第一章 迷子の手紙と世界の終わりの物語 -1-
鳥は鳥籠に。
行商人はそろばんに。
子供達はおもちゃに。
おばあさんは編み棒に。
私は人形に。
世界は卵に。
そして卵は……
第一章 迷子の手紙と世界の終わりの物語
蒼は時に黒よりも暗いのかもしれないと、少女は思った。
見上げた空は沈んだような深い濃紺。氷柱森から見る夜空は、数多の星につつかれて。白く折れ曲がった細い枝葉にひび割れて。一際遠く感じる。
ほんのりと青白く光る水晶のように白く硬い大地と、そこから伸びる同じように熱のない白亜の木々に囲まれた、凍らせ森として有名なこの森にも、もう雪も霜も降ることはなく、吐く息も無色透明だった。
なのに、どうしてこんなにも冷たいのだろうと少女は不思議に思う。
もたれた背に感じるのは乳白色の無機質を思わせる木々の硬い質感。この森に入ってもう三日は経っている。風景は今だ変わることなく、何の変化も見せない森は、迷宮の奥底に閉じ込められたのではないかという錯覚に陥るほど深遠だった。
少女は夜空から目を離すと、滑り落ちるようにその場に座り込んだ。瞼を閉じて、顔を両腕でしっかりと抱えた膝の上に埋める。
一度そうしてしまうと、重い温度のない世界は少女を押し潰すかのようで、少女はふさいだ顔を上げることが出来なくなった。
ここにあるはずの世界はどこに行ってしまったのだろう。次に顔を上げたときには、戻ってきているだろうか。皆は私を置いて行ってしまった。いや、もしかしたら置いてきてしまったのは私の方なのかもしれない。
おばあさんと過ごした小屋を出たあの日から、何度も湧き上がる出口のない疑問に溺れそうになった。答えなどないと知っていても、答えが出てももうどうしようもないと分かっていても、それでもやめる事はできない。
少女の周りにいた優しい人を、草花が色づき、柔らかな風が様々な匂いを運んだあの世界を、少女は思い出した。
記憶のそこにある暖かいはずの思い出は、今はもう蜃気楼のように空虚で悲しい。震える肩に温もりを与えることが出来ないと分かっていても、少女はかつてあった世界の在り方を忘れることは出来なかった。
考えることに疲れた少女は、このまま寝てしまうことに決めた。顔を膝に押し付け、少女は固く瞼を閉じる。――いつもそうするように、目覚めたらあの日々に帰っていますようにと、神様にお祈りをして。
少女は眠りについた。
夜が過ぎて朝がきたらまた先に進もうと心に決めて。