惑をお掛けしませんでしたか?」


「大丈夫だよ、とても良い子にしていたから、ね、鬼市君?」


 鬼市君は返事もせずに、如月さんを恨みがましく睨みつける。

 ルームミラー越しの如月さんの笑顔が、心なしか腹黒いような気がします。


「…園田さんは、もう少し私から離れようか?

 立派なお胸が当たってますよ。」


 如月さんの運転する車中でも、園田さんのいちゃいちゃモードは全開。

 助手席に鬼市君が座っているため、後部座席は私と園田さんの女性二人には、ゆったりとした空間であるはずだったんですが。

 如何せん、園田さんは子猫のように自然な動作で私に詰め寄り、互いの距離はゼロ=完全密着状態である。


「えーー、やだ、先生。

 当たってるんじゃなくて、当ててるんですぅ。

 先生は、沙里佐のおっぱい、嫌い?」


 いえ、重量感たっぷりのマシュマロタッチのお胸は、とても魅力的ですがね…私も同性(オンナ)ですからーー、残念っ!!




「沙里佐、先生になつきすぎで、気持ち悪いんだけど。」


「そうですよ、園田さん。

 あんまり私のフィアンセを、困らせないでくれますか?」


 おお、ナイスフォロー!

 なんか息ぴったりですな、お二人さんよ。


「フッ、男の嫉妬なんて醜いわ。

 粘着質な男はストーカー化しやすいから、気を付けないとダメですよ、先生!」


 含みのある笑顔の園田さんに対し、眉間に皺を寄せる前の座席の男二人。

 車中の空気はピリピリしたまま、無事学校に到着。

 ふぅ、マジで気まずかったぜい。

 しかし、ほっとしたのも束の間、慌てふためく教頭に呼び止められて校長室に向かう。


「緑川先生、あなた、何をやらかしたんです?

 創立以来の事態ですよ。」


 はい?なんぞ?

 私の方こそ、何の事だか聞きたいのですが。

 案外その答えは、直ぐに分かることになりますけどね。






 校長室のど真ん中に堂々と腰掛けているのは、内閣総理大臣・園田潤一郎では御座いませんか。

 この人の一言で、私のクビ、いや学校の存続が危ぶまれる。


「緑川君代さん、貴女は新米教師の分際で、私を罵り手をあげた。

 余程の覚悟がおありになるのか、はたまた余程の阿呆なのか…」


 私は息を飲み込み、次の言葉を待つ。

 昨夜の非礼は詫びるべきかもしれないが、私に後悔はない。

 クビでも、何でも、ドーーンときやがれ。


「私は、とても貴女を気に入りました。

 妻との離婚が成立したら、私と結婚を前提にお付き合いして頂けないでしょうか。」


 はへっ?

 何を言っとるんだ、このオッサンは?

 呆然としていると、勢いよく開いた扉から園田譲が登場。




「アホ親父、緑川先生から3秒以内に離れなさい!」


「あ、沙里佐ちゅぁあん!!

 久々に話しかけてくれて、パパ感激でちゅーっ!!」


「うわ、離れてよ、変態が移ると困るから。」


「きゃぁーーん、つれない沙里佐ちゅぁんもラブリーなんだから。

 もっともーーっと、パパのこと叱って、罵倒して欲しいわん。」


 目の前で繰り広げられる予想外の光景に、あんぐりと大きく口を開けた状態で、私は静止していた。

 現実に引き戻してくれたのは、横に控えていた潤一郎の秘書であった。


「混乱なさるのも無理は御座いませんよ。

 御覧の通り、マスコミ用の顔と普段のお姿は真逆なのですから。

 潤一郎先生に憧れて、この世界に足を踏み入れた私も初めは戸惑いましたが、今では個性として受け入れておりますので、緑川様にも寛大なお心で見守って頂きたい所存で御座います。」


 ご丁寧な説明をしてくれた秘書さんは、若そうなのに少し髪が薄れていらっしゃいます。

 恐らく、気苦労が絶えないのでしょうね。




「個性って、そんな可愛らしい物じゃないでしょう。

 こんのアホ親父は、正真正銘の変態ド(エム)男なんだよ。」


「いやん、辛辣な沙里佐ちゅぁんも、ス・テ・キ!」


「黙れ、ハゲろ、泡となって消えろ!」


 園田譲の回し蹴りが、総理の鳩尾にクリティカルヒット。

 総理は苦しそうに喘ぎながらも、何やら鼻息荒く興奮しているご様子。

 うん、見紛うことなく変態さんだあ。





 緑川君代、24歳、本日、身を持って痛感した言葉があります。

 ―――――人は見かけで判断すべからず!!!!




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