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どんなにどうでも、猫に転生するなんてリアルすぎる夢だ―!  作者: ゆき
テンプリア市 ― みんなが忙しそうに見せかけてるだけの街
1/4

001.


 もう五日も経った、変な猫として生きている日々が。

経験としては──

 飢え、犬に追い回され、屋台の飯屋から追い払われ、そして最後には……グレーツ・レヴァナントという少女に拾われたことだ。


 そう、その通り。


 グレーツ・レヴァナント──通称レヴァ。

 彼女はこの街から遥か遠く離れた、魔女の一族出身の少女だった。

 なぜそんなことを知ってるのかって? 簡単だ。

 この世界に来たときから、俺は文字が読めて、言葉も理解できたからな。

 だから、レヴァが寝ている隙に、こっそりと彼女のトランクを漁らせてもらった。

 そこには魔法書がぎっしり詰まっていて──もちろん、彼女の正体についても書かれていた。


 読んだ限りでは、レヴァは18歳のアマタリ魔女。

 どうやら魔女の一族がこの冒険者の街にいること自体、かなり珍しいらしい。

 というか、俺がこの街で生きてる限り、魔女なんてほとんど見たことがない。

 だいたいが冒険者、市民、商人、そして騎士たちで構成されている街だからな。


 で、なぜそんな彼女がここにいるのかっていうと──まあ、ありがちな話。

 一族の中でも魔力のランクが低くて、能力が基準に満たなかったらしい。

 ようするに、落ちこぼれテンプレだ。

 その理由は彼女自身が語っていた。

 夜になると、俺に向かってフィルターゼロの愚痴をこぼしてくるんだよな。


 もちろん、彼女は俺が人間並みの思考を持ってるなんて思ってない。

 ただの猫だと思ってるんだろう。

 愚痴の相手としてはちょうどいいんだろうな。


 まあ、いいさ。否定はできないし、ある意味正しい。

 それを裏付ける証拠が──


「にゃあ」


 どうだ? 今の実は猫語じゃない。

 「そうか、わかった」って意味で言ったつもりが、出てきたのは「にゃあ」だけ。

 つまり、俺が話そうとする言葉は、自動的に猫の鳴き声に変換される仕様らしい。

 

 異世界転生したはいいが、よりによって猫とか──マジでクソだな。


 で、本題に戻るが、レヴァの目的はというと、

「まだ知らない世界を巡って、色んなことを学びながら、一族の血としての力を鍛えること」らしい。


 思えば、彼女と暮らしてもう二日目だ。つまり、これからの俺の人生──じゃなくて、猫生?は、彼女との冒険に満ちた日々になるってわけだ。


(ああ、なんてこった……)


 でも、仕方ないよな。

 この道しか生き残る手段がない。

 でなければ、また飢え死にだ。

 飯にありつけないし、安心して眠る場所もない。

 今? まあ、マシにはなったかな。


 ご飯はある。寝床もある。しかも、柔らかくていい匂いのレヴァの太ももで寝る権利まである。

 それに正直に言えば──

 たまに彼女のむっちりとしたおっぱいの上で寝かせてもらえるという、ささやかなボーナスタイムも存在する。


 ああ、天国って本当にあったんだ……


 他に何を望むっていうんだ? 特にない。


 ただし、彼女のことは、彼女にバレないように守ってやらないとな。

 正直、あの子はこの冒険者の街で生きていくには、ちょっとだけ──いや、かなり天然すぎる。


 例えば、妙に高い宿に騙されるみたいな。

 ボロい設備、三日で100ゼニも取られて。

 ゼニはこの世界の通貨らしいけど、それにしても高すぎる。

 

 俺もこの世界のシステムに詳しいわけじゃないが、

 ファンタジー世界の基礎くらいは、それなりに理解しているつもりだ。

 なにせ、元の人生はサラリーマンだったけど、暇があればファンタジー小説ばっか読んでたからな。

(オタクじゃないけどな)


 正直、転生とか信じてなかったし、今でも信じがたい。

 だけど、もし本当にそんなものがあるなら──


 なんで俺は普通の人間に転生できなかったんだよ、チクショウ。

 せめて、もうちょいマシな人生をくれよ。

 

 よりによって、猫だぜ?

 鏡を見れば、自分の姿はこうだ。


 黒紫の毛並みに、オッドアイ──片方が青、もう片方が金。

 そして勝手に動く尻尾が二本、一本は黒で、もう一本は白。


 ……どう考えても、こんな猫は存在しない。


 まあ、もういい。とにかく、気づけば三日が一瞬で過ぎて、

 今俺たちはギルドに来て、日替わりのクエストを受けようとしている。


 それも全部、レヴァの計画だ。

 本格的に冒険者としての一歩を踏み出すつもりらしい。

 なにせ、彼女の持っていた金もそろそろ尽きるころだ。

 外の世界を旅するための資金を稼ぐには、もうそれしか方法がないんだ。


「えっと…すみません、冒険者に登録したいんですが、よろしいですか?」


 そのとき、レヴァは緊張しながらギルドの受付に辿り着き、俺の体を受付カウンターの上にそっと置いた。

 なので、俺はただのんびりとした怠け猫を演じながら、この騒がしいギルドの中で眠るふりをするしかなかった。


「…はい、もちろん大丈夫ですよ。その前に、お姉さんの身分証明書を確認させてもらえますか?手続きがすぐ済むように」


 そう返したのは、ギルド受付の職員である綺麗な女性だった。

 ただ、俺の視点は低すぎて、彼女の容姿の全貌は分からない。

 見える範囲といえば──金色の長い髪、そして受付服の隙間から覗く大きく主張の激しい胸だけだった。


「はい、どうぞ〜」


 レヴァは身分証を差し出しながら、いつものように俺の体を優しく撫でてきた。

 たまに調子に乗ってつねってくるのが玉にキズだが──この子はちょっと猫への執着が強すぎる傾向がある。

 俺ってそんなに可愛く見えるのか?…ふん、俺自身もよく分からん。


「グレーツ・レヴァナントさんですね?」


「はいっ」


「では、こちらに手のひらを乗せてください。能力の測定を行いますので」


「……う、うん。分かりました」


 その言葉に従って、レヴァは躊躇いもなく手のひらを──

 なんだろう、あれは──水晶球?いや、見た感じは小さめのバスケットボールくらいのサイズ感で、

 無色透明、下部には古代風の彫刻が施された豪華な台座に収まっていた。

 いかにもって感じのファンタジー世界にありがちなアイテム。

 ああ、よくあるやつだな。もう理解した。



「—にゃあああああっ!?」


 クソッたれが……。

 そのとき俺は、例の水晶球のすぐ隣でのんびりしていたんだが、突然のまばゆい光が視界に飛び込んできて、心臓が跳ね上がるかと思った。

 驚いたのは俺だけじゃない。

 むしろ、当の本人であるレヴァも、まさかの展開に戸惑っている様子で、慌てて手のひらを水晶球から離してしまった。


 そして、受付の連中の反応と言ったら……

 まるで「こいつ誰だよ!? すげぇ魔女現れたぞ!?」とでも言いたげな顔で固まっていた。

 まあ、俺の勝手な想像だが、現場の空気から察するに、だいたいそんなところだろう。


「こ、これは……大丈夫なんでしょうか?」


 お前……レヴァ、お前は本当に世間知らず過ぎるんだよ!!


「う、うそでしょ……これは……信じられない……」


 そして、そう呟いたのは、そのテストの結果に驚いていた別の受付嬢だった。

 どうやら、あの水晶球の測定結果は、自動的にレヴァの身分証に記録される仕組みらしい。

 正直に言えば、俺にはそのシステムの詳細はさっぱり分からん。

 けど──まあ、何であれ、今後のすべてを左右する“何か”なんだろうな?


「えっと……すみません、説明してもらえますか?……こういうテストとか、冒険者登録自体も初めてで……」


 レヴァの素直な問いかけに、受付嬢は慌ててズレかけたメガネを直しながら、少し落ち着いたトーンで答え始めた。


「いえ、謝らなくても大丈夫ですよ。なるほど、初めてなんですね?では、まず……

このテストの結果ですが、あなたの“マナ”量が非常に多く、それがあのホールマグマ球を光らせた理由です」


 そう言いながら、彼女は身分証を丁寧にレヴァに返し──

 その口調は一見落ち着いてるように見えて、どこか焦りと驚きが混ざっていた。


「つまりですね……あなたのマナは、将来的にCランク以上の適性を持っている可能性が高い、ということです。

そして……今回あなたが得たDランクの結果についても、落ち込む必要はありません。

個人的な意見ですが、あなたのような“魔術師”は成長の余地が非常に大きいので、これからが本番ですよ?」


 ……すまんな、美人さん。俺にはあなたの説明、いまいちピンと来ない。

 だが──それ以上にレヴァの方が理解してなさそうだった。

 彼女は困ったように笑って、ふにゃっとした顔で「うんうん」と頷くだけ。


「うーん……まあ、たしかに……今の私は、まだCランクに相応しい実力なんて無いと思うし」


「……そうですね」


「えっと、それなら……これで、もうお金稼ぐためのクエスト受けられるんですよね?」


「はい。Dランクのクエストは滅多に出ませんが、もし無ければ他のパーティーに参加するという選択肢もあります。

一緒にクエストを進めて、報酬を分け合う形ですね」


「なるほど、分かりました〜。じゃあ、ありがとうございました!それじゃ、失礼しますね〜」


「──ちょっと待ってください!」


「えっ?」


「……猫ちゃん、忘れてますよ。あと、登録手数料もまだ払ってませんし」


「うわ、ほんとだ!ごめんなさ〜い!」


 ──と、まあ、すべてが一瞬で起こったわけだ。

 正直、俺はもう慣れてるが……レヴァの行動は時々マジで予測不能。

 ほぼ俺の存在を忘れかけてたって? それはヤバいだろ、普通に。


 まあ、とはいえ──俺はただの“怠け猫”を演じるしかないわけで。

 下手に動くとバレるしな。

 なので……可能なら最初からレヴァに抱っこされて移動したい、追いかけるとかマジで面倒くさい。

(状況次第だけどな)


 よくやったぞ、美人受付嬢──!

 サービス最高、星10個プラスで差し上げよう。


 そして最終的に俺は、無事レヴァに抱き上げられて、あの騒がしいギルドを後にした。

 筋肉脳パーティー、スキンヘッド軍団、中二病の塊、ストイック勢……

 あらゆるタイプの変人たちが入り乱れるこのギルドから、ようやく脱出。


「ニャーロ君!私たちの冒険、いよいよ始まるね!!」


「…………にゃ」


 ギルドの扉をくぐった瞬間、レヴァは俺をぎゅぅぅぅっと強く抱きしめてきた。

 ……この幸福……抗えるわけがない。俺は……俺は今……

 その豊満で柔らかいモノに……挟まれている!! うっ…いい香りだ!



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