リリアを愛することはないと頑張る年下王子が可愛すぎる
「リリアを愛することはない!」
「ではこちらの問題を解いてください」
「真面目な話だぞ!」
グランシェス国のラスティン王子。末っ子でまだ11歳。サラサラの髪に、くりくりとした瞳。とても可愛らしい王子様は私の答えにおかんむりだ。
そんな彼に、「お勉強も真面目な話ですよ」とたしなめる。
「真面目な話だっていってるだろ!」
「じゃあ、その問題が解けたら聞いてあげますね」
「~~~っ。絶対だからな!」
勉強机に座る彼はそう言って、ノートに向かって集中を始める。
ここは彼の自室で、いまはお勉強の最中である。
そして私は17歳。とある侯爵家の令嬢だが、彼の家庭教師を務めている。
本来なら、私のような若輩者が王子の家庭教師をすることはない。
ただ二年ほど前に私が学校の発表会で勉強の成果を披露した。それをたまたま王子様が見ていたらしく、ぜひ家庭教師の先生にと打診され、様々な事情から応じることになった。
ラスティン王子は基本的に真面目で、教えたことを一生懸命に吸収する。とても優秀で可愛らしい生徒なのだけど、時々さきほどのようにおかしなことを口にする。
――と、ラスティン王子がペンを置き、斜め後ろに控える私を見上げてくる。
「ほら、出来たぞ! 今度こそ僕の話を聞いてもらうからな!」
「どれどれ……あっていますね。このあいだ教えたばかりの解き方なのに、やはりラスティン王子は優秀ですね」
「ふふん、どうだ、すごいだろ?」
「ええ、とても優秀です。では、次はこちらの問題を解いてみてください」
「任せろ――じゃなくて、僕の話を聞く約束だろ!」
ちょっぴり拗ねた様子で睨み付けてくる。
「仕方ありませんね。では少し休憩にしましょう」
私がそう言って合図を送ると、侍女がすかさずお茶の準備を始める。私とラスティン王子はそれを横目に、部屋の真ん中にあるローテーブルを囲うソファの席へと移動した。
私がソファに腰を下ろすと、ラスティン王子はその向かい――ではなく、私の隣にちょこんと座る。その仕草はとても可愛らしいけれど――
「ラスティン王子、隣ではなく向かいですよ」
「違う。たしかに客人が相手なら向き合うべきだろう。だが、リリアは僕の先生、僕の隣に立つべき人だ。だから、座るのは隣でいいんだ」
完全に詭弁である。だけど、もっともらしいことを言っているのもまた事実。私は少し考えた末に、「まぁ、今回は合格としましょう」と口にした。
以前、ラスティン王子に相談されたことがある。
理を曲げて叶えたい願いがあるならどうしたらいいか、と。
それに対し、『ちゃんと理論を並べ立てて説得なさい。それが上に立つものの役目です』と教えた訳だが……それから、彼は時々、こんな風に可愛らしい説得をしてくるようになった。
つまるところ、私の隣の座りたいのが本音で、並び立てた理由はただの建前である。
私はティーカップを手に取って、隣に座るラスティン王子を盗み見る。
この王子様と初めて会ったのは二年前、まだ彼が9歳の頃だった。女の子にも見える愛らしい容姿は少しも損なわれていないけれど、そこにちょっぴり生意気な表情を浮かべるようになった。
このまま成長したら、きっとたくさんの女の子を泣かせるんだろうなぁと思う。
「それで、私を愛することはないというのは?」
「うん、実は先日、ある噂を耳にしたんだ」
「噂、ですか?」
「そうだ。家庭教師が、とある貴族の家の令嬢に愛していると告白された結果、その令嬢の親が激怒して、その家庭教師の首を落としてしまったそうだ」
「あぁ……そういえば、私も聞いたことがあります」
醜聞だから詳細は伏せられているが、私はある程度真実を知っている。
とある貴族の娘が、自分より二回り以上年上の家庭教師に誑かされ、取り返しの付かない過ちを冒そうとした。それを知った親が激怒、家庭教師を断罪することで事態を収拾した。
これがおおよその真実である。
「リリアも知っていると言うことは、やっぱり事実なんだな!?」
「まあ、ある程度は」
私はそう言って苦笑する。
「なにをのんきに笑っている、大事な話だぞ!」
「あら、申し訳ありません。ですが、それほど大事な話でしたか?」
たしかに平民の男にすべての罪がなすりつけられたのは痛ましい話だ。だが、男が二回り以上年下の娘を誑かしたのもまた事実である。
更に言うと、男は家庭教師の地位を首になっただけで、実際に首を落とされた訳ではない。流れている噂は、悪いのは男の方であると印象づけるための細工である。
そう考えれば、妥当な結末だろうと思うのだけど――
「リリアが処刑されたらどうする!」
ラスティン王子が真剣な顔で訴えてくる。
私は瞬きを一つ、コテリと首を傾げた。
「つまり、ラスティン王子は私を愛しているのですか?」
「んなっ!? そ、それは……っ。あ、愛してないっ。愛することはないと言っているだろう!」
ムキになって否定する。その耳まで真っ赤である。
その微笑ましい姿をまえに、私はわずかに表情をほころばせた。
「では、私が処刑されることもないので安心してください」
「~~~っ」
今度は少し拗ねるようなふくれっ面になった。
それを横目に紅茶を飲んで、続けてクッキーを手に取った。
私も来年は18歳。
侯爵家の娘としては、そろそろ結婚相手を探さなくてはならない歳である。
だけど、私は専属家庭教師として、いつもラスティン王子の側にいる。
週一とかいうレベルではない。私は学校に通っているのだが、その学校帰りは毎日のようにラスティン王子に勉強を教えるために王城に出入りしている。
ある日なんて、王子が馬車で学校まで迎えに来たくらいだ。
当然、周囲からはとっくにそういう目で見られている。そうでなくとも、私に近寄れば王子の不興を買うかもしれないと、そういうふうに見られている。
本来なら縁談があっておかしくない歳なのに、いまだそういう話がないのはそれが理由。
状況を知った国王陛下が、非公式ながら私に謝罪して、息子のせいでそなたが婚期を逃すようなことになれば、王の威信に懸けてそなたの結婚相手を探すと宣言してくれたほどである。
そのうえで、もしもそなたが望むのなら、息子の嫁にならないか? とも。
私はその問いに対して、ラスティン王子が望むのなら喜んで。と答えている。つまり、王子が私を愛していると口にした瞬間、私達の婚約が決まるような状態なのだが――
この様子だと、答えが出るのはもう少し先かもしれない。
「ねぇラスティン王子。貴方が私を愛することがないとおっしゃるのなら、私が別の方を愛してもよろしいですか?」
「なっ!? だ、ダメだ! そんなのはダメ!」
駄々っ子のようにダメだと連呼する。ラスティン王子はすでに理論を並べることも忘れている。だけど、飾らない言葉だからこそ、それが彼の本心だと分かる。
私はそれを知りながら、「どうしてダメなのですか?」と分からないふりをする。
「それは、だって……ダメなものはダメなんだ!」
「……ふふっ、では、次のテストで満点を取ったら貴方のお願いを一つ聞いてあげます」
「お願い? 僕がダメだと言ったら、それを聞いてくれるのか?」
「ええ、もちろん。他のお願いでもかまいませんよ? まあそれも、ラスティン王子が万が一にも、テストで満点を取れたらの話ですが」
「言ったな? 絶対満点を取るから覚悟しておけ!」
「はい、楽しみにしていますね」
悪戯っ子のように微笑んだ。
私はあえて、制限のないお願いを聞くという約束をした。
彼は当初の予定通り、他の男を愛するなと私に言うのだろうか? それとも――と、私はそのときに彼が口にする言葉を想像しながら、口に放り込んだクッキーをパキンと噛み砕いた。
あけましておめでとうございます。
今年もたくさん投稿していくのでよろしくお願いします!
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また、連載中の新作3作
『死ぬまで君を愛することはない』と言った公爵様が死に、溺愛ルートに入ります
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