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第12章 邪豚の長

 朧に感慨な気持ちを残しながら、大地は港町の門を抜けた。町の外はちょっとした森が広がっている。目前に屹立する山へは少し歩けば行けるであろう。朧が話していたことによると、この港はレガリアには結構近い位置にあるらしい。目前の山に、この前完敗したトンタウロスが住棲している洞窟が付属しているはずだ。しばらく歩いていれば知っている場所に辿り着くだろう、と軽々しい思考を持ちつつ、大地は何となく山の裏側にあると判断していた。直感だが……。

「行くか」

「早く行きましょう」

 吞気なフィアラを羨ましく思う。大地にはそんな余裕がないからだ。今後どんな危機に直面するのかもわからない。魔王と戦うことになってもフィアラをこんなそばに置いていて大丈夫なのだろうか。つくづく思う。フィアラにはもっといい生き方があるはずなのに。家族がいて、仲間がいて、楽しい本来の女の子らしい生活ができたのではないだろうか。妖精の秩序だとしてもそれはどうかと反対の意見を出したくなる。こっちだって無理やりに相棒になっているのだからいずれは離れなければいけない運命なのだろう。

「フィアラ……」

 言いかけた言葉を封じた。

「何?」

 言えなかった。いずれは別れる運命だなんて。大地はどうあれ、フィアラは大地をパートナーとだけ思っているのだ。妖精としての秩序を守っている。そんな子を見捨てるような発言はできなかった。最初に見た泣き顔をもう二度と見たくはなかった。どうせ言ったって一緒にいる運命になってしまうことは見え見えだ。自分の甘い心があるからだ。生後一切家族というものを感じてこなかった大地からすれば、フィアラは人生で初めて授かった妹みたいなものだ。そんな子を手放すなんてことは……。

「い、いや、何でもないよ」

「そう」

 大地は一呼吸して足を前に踏み出した。山の峠はまだまだ先だ。


 大地はもう山の上を歩き進んでいた。

 たったこの2週間余りで島の一角は天日干しになってしまうほどの炎天下になっていた。山の上にいるからだろうか。とはいっても、たかが標高300メートルほどの小さな山だ。気にしないでおこう、と我慢するものの、やはり事実。長い髪の毛が首元にあると、邪魔で暑苦しいのか、珍しくフィアラも髪を束ねてポニーテールにしている。うなじがとても可愛く見える。前々から思っていたのだが、何故こんな球にでもいいから性的な感情を呼び起こす大地が純粋な心の持ち主として、妖精を見ることができるのか。母親が賢者だからなのか。またはこれを純粋な心と認識してもいいのだろうか。運命というのも、またお騒がせな話である。

 とか思っている大地も暑さに少々苦しんでいた。元々村人だった大地の服装は普通の布地で素朴な感じだったが、どことなく『農民だった勇者がたくましい勇者へと成長し、魔王を倒す』的なRPGゲーム的なシナリオに出てきそうな質素な勇者をそのまま物語っているような感じとも言えそうだ。

 髪の毛を伝って汗が額に溜まる。度々目に入る寸前ぐらいで拭ってはいるのだが、それでも面倒なほどに汗が出てくる。こんな天気今日だけにしてくれー、と内心で呟きつつ、口からも出ていた。

「フィアラー。何でこんなに暑いんだよー」

「あたしに訊かれてもねー」

 2人とも暑さの影響で棒読みな発音になっている。

 今まで魔物とはほとんど手合せしていない。草の陰にチョロッと尻尾だけ見えたものの、気にせず通り過ぎるということはあったが、まともに出てこないと言うことを淋しく思う。朧にあれだけ修行してもらったのに試す機会が海上で終わってしまうとは。このまま洞窟に着いてしまったら、腕を鳴らせないまま戦う羽目になってしまう。避けたいが、避けたくない。

 次の瞬間には、だ。唐突に周囲の木々が倒れ始め、大地とフィアラは驚いてそっちの方を向いた。魔物であるのに間違いはなかった。――邪豚だ。この前と同じような丸々と太った体に堅牢な角は大地にとってみれば因縁の塊だった。この2週間で、数段にまで行動速度を強化した大地は豹のように駆け、豚を仕留めた。今の大地からすれば楽勝なものだった。一振りに不思議なほど力がこもっていたから妙に邪豚が弱く見える。修業後初めて倒して雑魚に、何となく強者に対する自信が持てた。

 この邪豚の悲鳴を聞いたからだろうか。周囲にいたらしい、あらゆる類の魔物たちが襲いかかってきたのだ。全方位に注意しながらも、まずは猿みたいな魔物にぶつかられ、倒れた大木を避けた。

「木が邪魔だ。フィアラ、できるだけ周りの木を焼き払って」

「はいはーい」

 リギアを唱え続けて、周囲の木々を焼き払った。一部、火を嫌う魔物が怯えて逃げて行ってしまったのは、好都合だった。焼き払われた木々を見て、剣呑を覚えたのか、訳知らず逃げていく魔物は予想外だ。残った魔物は大地が剣と共に一網打尽にする。

「不死鳥斬!」

 その声は山の頂上まで届いていたことだろう。


 それほどの苦労も感じず、大地は山の頂に足を着けていた。小さい山ながらも、それなりに景色は楽しむことができた。トウシン島はともかくとして、朧が今頃疲れ果てているであろう港町はすぐ下に見下ろすことができたのは嬉しい、みたいな感情が生まれた。何となく感じるってヤツだ。

「不死鳥斬……」

 なんとなく大地はその言葉を口にした。朧に言われてからちょくちょく口にするようになってからは癖になっていたのだ。力が漲るっていう感覚は確かにあるとも思えたのだが、大地は気難しくなっていた。

 技名には何の問題もないのだ。かっこいいとも思えるし。問題は目に見える攻撃だった。技名を言う。力が漲る感覚がある気がする。だが、見た目だどうだ。ただ普通の剣を振っているようにしか見えない。オイガランを倒したときだって、何かが起きたわけじゃない。普通の剣を普通に振ったのと同じことに間違いはないのだ。そんなことで本当にいいのだろうか。

 トンタウロスが住棲している洞窟に初めて赴いた時、咄嗟にフィアラと一緒に思いついた戦略。リギアと剣の合体技。大地のイメージでは、不死鳥は紅く美しい羽根を広げた炎を連想させる鳥だった。リギアとの合体技が最も不死鳥斬という技名に当てはまっているとずっと感じていたのだ。

「フィアラ、リギア」

 と言ったが、フィアラはさっき『少し寝るわ』とか言い残して再び横臥してしまった。寝る子は育つとはよく言われるが、フィアラは特にだな。この1メートルもない身長がいつかどんな大きさになるのやら。考えただけでぞっとするような気が大地の背中を襲った。妖精はこれぐらいが一番だ。

 と、フィアラがこんな状態の時もあるのだ。そう度々呪文を要求することも難しいだろう。やはり自分で……。そう、自分でやればいいのだ。ラゴスを使えて何故活用しない? やったさ、あぁ、やったとも、って何度だって自分の剣に訴えかけていた。

 朧との修行中にだって――。


「ラゴスと斬りを合体させて『雷電斬』とかできないのかな?」

 試してみる価値はあったのだが、結果は……。

「ラゴス!」

 唱えた大地の手の平から勢いよく電気の球が出現した。それに合わせて大地は剣を振る。出来た!と思ったのは束の間だった。瞬間的に自分の腕が動かなくなるのを感じた大地はラゴスにはじかれて、数十メートルも飛ばされたのだ。

 リギアはできたのに……。悔しくてもう1回やったが、結果は同じことだった。はじかれて飛ばされる。確かに当たっていた。根拠が分からなかった。ラゴスだけ弾かれる訳が分からない。電気だから鉄に科学反応を起こして剣との交えを拒絶するのかと結論を立てた。

 朧に聞いても――「呪文のことはよく分からん。まず、呪文と剣術の合体など考えたことないわい」とのこと。修行が終わった今になっても尚、大地の頭中では『化学反応による拒絶』という考えしか生じなかった。

 今はもうやる気を失っていた。ラゴスと剣の拒絶をバネにして、神速な攻撃を編み出そうとしたこともあったのだが、それは空しく無謀な案に終わってしまった。反動が非常に強く、大地自身への負担も大きいからだ。修業中に死んでしまうかもしれない。それならやらない方がいい、とそのことからは距離を置いたのだ。

 結局、呪文に詳しい賢者に話を伺うしかない、と思う。又は伝説の剣なら適応するのではないだろうか、という勝手な思考も持ち始めていた。レガリアに行かなければ、賢者に話を窺えないし、もっと未来に伝説のつくってからしか何も分からないのだ。余分なことを考えている暇はない。今はただ伝説の剣の素材の覇王石を求めてトンタウロスを討伐するのが第一だ。

 大地は一枚岩の上でぐっすりと眠ってしまっていたフィアラに歩み寄った。穏やかに眠っているフィアラの顔は以前見た時よりいっそ愛くるしくも見える。

「やっぱり、こんな妹が欲しかったなぁ」

 両親のことを脳味噌の片隅で思い出す。自分を置いて、いったい世界のどこで何をしているのか。兄弟も残してくれればよかったのに。今までの人生において考えなかった日はないような願望だ。兄弟――いや、仲間が欲しかった。大洋を差し置いても友達がいなかった大地にとって、仲間というものはどんなものなのか。ただただ一緒にいるだけか。それとも……。

 抜けかけていた精神を元に戻して、大地はフィアラをもう一度見た。いつの間にか寝返っていて、後頭部の馬の尻尾がまたまた愛くるしさを強調している。触ってみたい。何故かそんな考えが頭中に浮かんだ。理由がない。何となくだ。さっきからそれが多い。目的を明瞭にしていない。旅の上でそれも必要か? 

 今まで常にフィアラのスカートの下に隠れるパンツを首元に感じ続けてきたのに、今になって髪の毛が触りたいと思うのは矛盾するようなものを感じる。誰も止めはしない。大地はフィアラの髪の毛をくいっと引っ張ってみた。しなやかである。さすが女子。

 ところで、何で引っ張ったんだっけ? 漠然としたまま大地はしばしの間、安らかに眠るフィアラの背中を眺めていた。


 時は流れ、大地は下山もとうに終点迎えていた。地上が見える。レガリアだ。本当に山をまっすぐ通ってきただけで着いた。直感正解。

「ダイチ。あれ何?」

 ついさっきまでぐっすりと寝ていたフィアラも今になっては元通りである。大地はフィアラが髪を引っ張るものだからそっちを向いた。

 何かの穴だった。人一人落っこちてしまいそうな直径5センチぐらいのやや小さな穴だ。――殺気。この穴には近づいてはならない、と周囲も森が騒ぎ立てているようにいきなり突風が山の奥深くから噴き出してきた。思い出そうとした。この穴は何だ?

 粟立つのも感じつつ、大地は穴の中をちょっと覗いた。その時、このさ殺気の正体が分かった。「あれって……」というフィアラの言葉に乗せて大地は脳裏に閉じ込められていたとある記憶をこじ開けた。忘れられる訳がない。完敗した相手だ。一生かかっても消えない記憶だろう。確かに以前トンタウロスと戦った際に洞窟の天井にはこれと全く同じ穴が開いていた。

 忘れかけていた記憶が大地の脳の中で結びついた。相手に気付かれてはならない、と咄嗟に穴から顔を上げる。想像できる。こんな穴だ。誰か人が気がつかず落ちてしまったことがないとは思えない。ここへ落ちたものは下にいる豚たちに喰われるのだ。気づかずに落ちて、無力なままに殺され、えさとなる。人工的にあけられた穴なら最も、自然にできた穴だとしても赦せない、洞窟内全てを破壊したい気分になった。が、今そんなことをすれば、大切な覇王石の発掘所であるこの洞窟を無駄にしてしまうことになる。……それで、奴を潰せるのならそれはそれでいいかもしれない。

 そんなことを思案しながら、大地は山の地形に沿って、真面目な考えで洞窟の入り口を目指す。この穴から飛び込んで不意打ちするっていうのも、またこっちが卑怯な気がしたからだ。腕を確かめるなら、正々堂々と戦ってみたかった、というのが大地の真意。

「とっ」と口にして、何か気があった訳でもなく、大地が足元の小石を蹴ったその時だった。コツっという小石の音は著しくでかい轟音によってかき消された。大地は背後の木に目をやった。明らかに聞こえた邪豚の咆哮。主は気が昂っており、怒火を滾らせた目で大地の方を見ていた。

「相手になるか?」

 挑発した大地だったが、邪豚の矛先は大地には向かっていなかった。ひゅーと目玉を左へと動かした大地。視界に、山肌からごっそり外へ飛び出した妙に丸い岩が入り込んだ。邪豚の目が何故かそちらへ向いている。何故?なんて思わなかった。その前に邪豚はその丸い岩に突進して、地面から無理やりに砕きとった。無論、ここは山の上だ。多少の傾斜はあるに決まっている。5度の坂でも、球が転がるのと同じように、岩は間違いなく大地たちの方へと転がってきている。

 避けた。こんなものか。安心する。だが、これがさっきの大地の思惟の一方を実現してしまいかねない結果を産んでしまうとは不覚だった。

 大地の背後――洞窟の真上。岩は勢いが止まることなく、薄い壁に覆われただけの脆い洞窟の上で崩壊した。地震のような揺れ。無垢な魔物にも意志はあるようで、邪豚は知らないふりして山の奥へと去ってしまった。中ではどんなことが起きているだろうか。人一人が落ちてしまいそうだった穴は拡がり、人三人ぐらいは余裕で落ちてしまいそうな危ない穴へと変貌した。洞窟の割合から言って、これだけの穴が開いて、仲が崩落しないというのが奇跡的だ。

「ダイチ。早くしないと洞窟が崩れちゃうわよ」

「分かってるよ。まったく、余計なことしてくれるぜ……」

 ぐちぐちと殺し損ねた邪豚を憎んでいるうちにいつの間にか洞窟の入り口に着いていた。あの時と同調の禍々しく邪悪な気配が洞窟の奥から流出している。それを体感しつつ、大地は漆黒の闇に包まれた洞窟の奥にいるただ一つの気配に焦点を絞っていた。

「あのーすみません」

 あまりにもトンタウロスに気を集中させていたために背後から近づいていた気配に感づけなかった。驚きと集中の途切れを半分ずつ感じて、大地は背後の気配に気を逸らせた。

「すみません、この洞窟にご用のあるお方ですよね?」

「え、まぁ」

「そうですか。私、巧人と申します。こう見えて学者でしてね、研究のために覇王石を発掘に来たのですが、この洞窟には魔物が棲みついているとかでして。それで旅のお方に協力をと」

 巧人と名乗る男が大地の目の前で淡々と説明を済ませた。

 こう見えて、と言ったが、どこからどう見ても学者にしか見えない格好だ。戦闘はまるでできそうのない貧相なひょろっとした体に、研究員らしいどうでもいいような無地の服、何が入っているのか全く想像もできない無駄に大きな背負い袋。それに加えて特に際立って見える丸眼鏡。歳は同年齢ぐらいに見えるが、声のトーンや口調からしてもどのくらいのゼネレーションに位置しているのか分からない。見積もっても、10歳上ぐらいが限度だ。

 個人情報はともかく、大地は巧人の要求から会話をつなげた。

「協力してほしいと?」

「はい。こう見えて私、魔物との戦闘は向いてないものですから」

 眼鏡の縁を光らせ、微笑する。1つわかった。こいつの口癖は『こう見えても』らしい。うん、確かに戦闘はできそうもないね、と答えたくなったが、それは相手のことを考えて抑えた。

「それならちょっと待ってて。今から取って来るから」

「それはできません。自分の目で覇王石というものを拝見してみたいのです。あなたと共に同行してみたいのですよ」

「あなた?」

「あなた、でしょう? 1人しかいないじゃありませんか」

 やはりそうだ。巧人にフィアラは見えていない。悟りを啓いていない、魔物ではない、心は清くない、それはすべて当てはまるのは確定だ。こんな変な性格しているから心が清くなくなるんだ。実は猫の皮をかぶっているだけで、化けの皮をはがせば悪玉だったりする可能性もなくはない。妖精っていうのはそういうのを見極めるためにもいると思う。

「どうしました?」

「何でもない」

 自分勝手な事項に応じるしかないように思えて、大地は連れて行きたくない気持ちを三割、足手まといになって死んでもらわないでほしい気持ちを三割、仕方なく連れていこうという気持ちを三割持って、巧人を同行させてやることにした。「ありがとうございまし」と誠実に礼するのを見る限りでは、今のところはそばに置いていても問題はないだろう、と判断した。いざとなれば、峰打ちして気絶させるというのも有だ。

「じゃあ、行こうか」

 そう告げた大地は巧人を連れて洞窟へと足を踏み入れた。


 唐突にだが、無論邪豚は出てくる。この洞窟には邪豚しか生息していないのか、というほどに。人間による覇王石の採掘を許さず、厳格な体勢がとられているのは前回来てみて分かっていること。「まっ、魔物が……!」と怯えてしまっている気の弱そうな学者さんをかばいつつ、大地は軽々と邪豚たちを一掃していった。邪豚もやけに弱く見えるし、以前避けられなかった立邪豚の攻撃も、未来を予知できているかのように回避できる。改めて思ったが、この2週間での成長は計り知れないもののようだ。

 一掃した後、怯えている巧人に大地は手を貸す。「大丈夫か?」と言いながら。せっかくに心配をよそに、巧人は今自分がとっていた行動も全てが何事もなかったかのようにヒョイッと立ち上がって、恒例の言葉を告げるのだ。

「いや、すみません。こう見えても私、魔物にめっぽう弱いものですから」

 正直者だ。決して強がりはしない。学者としての堅実な性格が目に見えて分かる。それなのに、なぜフィアラのことが見えないのだろうか。大地にはさっぱり分からなかった。

「ところで、ほんとに僕1人だと思ってるんですか?」

「いやいや、先ほどから何をおっしゃっているのですか。あなたしか見えていませんよ」

 その言葉の何かが気にかかった。思考回路の途中が滞るような奇妙で不可解な感覚。それしか感じることができなかった。瞬時に考えを深めようとはしたものの、その一瞬で出てくる考えなど粉塵程度しかなかった。

「あんた本当にあたしのこと見えてないの?」

 大地に続くように、フィアラは聞こえるはずもない言葉を巧人に向かって飛ばした。本人がそう言っているんだから聞こえる訳ねー、と呟きたくなることを心の内で思った大地。無駄な時間だ、と再思してフィアラを抑えようとしたその時だった。

「いや、そんなこと」

 脳裏の滞りは少しさめたような気がした。今の反応は何だ? 確実にフィアラには反応したのではないだろうか、と不思議と不思議が湧き上がってきて、大地は咄嗟に訊いていた。

「今の反応は?」

「ただの独り言であります」

 何の戸惑いも見せずに冷静に答えられた。もっと、額に汗を滲ませて『えっ、い、いや、ただの独り言ですよ、ハハハ』みたいな精神的パニック状態に陥るかと予感していたのだが、やはり学者。常に冷静に対処できるのだな。それにしても、今の行動とさっき魔物に出会った時の驚きようには矛盾する点が窺えるのだが……。

「さてさて、先を目指しましょう」

 急にリーダー格に躍り出たような口調で洞窟内に声を響かせた巧人に大地は訝しがった目線を定めた。どう見てもあの学者はおかしい。普通に考えられる学者とはどこか欠けている点があるというか、馬鹿っぽいというか、悪役っぽいというか、とにかく仮学者のように見えた。「フィアラ、やっぱりあいつおかしいよね?」と訊くと、フィアラは「うん、ちょっとね」と珍しく頭が回った答えを返してくれて大地は嬉しく思った。

 リーダー格に躍り出たのは一瞬。先を急げば邪豚や立邪豚は溢れるばかりに出てくるから大地が何とかしなければならないし、それによって魔物嫌いらしい巧人は怯えてかがみこんでしまう。フィアラも盛んに協力してくれたが、それでもフィアラの存在に気がつかない巧人をさらに怪しく見る癖がついてしまっていた。(妖精が見えない人の目にフィアラの行動はどのように映るのだろうか?)

 朧が言うには「食事をする際には、何もない空間に吸い込まれるような感じ」らしい。リギアを使用すれば、同様に何もないところから火が上がるのだ。庶民が見たらどんな風に感じるのか。妖精というのはどちらかと言えば透明人間に定義される種族なのではないだろうか。いったい、神様は何故そんな不便な体質を妖精たちに与えたのだろう。

 巧人はフィアラのリギアを見ているはずなのに、何の反応も見せない。脳裏の滞りが冷めたと思ったのは気のせいだったようだ。開悟も魔力も清心も持ち合わせていない、又は嘘をついているか、それだけだ。

 邪豚共を一掃しているうちにいつの間にか最深部に着いていたころには、もうすでにそんなことを考える余裕はなくなっていた。……果てを知らない邪悪な力。あの時と同じ。目の前の生意気な一匹の邪豚を大地は見据えた。

「貴様か……。いつぞやにここへ来た人間。今でも憶えているぞ。何を使ったのかは知らんが、貴様らは一瞬のうちに消えてしまったのだからな」

「消えた……?」

「ふっ、何度来ても同じことだ。覇王石が欲しいのだろう? だが、俺は斃せんぞ」

「そんなの、やってみなくちゃ分からないよ」

 戦闘開始の雰囲気が漂い始めた。それは天上の穴を伝って外へと出る。洞窟の壁にはところどころにひびが入っている。自分の部下がやったことだとも露知らず、先刻には『なっ、何事だ!? 誰の仕業だ!』とわめいていたに違いない。奴の顔を見ればよく分かる。洞窟が崩れるかもしれない、という緊張感の入り混じった焦り顔を無理やり戻した顔をしていたからだ。

「かかってこい」とは言っているが……。

 大地はずっと頭の上にいたフィアラを持ち上げて、巧人に差し出した。――というか託した。この戦いは海上で戦って以来の弩級の威圧感がある。フィアラをそんな場においてはおけなかったのだ。巧人に見えていなくても構わなかった。とにかく、

「フィアラを頼んだ。とりあえず、このまま持ってて」と渡した。

「ちょっと、ダイチ。あたしも戦えるわよ」と反論したが、無視して「は、はい?」と状況を呑み込めない巧人の顔色を窺いつつ、大地はトンタウロスをもう一度見据えた。

「今度こそ一撃で決めてやるぜ」

「さぁ、来い」

 ついに戦闘開始だ。修行の成果を見せつける剣をトンタウロスの角にめがけようとしたが、ここは人間。学習するのは当然だ。角などにかまわない。大地は鎧も何も装備していない腕をめがけた。

 剣を振る。刹那、力強い拳が大地に振り上げられた。オイガランとは比較するまでもないほどに小さな拳だったが、攻撃力はオイガランを上回るのではないだろうか、と肌で感じてしまう圧だった。高速のアッパーを宙で華麗に躱しつつ、大地はもう一度攻撃する。直撃した。が、位置がずれた。渾身の一撃は胸部に当たり、狙い通りには痛撃を与えられなかった。後ろ脚でブレーキを掛けながらもトンタウロスは後方へと飛ばされた。大地の力が健在であることを見せつけた。

「貴様。この半月ばかりでこれほどまで力をつけたのか」

「当たり前だ。お前を倒すために修行してきたんだ」

 奴がにっと笑った。不気味な微笑。陰になった顔は後に微笑から大笑いに変貌を遂げた。

「はっはっは。だが、この程度か」

「どういうことだ!?」

「やって見れば分かることだ」

 戦闘は再び始まった。正確に七日、がむしゃらになのか分からない太刀筋で大地はトンタウロスを攻撃する。体が傷つき、相手からも喉の奥の方から悲鳴が聞こえる。やっぱり、さっきのははったりだ、と思いつつ、これは行けると自分の力に確信を持てた。洞窟の奥にまで追いつめて、最後はトンタウロスが座っていた王座までも吹っ飛ばした。「ラゴス」と唱えて、最後の押しをする。電撃がトンタウロスを捉える。「うっ」とダメージを受けたのは確かだった。

 だが、奴は余裕の笑みを浮かべて大地の前に立ちはだかったのだ。そして――。

 ドクンッ。大地の心臓がうなりを上げた。共に襲いかかる腹部への激痛。トンタウロスの拳が大地の腹部を捉え、大地をはねあげた。洞窟の中心でうずくまった大地の表情は一変していた。余裕の表情はどこにもなく、ただ予想外の事態を受け止められない哀れな表情だけだった。

「だから言っただろう」

 舟の上では、確かにフィアラは3000と言ったんだ。フィアラが嘘を吐くはずがない。奴の強さは2700だったはずなのも確かだ。300も上回っているはずなのに……。大地の耳にフィアラの声が届いた。

「ダイチ。あいつ、3500になってる」

 さ、さんぜんごひゃく? 何故数値が……? 人間だって鍛えれば強くなる。それと同じく魔物だって鍛えれば強くなるのは歴然としてわかる。だが、奴は見る限り常に王様気取りして椅子に座っているだけにしか見えないじゃないか。そんな奴が強くなるなんて考えられなかった。

「お前、修行したのか?」

「そんなものするものか。魔物はそんなことしなくても強くなれる」

「見よ!」

 かけ声とともにトンタウロスは洞窟の隅にある何の変哲もない小さな穴に近づいた。次に瞬間、小さな穴から何か紫色の煙のようなものが噴射したかと思うと、それを浴びたトンタウロスの邪悪さがより一層強まった気がした。邪悪なオーラが体臭のように体中を取り巻く。

「3550?」

「この辺りは魔力で満ち溢れているのだ。そう、この小さな穴から洞窟全体に魔力が広がっているのだ」

 思い出した。こんな経験を今日の朝にしたではないか。朧の話によれば、海竜は強くなっている、と。それはこういうことだったのだ。この島は魔王の力によって魔力で満ち溢れ始めているのだ。その影響がこの通りだ。

「そういうことだったのか」

 腹部を押さえながら立ち上がった大地は解釈を済ませた。奴がここを離れない理由は2つあった。1つ目は、人間に力を与えるという覇王石を採掘させないようにすること。2つ目は、自然に魔力を噴射してくれる快適な洞窟を奪われたくなかったのだ。

 だが、それでは状況はますます悪くなるばかりだ。決着はもう着いたも同然だ。数値の違いで決まる。そう言うものだ、と信じ込んでいた。うなだれるように戦意を細めていった。


「今のうちに……」

 トンタウロスの目が大地に向き過ぎていて、ほとんど気づかれていなかった巧人は勝手に採掘を始めようとしていた。その頃に大地が戦意を失いかけたものだからフィアラも黙ってはいられなくなったのだ。「ダイチ、しっかりして~!」と巧人の腕の中でもがき暴れる。巧人も持ちたくて持っている訳ではないのだ。実体の見えない腕の中の何かを異物のように感じて、地面に下ろそうとする。その時だ。

 巧人には見えていないらしいから仕方のないことなのだろうが、不意にフィアラの胸に巧人の手の平がふれた。巧人も分かっていてやったわけではないかもしれないのだからフィアラも分かってほしい。「これは?」と呟く学者さんに何の感情があったのかはではないが、純粋な心も持ち合わせていないところからいえばそう無頓着な感情ではなかったと見える。

 しかし、巧人の口癖ではないが、こう見えてもフィアラは純粋な女なのだ。もちろん、胸触られれば絶叫するのに無理はない。巧人はどうか詳細不明だが、大地とトンタウロスには十分聞こえていたことだろう。

 だが、フィアラは叫ぶだけに抑えなかった。珍事、素手で相手を攻撃した。恐るべき速さの平手が巧人の頬に降りかかる。よくよくあるこういうシーン――彼女が彼氏をビンタするシーン。それとはちょっと違うが、やり過ぎじゃねえかっていうほどに、巧人の眼鏡は片方のレンズがひび割れ、身はそのまま地へと倒れこんだ。

 覇王石が欲しい、とここまで来た学者さんを女一人の手で気絶させてしまうとは、大地も巧人が起きた時に見せる顔がない。……と思うわけがない。とりあえずは立っているものの、心がフィアラの言った数値に惑わされて動けなくなっていた。「今度こそおしまいだ」と指をパキパキと鳴らしながら、近づいてくるトンタウロスは言った。逃げ出そうかと思って、後ろを向いた瞬間、フィアラの声が耳を突き刺さった。

「ダイチ、どうしたの!? こんな奴に負けてもいいの? あれだけ頑張って修業したのに、こんなところで諦めていいの? 大地はあたしのパートナーでしょ!?」

 目が醒めた。そうだ、こんな奴は魔王に比べれば屁でもない。魔王を討伐することを最終目標に置いている自分がこんなところで諦めていいのか。数値なんて関係ない。すべてを出し切れば、必ず勝利は我が元へ齎される。

「そうだな……。こんなじゃ、かっこ悪いよ」

 暗い顔をしていた大地は一変し、勇気が甦っていた。大地が命令したわけでもないのに、フィアラがいつもの場所に跨っていた。「いいでしょ?」と頭の上から飛んできた可愛げな声に大地は思わず反応した。

「いいよ。やっぱり、フィアラは離せない」

 若干エロっぽい発言のように聞こえたが、はっきりとした大地の気持ちがよく伝わってくる。今討伐するべき敵はただ一つ。目の前のトンタウロスを見定めて、大地は仁王立ちした。

「諦めない!」

 地面を蹴った大地は迅速にトンタウロスの腹部を狙った。フィアラも大地と心を通わせているかのような順応な動きでリギアを大地の前方に放つ。

「不死鳥斬っ!」

 大地の振った剣とリギアの炎が結合し、火炎と化した剣がトンタウロスに向けられた。高速×火炎×剣。その破壊力は今までの攻撃とは比にならないものとなる。

 避ける暇もなく、トンタウロスは腹部を撃たれ、地を噴き、後方へ吹っ飛んだ。背後の壁に背中を打ち付けて洞窟中に振動を与えた。うなだれたトンタウロスが顔を上げる。その顔に、もう甘さはなかった。徹底的に叩き潰すべく殺気。しかし、大地も同じ顔をしている。竜虎相搏つだ。

「貴様、許さんぞ……」

 澱んだ声で大地を脅そうとする。それに怯えることなく、大地は前へと足を進めた。これで決着がついてくれればいいのだが。

 トンタウロスは大地に拳を振った。大地は回避して、剣を振った。肉体に切り込みが入るものの、決してひるまないトンタウロスは邪悪な拳を再び大地に放った。受け止めようとしたのは失敗。「ダイチ、下!」と想像以上に大地のフォローに入ったフィアラの声を聞いて何とか救われた。振り上げられた足を逆に受け止めつつ、足よりも遅く向かってきた手を紙一重のタイミングで転がり避けた。『ありがと、フィアラ』とも言いたかったが、今はそれどころではなく。右に転がったところちょうど、今振り上げた足が目に入った。「右前脚、潰れろ!」と大地は思いっきりトンタウロスの右前脚に突き刺した。

「ぐあぁ……!」

 悲鳴を上げる。オイガランの時もぶっさしたのを思い出す間もなく、ダメージを与えたことだけを確認して、大地は足から剣を抜いた。ブシャッと噴出した血が返り血となって大地の顔を赤く染める。生物を殺すうえで当然起きることだ。フィアラの足にもかかったのだが、ここはさすがフィアラだ。女らしくない性格を出して血にも恐れを抱かない。

「く、くそうっ!」

 疼痛を訴えながら、眼中にはいるものもまるで把握していないように無茶振りに拳を振り回す。意識のないパンチなど無力に等しい。大地は気にすることなく、トンタウロスを攻撃する。ここまで痛めつけられているのに絶命しないとは、しつこい魔物だ。

 それにしても、さっきまで無力だった相手にどうしてこれほどまで押せているのか。フィアラの言葉がそれほどまでに大地に力を与えたんだろうか。大地も今は無我夢中に戦闘をしている。己の強さに自惚れる訳でもなく、自然と。

 不覚。攻撃が当たることもあるが、それでも大地は倒れなかった。2人とも体力は徐々に削られていった。生物も問題は差し置いて、先ほどから周囲の状況に変化が表れていた。それが何を意味するのか……。

「でえやあぁ!」

 大地の剣がトンタウロスの角を直撃した。以前剣を折られた部位であるはずなのに、大地はツノヲ目が目たのだ。奴の体力はもう限界近いはず。それなら角を攻撃したって悔いはない、と思っていたのだ。刹那、トンタウロスの角も大地の剣も折れることはなかったが、逆に言えば、叩きつけることとなった。洞窟の硬い地盤に豚の小汚い顔面が激突する。

 その時だ。周囲に本当の変化が起きたのは。今の一撃が洞窟内にあまりにも多大な影響を与えたようだ。ひびく、と言うか轟いた振動が洞窟内に広がり、岩盤も限界に達していた。最悪の事態だった。こうなってしまうだろう、ということを何故前もって考慮しておかなかったのか、大地は我に返って思い出した。

「やべえ! 洞窟が崩れ始めた」

「ダイチ、どうするの!?」

 トンタウロスは顔面を地面に着けたまま動かなくなり、戦闘不能なったが、大地はそれに勝利を感じる余裕もなくなっていた。一刻も早く洞窟を出る必要があった。倒した敵などどうでもいい。守るべきものがいくつかある。フィアラ、覇王石、一応気絶中の巧人。フィアラは確保済みだ。残りの2つはどうにかする必要があった。

 大地は焦る気持ちを抑えて、周囲を見回した。覇王石はトンタウロスの座っていた王座のすぐ後ろに転がっていた。採掘と言っても、表面に物が現れていないというのが惜しい。何を言いたいかというと、覇王石は洞窟内に1つしかないということだ。しかし、大地は覇王石が2つ欲しかった。こんな時に限って人のことを考えるのだから。巧人の分などどうでもいい、という悪魔が大地の頭の上を周回する中で人のためだ、という天使が同じく大地の頭の上で踊り回る。

 1、2秒の内に考えて大地は結論を出した。

「フィアラ、巧人連れていける?」

「え、えぇ」行ける、ということだ。

「じゃあ、すぐに巧人を連れて洞窟を出て」

「ダイチはどうするの?」

「もう1つ覇王石を採る」

「こんな時に人のことはどうでもいいの!」

 叫んだフィアラに大地は優しく笑みを送って、肩をつかんだ。「頼んだよ」と伝えて委託を成立させた。フィアラはもう何も言わず、勇姿を見せようとしている大地を止めることもしなかった。ただ、最後まで大地のことを心配し続けていたのは正真正銘である。

 来たルートを戻るのはあまりにも危険極まりなかった。巧人を背負ったフィアラにそんなことをさせられなかった。洞窟の天井にあった穴はさらに広がっていた。大地は決断する。巧人の身を背負ったフィアラを手をグッと握って、そのまま体へと手を滑らせる。巧人も学者であるから予想以上に軽くて安心した。2人お姫様だっこっていう形か? 

「少し飛ばすからそこから自分で何となして」

 無責任な言葉につい、

「何とかしてって……」

 と言いかけたが、大地を信じていたから口を噤んだ。

「せーの」

 かけ声と共に大地は全身全霊でフィアラと巧人を宙へと舞い上げた。崩れゆく岩の隙間を抜けて、2人は洞窟の外へと飛んでいく。2人が無事日常へと帰れたことを見届けると、安堵の笑みを一瞬零し、大地は行動に移った……。


 ※


 洞窟の外へと舞い上げられたフィアラは妖精特有の空中浮遊を使って、比較的体重の軽い巧人を落とさないように地上へと連れて行った。その間にも、下では大地が命がけの採掘をしてくれている、と思うと、フィアラは巧人のことなどどうでもよくなって、上空2メートルぐらいに来た時にはごみのように捨てていた。すぐさま崩れゆく洞窟の中を覗き込んだ。

 今はもう洞窟の崩れも治まっており、瓦礫が散乱する最深部を心配そうに眺めた。岩で密閉されてしまった最深部を見ると、大地は絶対に生きてはいない、と確信できたような気がして途端にフィアラは涙が頬をつたるのを覚えた。何で泣いているんだ、と自分に言い聞かせたが、余計に涙が溢れてくる。大地の最後――パートナーの死はフィアラの心を沈ませた。最終的には……。

「ダイチー! 出てきてよ~!」

 絶叫してフィアラは洞窟の中に涙をこぼした。フィアラの一筋の涙が洞窟内の瓦礫にぽちゃんと落ちた時、瓦礫の一部がガラッと音を立てたような気がした。自然にか、とも思ったが、本当は心の底から希望が溢れていた。

 フィアラの目線が下方に向いた次の瞬間。瓦解して粉々になった瓦礫の中から人影が現れた。それは奇跡と言っても過言ではない、とフィアラ的には思っていた。大地が生きていたのだ。普通、ここでありえないほどの涙を流し空気なのだが、フィアラは言葉も出せず、一緒に涙腺も固まっていた。

「フィアラ~」

 呑気な顔して大地は手を振っている。その足元には2つの覇王石が転がっていた。やってのけてしまった、この男。不可能に近いことを覆したその雄姿に拍手を送ってやりたいものだ。

「ダイチ……生きてた……」

 半分放心状態になりかけでただひたすらに、時間と共に大地の姿を眺めていた。とにかく、覇王石の採取は無事に成功したのだ。大いに喜ぶべきだ。大地の命がけの決断が齎した2つの覇王石。それらは陽光をいっぱいに浴びて、純粋な赤さを一層濃くし、いつまでも輝き続けていた。

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