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月夜の女神、真昼の彼女  作者: 紀崎 廉
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 ‘両手に花’とは、まさに私の状況を指す言葉ではないでしょうか。



 ベッドに横たわる私の右手にはキラキラ王子・如月さん、左手には麗しの美少年・太郎ちゃん。

 二人の美貌に見とれていたら、如月さんが心配そうに口を開いた。




「君代ちゃん、大丈夫かい?」


「ええ、はい、ただ気を失っていただけですから。」


「君代ちゃんは昔から貧血気味なんだから、しっかり休息を取らないと駄目だよ。

 今日は僕に家事を任せて、君代ちゃんはゆっくり休むように、ねっ。」


 それまで、黙っていた太郎ちゃんが、唐突に私の耳元で囁く。


「おい、コイツには帰ってもらわないと、儀式ができねーぞ。」


 あちゃー、窓の外はどっぷり暗くなっていた。

 何時間寝てたんだよ、私。お疲れ気味だったのねん。




「如月さん、お気持ちだけで十分ですので、今回はお引き取り下さい。」


「僕がいると、何か困ることがあるみたいだね。

 真夜中に行う二人の儀式のことかな、鬼市君?」


 なにぬねのぉぉおおーーーーっ!!!

 ど、どどど、どどどどどうして、如月さんが、知ってるのぉぉぉおおおーーっ!?

 太郎ちゃんの方に視線を向けた如月さんは、冷たい微笑を浮かべていた。


 しかしながら、一時休戦。

 ――腹が減っては戦はできぬ。

 っということで、如月シェフによる極上ディナーを堪能した後、神妙な面持ちで三人がテーブルを囲んでいた。

 沈黙を破ったのは、如月さんだった。




「先日、一条さんとこの部屋に泊まらせてもらった時に、偶然二人の儀式を目撃したんだ。」


「うぇ、ええっと、如月さんの見間違えじゃないんですか?」


「いや、見間違いなんかじゃないよ。」


「そ、そんな、如月さんが見たのって幻覚じゃないですか?」


 私は必死に誤魔化そうとするが、それは全く意味がないことだった。


「君代ちゃん……

 実は僕、人の心が読める超能力者(エスパー)なんだ。」


 なんですと?そんな藪からスティック、寝耳にウォーターなことを仰られても…


「先生、そいつが言ってることは事実だよ。

 実際にその能力を使って、俺のことを脅してたんだから。」


 にょーーーーっ、マジッスか!?

 あ、ヤベッ、ヒラメ口調になっちまったぜ。




「だ、だけど、儀式はしないとダメです。

 鬼市君は、私のクラスの生徒です。

 ちゃんと、明日も学校に登校してもらわないと困ります。」


 うう、この手は使いたくなかったけど…

 如月さんとの距離をぐいっっと縮める。


「如月さんっ、君代のお願いきいてくれないの?」


 これぞ女子といった感じの、百合子直伝の甘ったるい口調。

 曲線を描くように身体をくねらせ、下から彼を覗き込む瞳には即席の涙を浮かべている。

 どうだ、私が持てる女の技は、全て出し切ったぞよ。


「…君代ちゃん、それ反則。

 絶対、俺以外の男にしちゃダメだよ。

 分かった、儀式はしてもいいけど、僕は傍で見ているからね。」




「よっしゃ。

 そうと決まれば、早速実行だ。」


 太郎ちゃんは、待ってましたとばかりに準備万端で、サイズの大きいTシャツとボクサーパンツ姿に着替えていた。

 変身の度に服を破ると、勿体ないからね。


「ちょっ、心の準備がま…だ…」


 私が言い終える前に、太郎ちゃんの小さな唇が襲い掛かる。

 鬼市君の姿に戻ってからも、念入りにに舌を絡ませてくる。

 まるで、如月さんに見せつけるかのように、私の喘ぎ声を楽しむ鬼市君。

 こやつは、ほんとに曲者である。


「ぷはっ、はぁ、はぁはぁはぁ。」


 長かったキスが終わり、肩で息をする私。

 少し冷静さを取り戻し顔を上げてみると、阿修羅の如く眉間に無数の皺を寄せた如月さんが目に入る。

 如月さんとは対照的に、鬼市君は勝ち誇った笑顔で私を抱き締めている。




「如月先生、まだ居たんですか?

 恋人たちの時間を邪魔するなんて、空気の読めない人ですね。」


 だーれーが、鬼市君の恋人じゃい!

 アホんだらぁあー、っという私のツッコミよりも先に、如月さんの拳が振りかざされた。


「いってぇぇーーっ。何だよ、あんた!

 教師のくせに、生徒に暴力振るうなんて、どういう了見だよ。

 先生も、何とか言ってくれよ。」


「鬼市君、運が良かったわね。

 如月さんが本気出してたら、あんた一瞬で粉砕されてたわよ。」


「…冗談だろ?」


 その問いかけには答えず、怒り狂う如月さんを宥め続ける私の様子に、やっと鬼市君も私の言葉が本気であると理解したようだ。

 最終的には私がベッドで眠り、如月さんはソファーベッド、鬼市君はキッチンマットの上で休息を取ることになった。

 いやはや、如月さんは鬼市君が私に夜這いをかけることを危惧しておりましたが、私には武器(てじょう)がありますので、心配には及びませんよ。






 翌朝目覚めると、既に朝食の準備が整っており、味噌汁の良い香りが広がっていた。

 やったぁー、私、朝は和食派ですのよ。

 如月さん、さては私の心を読んだな。


 二人きりの幸せな朝…ん?何か、忘れてない?

 ああ、そうそう、台所に鬼市君を寝かし付けていたんだっけ。

 手錠を解いてあげるために、鬼市君に近付くと、ああーらびっくり!!

 下着姿に剥かれた鬼市君は、目隠しに、猿轡、足枷、といった感じで拘束具が昨夜より増えてます。

 どうやら、如月さんの仕業の様です。


 いやん、如月さんたらSM(エスエム)趣味を、お持ちでしたの?

 ああん、それなら、鬼市君より私を縛ってくれれば良いのに…

 別に、私は(マゾ)じゃないけど、如月さんになら何されても良いかな。ぐへへへへっ。



 ♪・♪・♪・♪・♪



「緑川先生が、如月さんの婚約者であるというのは、事実ですのっ!?」


 朝一番、職員室で私は、鬼の形相の女性陣に詰め寄られていた。

 おっと、約一名、男性教員も混ざっております。


「えーっと、それは…

 事実のような、事実でないような…」


「何ですか、そのハッキリしない返事は?

 お二人は、付き合ってらっしゃるんですか?

 どうなんてすか?ええ?」


 先生方、目が血走っていて、キョワイです。


「付き合ってはおりません!」


 あからさまに安堵する女たち&一人の男。

 如月さんったら、そんなショックを受けた顔をしないで下さいよぉー。

 この状況じゃあ、ああ言うしかなかったんです。


「まあ、当然そうよね。

 緑川先生みたいな、お子ちゃま体型じゃあ、如月さんを満足させられないでしょうしね。ホッホッホッホッ。」


 いやー、お言葉ですが、先生のあだ名は、不二子ババアですよ。

 いくらナイスバディでも、40過ぎの小ジワにファンデーション練り込んだ、化け物ババアではお話になりませんわ。オーッホッホッホッホッ。






 今日は学校中から、如月さんと私の仲を疑われて、その対応に追われる一日となった。

 如月さんの方も私に合わせて、婚約者だと公言せずに、言い淀んでやり過ごしてくれていた。

 が、しかしだな、先日、如月さんが校門で私に愛の宣誓をした時、目撃者がいたんだよなぁ。

 その厄介な女子高生たちに、現在、私は絡まれています。


「ねー、本当はさー、如月先生と付き合ってるんでしょ?」

「そーそー、ウチら、バッチリ見てたんですけどぉー。」

「バックレるつもりじゃないよねー、くそ(アマ)ビッチ先生?」


 おい、三人目の奴、ほんと口悪いな。

 へーへー、そんで、私にどうしろと言うんだい?


「先生って、稜汰とも仲良いよねー。」

「良い男を両天秤にかけて、調子に乗ってるよねー。」

「私たちの稜汰をたぶらかしやがって、ビッチに相応しい制裁を加えてやるよ。」


 稜汰?ああ、この子たち、鬼市君サイドの人間だったのね。

 呑気に構える私に対して、一斉に襲い掛かる女子高生たち。

 抵抗するも虚しく、体育館裏の倉庫に引き入れられる。




「ほら、剥いちまえっ!!」


 女子高生にあるまじき発言とともに、 乱暴に私の服を剥ぎ取っていく。 

 下着姿にされた私を残して、女子高生たちは扉に鍵をかけて、高笑いで去っていった。


 犯行が強行されたのは、時間にして僅か三分。

 お、恐るべし、女子高生パワー。




 緑川君代、またしてもピンチな局面に陥りました。


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