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空の都の方舟物語(アークティル)  作者: 三崎ヒロト
第一章 謎の少年とお城の王様
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第七話 ノアの秘密②

――数日後

「よし、出発!」

ノアを含め、いつもの四人は、リオの舟の上へと乗り込んでいた。この日は以前約束した城の庭へと行く日だった。四人の中で一番張り切っているのは、リオである。一方で、ノアの顔には相変わらず少し元気がなかった。

「ちゃんと安全運転しないと怒るからね!」

「了解で~す」

シズカがリオに念を押した。

ゆっくりと出発した舟は街中を縦断したあと、いつもとは違うルートに入る。


しばらくすると目の前にお城へ繋がる大きな門が見えた。

「私、初めて間近で見た。おっきいね」

 シズカが感嘆の声を上げた。その間にも舟はゆっくりと門をくぐり、停留所へと止まる。


舟を降りる四人。周りにもたくさんの人がいるなかで、四人も流れに沿って、中へ中へと進んでいった。


◇◇◇


「うへぇー」

 目の前に広がるのは広大なお花畑だった。お城の庭というだけあって、手入れが隅々まで行き届いていて、目を見張るほど綺麗だった。とりあえず、流れに沿って歩く。シズカを先頭にしてリオがその後ろに続く。カノンとノアは一歩遅れていた。

けれども、他の三人が景色を楽しみながら、歩いているのに対し、ノアはこそこそと人目から隠れるように行動していた。


「どうしたの?」

 その様子を見て、カノンが問いかける。なんでもない、とノアは否定するのだが、明らかに様子が変だった。

カノンは気づいていなかったが、ノアが見ていたのは庭園内に配置された王室関係者だった。ノアは対角線上に必ずカノンが入るように、少しずつ場所を変えながら歩いていたのだった。

しばらくして、遠くの王室関係者が、ノアの方をじっと見ている気がした。ノアの気のせいかもしれないが、その人は隣の人とこそこそと何か話し始めた。その様子を見てノアは動きを止める。そして、カノンに告げた。


「やっぱり……俺、帰る」

「え、もう帰るの?まだちょっとしか見てないよ?」

 ノアはカノンの言葉を無視して、方向転換すると、急ぐように入り口へ向かう。

「ちょっと!」

カノンの制止の声も空しく、ノアは人ごみの中に姿を消す。

「どうかしたの?カノンちゃん?」

前を進んでいたシズカとリオがカノンの声を聞いて振り向いた。

「あれ?ノアくんは?」

リオが尋ねる。

「帰っちゃった」

「えっ?」

二人が声をそろえて返した。カノンはノアを追いかけて歩き出す。


「やっぱり変だよ。追いかけてみよう」

 三人はノアの向かった方向に、走り出した。すると、ノアは意外にも近くで見つかった。

入り口のところで警備員のような人に捕えられていたのだ。何か口論をしているようで、更に近づくと会話が聞こえてきた。

「王様に……兄さんに会わせてくれ!」

「そう言われましても、王様の命令ですから、会わせることはできません……ノア様。」

三人は動きを止める。

ノアの方も追いついたカノンたちに気づき、固まった。そして、あきらめたようにうなだれる。

「わかったよ。帰るよ。ここにはもう来ない」

ノアは警備員にそう告げると、出口に向かってとぼとぼと歩きだした。


三人は状況がうまく飲み込めないような顔をしていたが、ノアが歩き出すのを見て一緒に出口に向かった。そして、ノアを連れて町へと戻った。


◇◇◇


町に戻ると、四人はリリックス・カフェに集まった。そこで、ノアの口から今までの経緯をすべて聞かされた。

「ごめん……別に騙そうと思ってた訳じゃない。さっきの会話の通り、俺の兄さんはクロスセピアの王様だ。それで、俺はこの国の王子ということになる。そんな身分の俺がなぜここにいるか、という理由を探して遡ると先代の王、つまり父さんが病死した時になる」


他の三人は真面目な顔つきでノアの話を聞いていた。ノアは続ける。


「次期の王様として兄さんが即位した。そして、俺は兄さんから城を追放された。理由は教えてくれなかった。でも、言われなくても何となくわかる気がするんだ。わかるからこそ、俺は兄さんに会いたかった。おそらく、兄さんが知らないであろう、真実を伝えるためにすぐに城に向かった。でも無理だった」

 そして、ノアは明るい声で最後に言った。

「それでしょうがなく、商人ノアとして生活を始めて、今に至るってわけだ」


しばらくは誰も言葉を発しなかった。いや、発せなかったという方が正しいかもしれない。それは、ノアが王子だったから、ノアの過去を聞いたから、そして何より、自分のことを話すノアが無理に明るく振る舞っているように見えたから。

「そんなに黙らないで。いままで通り接してくれていいから」

 ノアはそう言ってフォローする。そして、最初に口を開いたのは、リオだった。

「私バカだから、よくわからないけど、ノアくんが、実はすごい人だってことは十分わかったよ。だから、これからどうするのかをみんなで考えましょうよ?昔は昔、今は今。どうかな?ノアくんはやっぱり城に戻りたい?」


 リオは他の三人の顔を交互に見ながら、問いかける。ノアはうなずく。

「俺は、城に行って兄さんと話がしたい。その気持ちはずっと変わらない」

「ノアくんは王子なんでしょ?ノアくんの味方してくれる人は城の中にいないの?」

 シズカが疑問を投げかけた。


「いるとは思うんだけど、如何せん門前払いさ。さっきも見たとおり、取りつく島もない。庭に入れたのも、ただ運が良かっただけに過ぎないと思う」

 ノアは残念そうに答える。

「そっか」

シズカも残念そうな顔をした。そして再びの沈黙が訪れる。


 しばらくして、ノアは再び口を開いた。

「本当はずっと自分の身分を隠したままみんなと一緒にいたかった。それは今でも変わらない。だから、他の人には俺のことは黙っててくれたら助かるかな。もし、それでも何か不都合が起きるなら、俺はここから去らなくちゃいけないから。お願いします」

 そう言って、ノアは椅子から立ちがると、深く頭を下げた。

「そりゃ、もちろんだよ」

「わかってるって」

 リオやシズカは口々に言った。しかし、カノンだけは違った。

「ちょっと待って」

 カノンが店に来て初めて口を開いた。


「私は嫌だよ。だって、ノアくんの目標は城に戻ることでしょう?今のこの状況は、一人でどうにかできるようなものじゃない。周りに助けを求めないのは現実的じゃない。実際にノアくんは今まで何もできなかったじゃない」

 カノンは力を込めて言った。

「……そんなの、わかってるよ」

ノアはそんなカノンの言葉を聞いて悲しそうな声で返した。


「わがままかも知れないけど、俺はただ城に戻れればいいわけじゃない。俺が本当に恐れているのは、王様の評価が下がることだ。俺が周りに助けを求めれば、その人は協力してくれるかもしれない。けれど、きっとその人の、今の王様に対する価値観は悪い方に変わってしまう。それは、このクロスセピアという国に対して決していい影響は与えない」


 ノアは拳を握る。

「兄さんが暴君なら、それもしょうがないかもしれない。けど、兄さんはそうじゃない。俺には分かる。だって、今のこの国で一番兄さんのことを知っているのは、弟である俺だから」

 ノアは今度は懇願するような口調でもう一度頼んだ。

「だから、もうしばらくこのまま黙っててくれないか?その間に何とか策を考えるから」

カノンもノアの話を聞いて、なんだか申し訳ない気持ちになった。


「その……私の方こそ、ごめんなさい」

 そのあとに、カノンは少し間をあけて続けた。

「でも、やっぱり、一人じゃどうにもできないっていうのは変わらないと思う。だから、とりあえず、この件は私に任せて。使えそうなアイデアが一つあるの」

 ノアはその言葉を聞いて、思わずカノンの顔を見た。

「本当か?」

「うん。この方法ならノアくんが王様に会えるかもしれない」

 カノンは真剣な目をしていた。

「一体どうするんだ?」

ノアが尋ねると、カノンは言った。

「研究会を使うのよ」



 カノンは手持ちの鞄から、一枚のプリントを取り出した。

そこには『ラフォード学院研究会』という文字がプリントされていた。カノンはその下、紙の真ん中辺りの文を指差す。

「王立学術院の研究者の中で、私たちの研究会出身の人も少なからずいるの。もしかしたら、その中に王様に近しい人がいて、融通が効くかもしれない」

「確かに、良い考えかも」

 シズカも横から口を出してくる。ノアもなるほど、というような表情をしていた。

けれども、ことはそう簡単には進まない。

「でも、ノアくんのことを話したらダメってなると、難しくなる。だから、少し時間がかかるかもしれない。けど、きっとうまくやってみせるから、私に任せて」

カノンの言葉にノアも希望が見えてきたのか、表情が明るくなった。

「ありがとう。頼んでもいいかな?」

「任せて」

カノンはにっこりと笑う。

「これでやることは決まったね。私もできる限りのことはするから何でも言って」

 シズカは言った。

「そうだ、私たちは仲間だから!」

 リオも協力を申し出てくれた。

そして、カノンの方を見る。

カノンは最後にもう一度言った。


「きっと、ノアくんを城に連れて行くから」


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