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第2章 宝発見 そして……

 家の周りを囲んでいる70cmほどの木の柵も軽々と飛び越えると、そこには無限に広がっているの出ないだろうか、と思えるほど広大な森が広がっている。森の総面積は大地は所属している村の何倍にもなる。この広大な森を突き進んでいかなければならない。そう考えると、大地のやる気は一気に失せた。地図に書かれていたとしても、かなり時間がかかりそうだったが、大地はさっきとは気持ちを入れ替えたのか、どんなに時間がかかってもお宝が欲しい、と改めて心に固い決心を胸に進み始める。

 森の中は、樹の香りで充満している。周りは深緑一色。動物も魔物も全くいないので、いつも安心して入っていくことができる。大地は森に入るたびに気持ちが落ち着くのだ。さっきまでの興奮も心の片隅に飛んで行ってしまっている。大地は歩きながら、大きく深呼吸するも、地図の中心に描かれている罰点を眺めた。ここが目的地だ、そう指差しながら思い巡らせ、さらに奥へと足を踏み入れていった。

 先ほどの話であるが、大洋というのは大地の唯一の友達である。親友とまでは言い難い。しかし、幼き頃はよく遊んだ中である。今は、というとそうでもなく、大地の思考上、大洋と遊んでも暇な時間が解消されるわけでもなくなっていた。それがいつ頃からか……。

 小さい頃は無邪気に遊んでいても、大洋の親は何も口を出さなかった。だが、年齢を重ねるうちにあちら様の事情もあって、大地と大洋は偶にしか遊べなくなったのだ。遊ばない日。それが徐々に積み重なって言った末に大地の暇な生活が幕を開けてしまったというわけだ。無理やり遊ぶというわけにもいかない。相手にも、それなりに事情があって、こうしているのだから、それを強行突破的なことまでして阻止するのは大地も嫌だった。

 だったら他の友達を作ればいい、と思うかもしれないが、残念なことに、この村には大地と大洋以外ほとんど子供がいないのだ。ほとんどというのは赤ん坊は健在という意味で、皆無なわけではない。それらを除けば、最低年代20代。そんな馬鹿な、と思うかもしれないが、それが現実なのだ。理由はよく解っていないが、何年も前から子供が生まれてないらしい。翌年になって、久々の子供ができたが、結果的に子供は大地と大洋だけ。子供が少ないというところから、跡継ぎを考えるようになった大洋の親が大洋を仕事させたりするようになったのではないだろうか、と大地は思想している。

 女とそう無縁なわけでもなし。いくつか年上の女がいたが、村の大人に教えられた美女というものとは違っていた。そういう理由ではないだろうが、女たちは性別の割合的に多勢に無勢だから女は皆村を離れてしまった。だから子供ができない、と一文句。

 とりあえず大地も、多少は性的な感情はあるし、ブスと美女の区別ぐらいはできる。不自然なほどに……。だからいざ外の世界で女に出会っても対処はできる。

後に大きくなる赤ん坊と仲良くなる気もないし、20代の若者と縁を作る気にもなれなかった。挙句、大洋しか友達はいない、と。

 感慨な気持ちを心に滲ませながら、大地は歩く。

 

 途中、程よい霧が周りに広がっていくのを見た大地はある気配を感じた。

「来た!」

 そう言って、大地は笑みを作った。

 《聖樹》――広大な森の中、唯一霧の吹き出るこの地帯で大地の目の前に姿を露にした大きな巨木。葉には、日光が当たり続け、その反射で周囲にまで行き届かせる。色はどちらかと言うと、黄色に近いかもしれない。それはいわゆる村を見守る母なる樹だ。この木から放たれる胞子は魔物たちを寄せ付けない。その1粒1粒に魔力が宿っており、魔物たちに害を与えるのだという。こんな神々しく輝く樹が存在することは他の村の者から見れば、想像もつかないことだが、この村の者ならではの幼い頃から見てきている真実だった。遥か昔から村が平和なのはこの樹のおかげなのだ。大地は聖樹に村の平和を祈願すると、また先へ進み始めた。

 

 どれぐらい時間が経っただろうか。それほど時間はかからなかったように思えてしょうがなかったがとりあえず、目的地に着いているのは確かだった。大地のやや優れた直感と地図上にある森の全体図の位置的にここであることは間違いない。近くにも、海へと続く下流の川の轟々とした激しい音が聞こえてくる。宝の在り処など、ちょっと探せば出てくるものだった。それほど大した苦労もせず、大地は楽々と宝の隠し場所を見つけてしまっていたのだ。

 地図には、

 ×で石板の釦を押せ

 すれば 宝への道 開かれるだろう

 と書いてある。

 そこにあったのは、苔に塗れ、酷く染み付き、中央部分には円を描いた凹の付いた石板があり、そこに同じような灰色のボタンがついている。ボタンがどこにあるのか分からなくする策略だろうと推測した。内心、これバレバレ、と思い、お見通し、と調子の意を持ちながら静かにボタンを押した。

 ……何も起こらない。大地は首をかしげた。

「あれ?」

 まさかの展開に陥ろうとしている。何度ボタンを押しても同じことだった。何も起きない。どうしていいのか分からず、大地はパニックに陥りかけている。石板の周りを入念に調べても何か仕掛けがおるようにも思えず、ただひたすら時間が経っていくだけだった。しばらく沈黙の時間が過ぎ、木々たちも静寂な塊となった。大地は静かに小さな溜息を吐いた。せっかくここまで来たのを無駄に終わらせるつもりか。大地は体を震わせ、考える。

「あっ!」

 大地は思わず声を上げ、何を思ったのか持ってきた物を確認し始めた。その中の1つ。あれを忘れていた、と大地は頭を抱えた。袋から取り出した物。それは、あの黒白色の宝石だった。よく見れば、この宝石、石板に掘り出された穴にピッタリの大きさではないだろうか。合わせてみても、絶対そうだ、と確信できる。大地の興奮が戻ってきた。白黒色の宝石を手に持つ大地はそれを思いっきり石板に嵌め込んだ。やっぱりピッタリの大きさだった。「カチッ」とスイッチ音が鳴り、さらに大地の気分を向上させていくのであった。宝石を嵌めた大地がボタンを押そうとすると、石板は勝手に横へ動き始めた。大地は微笑を浮かべた。まさか、ボタンがどこにあるのか分からないようにする策略だと思っていた大地の裏を読み、地図と一緒にあった黒白色の宝石を嵌め込むだけで入口が現れるとは。大地の笑いは微笑から大笑に変わった。

 大きな音がするのか心配だったが、意外に音は小さく他の者に気づかれていないか、という不安が打ち消させる感覚。横に動いた石板の下からやがて階段が現れた。大地は石板が動き終わるのを見届けると、1歩踏み出した。

 中へ足を踏み入れると、まず持ってきた懐中電灯を点けようとしたのだが、その必要はなかった。静かに奥の闇の中へ光が灯っていく。壁に均一された間隔で取り付けられている蛍光灯のような光を放つランプ。不気味なものだ。入った瞬間に火が灯るとは。

 その後、階段というものはこんなに長いのか、と実感をもたらされた。相当長い階段がどこまでも闇の奥不快へ続いている。もしかしたら、永遠に続くかもしれない、と思えるほどだった。後ろを振り向くたびにあの遠ざかっていく入口のせいで後戻りしたくなる気持ちを、宝が欲しい気持ちで押し殺し、前へと歩き続けた。

 

 光が見える。どうやら、永遠の階段ではなかったようだ、と大地は安堵の笑みを浮かべた。前方の青白い光が近づいてくる。そこに近づくにつれ、大地の気持ちは徐々に高鳴っていく。ついには、1段飛ばしで階段を下り始め、駆け出す大地。

「着いたぁ!」

 思えず、口から出た言葉が壁にこだまして帰ってくる。部屋は思った以上に広く、表面は青銅のような物質で作られており、そのせいで青白い光を放っていたのだ。部屋の角のは、悍ましい表情を浮かべた“オーガ”がこちらを睨み付けている。もちろん、作り物。ここにも、盗人を近寄らせないための工夫が施してあるらしい。一瞬驚いたものの、それにしてもよくできていると感心しながら、大地は部屋の中心に目を遣った。部屋の中心には青銅より良い質の大理石で模られた台があり、その上に壺らしきものが飾ってあった。周りをぐるりと回って見てみても、特徴という物は見当たらず、普通に店に売っていそうな壺にしか見えなかった。それを見た大地は思わず呟く。

「これが宝?」

 大理石には埃がかかっている。よっぽど昔から置いてあったのだろう。大地は埃を掃い、おまけに自分の息で埃を掃った。埃が高々と舞い上がった。咄嗟の判断で目を細め、口を腕で隠した。細めた大地の目にあるものが映った。大理石に何か描かれている。人だろうか、魔物も描かれているような気もする。人々は武器を手に持ち、魔物たちとぶつかり合っているような風景を大地は頭の中で想像した。

「この壺を作った人たちかも知れない。でも、これは何の絵?」

 大地は軽く頷いた。昔、この辺りで人間と魔物との戦争が起きて、その時に何かのきっかけで作られた壺なのかもしれないと大地は考えた。それは別として、大地は壺を手に取ろうとした瞬間にふと、あることを考えた。

(トラップがあるんじゃないか?)

 持ち上げた瞬間に槍でも飛んでくるのではないだろうか。もしかしたら、この部屋が崩れるかもしれない……いや、そんなトラップなら壺が壊れてしまう。考えた末、決心した。もう考えは枉げない。

 そんなものはないだろう。あっさりした答えであったが、そう自分に言い聞かせた。目を瞑り、思い切って壺を持ち上げる。……何も起こらない。死んではいないことに安心の笑みが浮かび上がった。

「宝は無事に手に入ったことだし、もう帰るか」と壺を手の上で弾ませながら言う。後ろを振り向き、帰ろうとした矢先、大地の心臓は一瞬静止しかける。

 人の気配がする。大地は人の気配を察知した。階段を下りてきているのだ。微かな足音と自分の直感がそう言っている。まさか、背後から後を追ってきたものがいたのか。誰であろうと、このことだけは知られたくはなかった――村の人たちはそれほど悪玉ではないが――せっかくの宝を盗まれるかもしれない、と思いたくなかった。

 心を引き締めた大地は壺を大理石の台の後ろへ迅速に隠れ、再度心の準備をする。確実に下りてきている。1歩ずつ……1歩ずつ……その足音はだんだん大きさを増し、近づいてきていることを大地に伝え、周りからの圧縮感をより一層高める。

 相手が来たのと同時のタイミングに大地の背筋に今まで感じたこともない寒気が走る。階段を下りてきたもの。それはまさに化け物そのものだった。禍々しい仮面をかぶり、漆黒のマントに身を包んだ容姿。奴は“漆黒の者”と例えられるだろう。

 思った時には、大地は驚きで腰が抜けているのに気づく。こんな恐怖感は感じたことがなかった。漆黒の者が近づいてくる。何が目的なんだ。奴はまるで大地の居場所が分かっているかのようにまっすぐ大地の隠れる大理石の台の裏へ忍び寄る。恐怖で動かない体を必死に動こうとする大地の目の前に漆黒の者は現れた。ビクッとした。逃げたかった。しかし逃げられない。

 ゆらゆら揺れるその身体とそのてっぺんに付く仮面の顔を捻らせ、大地の表情を窺う。その姿はまるで魔物のようだ。大地の頭の中では、やはり目の前の奴が人間だと認識がしきれなくなり、大地の顔の横に首を持ってきたことには、恐怖感も限界に達し、周りからの圧縮感もただならなかった。『来るな!』と言いたかったが、やはり恐怖で体が動かない。そんな自分に腹が立つ大地に漆黒の者はある言葉を残した。

「魔王が復活した。お前だけが頼りだ……」

 ドキッとした。大地が初めて漆黒の者が言葉を発することに気付いたその声は、よくそこら辺にいる中年のおじさんの低い声に近い。

 大地の頭の中に謎が渦巻く。漆黒の者が言ったことは一切理解できなかった。

(え? 魔王? お前だけが頼り? って言うよりもこいつが魔王なんじゃないの?)

 頭はよく動くのに、それに対して体は動かない。周りの圧縮感から解き放たれた時には漆黒の者は姿を消していたが、大地には、奴がここへ何をしに来たのか全く分からなかった。

(魔王が復活したことを告げに来たのか? でも、何故、僕に?)

 見た目は恐ろしいにも拘らず、あまり悪者の気配が感じられなかった。一体、何者なのだろう? さらなる謎が深まるばかりだった。大地のとって何もされなかったことが一番いいことであったし、壺のことに一切触れていないことも第一に考えた。

 動けるようになるのにそれほど時間はかからなかった。ただただ深呼吸した大地は文句を言うように呟く。

「あいつ、何だったんだろう? ったく、魔王なんかが復活してるわけねぇじゃんか」

 壺を持って出る大地に安心感が生まれ、再び笑みを浮かべた。外は中に比べてとても眩しい。陽光が大地の目に一斉に入ってくる。その光は本当に眩しく感じた。大地はあまりの眩しさに目を瞑った。咄嗟に目に触れた右手を額から離すと、残像が浮かび上がり、少し面白い。

「それで、この壺どうしよう……」

 あれだけの短時間でも、さすがに大地に疲れがあったようで近くの石の腰を下ろす。眼下に映るのは純粋な緑をしている草。周りは人の気配を一切感じさせず、森の木々のさらさらとした自然感漂う音だけが聞こえる中でのしばらくの沈黙、大地はしばらく考えた。

「よし、みんなに見せよう!」

 どちらにしろ村の皆に見せるのなら、さっきの壺に対する思いは何だったのだろう。

 唐突に言い放ち、大地は駆けだし、いつものように森を抜ける。森の中よりさらに輝く村の光。そこにはそれが見える……はずだった。そこで、大地は驚くべきものを目の当たりにしてしまった。

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