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第5章 妖精に出会った

 大地の行く先、町の中心を架ける大きな橋に差し掛かった。虹色に輝いているように見えるその橋はとても美しく、滑らかな曲線を描き、町の第一印象とも言えるほど立派な橋に思えた。その橋を大地は渡っていく。太陽の光で反射する光が目に入り、橋の金属部分が何となく鬱陶しい。

 橋の真ん中まで着た大地は目を丸くした。その目線の先に立っている像。その上に妖精が立っているのだ。身長も1メートルに満たないぐらい僅かしかなく、背中に羽が生えていてとても人間には見えない。しかし、あれは飾りなのかもしれない、と大地は思った。どちらにしろとても可愛い女の子だった。見れば見るほど可愛く見えてくる。村にはあんな美女ははっきり言っていなかった……というか、子供すらそれほどいなかったのに、女に対してこれほどまでに自然な感情を持てる自分を訝りたい思いだった。肩辺りまである長い黒髪、白くか細い手足が特徴的であり、女子らしい華やかな紫色ミニスカートが動くたびにひらひらと揺れる。あんな子が外の世界にいたなんて羨ましい、と変態的思考を持ちながら、その子の横を横目で見ながら通り過ぎていこうとする。女の子は誰かを探しているのか、また何か困っているのか、そんな表情に見えた。

(人の役に立つことはいいことだ)

 大地は思い切って聞いてみようと思った。何を困っているのかと羽のことを。

「あの……」

 大地が声をかけると、女の子もこちらの存在に気付き、こちらを向いた。目が合い、緊張感が漂い始めた。女子と真面に向かい合ったこともないのによくこんなこと考えたな、と後悔の気持ちでいっぱいになる大地は女の子から目線を外し、橋の下を流れる川を見つめた。

「えぇ……」大地が話そうとすると、女の子はそれより先に話しかけてきた。

「ねぇ、君。もしかして、あたしのこと見える?」

 正直ドキッとした。まさか、先に話しかけられるとは思いもしなかったからだ。

「え? なんて言った?」

 女の子はちょっとむすっとした表情で言い返してくる。

「だから~。あたしが見えるのかって聞いてんのよ」

 何か一人で話し始めた。

「……って、あれ? 君と会話成立してるってことはあんたがあたしのこと見えるってこと? ねぇ、本当に見えてるの?」

 大地は質問の意味がいまいち分からなかったが、とりあえず答えた。

「う、うん」

「えっ、本当に? やった~!」女の子は大きな歓声を上げた。

「ちょ、ちょっとそんな大声で……」大地は不安そうに言った。

「大丈夫だって。あんた以外誰ひとり聞いてないから」

 大地は不思議に思ったが、周りを見渡してみると、その不思議な状況を体験していることがよく分かった。あちこちで自分のことを見つめ、くすくす笑っている。大地は恥ずかしくて顔が真っ赤になるのを感じた。

「ちょ、こっち来て」

 大地は女の子に言われるがままに建物の間――よく悪い奴が屯ってそうな場所に連れて行かれた。

「でさぁ、いきなりだけど、君の……」

「ちょ、ちょっと待って。まだ僕君のこと何も知らないから。まず、君は何者? 妖精なの? 人間なの?」

「え? 私は妖精よ。どこからどう見たって妖精に決まってるじゃない。それとも、この姿が妖精に見えないって言うわけ? ほら、羽も生えてるじゃない。これ本物よ」

 女の子は、そう自信満々に言うと、ぴょんとジャンプして宙にぴたっと止まり、宙に浮いた。茫然とそれを見ていた大地はしばらくして口を開いた。

「う、浮いてる……。はい、分かりました」

 やっぱり妖精だったんだ、と確信することができたのは良かった。

「でも、僕しか見えないっていうのは……」

「え~っと、それは、えーっと、妖精っていうのは、何故かは知らないけど、ある特定の人にしか見えないらしいの。例えば~、心の清い人とか。あっ、だから、君は心が清いっていうこと」

「ふ~ん」

 大地が頷くと妖精はまた喋り始めた。

「それで、ある程度成長すると、人間のパートナーを見つけて、その人と一緒に過ごすの。で、あたしはこの町に来たんだけど、この頃に人って心が清くないのかな~。みんな全然あたしのことが見えないらしくて……。それで、困ってたところに君が来たわけ」

「それで?」大地が言うと、妖精はまた、喋り始める。

「あ~、もう。簡単に言えば、あんたのパートナーになっていいのかって聞いてんの。解った?」

 大地は茫然としていた。こういう女子はよく喋るタイプらしいが、こいつはまた別格だ、と心の中で思っていた。でも、可愛いな、とまだ変態的思考が頭に残る中、妖精の質問に答える。

「う、うん……?」大地の表情が曇った。

「ねぇ、どっちなの?」

 大地は頷いた後、答えを出した。

「失礼します」

 妖精はポカンと口を開けてその場を去っていこうとする大地を見つめた。

「ねぇ、え? どういうこと? パートナーになってくれるんじゃないの?」

 そう言って、追いかけてきたが、大地は妖精に目もくれず無言で歩き続けた。大地にとっても寂しい気持ちでいっぱいだった。パートナーになれるならなってやりたかった。あんな妹が欲しい、とまで思ったほどだ。しかし、自分の目的が魔王討伐だということを考えると、どうしてもあんなか弱い少女を連れていくわけにはいかなかった。

 大地が建物の間を抜けるという時に妖精は大地の服がしがみついてきた。仕方なく、大地は立ち止まった。

「ねぇ、パートナーになってよぉ。他の人見つけるの大変なんだよ。あんたしかいないの」

 妖精の声が掠れてきた。それを聞くなり、大地は胸のあたりが熱くなってくるのを感じた。

「ねぇ、お願い。行かないでよ……」

 声が掠れた果てに妖精は座り込み、泣き出してしまった。大地の心は限界だった。抑えられない気持ちが爆発した時、大地はしゃがんでそっと妖精に話しかけていた。泣かれてしまってはもうどうしようもない。いつもは自己中心的人物である大地もさすが耐えられなくなって、声をかけてしまった。泣いてしまうほどの何らかの理由があるのだろう、と受け取り、すんなりとパートナーを許可した。妖精はその答えを聞くなり、すぐに泣き止み、立ち上がった。

「えっ!? 本当にいいの?」

「うん……」寂しげに言う。

「ありがとう!」

 妖精は大地の頭に抱きついた。ドキッとした。安心感と緊張感が同時に生み出され、大地の心に広がった。その勢いで倒れた大地を通行人がじろじろと見てきてまた恥かしくて顔が真っ赤になった。

「あ、でも……」大地は起き上がると、静かに言った。

「でも、何? 取り消しはなしよ」

「いや、違う……でも、これ聞いたらやっぱり、取り消しになっちゃうかも……」

 大地の声は徐々に小さくなっていった。

 妖精が騒ぐかもしれないが、どうせ他人には聞こえていないだろう、と妖精の言葉を信じ、思い切って魔王復活の事情をカミングアウトした。

「へぇ~。そうなんだ」

 妖精の反応は大地の思っていたよりも遥かに軽いものだった。

「えっ? 恐くないの?」

「全然。楽しそうじゃん。あたし、パートナーが見つかればどうでもいいもん」

 この妖精に勇気が豊富にあるのか、無関心なのかよく分からないが、大地は感心した。女の子なのにこれほど恐いものがないのか。しかも、可愛い。自分の弱さを改めて感じさせられ、自分の決意の弱さを反省した。

「それでさぁ、いいんだよね」

「まぁ、いいけど……」

「ありがとうございます。ご主人様」

 妖精が仲間になった。

 大地は小さく鼻息を漏らすと、いきなり妖精が飛びかかってきて一瞬驚き慌てるも、妖精はちょんと大地の頭に乗っかり、ちょうど肩車のような状態となった。この身長でも結構重いな、と大地は思った。

「あっ、ちょっと」

「いいじゃない。ここ楽だもん」

 大地は小さく唸った。でも、これも結構快感かもしれない。妖精のスカートはそれほど長いわけでもなく、大地の頭にかぶるほどには至らなかったが、その中にパンツの他、何か穿いているわけでもなく、大地の首元には妖精の穿いているパンツの感覚があった。まだ変態的な思考が頭から消えない大地である。もう、この年頃に奴はしょうがない。

 何も触れていないのに、押さえつけられている髪の毛が気になりつつも、その後少しだけ散歩を続け、町の入口に立った。頭の上にいる妖精がごそごそ蠢き、大地の顔を覗き込み、話しかけてくる。

「ねぇ、ところでさぁ。名前何?」

「あっ、ぼくも。君名前何?」

 そういえば、2人とも名前を名乗っていなかった。2人とも同じことをするということは、パートナーとして大事なことかもしれない。

 これを言い出したのは、もう村を出た頃だった。

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