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プロローグ(3)

家族会議、ですね。間違いなく。

広間とはいえ、極道の家ですからね。30畳という本当に広い部屋は、もちろん畳です。左手には綺麗に整備された石庭。計算の上、置かれたあの石が何百万もするのももちろん知ってますよ。でも、綺麗なものって壊したくなるもので、幼稚園ぐらいの時に紅葉と石を蹴りまくって景観をぶち壊したことがあります。いやぁー、本気で父に怒られたのはあの時が初めてでしたね。怖かったなぁー。


広間というより、大座敷に近いこの部屋には今、最奥に組長である父が座し、左右に舎弟たちが一列に座しています。

父に近い方から階級順で、最高顧問の杉下、舎弟頭の原田、顧問の西馬。他の舎弟さんたちは割愛しますが、その中に村木と大野木はいました。

舎弟さんたちの次に子分たちが並びます。

舎弟は父と兄弟の杯を交わした言わば腹心たちのことを言います。会社で言うところの重役たちですね。子分は、平社員とでも思ってください。

見渡す限り、顔の怖いおっさんと厳ついお兄さんしかいません。完璧に私は浮いてます。


着替えて来い、と言われたので、目についた高校の制服を着てみました。紺地のブレザーもスカートもやっぱり心踊るものはありませんが、こういう場が固い所では真新しい制服と言うのは決して場違いではありません。身がね、ピッと引き締まる感じがしますよね。うんうん、やっぱり新しい服っていいですよね。


末端の襖の前で正座をし、右手で拳を作って畳にまっすぐ下ろします。左手は背かにピタッとくっつけて、組長と向き合います。


「羽鳥組、組長の娘。羽鳥彩葉、召集に応じ、参上しました。此度のご用件、承ります。」


東で第二の規模を誇る羽鳥組です。その傘下は、軽く十を超えてきますので、こういった家族会議では自分の発言権を示すために名乗りが必要になります。

父と兄弟の杯を交わした人の全てをその時に紹介されるわけではないので、今日初めて見るおじさんたちもいるわけです。そのおじさんたちに、「私が組長の娘です!」と言っておかないと、守ってもらう時に守ってもらえなかったり、生娘だと嫌な態度を取られたりするので、自己紹介は大切になってきます。

案の定、舎弟席の末端に座るおじさんは目を見開いて値踏みをするような視線を送ってきたり、新入りの子分は興味深く観察をしてきます。


「彩葉。急な召集で悪かった。こっちへ来い。」


渋めな声音で、もうじき五十になろうかという父は、今だに二枚目俳優ばりにイケメンです。

白髪混じりではありますが、流れるような短髪に、整った顔立ち。髭の毛が薄いのか頬と顎は同年の女性が羨むほどにツルツルです。

しっかりと着込まれた濃紫の着物の上の羽織りには羽鳥組の紋章の鷹が描かれています。


立ち上がって父のすぐ近くに準備された座布団まで歩きます。軒並ぶ舎弟、子分の視線を一身に受けますが、その視線は何故か哀れみに満ちています。なんで?


座布団に腰掛けたところで、父が原田を仰ぎます。原田は一歩前に出ると、舎弟たちに向かって声を張り上げました。ちょっと裏返っちゃうあたり、原田が上がり症なのバレバレです。


「お前ら、さっき話した通り。若は現在、消息不明だ。居場所は未だに分かっちゃいねぇ。ただ、間違えに巻き込まれた可能性はねぇ。」


あぁ、紅葉がいなくなったのは本当なんですね。でも、いざこざに巻き込まれたわけではないらしいです。ていうことは、まさかの家出⁉︎


「組のことを誰よりも考えている親父の息子だ。足を洗ったなんてこたぁ考えるだけ野暮なことだ。だが、このままじゃあ、三日後の学園入学に間に合わねぇ。」


事態がいまいち飲み込めなくても、現時点での問題点はわかる。

紅葉が急にいなくなり、三日後の桃ノ木学園に入学できない可能性から、今回の家族会議は開かれたのです。


桃ノ木学園に入学できないことが、どうして家族会議に繋がるのかというと、それは学園創業に遡ります。

古今東西の極道子息が一同に介した学園では、国一番の極道を見極める言わば戦場にもなってしまったわけです。

血生臭いこともあったかもしれませんが、学園が山奥のため、早々に漏洩することはありませんでした。

しかし、若い芽が潰されることもあり、可愛い息子を学園に送ることを止めた組長もいました。

その組は数ヶ月後に、傘下の組みに下克上にあったそうです。

自分の組こそは国一番、自分の親父こそ国一番、と信頼し切っていたのに、息子可愛さから組の名誉を蔑ろにされたと激怒した舎弟の裏切りでした。


それから時代が少しずつ変わり、今でこそ、そんな話は聞きませんが、その話は未だに耳に真新しく響き、息子可愛さに学園から遠ざける組は弱小の烙印を押され、他の組みに舐められるという悪しき風習が残りました。


東で第二の規模を誇る羽鳥組。その若頭が学園に入学しないとなると、傘下の組にも示しがつきませんし、他の組みに舐められる可能性が存分にあるわけです。


なんて面倒な社会なんですかね、ほんと。このご時世、子どもは子どものやりたいようにやらせてあげるのが一番だと思うんですけどね。


「てわけだ、彩葉。お前、紅葉が見つかるまで、行って来い。」


ちょっと考え事をしていたのが悪かったんですかね?父の渋めの声が意味わかはない単語を発したような幻聴を聞きました。


「お前らも、全力で紅葉を探せ。組の名誉は俺たち羽鳥家が守る。だが、彩葉のことはお前らが守ってやって欲しい。」


大きく首肯しているおっさんたちが怖い。手拭いで目の汗を拭ってる場合じゃないよ、村木。え?なんですか?これ。ちょっと、待って。どういうこと?


「お嬢!必ずや若を探してみせますんで、それまで頑張ってくだせぇ!」


ちょっ、ちょっ、原田⁉︎「頑張ってくだせぇ!」じゃないよ?声裏返ってるからね!本当はわかってるんだよね?こんな無理な話、通るわけないじゃん!


だって、桃ノ木学園は全寮制の男子校なんだよ⁉︎


そして私は女の子だよー…。ううう。

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