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月夜の女神、真昼の彼女  作者: 紀崎 廉
13/23

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『緊急事態発生、買い物は中止。

 太郎ちゃんの姿に戻ってから、帰宅すること。』




「急に、迷惑だったかな?」


「い、いえ、そんなこと無いですけど、とても驚きました。」


 如月さんが運転する車の助手席で、私は太郎ちゃんに素早くメッセージを送り、スマホから顔を上げて答える。

 うん、正直に言うと迷惑でしかなかったのですが、如月さんったら子犬のようなウルウルお目めで見つめてくるから、本当のことなんか言えるわけないやろぉぉおーーーーっ!!

 しかし、如月さんはそんな微妙な空気を察知してしまったようだ。


「君代ちゃんにだって予定があるのに、勝手なことしてごめん。」


「いえいえいえ、そんな、予定だなんて、スーパーで買い物するつもりだっただけです。」


「そっか、じゃあ、買い物できる場所に寄ってから帰ろうか。」




 そう言って如月さんが向かった先は、セレブ主婦御用達の高級スーパー。

 いやいやいやいや、こんな所で買い物してたら、わたしゃあ破産しちまうよ?

 如月さんは私の手を引き、広々とした店舗に入る。

 どひゃーー、見たことのないトンでも値段にぶったまげ、口も聞けずにいる私に対し、如月さんは落ち着いた様子で買い物を進めていく。


 あの、如月さんが選んでいるのは、あくまで私の家の食材ですよ。

 昨夜、私の家でお料理してくれたので、冷蔵庫事情をよく把握なさっていて、私が欲しい食材を的確にカゴに入れています。

 お会計はブラックカードでお支払。えっ、如月さん何者だよって?

 そりゃあ、緑川組の期待の星、次期組長の最有力候補でござりんす。



「如月さん、今日はありがとうございました。

 素敵な食材すぎて、食べるのが勿体ないくらいです。」


「お気に召したようで、僕も嬉しいよ。

 実は、今日は太郎君に話したいことがあって来たんだけど…」


 はて、なんじゃろかい?

 太郎ちゃんの正体はバレていない筈なので、ドラマとかでよく見る男同士の話ってヤツかしら。

 はいはい、良いですよ。どうぞ、おいでやす。

 昨夜のお礼に、今夜は私が食事をご用意致しますよ。




 如月さんと私が自宅マンションに到着した時には、既に鬼市君が太郎ちゃんの姿に戻っており、玄関扉の前で待ち構えていた。

 早く合鍵作ってあげないと、不便だなぁ。


「じゃあ、君代ちゃん、少し太郎君を借りるよ。」


「はい、どうぞー。」


 あら、やだわ、太郎ちゃんったら、私のこと思いっきり睨みつけてる。

 如月さんのこと毛嫌いしていたものねぇ。

 テーブルを挟んで座り込んだ両者は、私に聞こえない小声で話し始めた。

 これを機に如月さんに対する印象が変われば良いんだけど、と呑気に構えて私は夕飯の支度に勤しんだ。




「わぁ、美味しそうだね。」


「如月さんの味には到底敵わないんですが、どうぞ召し上がってください。」


「僕は、君代ちゃんの味が好きだよ。

 それに、君代ちゃんの手料理が食べられることが、凄く嬉しいんだよ。」


 むっはぁああーーっ、今の言葉聞きましたか、そこの奥さん!!

 君代ちゃんの味が好きだよ、なんて、ちょっぴり卑猥に聞こえない!?

 もう、如月さんったら、惚れてまうやろぉおおーーーーっ!!(いや、実際惚れてますけどね。)


 私がピンクオーラ全開の浮かれモードであるのに対し、太郎ちゃんは如月さんと話した後からどんより沈みきっている。

 食事もろくに手をつけないし、どうした、太郎ちゃん。

 それに比べ、如月さんは綺麗に完食し、皿洗いまでしてから、帰って行かれましたわ。

 もう、なんて紳士なんでしょうね。




「で、何があったの、太郎ちゃん?」


「うわあ、お、俺に話しかけるな。

 アイツに呪い殺されるうぅぅ。」


 おいおい、化け物を見る様な瞳を向けるのは止めたまえ。

 太郎ちゃんったら、ガクブル状態ですっかり怯えきっている。


「うーーん、じゃあ、今日の儀式、ちゃちゃっと済ませちゃおうか?」


 いつもなら乗り気の太郎ちゃんが、私から遠ざかろうとする。

 本当にどうしたと言うのだろうか。

 えい、っと無理矢理、私の方から太郎ちゃんの唇を奪う。

 別にマジでショタコンなんじゃないのよ。

 明日も学校に行ってもらわなきゃ、困りますんでね。


 その夜、鬼市君の姿に戻ってからも、「俺が呪い殺されたら、あんたの呪縛霊になってやるぅ。」と、訳の分からぬ言葉を呟き続けていた。

 あまりに不可解な行動であったが、これも一種の中二病の症状だと決めつけて、私は安眠するのであった。


 ♪・♪・♪・♪・♪


 翌朝、隣からの騒音で目覚めた私は、原因であろうヒラメの部屋へ直行した。

 時刻は7時15分、いつもの起床時間より10分も早い。


「ヒラメ、てめー、私の睡眠を邪魔しやがってタダで済むと思うなよ。」


「あ、お嬢、申し訳ねぇッス。

 どうしても今日中に、荷物まとめて出ていかないといけなくて。」


 ヒラメの部屋には、山積みの段ボール箱が散乱している。


「なんだ、お前、なんかしでかしたのか?

 昔から、ヒラメは鈍くさいとこがあったけど、いや、鈍くさいとこしか無かったけど、こんな形でお別れになるとは…

 達者でな、皆がお前のことを忘れても、私だけは覚えていてやるからな、平目義和。」


「いやいやいやいや、違うッス、誤解ッスよ。

 俺は何もやってませんって、次に入る予定の人が急ぎで明け渡して欲しいそうで、引っ越しの準備してただけッスから。

 それにしても、お嬢は酷いッス。

 ボロカスに言われるのはまだ良いんですが、俺の名前は平井義和(ひらいよしかず)ッスよ。

 平目(ヒラメ)は、お嬢が勝手に付けたあだ名であって、俺の本名じゃないッスから。」


「お前がヒラメだろうが、ヒライだろうが知ったこっちゃねーぜ。

 チクッショ、学校に遅刻したらヒラメのせいだからな、覚えてろよ。」


 自宅に一旦戻ると鬼市君は既に出発しており、私も急いで支度を整え、家を飛び出したのだが…




「おはよう、君代ちゃん。

 学校まで、一緒に行こうか。」


 どしぇーーっ、なんですと?

 驚きを隠せずにいると、如月さんのスマートなエスコートで、いつの間か助手席に乗せられていた。

 うぇえ、なんか如月さんが強引なんですけど。

 校門前で降ろされるのかと思いきや、なななんと如月さんは校内にある教員の駐車スペースに車を停める。


「如月さん?」


 何も答えない彼は私の手を握り、職員室まで歩みを進める。え、え、え、一体、どういう事さ?

 私は、事態が飲み込めず、あたふたするばかり。

 如月さんが勢いよく職員室の扉を開けると、思いがけない言葉を口にした。




「本日からこちらの高校で、体育教師として勤めることになりました、如月洸と申します。

 教員として働くのは初めててすので、厳しいご指導のほど、宜しくお願い致します。」




 なぁあああーーーにぃいいいーーーぬぅうううーーーっ!!!!




 緑川君代、人生で初めて、驚きの余り顎が外れました。



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