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空の都の方舟物語(アークティル)  作者: 三崎ヒロト
第一章 謎の少年とお城の王様
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第九話 ラフォード学院の研究会②

カノンはメンバー集めのために、モニカの元を訪れた。まず、モニカに簡単に内容を説明した後で、最後にカノンはモニカに言った。

「ということであなたにも協力してもらおうと思って、モニカ」

 しばらくおとなしく話を聞いていたモニカは、驚く。モニカは今までそういうのにあまり積極的に参加する方ではなく、カノンも研究会の行事に、モニカを誘うことは今までなかったからだ。

「えっ、私?私は研究会に入ってないよ?」

 モニカは一応、確認する。しかし、カノンがそのことを知らないはずはなかった。

「研究会に入ってないから頼んでるの、お願い」

 カノンは言った。カノンがモニカにメンバー加入を頼んだ理由、それはただ単に、外部の人間をメンバーに入れるのには、モニカに頼むのが、手っ取り早かったからだ。

「なんで、急に」

 モニカは更に質問を加えた。カノンはちょっと言葉に詰まるが、思いついた理由を、とっさに言い返した。

「週末暇でしょ?学術院に行くのにメンバーが足りなくって」

カノンはそう答えたが、半分は嘘である。

「うーん。しょうがないな。いいよ。カノンにはいつもお世話になってますから。それにカノンの方から頼みごとって珍しいし」

 

モニカはそう返事をする。答えた様子から見ると、そんなに悩んでる様子はなく、協力することは既に最初から決めていたようにも見えた。

なにはともあれ、カノンはモニカをメンバーに加えることに成功したのだった。



結局集まったメンバーはカノンを入れて十人だった。そのうち研究会に加入してない人が二人。これにノアを加えれば合計十一人になる。

「あとはノアくんが加入すれば……」

ノアを城へ行かせる計画は着々と進行していた。


◇◇◇


――後日

カノンはノアに事の経過を説明し、ラフォード学院に連れてきた。他の九人のメンバーに紹介し、馴染んでもらうためだ。

「こちらが、新しくメンバーに加わった、ノアくんです。私の知り合いで、年は一つ下 だけど、彼の強い要望で、同行することになりました」

 カノンはみんなにそう説明した。

「ノアです。よろしくお願いします」

ノアも挨拶をして頭を下げる。学院の生徒で構成されたグループにおいて、ノアは異質に映ったはずだった。しかし、もともとメンバーの中にはお互いを知らない人同士もいたためか、ノアは案外すんなりと受け入れられる。その様子を見てカノンもノアもひとまず、ほっと胸をなでおろした。

ノアはカノンに席を指定される。ノアがそこに行って座ると、すぐにモニカが話しかけてきた。

「へえ、君がノアくんか。よろしくね、私はモニカ。カノンの友達です」

 モニカはにっこりと笑いかけた。

「こちらこそ」

 ノアもモニカに挨拶を返す。お互いのあいさつが終わると、モニカはカノンの方をちらりと見て、小声でノアに話しかけてきた。

「わざわざこんなのに同行するなんて、君もカノンと同じで勉強熱心さんなんだね。感心しちゃうな」

 カノンはここで初めて自分はそういう風に見られているのだと知った。そして、それに驚いた反面、なんだかおかしくなって思わず笑ってしまった。モニカは不思議そうな顔をする。ノアはそんなモニカに言い返した。

「俺はまだまだ未熟だよ。だから、頼りにさせてもらうよ」

 それを聞いたモニカは胸を張って答えた。

「いいえ。私はただのバカな一般生徒であります。頼るならカノンが良いと思うな」

 それを聞いて今度はお互いが同時に笑った。

こうしてノアはモニカと打ち解けたのだった。


◇◇◇


メンバーがそろったところで、カノンは予定を合わせるために相手に連絡を取った。

「こんにちは、リッヒ博士。先日お話ししたように、研究会の方から取材という形で伺おうと思うのですが、よろしいですか?」

リッヒ博士、研究会の先輩だった。この二週間、学術院を訪れる中で一番カノンに良くしてくれた人でもある。それに加え、彼は頻繁に城にも足を運ぶ、お偉いさんでもあった。彼は答えた。

「もちろんとも。こちらとしても、どんなもてなしをしようか、と考えていたところだ。この前、王室関係者と話す機会があってね。君のことを話すと、ぜひとも会ってみたいとおっしゃっていたよ。そこでどうだろう。城で発表会を開くというのは。君たちとしても、単に私の研究を見るよりかは、何倍もためになると思うがね」

 城での発表会。これはカノンにとっては予想外の嬉しい展開だった。リッヒ博士は続けた。

「資料の準備とかもあるから、無理にとは言わないけれど」

 カノンはあわてて答える。

「いいえ、大丈夫です。願ってもないことです。そちらに不都合がなければ是非お願いしたいです」

「そうかい。それは良かった」

カノンは胸をなでおろす。

その後、リッヒ博士はカノンとの都合のいい日を取り決めると、楽しみにしてるよ、と言い残して別れを告げた。


◇◇◇


 後日、再びメンバー全員を集めることになった。そこでカノンは言った。

「日程は今週末に決まりました。向こうからの提案もあって、急きょ内容を変更して城での発表会という形になります。資料の内容は時間がないのでカンカミールで使ったものを少し修正した形にしたいと思います」

 カノンは集まったメンバーに日程を伝え終わると、ノアの方を見る。そして嬉しそうに微笑んだ。カノンはノアのために予想以上の仕事をしてくれた。そのことに関しては、ノアは感謝の気持ちでいっぱいだった。けれども、これは過程でしかない。ノアが王様と話ができなければ、全てが水の泡だった。

 ここまではカノンが頑張ってくれた。そして、ここからはノアが頑張る番だった。


このあと、メンバーはそれぞれカノンに指定された準備に追われることとなり、気が付くとあっという間に時間は過ぎて、『その日』が近づいていた。


そして、とうとう城に行く運命の日が訪れた。


◇◇◇


――当日

予定時刻よりも早く城に着いた研究会は、門の外でしばらく打ち合わせを行った。ノアは門番に見つからないか、不安な気持ちにかられながらも、他の人に陰に隠れたり、髪をいじったりして何とかその場をしのいだ。

「良くも悪くも、今日がこれからの活動の重要な分岐点になると思います。結果はどうであれ、それが自分たちの糧となることには変わりありません。後悔しないようにやりましょう」

カノンはそう言うと、ノアに目配せをした。今日が分岐点となるのはノアにとっても同じことだったからだ。ノアはそれに答えるように小さくうなずく。カノンもそれを確認すると、メンバー全員に告げた。

「では、出発しましょう」

ノアは城を追放されてから初めて、城の中へと足を踏み入れるのだった。


◇◇◇


城の中に入ると、案内の人を先頭にして、奥へ奥へと進んでいく。壁の絵画や天井の飾り、床のカーペットに至るまで、全てノアにとっては見慣れたものばかりだった。けれども、感傷的な気持ちになることはなかった。少しうつむき加減でノアは歩いたおかげか、途中で何人かの関係者とすれ違った時も、特に怪しまれることはなく、進めた。



しばらくすると大部屋に到着する。

「よくいらっしゃった」

 中で待っていたのは正装をした男性だった。それに応じてカノンが一歩前に出る。そして、頭を下げる。

「こんにちは、リッヒ博士。本日はお招きいただき、光栄です」

「いえいえ。そう固くならないで。君たちは優秀な方々だ。きっと良い刺激になると思うよ」

「ありがとうございます」

 双方とも、ノアには意識を向けることなく、挨拶を交わした。形式的な会話が終わると、リッヒ博士はメンバーを席に座らせた。

「では、さっそく始めましょうか」

横で王室関係者が見守る中、リッヒ博士の言葉によって会は滞りなく始まった。


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