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彼女は傾聴した結果、憤る。

「で、まずは相手と状況なんだけど……相手は例の彼氏くん? 大学で出来たっていう」

「そ、そうです」

「踏み込んだ話で悪いんだけど、お泊まりは今まで複数回あった?」

「いえ、実は今回が初めてで……」

「あ、やっぱり」


 早速とばかりにあたしが聞けば、さかなんは言いづらそうにしつつも言い訳の一つもなく端的に答えてくれる。

 こういう時、普通は責任逃れのためにこういう状況になったのは仕方なかったんだとか主張しがちなんだけど、さかなんには一切それがない。

 それだけ責任を感じていているし、そこから逃げてはいけないと覚悟を決めてるってことでもあるんだろう。

 ……そういう子、嫌いじゃないんだよね。


「やっぱり、と言いますと?」

「ほら、さかなんってほとんど毎日朝配信やってるじゃない? あれってお泊まりが多い子だったら当然出来ないし、配信お休みの時は大体明確な理由があるしだから、多分ないんだろうなって。

 そもそも、付き合いだしたのが最近なんだっけ?」

「そうです、二ヶ月くらい前からで」

「ふ~む、二ヶ月くらい前、かぁ……あれ?」


 そこまで聞いたところで、あたしは首を傾げた。

 今は七月、二ヶ月前は当然五月。……なんか中途半端に感じるタイミングだな?


「さかなんって今大学2年だよね? で、彼氏くんは同級生だったよね?」

「あ、はい、そうですけど。……そんなことまで覚えてるんですね」


 ちょっと驚いたような顔をするさかなん。

 まあね、これはね、お仕事上必要になるかもって思って覚えてたことなんで、あんま自慢出来ないことではあるんだけど。


「となると一年間知り合いっていうか同級の友人で、学年上がったタイミングじゃなくて五月に……あっちから告ってきたんだっけ。なんかきっかけとかあった?」

「ええ、あちらから。……いえ、特に何かあってとかではなかったですね……?」


 ふ~む。いやまあ、さかなんは可愛いから、特に何かなくても告白くらいされるのかも知れないけどさ。

 何だろう、勘でしかないけど、何か気に入らない。


「で、今までは日帰りデートばかりだった、と」

「ばかり、というとちょっと正確じゃないかも知れません。いわゆるデートは、まだ二回しかしてないので……」

「「はぁ!?」」


 これにはあたしも、隣で聞いてた社長も大声で反応してしまった。これはしょうがないと思う。


「何それ、なんで若い二人が付き合って二ヶ月でデート二回なの!? しかもまさか、その内一回はこのトラブル起こした飲みだったりしないわよね!?」

「え、いや、その……その通り、なんですけど……」

「なんっじゃそりゃぁぁぁぁ!」


 あ、珍しく社長がブチギレだ。

 まあ彼女からすれば可愛い娘みたいなもんだ、それが碌にデートもしないような相手に捕まったとなれば怒るのも無理はない。

 いや社長まだ三十前だけどさ。起業した会社の大事なタレントなんだから、娘みたいな感覚になるのも仕方ないよね。


「で、でもその、大学では毎日会ってましたし」

「あったりまえでしょうが、同じ大学なんだから! むしろ大学でも会ってなかったらブチギレ金○だわよ!」

「社長落ち着け~さかなんがビビってるぞ~」


 かなりヒートアップしてきた社長のスーツの裾をくいくいと引っ張ってみれば、ちょっとだけ落ち着いた顔にはなるけども、まだまだ憤懣やるかたない感じ。

 いやまあ、あたしもそうなんだけどね? 社長が先にブチギレたからタイミングを失っただけで。

 

「でもまあ、あたしもどうかと思うな、向こうから告白してきたってのに釣った魚に餌やらないみたいな態度じゃん」

「そ、そんなことは……それに、大学生同士のお付き合いってそういうものだって……」

「誰が言ってたの?」

「……その、彼氏が……」

「なんっっじゃそりゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 社長のブチギレ二発目が炸裂したものの、まあ仕方ない。

 これはブチギレ案件だ、間違いない。っつーかダメな男に引っかかっちゃったな、さかなん……。

 むしろ地方から出てきた無垢な女の子であることを利用した線すらある。どの道最低野郎なんだけど。


「あたしも大して色恋沙汰の経験値はないけどさ、そりゃないわ。むしろ毎週のようにデートするもんでしょ、若い子らは」

「え、いやでも、百合華さんだって若い子ですよ??」

「あ~、まあ、若いっちゃ若いけど、やっぱ学生とは何か違うっていうかねぇ……」


 真っ当な勤め人じゃないから、社会人と言っていいのかもわからない。

 けど、やっぱ学生とは違うっていう感覚もある。

 だからかな、色恋に全力! だなんて感覚はないんだよねぇ。いや、あたしの場合は元々だけど。


「ていうかさかな、私は若くないって言いたいのぉ……?」

「ひぇ!? ち、違います、そういうことじゃなくて! しゃ、社長はほら、大人の威厳があるっていうか!?」


 ゾンビのような声を出す社長に対して、さかなんが慌てて言い繕う。

 うん、多分それは大分無理があると思う。

 少なくとも今の社長は、威厳なんて欠片もない。スーツを着てるからギリ社会人に見えるけど、よれよれだから『ダメ』という修飾語がついてしまう。

 ……本人の名誉のために言うと、ちゃんと準備したプレゼンの時とかはバシッと決めてんのよ?

 こういう不測の事態に直面するとボロボロになるだけで。


「そかぁ、大人の威厳かぁ……ならばよし!」


 ……いや、ちょっと残念な子要素はあるかもしんない。

 まあそれはともかく。


「そんなダメ男だと、当日の立ち回りもダメダメっぽいなぁ」

「……ス、スマートと言い難いものだったのは、事実ですけど……」


 そう言いながらさかなんが語ってくれたのは、大分酷かった。

 

 ・待ち合わせに三十分遅刻

 ・着てる服が明らかに普段着。一応、その中ではちょっとはましなやつ

 ・ろくにデートプランを考えておらず、適当に歩いてファーストフード店でお茶、で夕方まで時間を潰す

 ・夕食にと向かった店の予約をしておらず、満席で入れなかった

 ・散々歩き回った末に選ばれたのはやっすいチェーンの居酒屋でした


 いやね、チェーンの居酒屋を悪く言うつもりはないのよ、あたしだって何度も使わせてもらってるし。

 だけどさぁ、これってさぁ!


「この日って、さかなんの誕生日祝いも兼ねてるんだよねぇ!?」


 ああ、ついにあたしまで声上げちゃったよ……。

 だけどさ、仕方なくない?

 付き合い始めたばかりの彼女の、初めての誕生日だよ?

 無理しろとは言わないけど、無理ない範囲で頑張ってみせるのが甲斐性ってもんじゃない?

 なのに何なの、このいい加減さ。


 更に酷いのが、これで終わらない。

 ・二十歳になったばかりで初めてお酒を飲むさかなんに、酔いやすいお酒を勧める

 ・結構粘った挙げ句、終電がなくなったからとさかなんのマンションに上がり込む

 ・部屋で飲み直そうと言いながら買って来たのがスト○ング系

 

 ……酔い潰す気まんまんじゃねーか。

 おまけにさかなんの部屋に上がり込んでからスパートかけたあたり、良からぬことする気まんまんじゃねーか。

 幸いなことに、実はさかなんがめっちゃ強くて、おまけにあたしが事前に教えていた、こっそり少しずつでいいから水を定期的に飲めというアドバイスを守ったおかげか、さかなんは酔い潰れることなく。逆に彼氏の方が無理をしたせいで酔い潰れたそうな。


「んじゃ、一線は越えてないのね?」

「あ、はい。……正直、私もまだそのつもりはありませんでしたし」

「でも、話を聞く限り彼氏くんはそのつもりだったみたいだねぇ」


 むしろ、それしかなかった印象しかない。

 外れ引いちゃったなぁ、さかなん。

 ともあれ、取り返しのつかないことにならなかったことだけにはおねーさん安心したわ……。

※ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


 明日以降は一日一話とかのペースになるかと思いますので、お付き合いいただければ幸いです!

 

 そして、いいねや☆評価、ブックマークで評価していただけると、嬉しいです!

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