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第8章 洞窟へ

 レガリアを後にした大地。しばらくして大地の目前に姿を現したのはあの忌々しい邪悪な洞窟であった。邪豚がいる様子ではなかったが、空気の微弱な振動と大地の緊張感は凄かった。

「行っていいかな?」

 誰に言ったのかも分からない言葉にフィアラは答えた。

「いいんじゃないの?」

こんな殺気が走る洞窟の前に佇立しているというのに、よくこんな平然と答えられるな、と大地は内心で呟き、自分の頭上で暇そうにしているフィアラにもそろそろ鬱陶しい気持ちも現れつつも、意を決して洞窟へ入っていった。

 印象は暗かった。邪悪な気配に包みこまれた地……。その中でも洞窟のあちらこちらには、隙間があり、外の光が満ちていた。なかなか魔物が現れないとさっきから抜いておいた剣を振り回し始める矢先でようやく邪豚が姿を現した。活かされた反射神経を用いては邪豚に斬り、ラゴスをかけたりとした。ただ、その数は大地の予想を超えるものだった。倒しても現れ、倒しても現れるのエンドレスだった。

『ダイチ、危ない!』後ろから襲いくる邪豚にもフィアラは呪文で対処してくれた。やはり、この度にフィアラの力も必要か、と大地は思った。

 数頭もいた邪豚を何とか倒した大地とフィアラはさらに洞窟の最奥を目指した。大地はまだまだ息は切らしていなかった。進み続ける中、「ダイチ、まだ大丈夫なの?」というフィアラの言葉を耳に入れず、ハッとして前方を指差した。

 邪豚ではなかった――いや、あれは邪豚なのだが、根本的に違う点があった。

 豚が立っているのだ。それは人間とも言えないが、豚と言えるレベルでもなかった。どういう進化を遂げればああなるのか知りたいものだ。

「立ってどうなるんだよ」

 さっき倒しまくったせいなのか、通常の邪豚の進化形だとして数の割合は圧倒的に少なかった。これならまだ行けるだろう。大地の脳裏をよぎった言葉は単なる気のせいに過ぎなかった。

「フィアラ、あいつの強さは?」

「え~っと、みんなだいたい450ぐらいよ」

「1.5倍か……」

 意外と素早く計算した大地は試しに1頭とお手合わせしてみることにした。1.5倍がどれほどなのか、ここで見てやりたかった。刹那、動きはまるで違った。いきなり腹部に激痛が走った。大地は打ち飛ばさせれ、勢いでフィアラは大地の頭から投げ飛ばされた。

 屈せず、立ち上がるものの今までに経験したこともなかった衝撃に心が揺らいだ。腹部をやられた影響で口から少量の血が噴き出したのだ。思い返してみれば、雑魚たちとしか戦ったことがなかった大地に吐く血などなかったのだ。目が虚ろになりかけていた。それでも、目の前にいる魔物に挑みに行く勇気を覚えた。

 「くそ!」大地の怒りの一撃で立邪豚の角を破壊し、あっという間に絶命に追い込んだ。フィアラが頭から離れたことも大地の心を左右していた代償なのかもしれなかった。その後は瞬息の時に立邪豚たちも討伐していった。

 フィアラが近づいてくる。大地は笑っていなかったため不安に駆られたが、後にまた笑みを見せてくれたのでフィアラも安心した。

「フィアラ」

 一瞬、頭に乗られるのを拒もうとした。

「あ、いいよ。乗っても。離れたら危ないし」

 拒もうとしたのもフィアラには察知でき、申し訳なさそうに自らも乗るのを拒もうとしたが、自分を気遣ってくれている大地のために遠慮なく頭に乗っかった。

「あと少しよ」

 フィアラの声に押され、大地は前を見つめて歩き出した。


 妙だった。さっきから全く邪豚が出てこなくなった。もうあれですべてだったのか。大地は脳裏に次郎の言葉を思い出した。そういえば、とてつもない魔物がいると言っていたが、そいつはどこにいるのだろうか。闇に埋めた洞窟の中で奴の気配はいきなり強くなった。邪悪な気配――洞窟の奥から発されるもののように思えた。外からあふれる光も闇に包みこまれそうな勢いだった。大地は咄嗟に駆け出した。奥に激しい光が見えた。包まれた光を通り抜けると、そこには今までの洞窟とは一変した。あちこちに光射す穴が開いているのは同様、中央の巨大な点へと続く穴がポッカリ。その下方には、まるで原始の王様を思わせる土製の椅子が備わっていた。そこに座っていた奴こそ今回の厄介者であったのだ。

「また人間か?」

 王様気取った魔物は言った。

「はぇ?」大地は思わず言った。

 その姿が笑えるものだった。もはや進化を遂げた末は人間を超え、もう2本脚がついてしまっていたのだ。豚とケンタウロスの融合体、そして、胸部にはアーマーを装着したそのままの邪豚だった。

「トンタウロス?」

 フィアラが発したまさかのギャグに大地は思わず吹き出してしまうそうになった。

「我が手下をよくぞまぁ、倒してこれたものだ」

「覇王石はどこだ?」

「覇王石? おぉ、これのことか?」

 トンタウロスは手に持つ神々しい深紅の宝石を挑発するかのように投げては取って、投げては取ってを繰り返した。

「それか~」

「ここは貴重な覇王石の発掘洞窟だ。これを俺が管理してしまえば、もう人間どもは力を得ることはできなくなる」

「単純に取っちゃえばいいんだろ?」

「軽々しく言ってくれるじゃないか、人間。取れるものなら取ってみろ」

 トンタウロスは腕を振り上げた。洞窟にあいた無数の穴。そこから次々と邪豚や立邪豚たちが出てきた。洞窟は奴らでいっぱいになりそうだった。頭であるトンタウロスは邪豚共に指示を出す。

「あの人間を血祭りに上げろ!」

 同時に「ブーンッ!」と爆音を洞窟内に響かせ、一斉に邪豚たちは大地を目標にして向かってくる。大地は瞬時に避けた。

「こんなだけいれば好都合。みんな自爆してくれるよ」

がつがつと洞窟の壁にぶつかる邪豚たちで混雑する中に大地は飛び乗った。問題は背が高い立邪豚だった。邪豚の背中の上にいても怒涛の攻撃を仕掛けられることが何よりも厄介だった。

「フィアラ、リギア」

「え、はい」

 フィアラはリギアを使った。飛びゆく火炎球に大地は剣を振り、炎を纏わせた。炎が纏えるのはほんの一瞬、大地はその一瞬にかけて斬りかかった。立邪豚の1頭ぐらいは一網打尽にすることができた。

「ほう、なかなかやるな」と呟くトンタウロスに視線を向け、フィアラとの連携攻撃を繰り返して邪豚共を一掃していく。

 片が付いた。ようやく、ともいえる時間がかかった。

「も、もういないだろ」

「これですべてだ」

 後方で転がっている邪豚たちの死体をチラ見して、大地は疲れた自分の気を押し殺してトンタウロスへの決戦の意を証明した。

「フィアラもいい?」

「いいわよ」

フィアラも呪文の使い過ぎで疲れているようだった。

「でも……」フィアラが訊いてきた。

「でも何?」

「あいつ、2700よ」

 刹那と殺気。何気なく言ったように思えたフィアラの言葉に大地は戦慄が走るのを感じた。

「やばいな」

 トンタウロスは指をパキパキと鳴らして、準備する中で大地を見つめた。その顔は殺気で満ち溢れていた。今にも死へと導く悍ましい顔。手下に戦わせておいて、あとで自分がとどめを刺すという嫌らしい戦法を使う相手だということに初めて気づいた大地はついに決した。

「行くぞ……」

 相手は動かなかったので、大地は先手を取った。今までと同じ体質なのであれば、角も簡単に折れるはず、と見込んだ大地はトンタウロスの角に思いっきり剣を振り下ろした。それは大地の道理は覆すものだった。さすが、邪豚共を統べる頭であり、手強いと分かっていたものの、その堅牢たる角の堅さには大地の買った普通の剣では鈍だったのだ。剣は折れ、鉄製の持ち手を持った大地の上を飛んで後方へ突き刺さった。大地は恐怖を実感しながら、呆気なく地へ下りた。その後、トンタウロスを見て、違う実感を得た。

 速い! 4本脚を使った脚力と言うのはこれほどの物なのか。自慢の反射神経があっても立邪豚同様に直撃した。大地は洞窟の壁に蹴り飛ばされ、倒れこんだ。毎回無事なフィアラが安心で憎かった。

「げほっ!」

 大地は思いっきり血を吐いた。ダメだった。何も考えずに突っ込んできてしまった自分を馬鹿に思ってきた。一体、自分は何を考えてきたのだろう、と後悔の渦に飲み込まれそうになった。修業もせず、どうやって勝機を握るというのか。大地は唯々笑っていた。

「ダイチ、しっかりして! ねぇ!」フィアラの声は大地に聞こえていなかった。

 茫然として表情に移り変わり、沈黙する大地にフィアラは一生懸命呼びかけた。しかし、大地はそのまま目を閉じて気絶してしまった。

「たった一撃で情けねぇな~」トンタウロスの声が聞こえる。

 必死に呼びかけるフィアラの声は大地の脳裏には届かず、迫りくる恐怖の塊を恐々しながら、眺めた。フィアラは微かに啜り泣いていた。それでも、トンタウロスは攻撃を仕掛けてくる。フィアラはさっきから何かしら頭の中に浮かんでいたたった1つの賭けを試す勇気を湧き上がらせた。

「うりゃ~!」とトンタウロスが拳を繰り出すと同時にフィアラは呪文を唱えた。

「エヨーミ!」

 大地に身に手を添えていたフィアラは共に光に包まれ、瞬く間にその場から姿を消してしまった。

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