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空の都の方舟物語(アークティル)  作者: 三崎ヒロト
第一章 謎の少年とお城の王様
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第十二話 空の都

 ノアはあの日の出来事を全て、包み隠さずに目の前のウェーバーに話した。

ウェーバーはあの日の真実を全て知った。

「嘘だ。信じられない」

ウェーバーは泣きそうな表情をしていた。死んだ父親の思い。自分の変な意地が引き起こした様々な悲劇。そして、ひどい仕打ちをした自分に対するノアの、変わらない忠誠心。全てが彼の心の中で渦巻いていた。

「全部、本当のことだよ、兄さん」

 ノアは最後に言った。

「父さんはこうも言っていた。『もし、ノアを王様にすれば、ウェーバーはきっとつぶれてしまう。けれども、逆にウェーバーを王様にした場合、ノアは良いサポーター役として機能し、二人でこの国を引っ張っていける』と。父さんは最初から王位を兄さん以外に譲る気はなかったんだよ」

 それから二人の間に会話はなかった。ただ、ウェーバーは黙り、ノアはそれを見ていただけだった。

しばらくすると、気持ちの整理がついたのか、ウェーバーは口を開いた。

「本当にすまないことをした。今までの非礼は全て許せとは言わない。言いふらすなり黙っとくなり、お前が好きなようにすればいい。ただ、俺も王様としての立場がある。そこのところはわかってほしい」

「わかってるよ」

こうして、ノアは城への出入りが自由にできるようになり、全ては元通りになったのだった。


◇◇◇


――一週間後

町の広場にカノンとシズカの姿があった。

「結局、帰ってこなかったね、ノアくん」

シズカが言った。

「まあ、本来の居場所に戻っただけだし、良かったじゃない」

 カノンも残念にそう言った。

 城の中でノアと別れてから、カノンはノアと一度も会っていない。研究会の発表会の方は、その後、滞りなく終了し、メンバーが一人減ったことは、博士に気づかれぬまま、町へ戻ってきた。

 ただ、モニカには、ノアはどこに行ったのかと聞かれた。とりあえず、腹痛で帰ったと言うと、納得してもらえた。

 それから、音沙汰がない日々を過ごした。

「カノンってば、本当はさみしいんでしょ?実は好きだったんじゃない、彼のこと」

「な、何言ってるのよ、シズ!」

「顔が赤くなってる。ほら、演説始まるよ」

 シズカとカノンが今日ここに来た理由、それは王様の演説を聞くためだった。

この日は城の急きょ王様が演説をすることになっていた。カノンたちにはその理由が何となくわかる。そして、彼女たちの本当の目的は、演説を聞くことではなく、その場に第二王子として現われるであろう、ノアの姿を見るためだった。


しばらくすると王様は姿を見せた。しかし、演説がなかなか始まらない。王は姿を見せたが、何やら裏でトラブルが起きているようだった。

「大変です王様!」

一人の側近がウェーバーの元へと駆け寄る。

「どうした?」

「ノア様の姿がどこにも見当たりません!」

「何だと?」

 側近は言った。ノアがなかなか部屋から出てこないので、何か不都合でも起きたのかと思った。声をかけたが返事がなかった。ドアを開けると、そこには誰もいなかった、と。

「代わりにこのような手紙と袋が」

側近は王に、部屋の中で見つけた代物を渡す。そこにはノアの字でこう書いてあった。



『 ウェーバー兄さんへ

迷惑をかけて申し訳ありません。自分勝手だと思いますが、俺はもう少し城の外の世界を見てみたいという気持ちから、もうしばらくは、今まで通り身分を隠して暮らそうと思います。大切な友達とも、ちゃんとした挨拶もせずに別れてしまったことも、心残りです。しかし、心配しないで下さい。そばにはいなくても、いつでも俺の心は王様とこの国のことを考えています。

ノア


あと、下にある袋には、今まで支給されていた生活費が全額入っています。国の民から集めたお金を俺一人のために使うわけにはいきませんでした。俺はちゃんと商人としての仕事をしているので、自分のお金は自分で稼ぎます』


◇◇◇


 カノンは王様の姿を見て、ノアがもう自分の手の届かない場所にいることに気づく。

「本当に遠くにいちゃったんだね」

カノンは呟いた。そのときだった。

「おーい、おーい。カノン!」

遠くからカノンを呼ぶ声が聞こえた。名前を呼ばれたカノンはそちらの方を向く。

そこにいたのは、いつも通りの格好をしたノアだった。

「え?ノアくん、なんでここにいるの?」

カノンは驚いた。

「ちゃんと別れの挨拶もしてなかったし、もう少しこっちで過ごそうと思って」

 カノンのところについたノアは息を切らしながら、言った。

「ということでこれからもよろしくね、カノン」

二人を見て、横でシズカが笑っていた。


◇◇◇


――数日後

「いらっしゃいませ!」

ノアの店は今日も繁盛していた。

王様に手紙を残して城を去ってから、王様は一度もノアのことを連れ戻しに人をよこすことはなかった。前々からノアを尾行する城の人間の存在は知っていたため、ノアの今の居場所を向こうが知らないはずはない。

おかげで、ノアは今まで通り生活することができている。王様が演説したあの日にノアは聴衆の前に姿を現さなかったため、ここにいる商人が王子だと知る者は、カノンたち三人を除いて他にいない。

「こんにちは」

そのとき声が聞こえた。店を訪れたのは、双子のシンとランだった。

「久しぶり。プレゼントはどうした?」

 ノアは聞いた。シンは答えなかったが、代わりにランが答えた。

「お母さんの誕生日にプレゼントした」

「もう、ランは何でもしゃべり過ぎ」

 シンはそう言ってランを引っ張る。しかし、ランは動じなかった。

「それは偉いな」

 ノアがそう言うと、シンは照れ笑いをした。

「そうだ。俺たち今、買い物に行く途中だった。ほら、行くよラン」

 二人はノアに別れを告げると、足早に去っていた。

 


入れ替わるように、カノンが姿を見せる。

「こんにちは、ノアくん」

 カノンは挨拶をした。

「おじゃましまーす」

 その後ろからモニカが現れた。モニカは商品に目をやると、それをじっくりと眺める。

「あ、これ、カノンが持ってるやつと一緒だ」

 カノンは商品の一つを手に取って言った。それはカノンに最初にプレゼントしたブレスレットだった。

「せっかくだし、私も一つ買っていこうかな」

 モニカは商品を物色すると、どれにするか悩み始めた。

「ねえ、カノン。どれが良いと思う?」

「そうね。これなんてどうかしら?」

 カノンはその中の一つを手に取った。

「じゃあ、これにする。これ買います!」

「ご購入ありがとうございます」


 こうして、今日もクロスセピアの平和な一日が過ぎようとしていた。


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