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彼女の過去は突然に。

 なんで企業所属Vtuberという人気商売を生業としているあたしが、こうも綱渡りな配信をしているかと言えば、もちろん『お仕事』だからだ。


 遡ること数日ばかり。

 あたしはいつものごとく社長の電話で叩き起こされた。


「百合華~! 助けて~!」


 相変わらずトラブルに弱い社長のパニクった声。

 また何か困ったことが起こったらしい。

 っていうか、あたしが寝てるとわかってる時間に社長が電話かけてくるだなんて、トラブルが起こった時しかないわけだし。

 と、起き抜けの頭ながら冷静になりつつ、あたしは社長の電話に応じる。


「どうしたってのよ、こんな朝早くに」


 とか返しながら時計を見れば、午前11時。……うん、あたしにとっては朝早くなんだ、異論は認めない!


「どうしたもこうもないわよ、サヤが、サヤがぁ!」

「サヤ? ……え、サヤさん? あの人が何したの!?」


 聞こえてきた名前に、あたしの目は一気に覚めて思わず大きな声を出してしまう。

 

 サヤと呼ばれたのは、うちの事務所に所属している吉祥(きっしょう)サヤさん。

 業界歴で言えばあたしの後輩にあたるのだけれど、実年齢はあたしよりちょい上。

 それだけに大人な態度と発言が多く、配信の安定感は抜群。

 未亡人というマニアックな設定もあって爆発的な人気はないけれども、しかし刺さる人には刺さって着実にがっちりとファンを掴んできている、そんな人。

 そんな彼女が、一体何をやらかしたというのか。


 あたしの疑問へと返された社長の返答は、想像の斜め上だった。


「それが、サヤの前世がばれそうになってて!」

「はぁ!? なんで!?」


 あたしの声が更に大きくなってしまったのも仕方がないところだろう。

 サヤさんの前世は、いわゆるセクシー女優。

 未成年お断りなビデオとか動画とかに出演する人だったんだから。

 

 昔に比べればあちらの業界もかなりコンプライアンスが整備され、女優さんも働きやすくなっている、と聞いてはいる。

 出演条件に関してはかっちり契約書類作るっていうし。

 それでもやはり特殊な肉体労働なのだから、精神的、肉体的に疲れることもあるのだろう。

 少なくともサヤさんはそういった経緯でセクシー女優を引退。

 第二の人生として、Vの世界へとやってきたのだった。


 そんな経緯を聞いていたものだから社長はかなりサヤさんのことを気にかけていて、とても周到に準備してデビューさせたりしたなんてこともある。

 ……こういう社長だから、あたしも頑張っちゃうんだけどさ。

 ともあれ、活動を開始してから二年ほど、今まで前世バレの気配なんて欠片もなかったのだけれども。


「それが、サヤの前世の厄介なファンに、声フェチがいて……サヤの声と前世の声を声紋分析したらしくって」

「声紋分析!? なんでそんなこと出来る奴が厄介ファンやってんの!?」


 あたしの声が更に大きくなったのも仕方がないところだろう。

 現代において声紋は、指紋に次いで証拠能力が高いとされるもの。

 当然そんなものを鑑定するには相当なスキルが必要となる。

 そんなスキルを持っていて、しかもVtuberの前世特定なんてことに使える奴がいるだなんて……。


「……ん? 声紋、分析? 鑑定じゃなくて?」

「うん、そこだけは安心要素っていうか……警察とかの正式な鑑定じゃないのよ」

「それは、そっか。別にサヤさんが犯罪とかしてるわけじゃないし」


 そう返しながら、少しばかり安心する。

 サヤさんが犯罪をやらかして、警察が出張ってきたとかでないのならば何とでも出来る。

 その仕込みだってしてるんだし。

 いや、そもそも警察が出張ってきていたのならば社長があたしに泣きつく段階じゃないか。

 それに何よりも、サヤさんは犯罪なんてする人じゃない。

 真っ当に、一般的な職歴ではないけれども真っ当に生きてきた人なのだから。


 ……うん。

 こう考えたら、段々むかっ腹が立ってきたな……?

 真っ当に生きてきて、新しい選択をしただけのサヤさんが、なんでこんな窮地に追い込まれないといけないんだ?


「……ムカつくわね」

「へ? ゆ、百合華?」

「ムカつくわ。なんなのそいつ。なんの権利があって、サヤさんの人生を邪魔しようってのよ!」


 思わず、声が大きくなってしまう。

 けれど、これは仕方がないとも思う。

 サヤさんの人生は、サヤさんのものだ。誰も邪魔する権利なんてありはしない。

 それなのに、恐らく顔見知りでもなんでもない奴が、新しい道を着実に歩もうとしているサヤさんの邪魔をしてきたわけだ。

 そんなことが、許されていいわけがない。


「いいわ、社長。この案件、あたしが請け負う。徹底的にやってやろうじゃないの!」

「ゆ、百合華? あの、お願いだから警察沙汰だけは避けてね……?」


 恐る恐るとした声で社長が言う。

 いやいや、トラブル解決のためにギリギリグレーなのは序の口、見つかったらアウト確定なこともたまにやってるの知ってるでしょうに。

 まあ、社長もあたしのことを心配してくれているんだろう。……今に関して言えば、やりすぎないか、っていう意味ではあるんだろうけども。

 ともあれ、この状況でストレスフルな社長をこれ以上追い込むのも本意じゃないし。


「大丈夫、大丈夫。合法的な手段に留めるから」

「本当に? まだちょっと声が怖いんだけど!?」

「いやいや、ほんとほんと。ダイジョーブダイジョーブ」

「なんか全然大丈夫じゃない声になってる!?」


 いやほんと、大丈夫だって。

 あたしのプラン通りに行けば、イリーガルなことをする必要はないんだから。

 ……サヤさんのトラブル回避に関してだけは。


「とりあえず、サヤさんから話を聞きたいから、セッティングしてもらえる?」


 腹の中をおくびにも出さず、あたしは軽い声で社長にそうお願いしたのだった。

※ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

 前話が短編版のと近しい内容だったので、次の話も投稿させていただきました。

 短編との違いを楽しんでいただけたら幸いです!

 (以降は数日おき、もしくは一週間後とくらいに更新していくかと思います)


 ここまで読んでいただいて、面白いと思っていただけたなら、いいねや☆評価、ブックマークで評価していただけると、嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
まあ、そういう害悪はファンを名乗る資格無しですから、百合華さんテッテーテキにヤっちゃってください!!!
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