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月夜の女神、真昼の彼女  作者: 紀崎 廉
17/23

17

 

「はぁぁぁーーーーっ。」



 目の前には、溢れんばかりにフルーツが盛り付けられた、老舗果物屋の一番人気パフェ。

 いつもの私なら、運ばれてくると同時に口一杯に頬張るのだが、今日は好物を前にしても溜め息を繰り返していた。




 これは、自己嫌悪の溜め息。

 昨日は大人気ない八つ当たりで、鬼市君を夜の街に追い出してしまった。

 鬼市君が悪いわけじゃない。

 私の行動は、思い通りにならないと駄々をこねる、

 幼子と変わりない。


「ちょっと、何、辛気臭い顔してんのよ。」


 テーブルの向かいに座った百合子は、優雅にストレート・ティーを啜る。

 彼女は、肩までかかる髪を緩く巻いており、薄めの愛されメイク、華奢なアクセサリーに加え、ピンクを基調としたネイルアートと、女子力の塊のような女だ。


「…百合子、私って、ほんとダメな人間だよね。」


「なーに、言ってんのよ!

 あんたが駄目ダメなのは、今に始まったことじゃないでしょ。

 どうして落ち込んでるのかは知らないけど、いつまでもブスったれてんじゃないわよ。

 嫌なこともすぐに忘れる、単細胞ポジティブなところが、君代の唯一の長所なんだからね。」


 百合子の毒舌が、心地良いなんて私も重症ね。

 だけど、そうね。いつまでも、くよくよしてても仕方ないし…取り敢えずは、目の前の魅力的な高カロリー食物を戴きましょう。






「ねえ、百合子。

 まだ買い物、続けるの?」


「当たり前でしょ!

 さっきのパフェは奢ってやったんだから、シャキシャキ付いてきなさい!」


 ううぅ、足が痛いよぉ。

 朝っぱらから百合子に連れ回されて、疲労はピークに達していた。

 10センチ近いピンヒールを履いているにも関わらず、百合子(ヤツ)はピンピン元気な状態だ。


 百合子の後を必死に追い掛ける私は、ハッキリ言って、人混み・買い物・行列が苦手なのです。

 だから、女子が喜ぶようなスポットは、苦痛でしかない。

 そんな所を今朝から歩き回って、私のHPは限界値に近い。

 そんな私とは対照的に、百合子は気合い十分な様子で声をあげた。


「よーっし、ラストスパートよ!!

 君代を必ず素敵なレディに仕上げて、見下してきた奴等を見返すの。

 目指すは、‘色気と隙の絶妙バランス、隣の綺麗なお姉さん’よ。フッフッフ。」


 ああー、そんな瞳を爛々とさせて、お手柔らかにお願いします。

 私、マジで瀕死ですから。

 そんな願いが聞き入れられるはずもなく、両手いっぱいの買い物袋とともに帰宅したのは、夜の9時過ぎだった。




 当たり前だが、ここに鬼市君はいない。

 そんなに広くない自室は一人少ないだけでも、どこか寂しい感じがした。


「お帰りなさいませ、緑川様。」


「えっ、使徒さん!?

 鬼市君と一緒に出て行ったんじゃなかったの?」


「えっと…鬼市様と喧嘩でもなさったのですか?」


 私の問いに質問で返す使徒さん。

 一体、どういうことですかいな?

 詳しく事情を尋ねると、神様からの召集で使徒さんは昨日から天上界に行ってたんそうで、昨夜の出来事は何も知らなかった。


「それで、鬼市様は出て行かれたのですね。

 そうですか……」


 昨夜の起きたことを伝えると、使徒さんはそう言って暫し黙り込んでしまった。

 やっぱり、私のこと人でなしの女だとか思っているのかしら。


「緑川様がお怒りになる気持ちは理解できます。

 突然、理不尽な条件を突き付けられても、緑川様は今まで愚痴も言わずに付き合って下さいました。」


 いえ、私、愚痴は心の中で数千回繰り返してきましたわよ。


「鬼市様は、礼儀知らずで…すぐに性的な思考に傾いてしまう、少し残念なお方でございます。

 しかしながら、今回の件につきましては、私は鬼市様を擁護致します。」


 はい、ええ、やはり私が悪いですよね。


「鬼市様が緑川様を危機から救えなかったことは、私にも責任がございます。

 緑川様の危機を察知し、鬼市様に伝えることが出来なかったのですから。」


 いえ、そんな、勝手に喚き散らした私が、全部悪いんですよ。




「ですが、鬼市様は態度では分かり辛くとも、緑川様のことを大切に想っておられます。

 そちらのお鍋に作られた料理、緑川様はご覧になりましたか?」


 私は昨夜から台所に立っていなかったので、初めてその存在に気付く。

 恐る恐るフタを開けてみると、カレーらしき物体が確認できた。

 いやー、確かにカレーの匂いはするんですが、どうしてそんな色になったと言いたくなるような不思議な色のルーに、野菜本来の形を活かした野性味溢れる具材が浮かんでいるのです。


「それは、鬼市様が緑川様のためを想って作られたものです。

 味は…中々恐ろしそうですが、鬼市様が初めて作られた手料理ですので、愛情はたっぷりでございます。」


 スプーンですくった鬼市作のカレーを、迷いもなく口に運ぶ私。

 うう、ぐぅう、うっ、涙が流れる。

 だって、想像を絶する不味さだったのですよ。

 こ、この世のものとは思えない…。

 しかし、吐き出すのを我慢して、一気に水で流し込む。


「み、緑川様、大丈夫ですか?」


「…大丈夫じゃない。

 けど、そんなこと言ってる場合じゃないよね。

 私、鬼市君にちゃんと謝らないと。

 使徒さん、鬼市君の居場所、分かるかな?」


「ええ、少々お待ち下さい。」


 使徒さんの声には、少しばかり喜びの色が窺える。

 1分も経たない内に、使徒さんが鬼市君の現在置を番地まで突き止めてくれた。


「ありがとう、使徒さん。

 因みに、この住所って恐らく一軒家だけど、誰が家主か分かるかしら?」


「ええ、こちらは園田様のご自宅です。

 先日、緑川様も学校でお会いになられた、園田沙里佐様ですね。」


 な、ん、だ、とぅぅぉぉぉおーーーーっ!!!

 えっ、何、鬼市君、こんな夜中に、あのロリ顔巨乳美少女といるんですってぇぇぇーーっ!!!

 もし、万が一にも、億が一にも、園田さんの親が不在で、性に興味津々な高校生の男女がひとつ屋根の下にいるとしたら………

 鬼市君がヒャーハーしちゃってる確率、高いっていうか確実で、す、よ、ね………




 Nooooーーーっ!!!

 不純異性交遊、絶対反対!




 君代は最悪の事態を想像し、焦りや興奮やらが入り交じった複雑な表情で、夜の街に駆け出した。


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