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彼女達の夜。

 こうして、サヤさんとのロケは無事に、そして望ましいだろう形で終わった。

 

 ……昼間の分は。

 だが、これで終わるわけにはいかない。あたしのキャラ的に。


 ということで、夜の部開幕である。


「いえ~いリスナーくん、見ってる~~~?」


 あるホテルの一室で、あたしはカメラに向かって定番の煽りをぶちかます。

 ホテルといってもラブなあれではなく、普通の……いや、ちょっとお高いホテルではあるのだけど。

 元々、夕方から夜あたりまで撮影する予定だったんで、ロケ後は一泊する予定だったんだよね。


 そこで、あたしの悪い癖というかなんというかが炸裂した。

 サヤさんとお泊り。しかもツインルームだけど同じ部屋。

 何も起こらないわけがなく。


 そんなネットミームよろしく、あたしはベッドの上でサヤさんの肩を抱きよせていた。

 

「ご、ごめんなさい、リスナーさん……でも、私……」


 無茶ぶり突発企画だったのに、サヤさんもノリノリである。

 あたしに預けてくる身体の角度、罪悪感と憂いがありながらも色香が滲んだ表情。

 ネットでよく見るNTR彼女そのまま、いや、それ以上に惹きつけられる魅力を撒き散らしていた。


 ……これ、絶対人に見せたらいけないな~……。


 このあたしが、そう思っちゃうくらいに。

 もちろんこの後編集してサヤさんの上にガワを被せるので、今のこの表情を直接見せることはないのだけども。

 ……あたしが調整入れたうちのトラッキングツールだと、かなりのレベルで表情拾っちゃいそうなんだよなぁ……。

 これ、編集の時にツールも調整した方がいいかもしんない。

 ただでさえ密やかにガチ恋勢が増えているサヤさんのリスナーさんがこんな表情見たら、もう抜け出せない沼にはまっちゃうよぉ!

 いや、営業上はいいんだけど……こう、潜在的なリスクになるレベルでやべー連中を量産しちゃいそうな。

 それくらいに今のサヤさんが振りまいている色香は凄かった。


「あはっ、ごめんなさいとか言いながら、もう身体が熱くなっちゃってるじゃない?」



 引きずり込まれそうになってるのを、チャラい言動を作ることで何とか耐える。

 耐えてたつもりなんだけども。


「い、いやっ、そんなこと、言わないで……」


 こんな短い台詞でもなんかこう脳髄が揺さぶられる感覚を覚えてしまう。

 いやほんと、なんでこんなにお色気ムンムンなの。

 元々大人な態度から滲む色気のあった人だけど、今のサヤさんは次元が違う。

 やばい。表情をなんとか出来ても、声だけで人を沼に引っ張り込みそうな艶が出てきちゃってる!?


 かと言って、ここで止めるわけにもいかない。あたしが始めた物語だから。

 いや、それだけでもないんだけど。


「あっはは、言わなくてもこれから全部見せちゃうんだからさぁ」


 そう言いながらあたしはカメラを動かして、それを見せてしまう。

 

 ……夜食に用意したうどんを。

 

「てことで、今からサヤさんに、熱々のうどんを夜食に食べさせちゃいま~す!」

「だ、だめっ、こんなお出汁の香り……止められなくなっちゃうっ」


 ここで止めてしまったら、うどんが伸びてしまう。

 冗談みたいな、いやギャグでしかないシチュエーションなのに繰り出される迫真なサヤさんの声。

 あれ、なんか食欲と性欲を同時に刺激されてる気がするぞ?

 いやしかし、それならそれで成功かもしれない。とにかく、このまま続けるしかない。


「ふふ、止める必要なんてないんだから。そんな止められないサヤさんのはしたないところ、皆に聞いてもらおうね……?」

「ま、待って、聞いてない、バイノーラルマイクでASMRするなんて聞いてないのぉ!」


 なんだこのシュールな空間。

 しかもサヤさんが滅茶苦茶切羽詰まったようなえっちぃ声で応じてくれるもんだから色々とヤバい。


 っていうか、これ公開出来るの? 動画一瞬でBANされない?

 これ事務所公式チャンネルで公開予定なんだけど、耐えられそ?

 あかんかったら社長に土下座しよ……。


 いや、そうならないように編集するんだけどさ。

 しかし下手な編集したら、今サヤさんが醸し出してる魅力が伝わらないかも知れないし……いや、そんなのは後で悩もう。

 今はこの茶番を楽しまないと。


「でも、もう止められないでしょ……? このお出汁の香りに、逆らえる……?」

「や、やだ、だめっ、こんなの、こんなの、耐えられないぃ……」


 ……あかん。なんかヤバい扉を開きそうな気がする。

 だめだめ、越えちゃいけないラインってもんがあるんだから!

 そこを越えないようにコントロールしないと、目論見が破綻するんだし。


「そんなこと言っても、上のお口は正直ね……?」

「見ないで、見ないでぇ……」


 色々ダメなやり取りをしながら、サヤさんがうどんを啜る。

 ……あれ、これBANされそう? なんでうどん啜ってるだけでえちぃの?

 これ、サヤさんの開けてはいけない扉を開けちゃった……?

 いや、それが人気に繋がるならいいんだけど……こう、危ういな、色んな意味で!


「あふっ……おいし……」

「やっと正直になったわね……さ、今からとことん楽しみましょ……?」


 酷い。色んな意味で酷い。ある種の地獄ですらある。

 何で思い直さなかった、この時のあたし!

 

 ただまあ、狙い通りのことも出来ていたりはする。


 『百合華貴様ぁぁぁぁぁ!!』

 『腹を斬れ、そのうどんで膨らんだ腹を今すぐ斬れ!!』


 こういったコメントが、プレミア公開した時のコメント欄にあふれていた。


 『返せ、さっきまで感動してた俺の心を返せ!!』

 『百合華許すまじ。かくなる上は討ち入る所存』


 といったアウト寸前なコメントもあったり。

 それもこれも、あたしにヘイトを向けさせるためだったんだけどね。


 昼のロケでサヤさんが言ってた『あの人』。

 あの場面は大変エモかったので、後に配信する予定の動画から削ることは当然出来ないんだけど、そうなると『あの人』について色々考察される可能性がある。

 正直、あんまりあの設定に関して盛り上がられたくはない。万が一ってこともあるもんだから。

 他にも、昔の彼氏のことだとか言われたりしたら、それはそれで面倒なことになるし。


 ということで、あたしがアホなオチを付けて炎上し、リスナーさんの気を逸らそうといういつものあれなわけだ。

 

 普段のサヤさんを知るリスナーさんは、彼女がこんな企画を言い出すわけがないと知っている。

 だから、あたしがサヤさんにこんなことをさせてるとすぐわかっちゃう。

 そうなると、『何させてんだてめぇ!』と吹き上がってあたしにヘイトを向けて、『あの人』への関心が減るって計算だったんだけど。


 燃えた。

 最初はある程度ネタとわかっての炎上だったけど、それに便乗した奴が煽ったり、普段のあたしとリスナーさんのプロレスを知らない無垢な人が乗せられちゃったりで、中々の勢いになってしまった。

 ……あれだ、サヤさんの声にあてられて暴走したのもいたんじゃないかなぁ。


 まあ、そのおかげか狙い通りに『あの人』を勘ぐる声はほとんどなかったんだけどね。


 ……そういやなぜか、さかなんから『一週間後にオフコラボしてください。本物のうどんを食べさせてあげますよ』ってメッセージが来りしたんだけど、どうしたんだろ?

 まあ、美味しいうどんが食べられるならいっかぁ、とか軽く考えてたんだけど。


「それは待った方がいいんじゃないかしら。一週間後だと、まだ騒ぎが収まってないかもしれないし……」


 と、あの後仕事の関係で会ったサヤさんに諫められた。

 言われてみればそれもそう。あたしとしたことが、食事に釣られるなんてらしくない。

 いかんいかん、こないだのオフコラボのせいで、胃袋掴まれかけちゃってるなぁ。


「あ、それもそうですね。んじゃ、もうちょい時期を見てもらって」


 納得したあたしは、早速さかなんにその旨メッセージを返したのだが。

 だから。


「……さかなちゃん、やっぱりあなたも、なのね……」


 と小さく呟いたサヤさんの言葉を聞き逃した。


 これが、またあたしを追いつめていくことになるだなんて思いもせずに。

※ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

 ここまで読んでいただいて、面白いと思っていただけたなら、いいねや☆評価、ブックマークで評価していただけると、嬉しいです!


 これにてケース2完結、明日からはケース3が始められる予定でございます。

 上手くいけば、ここまでは毎日更新出来るかもしれません……?

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― 新着の感想 ―
サヤさん全体通して破壊力高かったですわぁ…… こーれさかなんとサヤさんが共同戦線張ったら成す術無しでは?
このクソボケ野郎(尚女性)がぁ!?
さかなんが某ぐうたら美食新聞社員になってて草
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