19
「…あの、もう少し離れてくれるかしら、園田さん?」
現在、狭い室内には、男女4名と人外?(使徒さん)1名が集っております。
うら若き美少女・美少年を引き連れ自宅に戻ったところ、如月さんが玄関前で仁王立ちしていました。
どうやら、私のことが心配で夜更けであるにも関わらず、寒空の下で待っていてくれたようです。
流石、ジェントルマン王子ですね、君代、感激!
ってなわけで、状況確認と現状を整理するために、全員を自室に招き入れテーブルを囲む。
私の向かいには如月さん、如月さんの隣に鬼市君、使徒さんはテーブル脇の私の鞄の中で大人しくマスコットに成り済ましています。
それで、問題なのが、私の横にぴったりとへばりついて離れない園田さん。
ちっくしょーー、推定Gカップのたわわなバストが私の腕に当たってんだよ。
「先生、沙里佐が傍に居ると、やっぱり迷惑なの?」
子ウサギのようにきゅるるんとしたお目めで、私を見上げる園田さん。
そ、そんな、かわゆい顔したら、惚れてまうやろーーっ!!
じゃなくて、はい、うん、落ち着きましょう。
「いえ、そんな、迷惑なんかじゃないわよ。
寧ろ、私が勝手に園田さんを連れ去ったようなものだから…
それに、園田さんは私のこと嫌いなはずでしょう?
そんな、無理に媚を売らなくっても、ちゃんと面倒見てあげるから心配しないで!」
「違うもん!!
私、無理なんてしてない!
…先生のこと好きになっちゃったのっ!!!」
はいーーーーーっ!!??
え、え、えーーっと、うん?
何が、どうして、そうなるんだ?
「ああっ!!
もしかして、先生って如月さんのことかしら?」
そうそう、如月さんも先生にだったよね。
一瞬、自分のことかと思っちまったよ。
自意識過剰でゴメす。
「違いますってば!!
私が、好きになったのは、緑川君代先生、あなたです!!!
父のこと思いっきり引っ叩いてくれた、先生の男気溢れる潔さに惚れてしまいましたっ!」
な、に、ぬ、ね、ぬぅうおおおーーーーっっ!!
え、私、禁断の扉(百合の世界)に誘われてるの??
遂に、百合デビューしちゃうのん??
♪・♪・♪・♪・♪
どうやら、園田さんの百合宣言は本気みたいで、昨晩から片時も私の傍を離れませんでした。
「わぁぁあーーっ、先生ったら、自炊なさるんですか!?
朝から、先生の手料理を戴けるなんて、沙里佐、感激ですぅ!!」
「いやー、そんな大したモノじゃないよ。」
園田さんは極上の極みといった表情で召し上がっていますが、机上に並べられた朝食は至ってシンプルな物ですよ。
白米の炊き立てご飯に、味噌汁と出汁巻き卵、大根おろしに自家製漬物。
うーーん、やっぱり朝は和食に限るよね。
「ところで、園田さん。
あなたのお父様は、いつも昨晩のように横暴でいらっしゃるの?」
「あーー、まあ、そうですね。
普段から、父はあんな感じですね。
あの人が、国民から絶大な支持を得ている総理大臣だなんて、笑っちゃいますよねー、フフッ。」
園田さんの乾いた笑いに、私は咄嗟に彼女を抱きしめていた。
「わぁーーっ、役得だっ!
先生の方から抱き付いてくれるなんて、沙里佐、嬉しいですぅ。
でもね、そんな同情しなくて良いんですよ、先生。
私自身は悲観していないですし、あと、まあ、ワザと父に素っ気無くしている接している、私の方にも責任があるんだしね。」
ううう、なんて健気なの。
昨日までの悪女っぷりが嘘のよう。
そう、まるで聖女のようだわ。
「園田さん、強く生きるのよ。」
「はい、先生に振り向いてもらえるように、沙里佐、全力で頑張りマス!」
うん?ちょっと意味合いが違うけど、まぁ、いっか。
女は、度胸・根性・気合で、強く生きねばならんのですよ。
「如月さん、昨晩は急に鬼市君を押し付けてしまって、申し訳ありません。
何かご迷惑をお掛けしませんでしたか?」
「大丈夫だよ、とても良い子にしていたから、ね、鬼市君?」
鬼市君は返事もせずに、如月さんを恨みがましく睨みつける。
ルームミラー越しの如月さんの笑顔が、心なしか腹黒いような気がします。
「…園田さんは、もう少し私から離れようか?
立派なお胸が当たってますよ。」
如月さんの運転する車中でも、園田さんのいちゃいちゃモードは全開。
助手席に鬼市君が座っているため、後部座席は私と園田さんの女性二人には、ゆったりとした空間であるはずだったんですが。
如何せん、園田さんは子猫のように自然な動作で私に詰め寄り、互いの距離はゼロ=完全密着状態である。
「えーー、やだ、先生。
当たってるんじゃなくて、当ててるんですぅ。
先生は、沙里佐のおっぱい、嫌い?」
いえ、重量感たっぷりのマシュマロタッチのお胸は、とても魅力的ですがね…私も同性ですからーー、残念っ!!
「沙里佐、先生になつきすぎで、気持ち悪いんだけど。」
「そうですよ、園田さん。
あんまり私のフィアンセを、困らせないでくれますか?」
おお、ナイスフォロー!
なんか息ぴったりですな、お二人さんよ。
「フッ、男の嫉妬なんて醜いわ。
粘着質な男はストーカー化しやすいから、気を付けないとダメですよ、先生!」
含みのある笑顔の園田さんに対し、眉間に皺を寄せる前の座席の男二人。
車中の空気はピリピリしたまま、無事学校に到着。
ふぅ、マジで気まずかったぜい。
しかし、ほっとしたのも束の間、慌てふためく教頭に呼び止められて校長室に向かう。
「緑川先生、あなた、何をやらかしたんです?
創立以来の事態ですよ。」
はい?なんぞ?
私の方こそ、何の事だか聞きたいのですが。
案外その答えは、直ぐに分かることになりますけどね。
校長室のど真ん中に堂々と腰掛けているのは、内閣総理大臣・園田潤一郎では御座いませんか。
この人の一言で、私のクビ、いや学校の存続が危ぶまれる。
「緑川君代さん、貴女は新米教師の分際で、私を罵り手をあげた。
余程の覚悟がおありになるのか、はたまた余程の阿呆なのか…」
私は息を飲み込み、次の言葉を待つ。
昨夜の非礼は詫びるべきかもしれないが、私に後悔はない。
クビでも、何でも、ドーーンときやがれ。
「私は、とても貴女を気に入りました。
妻との離婚が成立したら、私と結婚を前提にお付き合いして頂けないでしょうか。」
はへっ?
何を言っとるんだ、このオッサンは?
呆然としていると、勢いよく開いた扉から園田譲が登場。
「アホ親父、緑川先生から3秒以内に離れなさい!」
「あ、沙里佐ちゅぁあん!!
久々に話しかけてくれて、パパ感激でちゅーっ!!」
「うわ、離れてよ、変態が移ると困るから。」
「きゃぁーーん、つれない沙里佐ちゅぁんもラブリーなんだから。
もっともーーっと、パパのこと叱って、罵倒して欲しいわん。」
目の前で繰り広げられる予想外の光景に、あんぐりと大きく口を開けた状態で、私は静止していた。
現実に引き戻してくれたのは、横に控えていた潤一郎の秘書であった。
「混乱なさるのも無理は御座いませんよ。
御覧の通り、マスコミ用の顔と普段のお姿は真逆なのですから。
潤一郎先生に憧れて、この世界に足を踏み入れた私も初めは戸惑いましたが、今では個性として受け入れておりますので、緑川様にも寛大なお心で見守って頂きたい所存で御座います。」
ご丁寧な説明をしてくれた秘書さんは、若そうなのに少し髪が薄れていらっしゃいます。
恐らく、気苦労が絶えないのでしょうね。
「個性って、そんな可愛らしい物じゃないでしょう。
こんのアホ親父は、正真正銘の変態ドM男なんだよ。」
「いやん、辛辣な沙里佐ちゅぁんも、ス・テ・キ!」
「黙れ、ハゲろ、泡となって消えろ!」
園田譲の回し蹴りが、総理の鳩尾にクリティカルヒット。
総理は苦しそうに喘ぎながらも、何やら鼻息荒く興奮しているご様子。
うん、見紛うことなく変態さんだあ。
緑川君代、24歳、本日、身を持って痛感した言葉があります。
―――――人は見かけで判断すべからず!!!!
もし宜しければ、下のボタンをポチッと押して下さい。




