エンディング
(スタジオの照明が穏やかに変化し、議論の熱気から、静かな余韻を感じさせる雰囲気へと移り変わる。壁面に投影されていたネス湖の映像が、夕暮れの湖面へと変わる。オレンジ色の光が水面に反射し、神秘的な美しさを湛えている)
あすか:「改めて、今夜の議論を振り返ってみましょう」
(クロノスを手に取り、穏やかな声で語り始める)
あすか:「ラウンド1『証拠とは何か』では、写真や映像、目撃証言の信頼性について議論しました。フーディーニさんからは、人間の認知がいかに期待や願望に影響されるかという鋭い指摘がありました。キュヴィエさんは、科学的証拠の定義と立証責任の所在を明確にしてくださいました」
(クロノスをスワイプしながら)
あすか:「ラウンド2『絶滅か、生存か』では、首長竜の生存可能性を科学的に検証しました。キュヴィエさんの緻密な論理——化石記録の欠如、生態学的制約、首長竜の生態的特性——によって、首長竜がネス湖に生存している可能性は極めて低いことが示されました」
(少し間を置いて)
あすか:「同時に、クストー船長からは『首長竜ではない何か』の可能性、そして『暫定的結論と最終的結論の区別』という重要な視点が提示されました」
(表情を少し引き締めて)
あすか:「ラウンド3『人間は何を見ているのか』では、認知心理学と人間の『信じたい心』について深く掘り下げました。そして——」
(フーディーニとドイルに視線を向けて)
あすか:「フーディーニさんとドイルさんの間にあった、深い因縁が明らかになりました。1922年の降霊会での出来事、そしてそれぞれが大切な人を失った悲しみ。お二人の対話は、今夜の議論の中でも最も心に残る瞬間でした」
(4人を見渡して)
あすか:「そして最終ラウンド『深淵を覗くとき』では、UMAを追う意味について議論しました。ネッシーが存在するかどうかを超えて、探究そのものの価値が語られました」
(立ち上がり、正面を向いて)
あすか:「今夜の結論を、一言でまとめるならば——」
(力強く、しかし穏やかに)
あすか:「『ネッシーはおそらく存在しない。しかし、ネッシーを探し続けることには意味がある』」
(クロノスを胸に抱えて)
あすか:「科学的厳密さは、夢への情熱と矛盾しない。疑う心は、信じる心と共存できる。否定派と肯定派、立場は異なれど、4人の知性は最終的に、この共通認識に到達しました」
あすか:「それでは、対談者の皆さんに、今夜の感想をお聞きします」
(キュヴィエに向かって)
あすか:「キュヴィエさん、『古生物学の父』として、今夜の議論はいかがでしたか」
キュヴィエ:「有意義な時間であった」
(威厳を保ちながらも、どこか穏やかな表情で)
キュヴィエ:「私は科学の厳密性を重んじる者だ。証拠なき仮説には容赦なく批判を加えてきた。それは今後も変わらない」
(しかし、と続けて)
キュヴィエ:「だが今夜、クストー氏の言葉——『科学とは"ありえない"を"ありえた"に変える営み』——これは心に留めておこう。私自身、『絶滅はありえない』という当時の常識に挑戦した者だ。傲慢にならぬよう、自戒としたい」
(ドイルを見て)
キュヴィエ:「ドイル卿、あなたの論理には賛同できない点も多かった。しかし、あなたが持つ『未知への敬意』——それは、科学者も忘れてはならないものだと思う」
ドイル:「ありがとう、キュヴィエ先生。光栄です」
あすか:「フーディーニさんは、いかがでしたか」
フーディーニ:「正直に言うぜ」
(少し照れくさそうに頭を掻きながら)
フーディーニ:「ドイルと同席するのは、気が重かった。何年も口を利いてなかったからな。でも——」
(ドイルを見て)
フーディーニ:「今夜、あんたと話せてよかったと思ってる。俺たちは永遠にわかり合えないかもしれない。でも、互いが何を大切にしてるかは——少しわかった気がする」
ドイル:「私もだ、フーディーニ」
フーディーニ:「それから、船長」
(クストーに向かって)
フーディーニ:「あんたに言われた『疑いすぎも問題だ』って言葉、考えさせられたよ。俺は生涯、疑うことで身を守ってきた。でも、疑いが壁になって、大切なものを見逃すこともあるのかもしれない」
クストー:「フーディーニさん、あなたの懐疑心は、多くの人を詐欺師から守ってきました。それは誇るべきことです」
フーディーニ:「ああ。でも、これからは——少しだけ、窓を開けておくことにするよ」
あすか:「素敵な変化ですね。ドイルさんは、いかがでしたか」
ドイル:「今夜は——多くのことを学んだ」
(静かに、しかし深い感慨を込めて)
ドイル:「キュヴィエ先生の論理の緻密さには、感服させられた。首長竜説を安易に主張することが、いかに科学的でないか——それを痛感した」
(フーディーニを見て)
ドイル:「そして、フーディーニ。君との対話は——」
(言葉を探しながら)
ドイル:「辛くもあり、救いでもあった。長年のわだかまりが、完全に解けたわけではない。だが、君が『恨み続けるのはやめる』と言ってくれたこと——それは、私にとって大きな意味があった」
フーディーニ:「……ああ」
ドイル:「ホームズは言った。『感情は論理を曇らせる』と。しかし今夜、私は思う——感情もまた、真実の一部なのではないかと。君の怒り、私の悲しみ、それらは論理では説明できないが、確かに存在する真実だ」
あすか:「ホームズの生みの親から、感情の価値についてのお言葉。深いですね」
ドイル:「ホームズなら、こんな感傷的なことは言わないだろうがね」
(少し自嘲気味に微笑んで)
ドイル:「だが、私はホームズではない。私は——アーサー・コナン・ドイルだ。論理を愛し、同時に神秘を信じる、矛盾した一人の人間だ」
あすか:「その矛盾こそが、ドイルさんの魅力なのかもしれませんね」
(クストーに向かって)
あすか:「最後に、クストー船長。今夜の感想をお聞かせください」
クストー:「海底から見上げると、水面は空のように見えるのです」
(詩的な口調で)
クストー:「そこには別の世界がある。手を伸ばせば届くかもしれない、未知の世界が。今夜、私は陸の上で、同じような気持ちを味わいました」
(他の3人を見渡して)
クストー:「キュヴィエ先生の科学的厳密さ、フーディーニさんの鋭い懐疑心、ドイル卿の未知への敬意——それぞれが異なる光を放ちながら、一つの真実を照らし出していた」
(穏やかに微笑んで)
クストー:「私は探検家です。未知の海に潜り、誰も見たことのないものを見てきた。しかし今夜の対話は、それと同じくらい——いや、もしかしたらそれ以上に、刺激的な冒険でした」
あすか:「ありがとうございます、クストー船長」
(4人を見渡して)
あすか:「4人の皆さん、今夜は本当に素晴らしい議論をありがとうございました」
(スタジオ奥のスターゲートが、静かに青白い光を放ち始める)
あすか:「それでは——時を超えた知性たちを、元の時代へお送りしましょう」
(スターゲートの光が徐々に強まる)
あすか:「まずは、『海の恋人』ジャック=イヴ・クストー船長。再び青い深淵へ——」
クストー:(立ち上がり、赤いニット帽に手をやりながら)「ありがとう。今夜の対話は、私にとって忘れられない航海となりました」
(他の3人に向かって)
クストー:「キュヴィエ先生、フーディーニさん、ドイル卿——またいつか、別の深淵でお会いしましょう。海でも、湖でも、あるいは人間の心の奥底でも」
キュヴィエ:「機会があれば、ぜひ」
フーディーニ:「ああ、また会おう。——今度は俺の脱出ショーに招待するぜ」
ドイル:「船長、あなたの言葉は忘れません。『探究を続ける心——それ自体に意味がある』と」
クストー:(微笑んで)「海は地球最後のフロンティア。そしてネス湖もまた、小さな深淵なのです」
(スターゲートへ歩み、入り口で振り返る)
クストー:「皆さん、好奇心を忘れずに。未知は、いつもすぐそばにありますから」
(手を振り、スターゲートの光の中へ消えていく)
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あすか:「続いて、シャーロック・ホームズの生みの親、サー・アーサー・コナン・ドイル」
ドイル:(立ち上がり、紳士的に一礼する)「お招きいただき、感謝いたします。今夜の議論は、私にとって多くの学びがありました」
(フーディーニに向き直って)
ドイル:「フーディーニ——元気でいたまえ」
フーディーニ:「……ああ。あんたもな」
ドイル:「我々は多くの点で意見が異なる。これからもそうだろう。だが——」
(少し微笑んで)
ドイル:「君という人間を、私は尊敬している。それだけは、伝えておきたかった」
フーディーニ:「……ドイル」
ドイル:「なんだ」
フーディーニ:「あんたが書いたホームズ、俺は好きだぜ。論理で謎を解く——あのスタイルは、俺のトリック暴きにも通じるものがある」
ドイル:(少し驚いた表情で)「……ありがとう。それは、素直に嬉しい」
(スターゲートに向かいながら)
ドイル:「不可能を除外した後に残ったものが真実だ——たとえ信じがたくても。その言葉を胸に、私は帰ります」
(スターゲートの入り口で振り返り)
ドイル:「皆さん、探究を続けてください。真実は、いつか必ず姿を現しますから」
(優雅に一礼し、スターゲートの光の中へ消えていく)
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あすか:「そして、脱出王にしてサイキックハンター、ハリー・フーディーニさん」
フーディーニ:(立ち上がり、肩をすくめて)「まあ、今夜は脱出しなくて済んだな。トリックのない真剣勝負——悪くなかったぜ」
(キュヴィエに向かって)
フーディーニ:「先生、あんたの論理には感服した。科学者ってのは、ああいうもんなんだな」
キュヴィエ:「光栄だ。君の懐疑心も、科学的精神に通じるものがある」
フーディーニ:「そうか?俺は学校もろくに出てないんだがな」
キュヴィエ:「学歴と知性は別物だ。君には、鋭い観察眼と論理的思考力がある。それは生まれ持った才能だ」
フーディーニ:(少し照れて)「……ありがとよ、先生」
(スターゲートに向かいながら、振り返って)
フーディーニ:「そうだ、一つ言い忘れてた」
あすか:「何でしょう?」
フーディーニ:「もしネッシーが本当にいたら——」
(いたずらっぽく笑って)
フーディーニ:「俺を呼んでくれ。水中脱出の新ネタを披露してやる。『ネッシーの口から脱出するフーディーニ』——どうだ、最高のショーだろう?」
(ウィンクして)
フーディーニ:「じゃあな。騙されるなよ、みんな」
(軽く手を振り、スターゲートの光の中へ消えていく)
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あすか:「最後に、古生物学の父、ジョルジュ・キュヴィエ男爵」
キュヴィエ:(威厳を保ちながら立ち上がる)「今夜の議論は、知的刺激に満ちていた。感謝する」
(あすかに向かって)
キュヴィエ:「司会者殿、あなたの進行は見事だった。異なる立場の者たちをまとめ、議論を深みへと導いた。それは簡単なことではない」
あすか:「ありがとうございます、キュヴィエさん」
キュヴィエ:「私は生涯、骨から真実を読み解いてきた。一つの骨から、その動物の全体像を復元する——それが私の仕事だった」
(スタジオを見渡しながら)
キュヴィエ:「今夜、私は別のことを学んだ。一つの『問い』から、人間の本質を垣間見ることができる、と。ネッシーという問いは、科学的には解決済みかもしれない。だが、人間を理解するための問いとしては、まだ価値がある」
(スターゲートに向かいながら)
キュヴィエ:「証拠を求め続けたまえ。それが真実への道だ。しかし同時に——」
(振り返って)
キュヴィエ:「問い続けることも忘れるな。問いがなければ、証拠を探す理由もないのだから」
(威厳ある一礼をして)
キュヴィエ:「さらば。科学の発展を祈る」
(スターゲートの光の中へ、堂々と歩み去っていく)
(スターゲートが静かに閉じ、光が消えていく。あすかが一人、スタジオの中央に立つ。壁面に投影された映像は、夜のネス湖へと変わっている。満天の星空が湖面に映り、幻想的な美しさを湛えている)
あすか:「4人の知性が、時の彼方へ帰っていきました」
(静かに、しかし深い感慨を込めて)
あすか:「深さ230メートル、視界わずか数メートル。ネス湖の深淵には、まだ誰も見たことのない世界が広がっているのかもしれません」
(クロノスを胸に抱えて)
あすか:「ネッシーは存在するのか——その答えは、科学的には『おそらくいない』。しかし今夜、4人の知性が照らしてくれた光は、その『おそらく』の中に、豊かな意味を見出してくれました」
(カメラに向かって、穏やかに微笑む)
あすか:「キュヴィエさんは言いました。『証拠を求め続けよ。それが真実への道だ』と。フーディーニさんは言いました。『夢を見ることは否定しない。ただし、騙されるな』と。ドイルさんは言いました。『不可能を除外するプロセスこそが、知的財産となる』と。そしてクストー船長は言いました。『探究を続ける心——それ自体に意味がある』と」
(少し間を置いて)
あすか:「科学の厳密さと、夢への情熱。疑う心と、信じる心。それらは対立するものではなく、真実を探す旅の両輪なのかもしれません」
(スタジオの照明がゆっくりと落ち始める)
あすか:「そしてもう一つ——今夜、私たちは目撃しました。長年わだかまりを抱えていた二人の人間が、対話を通じて、少しだけ歩み寄る瞬間を」
(フーディーニとドイルが座っていた席を見つめながら)
あすか:「フーディーニさんとドイルさんは、完全に和解したわけではありません。しかし、互いの悲しみを理解し、互いの立場を尊重することはできた。それは——小さな奇跡だったのかもしれません」
(正面を向いて)
あすか:「ネス湖の怪物は、見つからないかもしれない。しかし今夜、この場所で起きた『対話という奇跡』は——確かに存在しました」
(クロノスを軽く掲げて)
あすか:「『歴史バトルロワイヤル』——時を超えた知性たちが、現代の問いに挑む番組。今夜のテーマは『ネッシーは存在するか? ~UMAを考える~』でした」
(優雅に一礼して)
あすか:「物語の声を聞く案内人、あすかでした。また次の『深淵』で、お会いしましょう——」
(照明が完全に落ち、壁面のネス湖の映像だけが淡く輝いている。湖面に星が映り、静寂が広がる)
(やがて、その映像もゆっくりとフェードアウトしていく——)
司会:
あすか(物語の声を聞く案内人)
対談者:
ジョルジュ・キュヴィエ(古生物学の父)
ハリー・フーディーニ(脱出王・サイキックハンター)
サー・アーサー・コナン・ドイル(シャーロック・ホームズの生みの親)
ジャック=イヴ・クストー(海洋探検家・海の恋人)




