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凡人  作者: 慈架太子


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第1章:凡人の目覚めと「暁の銀翼」の教え


俺の生まれた村は貧しかった。

ある年ひどい干ばつで村の食料が尽きてしまった。

村人はどんどん死んでいく

俺の両親も飢えて死んだ。

俺も動けなくなりとうとう死ぬのかと覚悟を決めた時だった。

「こいつ生きてるぞ 大丈夫か?」

意識が朦朧とする中で知らない大人が声をかけてきた。

そこで俺の意識は途切れた。


「坊主 目が覚めたか?」

次に意識が戻ったとき知らない大人が5人いた。

神官と思われる女の人が魔法で俺を治療してくれていた。

「坊主 俺はロバート 俺たちは冒険者だ 

偶然この近くを通りかかってこの村に来た。

この村の生き残りはお前だけだ。少し回復したようだな 飯を食え」

神官の女性からスープのようなものが出された。

「私はアンジェ。このパーティーの回復役をしているわ。あなたは運がいいわ。もう1日見つけるのが遅れていたら手遅れだった。 何日も食べていないからゆっくり食べて。 あなた名前は?」


「アレクです。アレキサンダー 助けていただいてありがとうございました。」

そう言って俺は差し出されたスープに口を付ける。

胃に暖かいものが入ってきた。体に熱が戻ってくる。

「私はキャリー 魔法使いよ ゆっくり食べなさい。」

「俺はジミー 斥候だ。 お前だけでも生き残って良かったよ。」

「タンクのゲイルだ。ゆっくり休め。」


それから数日、俺は彼らのキャンプで介抱された。 少しずつ体が動くようになると、俺は村の惨状を目の当たりにした。誰もいない、静まり返った故郷。両親の墓標を立て、俺は一人で泣いた。


「アレク、どうする。これから。どこか近くの街の孤児院まで送っていってやれるが」 リーダーのロバートが、焚き火を見つめながら静かに言った。


俺はロバートの腰に差された、使い込まれた剣を見た。そしてアンジェの杖、キャリーの魔導書。彼らは自分たちの力で世界を歩き、困っている誰か(俺のような者)を救う強さを持っている。


「……連れて行ってください」 俺の声は震えていた。 「俺も、あなたたちみたいになりたい。俺は凡人です。特別な魔法も、すごい力もありません。でも、もう何もできずに誰かが死んでいくのを見てるだけなのは嫌なんだ」


ロバートは仲間の顔を見回した。ジミーは肩をすくめ、ゲイルは豪快に笑い、アンジェとキャリーはやさしく微笑んだ。


「冒険者の道は厳しいぞ、アレク。死ぬことだって珍しくない」 「わかってます。それでも……生きたいんです」


ロバートは立ち上がり、俺の頭を大きな手で乱暴に撫でた。 「いいだろう。今日からお前は、俺たち『暁の銀翼』の雑用係だ。荷物運びから料理の火起こしまで、叩き込んでやる」


それからの俺の生活は一変した。 朝はゲイルにしごかれ、重い盾を持って走り込み。 昼はジミーから罠の解除方法や周囲の警戒の仕方を教わる。 夜はキャリーから文字と薬草の知識を学び、アンジェからは怪我の応急処置を教わった。


しかし、現実は甘くない。 彼らと生活してわかったのは、自分の圧倒的な「凡人さ」だった。


ゲイルのように大きな斧を一振りで大岩を砕くパワーも、キャリーのように指先一つで火球を放つ才能も、俺にはなかった。どれだけ素振りをしても、ロバートの放つ剣筋の鋭さには一歩も近づけない。


「ロバートさん……やっぱり俺、才能ないのかな」 ある夜、木剣を握りしめたまま手の皮が剥けて血を流す俺に、ロバートは酒瓶を片手に言った。


「アレク、いいか。世の中のほとんどの奴は凡人だ。俺だってそうだ。天才ってのは一握りしかいねぇ。だがな、冒険者ってのは『生き残った奴』が一番強いんだ。お前はあの村で、最後まで生きようとした。その『しぶとさ』こそが、何よりの才能だ」


その言葉を胸に、俺は必死に食らいついた。 剣がダメなら盾で守る。魔法がダメなら道具を使う。 そうして3年が過ぎた頃。

「アレク そろそろお別れだ。 俺たちはやらなけれならないことがある。もうお前は一人で生きていける。知り合いがいるの村まで送るからそこで暮らせ。」



「嫌だ……嫌です、ロバートさん!」


俺は思わず叫んでいた。 3年前、あの枯れ果てた村で死にかけていた俺に手を差し伸べてくれたのは彼らだ。 俺にとって「暁の銀翼」の5人は、命の恩人であり、師匠であり、そして……新しい家族だった。


「俺も一緒に行きます! どんなに危ない場所でも、足手まといにならないように必死に動きます。だから――」


「ダメだ、アレク」


ロバートの声は低く、そして今までで一番冷たかった。 俺の言葉を遮るように、彼は俺の肩に手を置く。その手のひらの熱さが、今日に限って酷く遠く感じた。


「お前は凡人だと言ったな。ああ、そうだ。お前には特別な才能はない。だが、この3年で並の冒険者以上の生き残る術を身につけた。普通の村なら、お前は英雄になれる。……だが、俺たちがこれから向かう場所は、お前のような『普通』が通用する場所じゃないんだ」


隣でジミーがいつも使っているナイフを弄びながら、珍しく沈痛な面持ちで空を見上げている。 ゲイルは俺と目を合わせようとせず、大きな腕を組んで黙り込んでいた。 キャリーとアンジェの二人も、悲しげな、それでいて決意の固まった表情を崩さない。


「俺たちはな、アレク。ずっと追っている奴がいるんだ。……この大陸に『飢餓』と『厄災』を振りまいて歩く、化け物じみた連中をな」


ロバートが腰の剣を強く握りしめた。 「お前の村が枯れたのも、偶然じゃない。……俺たちは、そいつらと決着をつけに行く。そこは、一度足を踏み入れれば二度と光の下には戻れない場所だ」


「だったら、なおさら俺も行かなきゃいけない! 両親の仇なんです!」


「お前に行かせて、両親に何て言い訳しろってんだ!」


ロバートの怒声が響いた。 一瞬の静寂。 ロバートはふう、と深く息を吐き、俺の目を見つめた。


「アレク。お前は生きろ。俺たちが死んでも、お前が俺たちから学んだことを誰かに伝えていけ。それが、お前に託す最後の任務だ」


翌朝、俺は強制的に馬車に乗せられた。 向かう先は、平穏な開拓村。 ロバートは一度も振り返らずに、4人を連れて霧の深い森の奥へと消えていった。


それから2年。 俺は送られた村で、ロバートに言われた通り「普通」に暮らしていた。 自警団の手伝いをし、村の子供たちにジミーから教わった罠の避け方を教え、怪我をした者にアンジェから教わった手当てを施す。


村には不思議な人がいた。


手のひらから 火や水を作り出す。村の畑に水をやったり、肉を遠火で焙って干し肉を作っている。

俺は魔法は使えないがキャリーやアンジェの魔法をよく見て教えてもらってきたので魔法は良く知っていた。その人は全く詠唱もせず、畑全面に水をやり 燃料もないのに 火を絶やすことなく干し肉を作っていた。

俺はその人に声を掛けた。

「こんにちは 何をしているんですか?」

「干し肉を作っている。」

「薪もないのにどうして火が消えないんですか?」

「魔力で火を起こしているのさ。 魔力は至る所にあるからね。」

「魔法ですか?詠唱もして無い様だったですが・・・。」

「詠唱なんて必要ないさ。 魔法はもっと自由な物さ 君も魔法が使えるのかい?」

「いえ僕は魔法は使えません。師匠たちの方法を見ていただけで。」

「そうか。じゃ僕が君に魔法を教えてあげるよ。」

「無理ですよ。部区は魔力が無いようなので。」

「そんなことはないさ。魔力は至る所にあるんだから。君の体に流れている魔力を感じてごらん。体には血が流れているだろう 血の流れを意識してごらん」

俺は体に流れる血液を意識した。何か猛烈な勢いで体を巡って居る物を感じ取ることができた。

「それが魔力だ。それを手のひらから外に出すような感じで火を思いうかべてごらん。」

俺は手のひらから体に巡るものを外に出すようにして火を思い浮かべた。

手のひらから火が出た。

「ほらできた。」頭の中から声が聞こえる「魔力感知を取得しました。」「魔力操作を取得しました。」「火魔法を取得しました。」

「今度は水を思い浮かべてごらん。

同じようにしてみると手のひらから水が出た。また声が聞こえる「水魔法を取得しました。」

「ほら魔法なんて自由な物なのさ 今度は風を思い浮かべて。」

同じようにすると手のひらから風が吹いてきた。「風魔法を取得しました。」

言われるがまま 土 石 光とするとそれぞれ手のひらから出た。「土魔法を取得しました。」「光魔法を取得しました。」同じように聞こえてきた。

「これで君は 火 水 風 土 光の属性の魔法を習得したよ。」

「あとこれも覚えた方がいいかな。 魔力を吸収する様子をイメージしてみて」

言われたとおりにすると体に何か入ってくる。「魔力吸収を取得しました。」

「これで君は魔力切れを起こすことはなくなった。いいかい魔法はイメージさ。より具体的にイメージすると発現する。詠唱とはイメージを補完する型なのさ。後は練習するといろいろなことができるようになる。イメージを強く持つことさ。僕はザック 君は?」

「アレクです。あのう ありがとうございました。」

ザックはそういうと歩いて行った。

「魔法が使えるようになったぞ。練習してみよう」アレクは森に入っていった。

「ジミーから教わった気配探知を魔法でやってみよう」

ジミーから教わった方法をイメージしてみる。頭の中に、魔力のある生き物がいるのが浮かんできた。

「わかる わかるぞ。100m先に3体。」「索敵魔法を取得しました。」

ゲイルに教わった身体強化をイメージする。「身体強化魔法を取得しました。」

「足が軽い さっきの場所まで走っていこう。」猛烈な速度で走り出す。着いた。

いるいる。オークだ。火の矢をイメージして「ファイヤーアロー」と呟いた。

火の矢3本が発生しそれぞれオークの頭に突き刺さる。即死だ。


「これどうやって持って帰ろう。キャリーさんが持っていたアイテムボックスがあると運べるな。」アイテムボックスをイメージする。「アイテムボックスを取得しました。」

「できた。」オークに向かって「収納」と唱える。目の前のオークが消えた。「出すときはキャリーさんがやっていた ステータスオープン」目の前に文字盤が発現しアイテムボックスを選ぶ。 オークx3 となっている。

アレクは狩りを続けることにした。



「次はアンジェさんに教わった知識を試そう」


俺は森の群生地を見つけると、頭の中で特定の薬草を詳細にイメージした。 「……鑑定」 「鑑定を取得しました」 目の前の草が、解毒草であること、そして最も薬効が高まる摘み取り時であることまでが、詳細な情報として脳裏に浮かび上がる。


さらに奥へ進むと、索敵魔法に巨大な反応があった。 「……これは、フォレストベアか」 かつての俺なら、足がすくんで逃げ出すしかない相手だ。だが今は違う。


俺はロバートに教わった剣の型を思い出し、手に持った鉄剣に「身体強化」を重ね、さらに「風」を纏わせた。 「はっ!」 一閃。 風の刃を纏った剣筋は、フォレストベアの硬い毛皮を紙のように切り裂いた。 「……倒せた。俺一人で、ランクCの魔物を」


「フォレストベアx1」をアイテムボックスに収納し、俺はふと空を見上げた。 この力があれば、ロバートさんたちの役に立てる。あの「厄災」を振りまく連中とも戦えるかもしれない。


夕暮れ時、俺は村に戻った。 アイテムボックスから、村人たちのためにオークの肉を取り出そうとした、その時だった。


「ひっ……助けてくれ!」 村の広場から悲鳴が聞こえる。 俺は身体強化を全開にして駆け出した。


広場には、黒いローブを纏った男が一人立っていた。 その男が手をかざすと、地面からどす黒い霧が噴き出し、村の畑が瞬く間に枯れ果てていく。3年前、俺の故郷を襲ったあの光景と全く同じだ。


「……なんだ、この村の生命力は。実に質の悪い。これでは『あの方』への捧げ物にもならんな」 男が冷酷に笑い、怯える村人の一人に黒い光の弾を放とうとした。


「やめろ!」 俺は無意識に手を突き出し、光の壁をイメージした。 「ホーリーシールド!」 パァン!と乾いた音がして、黒い弾が弾け飛ぶ。


黒ローブの男が、驚いたように俺を振り返った。 俺はすかさず、男に意識を集中させた。 「鑑定!」


名前:バルトス 職業:厄災の使徒(下級) レベル:45 状態:困惑・敵意


「……ほう? こんな辺境の村に、私の魔術を弾く者がいるとは。お前、何者だ?」 「アレクだ。お前たちが、ロバートさんの追っている『厄災』の一味か?」


「ロバート……? ああ、あの忌々しい『暁の銀翼』の飼い犬か。彼らなら今頃、死の迷宮の底で絶望しているはずだがね」


男の言葉に、俺の頭の中で何かが切れた。 魔力が、かつてないほどに激しく循環し始める。


「……今すぐ、それを撤回しろ」 「くくっ、威勢がいいことだ。だが、その程度の魔力で私に勝てると思っているのか? 死ね」


男が指先から巨大な黒い雷を放つ。 俺は冷静だった。ザックに教わった通り、イメージする。 雷を吸収し、火の力に変えて、剣に乗せて放つ。


「魔力吸収……属性変換……火魔法・閃炎斬!」


俺が振り下ろした鉄剣から、太陽のような輝きを放つ炎の波が放たれた。 黒い雷を飲み込み、男のローブを焼き払う。


「な、なんだと……!? 詠唱もなしに、これほどの術を……ぐあぁっ!」 男はたまらず後方に跳び退き、忌々しそうに俺を睨みつけた。


「……チッ、予定外だ。だが覚えておけ、アレク。お前の師匠たちの命も、この大陸の命運も、すでに決まっているのだ」 男は黒い霧に包まれ、姿を消した。


静まり返る村。助かった村人たちが俺を呆然と見ている。 俺は、自分の手を見つめた。 この力は、誰かを守るためにある。そして、ロバートさんたちを助け出すために。


「待っていてください。今度は俺が、あなたたちを助ける番だ」



村の広場に残されたのは、バルトスが振りまいた「枯死」の呪いだった。かつて俺の故郷を滅ぼした、あの忌まわしい絶望の黒ずみだ。


「これじゃ、今年の冬は越せない……」 村人たちが、真っ黒に変色し、ひび割れた畑を見て絶望の声を漏らす。


俺はロバートさんの言葉を思い出した。 『お前が俺たちから学んだことを誰かに伝えていけ』


今の俺なら、教わった知識を「魔法」で何倍にもして返せる。俺は畑の真ん中に立ち、土に手を触れた。


「……土魔法、耕作ティル


イメージするのは、土の毒素を排出し、ふかふかに柔らかくほぐすこと。俺の掌から黄金色の波動が地中を駆け巡り、黒ずんでいた土が生き生きとした茶褐色へと塗り替えられていく。


「次は水だ」


俺は空を見上げ、広大な雨雲をイメージした。 「水魔法、恵みのレインフォール


ただの水じゃない。アンジェさんに教わった、細胞を活性化させる聖水のイメージを混ぜる。村を優しく包むように、キラキラと輝く細かな雨が降り注いだ。乾いた大地が音を立てるように潤いを取り戻していく。


「仕上げだ……」


俺は両手を高く掲げた。太陽の光を一点に集め、生命力を爆発させる光景を強く思い描く。


「光魔法、聖域の祝福サンクチュアリ・ブレス!」


空から柔らかな光の柱が降り注ぎ、枯れ果てていた作物たちが一斉に芽吹き始めた。見る間に緑が広がり、季節を追い越すような勢いで野菜や果実が実っていく。


「……えっ、嘘だろ……?」 「神様……アレクくん、あんた一体……」


村人たちが腰を抜かし、あるいは涙を流して俺を見ている。 俺は立ち上がり、ふらつく体を支えた。短時間で膨大な魔力を使ったが、ザックに教わった「魔力吸収」が周囲から自然に魔力を補給してくれているおかげで、倒れることはなかった。


ふと、村の入り口の方に気配を感じて振り返る。 そこには、干し肉をかじりながらこちらを見てニヤリと笑うザックの姿があった。


「上出来だ。魔法はイメージだって、もう完全に理解したみたいだね」


俺はザックに駆け寄った。 「ザックさん! ありがとうございます。おかげで村を救えました。……でも、聞きたいことがあります。バルトスっていう奴が、ロバートさんたちが『死の迷宮』にいるって言ったんです。そこへ行くにはどうしたら……」


ザックは食べかけの干し肉をアイテムボックス(?)に放り込むと、真剣な目で俺を見た。


「あそこへ行くなら、今の装備じゃ心許ないね。アレク、君のその『鉄剣』。ロバートから譲り受けたものだろう? それに魔法を付与して、真の姿を解放してあげなよ」


付与エンチャント……? そんなこともできるんですか?」


「イメージ次第さ。君が師匠たちから受け取った『想い』を、その剣に刻み込むんだ」


「付与……やってみます」


俺は腰の鉄剣を抜き、両手で包み込むように持った。 この剣は、ロバートさんが長年使い込んできたものだ。刃こぼれも目立ち、どこにでもある平凡な鉄の剣。だけど、この剣には彼らが俺を守り、育ててくれた3年間の記憶が宿っている。


「イメージしろ……」


ザックさんの言葉を反芻する。 俺が「暁の銀翼」の5人から教わったもの。それを一つずつ、この剣に刻み込んでいくんだ。


「ロバートさんの鋭い踏み込み……。 ゲイルさんの揺るぎない守りと剛力……。 ジミーさんの変幻自在な身のこなし……。 キャリーさんの全てを焼き尽くす魔力……。 アンジェさんの傷を癒やす慈悲の心……」


俺の体から溢れ出した魔力が、五色の光となって剣に吸い込まれていった。 鉄の表面がまばゆく発光し、鈍色だった刃が透明感のある不思議な輝きを放ち始める。


「付与魔法を取得しました」 「属性付与:火・水・風・土・光を完了しました」 「自動修復を取得しました」 「硬度上昇を取得しました」


光が収まったとき、俺の手には、もはや「平凡な鉄剣」ではない、神々しささえ漂う一振りの長剣が握られていた。


「これなら……戦える」


俺が剣を振ると、空気がかすかに共鳴し、五色の残光が尾を引いた。


「いい剣になったね、アレク」 ザックが満足そうに頷く。 「その剣は君の意志に応える。君が強くなれば、その剣もまた強くなる。……さて、準備が整ったなら、そろそろ『死の迷宮』の場所を教えようか」


ザックは北の空を指差した。 そこには、一年中黒い雲が渦巻く「絶望の峰」がそびえ立っている。


「あそこの麓に、地獄への入り口がある。普通の人間なら数ヶ月かかる道のりだけど……今の君なら、どれくらいで行けるかな?」


俺は剣を鞘に納め、村の入り口に向かって一歩踏み出した。 「身体強化……そして風魔法で加速する。今日中には着いてみせます」


「ハハッ、元気があっていい。あ、最後に一つ言い忘れてた」 ザックがいたずらっぽく笑う。 「迷宮の中には、魔法を無効化する区域や、精神を蝕む罠がある。でも、迷ったら思い出してごらん。君は『凡人』として、泥臭く生き残る術を教わったはずだ。それが一番の武器になるよ」


「……はい! 行ってきます!」


俺は村人たちに大きく手を振り、爆風のような速度で北へと走り出した。 待っていてください、ロバートさん。 俺が、みんなを助けに行きます。



風魔法と身体強化を重ねた俺の走りは、もはや人間のそれを超えていた。流れる景色を置き去りにし、数時間後、俺はついに「絶望の峰」の麓に辿り着いた。


見上げるような断崖絶壁。その中央に、まるで世界に開いた傷口のような、不気味に口を広げる洞窟があった。


「ここが……死の迷宮」


入り口に一歩足を踏み入れたとき、足元に何かが触れた。 岩陰に半分埋もれるようにして、それは落ちていた。


「……っ、これは!」


俺は慌ててそれを拾い上げた。 泥に汚れ、ひどく傷ついてはいたが、見間違えるはずがない。 それは、ジミーさんがいつも大切に手入れをしていた、斥候用の特製ゴーグルだった。


ジミーさんは言っていた。 『これがないと、闇の中の罠は見えねぇんだ。俺の命の次に大事なもんだぜ』


そんな彼が、これを手放すなんて。 俺の手が、微かに震える。 ゴーグルのレンズには大きなひびが入り、フレームには鋭い爪で引き裂かれたような跡があった。


「……鑑定」


名称:ジミーのゴーグル 状態:破損(致命的) 残留思念:『逃げろ……アレク、来るな……』


鑑定結果が脳内に響いた瞬間、俺の心臓が激しく跳ねた。 ジミーさんの声が聞こえた気がした。彼は、最後まで俺の身を案じていたんだ。


「逃げるもんか……。ジミーさん、みんな……今行くから!」


俺はゴーグルをしっかりとアイテムボックスに収め、新しく打った聖剣の柄を強く握りしめた。 洞窟の奥からは、バルトスが放っていたものより、さらに濃密でどす黒い殺気が漂ってきている。


「索敵魔法……展開!」


魔力を扇状に広げ、洞窟の内部を探る。 「……わかる。中にいる、うじゃうじゃと」


「迷宮踏破スキルを取得しました」


頭の中に響く声。だが今の俺には、そんなことはどうでもよかった。 俺は一歩、また一歩と、光の届かない闇の奥へと足を踏み入れた。


闇の中から、カチカチと硬質な音が響き始める。 壁から、天井から、魔力に反応した迷宮の番人たちが姿を現した。


「……邪魔だ。そこをどけ」


俺の剣が五色の光を放ち、暗闇を切り裂いた。



「索敵魔法……もっと深く……!」


俺は精神を研ぎ澄ませ、魔力を迷宮の深層へと伸ばした。 入り口付近の魔物の反応を無視し、仲間の、あの懐かしい魔力の波長を探す。


すると、地下二階へ続く階段の影、崩れた岩壁のわずかな隙間に、消え入りそうな小さな反応を見つけた。


「ジミーさん……!?」


俺は最短距離を駆け抜けた。襲いかかってくるスケルトンや巨大な蜘蛛を、聖剣の一振りで塵に変えながら突き進む。


「ここだ!」


崩落した岩を土魔法で動かし、隙間を覗き込む。そこには、血の気が引き、右足を深く負傷したジミーさんが、ナイフを一本握りしめたまま座り込んでいた。


「誰だ……! くるな、こっちに来るんじゃねぇ……!」


ジミーさんの目は焦点が合っておらず、極度の緊張と恐怖で我を失いかけていた。


「ジミーさん、俺です! アレクです!」


俺はアンジェさんに教わった方法で、穏やかな光の魔法を放った。心を落ち着かせる癒やしの光だ。


「……ア、レク? ……嘘だろ。なんで、お前がここに……。逃げろって、言っただろ……」


「これ、入り口に落ちていましたよ」 俺はアイテムボックスから、拾ったゴーグルを取り出して手渡した。


「……あぁ、これか。これさえあれば、あいつの不意打ちは食らわなかったのにな……」 ジミーさんは自嘲気味に笑い、がくりと頭を下げた。


「ジミーさん、他の皆は!? ロバートさんたちはどこにいるんですか?」


「……分断されたんだ。黒い霧が立ち込めて、気づいたら俺一人。他の奴らはもっと下だ。だが、アレク……無理だ。あそこには、バルトスなんて比較にならない『本物の厄災』がやがる。ロバートたちでさえ、防戦一方だった……」


ジミーさんの足の傷は深く、毒が回りはじめている。鑑定すると、状態異常『猛毒』『衰弱』と出た。


「大丈夫です。俺が治します。……光魔法・ハイ・ヒール。そして、解毒デトックス


俺の手から溢れる純白の光が、ジミーさんの傷口を塞ぎ、黒ずんだ血管を元の色に戻していく。


「な……おい、なんだこの魔法は。アンジェのより……いや、教会の司教様よりすごいぞ。アレク、お前、この2年で一体何を……」


「話せば長くなります。ジミーさん、動けますか?」


俺は彼を抱え起こし、聖剣を構え直した。 索敵魔法には、さらに階下から巨大な、そして悍ましい魔力がこちらを嘲笑うように膨れ上がっているのが感じられる。


「ロバートさんたちを助けに行きましょう。俺はもう、守られるだけの凡人じゃありません」



「ジミーさん、そのゴーグルを貸してください。直します」


俺はジミーさんから壊れたゴーグルを受け取った。レンズは粉々でフレームも歪んでいる。だが、今の俺ならイメージの力でこれを「再生」以上のものに作り変えられる。


俺は掌に魔力を集中させ、ゴーグルを包み込んだ。


修復リペア……そして付与エンチャント


イメージするのは、単なる視覚の補助ではない。壁の向こう、階層の底、そして魔力の流れさえも見通す、真理の眼。


「『鑑定』、さらに『千里眼イーグルアイ』……刻め!」


俺の手の中でゴーグルが眩い青白い光を放ち、ひび割れていたレンズが透き通るようなクリスタルへと変化した。歪んでいたフレームは、より軽量で頑丈な未知の金属のような質感に生まれ変わる。


「精密付与を取得しました」 「魔導具作成を取得しました」


「はい、ジミーさん。これを使ってください」


ジミーさんは半信半疑で、新しくなったゴーグルを顔に装着した。その瞬間、彼は「あ、ああっ……!?」と声を上げ、驚愕に目を見開いた。


「おい、アレク……これ、どうなってんだ!? 迷宮の壁が透けて見える……。それだけじゃねぇ、罠の配置も、魔物の数も……階下のロバートたちの位置まで、はっきりわかるぞ!」


「ロバートさんたちは無事ですか!?」


ジミーさんはゴーグルの位置を調整しながら、必死に深層を覗き込む。 「……生きてる! 地下四階、大広間だ。ゲイルが盾で必死に防いでるが、キャリーとアンジェが消耗しきってる。ロバートが一人で前衛を支えてるが……多勢に無勢だ。あいつら、囲まれてやがる!」


「案内してください、ジミーさん。最短距離で駆け抜けます!」


「ああ、任せろ! このゴーグルがあれば、もう迷宮の仕掛けなんて遊びみたいなもんだ。こっちだ、隠し通路がある!」


ジミーさんは怪我が治ったばかりとは思えない身軽さで走り出した。俺もその後を追う。


「ジミーさん、道中の魔物は俺がやります。止まらずに進んでください!」


俺は走りながら、聖剣を抜き放った。 「風魔法・神速アクセル……さらに火魔法を上乗せする。閃炎のフレア・ウィング!」


俺の背中に炎の翼が展開され、通路を塞ごうとする魔物たちを、すれ違いざまの一閃で焼き尽くしていく。


「すげぇ……。本当にお前、あのアレクなのかよ……」


ジミーさんが驚嘆の声を漏らすが、俺の目は前だけを見据えていた。 ゴーグルを通して、ロバートさんたちの魔力が刻一刻と弱まっているのがわかる。


「間に合え……間に合ってくれ!!」


俺たちは迷宮の壁を破壊し、隠し階段を飛び降り、ついに地下四階の巨大な扉の前に辿り着いた。


扉の向こうからは、ゲイルさんの咆哮と、キャリーさんの悲鳴、そして――あのバルトスよりも遥かに巨大で禍々しい、「厄災」の笑い声が響いてきた。


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